ナムジュンのこと

 ナムジュンがWラで「3D」を歌った夜、私はあまり眠れなかった。女性蔑視、特にアジア女性を蔑視した歌詞が含まれていると批判のあった「3D」。それを自分の配信で歌ったナムジュンの気持ちを、私が考えてもしかたがないのにあれこれと思いを巡らせていた。
 思えば、子どものころから私にとってあらゆる趣味は「現実逃避」だった。マンガもゲームも映画も音楽もつらい現実を忘れさせてくれる魔法の道具だったし、ベースつながりで好きになった関ジャニ∞(の丸山くん)も年に一度のドームツアーで日常とは違うとっておきの時間をくれる存在だった(今でも好きです)。 
 でもBTSは、もちろん非日常の喜びもくれたけど、その一方で現実に起きている社会問題にも向き合わせてくれる稀有な存在だった。特にキム・ナムジュンという人はクレバーで、芸術を愛し、でもとってもチャーミングで、すぐに私にとってスペシャルな存在になった。応援したいと思った。去年の5月NHKのラジオで「今日は一日BTS三昧」という番組があり、メンバーの魅力についてメッセージを投稿できるということで、ナムジュンの魅力についてどう表現したものかあれこれ悩み、一番しっくりくる表現を思いついてこう書き送った。
 「ナムさんの魅力について答えるのは、『地球の魅力について答えてください』と言われるのと同じくらい困ります。気がついたらすべてが好きでした。」
 地球には落ち着ける故郷ありワクワクドキドキする秘境あり、そもそも地球がないと我々は存在しないわけで…といろいろ理由はあったけれど、キリがないので割愛した。当日ラジオを聞いていると、そのメッセージを武内陶子アナウンサーが番組内で読み上げてくれた。今も同じ気持ちである。
 
 ナムジュンの変化?について最初に「アレ?」と思ったのはWラでナムジュンが「たいやき 全然好きじゃないです」と言ったとき。アーティストメイドで(韓国の伝統的なデザインをもとにしたとはいえ)、かわいいたいやきデザインの風鈴を作ったのに…私を含むナムペンがうれしい気持ちで眺めているに違いないのに、わざわざ「好きじゃない」表明必要?ちょっと最近機嫌悪いのかい?と思ったりした。タバコを吸っている画像をインスタにアップしたり(すぐ消したけど)、そして今回の「3D」…頭に疑問符が浮かびながらも、「もしかしたら」と頭をよぎる考えがあった。
 ナムジュンは、あるときのWラで、コメントに答える形でぶっきらぼうに「兵役?…正直すごく嫌です」と答えていた。本当に正直だなと思ったし、つらいんじゃないか、ナムは本当につらいんじゃないかと思った。現在休戦中という、先行き不透明な情勢の中で軍隊に入隊するということが感受性豊かな若者にとってどれだけつらいことか。どんなに取り繕ったって嫌に決まっている。ましてや「世界のBTSのリーダー」として入隊することの、その重圧たるや。愛する友達や家族、先行して入隊しているメンバーがいたとしても、結局ナムの孤独は誰にもわからないのではないだろうか。
 私はK-POPにはあまり詳しくないけれど、BTSつながりで知った韓国のベテランアイドルグループ「SUPER JUNIOR」の動画を観ることがたびたびある。バラエティ番組「知ってるお兄さん」に彼らが出演したある回で、リーダーのイトゥクさんが入隊するときにメンバーが壮行のためのパーティーを開いたのに、主役であるイトゥクさんが途中で不機嫌な様子で帰ってしまった、というエピソードが披露されていた。イトゥクさんはそのときのことを「全く覚えていない」と言ったが、番組のレギュラーメンバーの方が「おそらくこうじゃないか。自分はこれから入隊する、すごくつらいのに周りは何をはしゃいでいるんだ、と腹が立ったんじゃないか」と言うと、「覚えていないけど多分そうだと思う」とうなずいていた。イトゥクさんはいろいろとつらい状況も相まって途中で除隊されたそうだけれど、このエピソードを聞いて私は本当に胸が痛んだ。だれにも不安を打ち明けられず、周囲の人が話すあれやこれやがすべて心を上滑りしていくのって、本当につらいだろうな。
 当たり前だけど、ナムジュンの心はナムジュンにしかわからない。でも、入隊を前にしてハッピーでない気分のときもあるだろうことは想像に難くない。もしかしたらいろいろなことが嫌になって、投げ出したくなって、「僕はただの歌手だよ、なにも期待しないでほしい」と思ったりしたのかもしれない。これまでナムジュンに励まされてきた人たちが彼の振る舞いによって傷ついているのをSNS上で目にするとつらいけれど、きっとナムジュン自身もつらい時期なんだと私は思うんだよ。
 2025年と言われている全員そろってのカムバック、私は楽しみにしています。

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