スーパーショート文学賞No.3 ひろってください まぜごはん

 この町は、「日本一天気雨が多い」ということで有名である。気温や湿度、気団、地形、海流などさまざまな要因によって、この微妙にどうでもいい称号をほしいままにしている。


 この町でいつも通り天気雨が降っているある日、少年が歩いていた。すると、猫の鳴き声が聞こえた。見ると、そこそこの大きさの段ボールが置かれていた。側面には、こう書かれていた。


「ひろってください」


 翌日。またもや天気雨に降られながら帰ると、再び鳴き声が聞こえた。見ると、猫。その鳴き声が町の至る所から聞こえてくる。この町全体に、「ひろってください」が発生していたのだ。少年は逃げ帰った。



「どうしましょうか、町長。天気雨が降るたびに現れる謎猫たちは、もはや対処不能です」


「……この町の廃トンネルには、『天気雨のときだけ別の日本に繋がっている』などという噂があったよな」


「はい、あります。しかし、なんでそんなことを……?」


「町中の猫を、みんなそこに突っ込んでしまえ!」


「ええ!? しかし、それはただの噂ですし、そもそもそれって犯罪では……」


「うるさい、いいからやってしまえー!」


 こうして、町に現れつづける謎猫は、全て廃トンネルの元へと送られるようになった。段ボールは新しいものに交換し、側面には字も書いておいた。


 このとき、町長は知らなかった。その噂が本当だったということを。




 この町は、「日本一天気雨が多い」ということで有名である。気温や湿度、気団、地形、海流などさまざまな要因によって、この微妙にどうでもいい称号をほしいままにしている。


 この町でいつも通り天気雨が降っているある日、少年が歩いていた。すると、猫の鳴き声が聞こえた。見ると、そこそこの大きさの段ボールが置かれていた。側面には、こう書かれていた。


「このねこ、ひろってください。まじで。もうげんかい」


 この町でも猫の大量発生が始まったのは、それから間もなくであった。

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