エスという関係

女子校出身だと言うとたまに聞かれることがある。
「お姉様はいたのか」

大正時代の女学校には「エス」と言う関係があったらしい。
これは姉妹を意味する「シスター」の頭文字から来ており
後輩は「お姉様」と慕う先輩を呼ぶ。

これをどこかしらで聞き齧って好奇心で聞いてくる。
この質問はマイクロアグレッションとなることも危惧されるので
質問される際は十分留意してほしいが
「エス」とは同性愛の恋人とはまた別の関係性とされるらしく
もし私に「お姉様」がいたとしても私がレズビアンやバイセクシュアル
であると決まるわけではないが不快に感じる人もいるかもしれないし
実際恋心を持ち合わせていないとも限らないので
好奇の目で興味本位で聞くことはあまりお勧めしない。

また「エス」は手紙交換やお揃いのものを身につけるといった
プラトニックな関係であることとされるようなのでそこも理解してほしい。

結論から言うと
私には「お姉様」はいなかった。

そもそも先輩との関わりがほとんどなく
女子校出身と言っても3年間だけなので
ご期待に沿えずに申し訳ないのだが
そういった存在ができることはなかった。

共学であった中学校でも少女漫画で憧れた
男性とのロマンスも訪れなかったので
こういう類は縁がないのだろう。

しかし、思い起こすと周りにはそれに当たりそうな関係性を築いてる友達もいた。
「お姉様」とは読んでいなかったが手紙を交換してお揃いのものをつけていた。

私の高校生時代には携帯も普及しており、私も友達とはメールでやりとりしていた。
小学生時代には手紙交換がブームであらゆる色のペンを持っていたり
いろんな手紙の折り方をみんな模索したり、文字や装飾の可愛い書き方などが
雑誌やクラス内で情報共有されていたりして中学時代にもその名残があったが
高校ともなると授業中のやりとりやくだらない戯れの一種としてメモ書き程度。
なので当時としては手紙の交換にはどこか特別感が宿っていた。

お揃いのものは女子校と言うかこの年頃の女子にありがちな思想だが
同級生や当時の言い方で言うと「ニコイチ」で行うようなものなので
先輩ととなるとその関係性がただの先輩後輩の関係ではないと感じられた。

傷つく人もいるかもしれない表現になるが
そんな同級生を見て「レズじゃん」と揶揄する者もいたが
(当時の同性愛への理解はまだ世間では乏しかった)
その子はそれを否定していた。そう言う関係ではないと。

私は元々他人の恋愛の進展に対してもズバズバと聞かない方で
この時も特に質問責めにすることはなかったが
彼女が先輩について話す様子はいつもの表情とは違っていて
少し羨ましいとも思った。

女子校でこう言う関係の二人を思い浮かべるとしたら
男装の麗人のような先輩とお人形のような雰囲気の後輩とか
まさしく「お姉様」のような気品ある先輩としおらしく慕う後輩
などまあこの当たりの印象が多いのではないだろうか。

ただ母校の場合、この文化は運動部で引き継がれているようだった。
かく言う同級生も球技のバリバリ体育会系の部活に所属していた。
「女子校の」と限定できないかもしれないが異性からの視線がない分
運動部所属の生徒は多くが短髪で日焼けしており筋肉質な体型をしている。

その同級生はその先輩に別の後輩が親しく話しかけることを
よく思わないようで「私の先輩なのに」と愚痴っていた。
なので私は勝手にそれぞれにいるのだと思っていた。
確認したかどうかも記憶が曖昧なのでそれは断定はできないが
彼女の口ぶりからは運動部ではよくあることのようだった。

もしかするとエスの関係よりは看護師のプリセプター制度に近いような
教育係としての関係性なのかもしれないが実情はわからない。

私には残念なが「お姉様」はいなかったが
いわゆる「推し」の女性の先生はおり、手紙を渡していた。
多くの生徒は今でいう「推し」のような先生が男女に関わらずおり
時には取り巻きとなったり、準備室に居座ったりする。
私の推し先生はファンが多く、私は奥手なのでそこまではしなかったが
年度終わりの日に先生へ手紙を渡すイベントには参加していた。

返事はもらえないのだがその手紙を渡す時には
宝塚のファンクラブよろしくファンの生徒で取り囲み
先生からのお言葉を聞きいたり、軽く歓談もある。
同性の先生に対してもそう言ったことを行うことは
ちょっと女子校特有の光景のようにも思う。

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