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時間よ、止まれ! 【雅尾ミャオ】

 こんにちは。最近、文芸部的活動がおろそかになっている文芸部員三年生です。
 いや、最近忙しいのですよ。ゼミやら公務員試験勉強やらバイトやら。特にゼミが。ゼミゼミゼミゼミ。最近、なにかとこの単語を口にしている気がします。もう私はセミの一種なのかも。(セミはミンミン鳴きます)。
 ほんと、時間が止まってしまえばいいのに、なんて思ってしまいます。今回はそんなお話です。暇つぶしの一助にでもなれば幸いです。どうぞ↓

時間よ、止まれ!

 まず、自分の両手を握手させる。そして、念じる。
『時間よ、止まれ!』
 それだけで、手を結んでいる間は時間が止まる。ただの小学二年生の私にそんな能力が備わった。もう私は寝坊しても、遅刻することはない。
 ただ、それだけのことだった。時を止めている間は、もちろん何も動いてくれないし、何も動かせない。テレビも見れないし、友達とも遊べないし、何より、私は、大好きなパパとママと一緒に過ごす時間が好きだった。
 パパとママを隣同士並ばせて、そこに飛び込むように、両手をめいっぱい伸ばして二人一緒にハグをする。私はそんな時間が大好きだった。
 そんな大好きなパパとママと、一緒にお散歩にいく時間も好きだった。右手はパパに、左手はママにつながれて。
だけれど、今日はそんな私の幸せを邪魔するものが現れた。
一台の車が、猛スピードで私たちが歩いているほうに突っ込んでくる。居眠り運転? 私は、恐くて思わず目をつぶった。そして、手を結んで、
『時間よ、止まれ!』

 目を開けた私の前には、パパとママの背中が見えた。私を守るために、今にもこちらにぶつかりそうな車の前で隣同士並んで立つパパとママの背中が。咄嗟に二人の袖を掴もうとする。が、そこで私は、ハッとした。
 両手を離してはいけない。私が時を止められるのは、両手を結んでいる間だけだから……。

                 ※

 それから、どれだけの時間が経っただろうか。私はもう、長い間パパとママの声を聞いていない。なんとか二人を助けようとしたけど、何もできない。体で車を一生懸命押しても、びくともしなかった。車と二人の間に入って、私がパパとママを守ろうとしたけど、もう車と二人の間には、私が入れる隙間もなかった。

                 ※

 そうやってどうにか二人を助けようとして、長い時間が過ぎた。やがて私は、パパとママの背中を見ながら、力なく座り込んで泣き叫んでしまった。
 でも、決して両手は離さなかった。これを離したら、パパとママが死んじゃうから。

                 ※

 とうとう無音の世界に響いていた私の泣き声も枯れて、本当に何も聞こえなくなった。もうずっと動かないパパとママの背中の前で、ただ両手を結んでへたり込んでいる私。もうずっと、ずっとこうしている。

 私は寂しくてたまらなくなってしまった。目の前には、大好きなパパとママの背中が。
 もう私は、我慢できなかった。
 そして、隣同士並んだパパとママの背中に飛び込むように、両手をめいっぱい伸ばして二人一緒にハグをした。

 



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