スーパーショート文学賞 No.7 天気雨の少女 たこ焼き星人
「私、天気雨なんだよね」
美しい瞳を煌めかせながら、少女はそう呟いた。
超高層ビルの最上階。俺の目の前では、制服に身を包んだ黒髪の少女が柵から身を乗り出し、今にも投身自殺しようとしている。
「死ぬべきじゃない」
俺の呟きに、少女は嘲笑を返す。
「分かってるでしょ? 私は異能を持っているの。天気雨が普通の雨と異なるように、私は普通の人間と異なっている」
「違う。確かに君は異能を持っているが、それは人の力に役立つ力なんだ。君には価値がある。だからお願いだ。死なないでくれ」
少女は目を逸らし、「……私が人の役に立つなんて」と溢す。
「分かった」
俺はまっすぐ少女を見つめ、力強く足を前に踏み出す。無言で見守る少女の前で俺は駆け出し、勢いよく柵から身を乗り出した。
「なっ!?」
少女の驚きの声が鼓膜を揺さぶる。ものすごい勢いで俺の身体が落下していく。風が冷たい。死の恐怖と、ほんの少しの期待を抱きながら、死へのタイムリミットが着々と迫る。
その時。俺の身体が不思議な浮遊感に包まれたかと思うと、落下が止まった。逆にとてつもない勢いで身体が上昇していき、気がつくと俺は再び屋上に立っていた。
「はあ……。はあ……」
少女は膝に手を突き、息を切らしている。俺の存在に気付くと表情を鋭くし、つかつかと歩み寄ってきた。
「馬鹿」
その言葉と同時に、平手打ちが飛んできた。頬に鋭い痛みが走る。
「……死んじゃうかと……思ったじゃん……」
少女は俺に抱きつき、肩を震わせる。
「これで分かったはずだ。君の力は役立つんだ。俺の命を救ってくれたように」
俺の言葉を聞き、少女は大きく目を見開いた。
「前を向こう。君は必ず役に立つ。幸せになれる」
逡巡の後、頷きが返ってきた。その表情には先程まで浮かんでいた憂いや絶望の色は見えない。
俺が手を前に出すと、少女はその手を握り返した。こうして、天気雨は生きる意味を見出し、前に向かって一歩足を踏み出したのだった。
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