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4月のお薦め本

今月は「アタリ月」だった。読む本、読む本、すごく面白くて、「百冊挑戦をやってよかった」とつくづく実感した一ヶ月だった。

中でも、小説で心を掴まれるものが多かった。「小説」は幅広い分類で、事実ではないものは「じゃあ小説?」となりがちだと思う。でも私が心惹かれたのは、現実を精緻に調べ、ルポタージュとも思える綿密な描写で、まるで「事実以上に真実」なのではないかと思わせる作品だった。

村上春樹が、「目に見えるものが、ほんとうのものとは限らない」といい、小説しか書かない理由が、少しわかった気がする。早速、お薦めを紹介しよう。

1. 2. 『パチンコ 上』『パチンコ 下』 (お薦め度:★★★★★)

在日コリアンの3世代にわたる物語。上下あわせると、それなりのボリュームではあるけれど、一度ページをめくると、映画を見ているかのように、登場人物、時代、場所が目の前に再現されてしまう感覚。淡々と描かれる人間関係、時に容赦ない展開。物語という形はとっているけれど、現実と表裏一体とも言える。日本人は気づかないまま、実は、在日コリアンがいかに家を借りづらいか、就職が難しいか、小説を読んでいると苦しいくらいに伝わってくる。自分が「今まで考えてもみなかった」ということが、まさに、彼ら彼女らに、息苦しさを何十年も温存してきてしまったのではないかと、胸が苦しくなった。この本を読んで、私の中で、小さいけれど確かに変わったものがある。


3. 『火山のふもとで』 (お薦め度:★★★★★)

村井設計事務所に入社した若者が、村井さんから、建築とは何か、設計する上で何を大切にしなくてはいけないかを教わりつつ、彼自身の揺れる様、葛藤、そしてひそやかな恋愛を描いた作品。実は、故・吉村順三をモチーフに描かれているので、何度となく携帯を右手に、Googleへと意識が移り、「吉村順三」「軽井沢 建築家」「浅間山麓」「国立現代図書館」と調べてしまった。でも、果たして現実なのか、物語なのかわからないところもあり、それでもいいと思える、爽やかで、心の底でチクッと痛みを感じるような、そんな小説だった。


4. 『沈むフランシス』(お薦め度:★★★☆☆)

『火山のふもとで』を購入した日、たまたま夕方から建築学科を出ている人と打ち合わせだったので、「面白そうなんだけど、読んでみる?」と聞いたところ、「ぜひ」と回答するものだから、あげてしまった(笑)。そこで、同じ作家の違う作品を読んでみようと手にしたのがこの本。繊細な描写や、北海道に通底する自然への畏怖など、「松家さんならではのリズム」は感じられる。でも正直、モヤモヤした感覚が否めなかった。改めて今、振り返ると、主題がわからないのだ。優れたリズムで展開されても、通底するメッセージが男女関係であり、熟年の二人がいろいろあったけれど、乗り越えようとしています、だと、「え、それで終わり?」と肩透かしを食らった感じが残ってしまうのは私だけだろうか。


5. 『泡』(お薦め度:★★★☆☆)

松家さんの本をもう一冊、読んでみようと手にしたのがこの本。最新作は、若い世代を主人公にしている。はかない恋、一生の仕事の捉え方、友人関係、そういう儚いつながりをモチーフにしている。こういう時代もあったなと、懐かしく、時に切なく思い出した。ただ松家さんの小説としては、三冊読んだ結果、『火山のふもとで』がダントツにいいことがわかった(笑)


6. 『建築を考える』(お薦め度:★★★★★)

「本を書く」、あるいは「文章にしたためる」、その意味や与える影響から考えさせられたのがペーター・ツムトアの本だ。長い作品ではない。でも、「建築」、あるいは「自然」、「デザイン」、その文脈を読み解き、ツムトアが言わんとすることを理解しようとすると、私にはまだ経験が足りなさすぎる、そう感じることも少なくなかった。まったく背景情報を知らず、単純にタイトルに惹かれて読み始めたのだけど、建築家の友人たちに聞くと、それはもう大御所とのこと。「一時、安藤忠雄とよく対談をしていたけど、それぞれ自分が言いたいことを言うだけで対話にならず、そのうち(対話を)やめてしまった」と笑いながら言っていた。ツムトアが手掛けたスイスにある世界一の温泉施設<テルメ・ヴァルス>にいつか行こうと、目標が更新された。


7. 『どもる体』(お薦め度:★★★★☆)

8. 『存在しない女たち』(お薦め度:★★☆☆☆)

9. 『母影』(お薦め度:★★☆☆☆)

※今月の写真は、長谷川愛さんの個展から。 https://aihasegawa.info/

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