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『ぼくは川のように話す』(偕成社)の絵本作家シドニー・スミスさんの話を聴いて

ぼくは川のように話す』(偕成社)の絵を担当されたシドニー・スミスさんの講座があるというので、出版クラブまで足を運んできた。日本国際児童図書評議会(JBBY)が主催し、板橋区立美術館偕成社が協力、「子どもゆめ基金」助成活動として開催された。会場とオンラインで約200名が参加したそうだ。当日は講師として絵本作家のシドニー・スミスさん、聞き手は偕成社の担当編集者である広松健児さん、通訳は前沢明枝さん(英日)、中野怜奈さん(日英)という豪華な構成だった。会場には翻訳を担当された原田勝さんもいらしていた。

 講座のタイトルは「美しい光と影を描き出すシドニー・スミスの絵本表現~『ぼくは川のように話す』を通して作者が語る~」。この絵本の文はジョーダン・スコットさん(詩人)によるもので、シドニー・スミスさんは絵を担当されている。絵本自体は42ページですぐに読めてしまうものだが、スコットさんの詩を受け取ってから、絵のラフを描き、最終的に絵本として完成するまでの創作について話を聴いた。

 まずはスミスさんの幼少時代の話から。小さいころに影響を受けた本を何冊か紹介してくれた。そのうちの1冊が、『The Shrinking of TreehornFlorence Parry Heide (著)、Edward Gorey(イラスト)。エドワード・ゴーリーが大好きな子どもだったそうだ。もうひとつ紹介してくれたのは、マザーグースに出てくる挿絵だ。貯蔵室でお手伝いのハンナ・バントリーが羊肉の骨を貪り食っている絵だ。

Hannah Bantry in the pantry,
Eating a mutton bone;
How she gnawed it, how she clawed it,
When she found she was alone!

 この絵本『ぼくは川のように話す』は、吃音をもつ男の子の話なのだが、主人公がnot brokenだと気づく話で、励まされる人も多いだろう、と同氏は語った。作家に文の意味を尋ねるのは野暮かもしれないが、今回は絵の意味を画家に訊き、文からではなく絵からその意味を知るよい機会であった。テキストではなく絵のみでも物語があり、絵はなんと雄弁であるかと気づかされた。

 先日、同じくJBBYのイベントで絵本作家のたてのひろしさんの話を伺った。『どんぐり』という絵本についての会だった。この絵本には文字がない。文字があることで風の音が限定されるなど、読み手の想像力が限定されてしまう。この本も何度でも手にとってしまう1冊だ。絵から絵本を読み解く。文字があるとつい文字を読んでしまうが、絵本の絵から物語を読むことを思い出した。大人になってしまったわたしたちこそ、絵本が必要なのかもしれない。

 『ぼくは川のように話す』の内容についてはぜひ手にとって楽しんでほしいので説明しないが、最後に子どもたちにとって絵本とは何かを尋ねられたときにスミス氏はこう答えている。子どもが自分のプライベートな領域を模索できる安全な空間(safe space for children to explore personal spectrum)。共感を掻きたてるもので、ゲームやスマホとは競合しない、子どもはいつでも絵本を必要としていて、絵本が必要なのは子どもだけではなくて、すべての人が必要としている、と同氏は締めくくった。(会場から、昨今では子どもはゲームやスマホで忙しいので、それに対してどう思っているかと質問があった。)

 同氏のその他の作品として、『おばあちゃんのにわ』が同じく偕成社から刊行されている。これから出てくる新作では、「Do You Remember?」が11月に刊行予定だ。

 現在わたしが参加している勉強会で、次の課題が『おばあちゃんのにわ』の原作『My Baba’s Garden』なのだが、今回の講座を聴いて、いきなり訳しはじめるのではなく、まずは絵から物語を読んでみようと思った。

 同じくスミスさんの作品『このまちのどこかに』(評論社)に出てくる主人公について、会場から質問があった。表紙絵を見てもらうとわかるが、男の子か女の子かよくわからない。これはあえて性別がわからないようにしてあるそうで、男の子か女の子かクエスショニングかよくわからないひとりの子どもの物語として読んでもらえるようだ。

 スミス氏が絵を担当したこの絵本『ぼくは川のように話す』は光と影が美しい。だが美しいだけではなく、吃音をもつ男の子がこれでいいと自分で思えるようになる本なので、ぜひ手にとってみてほしい。冒頭から主人公の目で自分も景色を眺め体験しているような感覚になる1冊である。

『ぼくは川のように話す』
文:ジョーダン・スコット
絵:シドニー・スミス
訳:原田勝
受賞歴:産経児童出版文化賞・翻訳作品賞(2022)
社会保障審議会児童福祉文化財・特別推薦(2022)
児童福祉文化賞推薦作品(2023)

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