初めに、私の作品について

こんにちは。私は2022年度の武蔵野美術大学の卒業制作展において、オリジナル怪獣の絵を展示しておりました。オリジナルと言っても完全にそうではなく、同じ武蔵美の出身である芸術家成田亨さんの、怪獣デザインにあたっての手法や描画のタッチ、絵画の構図からの引用を行った上で作品を制作しました。怪獣そのものは既存のキャラクターではなく、新たに発想した物になります。

後日それらをtwitterにて掲載したところ、非常に多くの反響をいただくことができました。しかし、今回の私の作品は、上記の通り二次創作的な模倣の要素が強いもので、それについての説明が不十分なまま投稿してしまい、どこまでがオリジナルか、またどこまでが引用に基づくものなのかについて具体的な情報を明記するのを怠っていたことは、非常に問題があったと認識しております。

見ていただいた方々からは、私の作品が成田亨さんの作品に影響を受けていることに好意的な意見を多くいただきました。それについては大変感謝しております。一方で、あくまでも手法を真似て制作しているにも関わらず、私がそれについてきちんと記載しないまま、私の作品が成田さんの名前とともに拡散することは非常に危険であり、ご遺族並びに関係者様にご迷惑をお掛けすることにもなりかねないと感じたため、最終的に自らの判断で一時投稿を取りやめることといたしました。こんな未熟者一人の作品が与える影響など非常に小さなものかもしれませんが、私の作品は先人の芸術なしでは成立し得なかった物であり、万が一にでもトラブルになってしまうことは避けたいとの思いでした。作品を発信する上での配慮が足らず、敬意を欠いた行為でした。感想を下さった皆様には、好意を無碍にするような結果となってしまい大変申し訳なく思っております。改めて、こちらの記事にて作品の意図をご説明させていただきたいと思います。

何故そのような方法を用いたのか、人によってはパクリであると感じた方もいらっしゃると思います。しかし、幼少期から多くの怪獣たちをテレビや書籍等で見てきた私にとって、ただ思いついた形を絵にするだけでは、そういった過去の怪獣たちの記号の集積になることは目に見えていました。全く新しい怪獣を生み出すためには、自分の中に何らかの規範となるものが必要です。そのために、私が感銘を受けた成田さんの怪獣たちは決して無視できないものでした。

また私の作品の中には、表現の独自性や自分なりのロジックと呼べるものは誠に遺憾ながら未だ存在せず、己の技量不足ゆえに、どんなに気をつけてもパロディ化する危険を伴う作業だったことは自覚していたつもりです。ですが、自分の創作意欲を怪獣にぶつける以外の選択肢は考えられず、成田さんの作品から受けた衝撃を絵にする以外に道はないと感じていました。

デザインをするにあたっては、成田さんの怪獣に感じる独自性とは一体何かと考えました。一連の作品を見た時、自身の中にある怪獣のイメージがそれまでとは大きく変わったのを感じ、それに対する自分なりの解釈、解答のようなものを表現したいと思いました。そこで、ウルトラシリーズでの仕事に当たって成田さんが発案した「怪獣デザインの三原則」(1. 過去にいた、または現存する動物をそのまま作り、映像演出の巨大化のトリックだけを頼りにしないこと。  2. 過去の人類が考えた人間と動物、動物と動物の同存化合成表現の技術は使うが、奇形化はしないこと。  3. 体に傷をつけたり、傷跡をつけたり、血を流したりはしないこと。)を意識したのはもちろんですが、それ以上にあの方が唱えた「形の意外性」という概念に注目しました。また作業の過程で、上記の原則に反する奇形化、妖怪化に走ってしまう可能性を考慮しつつ、その境界を探ることも目的の一つでした。

今回、特に私が参考にしたのは、成田亨さんがデザインを担当された「突撃! ヒューマン!!」の怪獣たちです。この作品の怪獣には、実在の生物の特徴を直接的に反映しているものが多くあります。これについて私は、テレビと違い客席と舞台の間に距離ができることから、見る人に馴染みある生物の姿を取り入れることで、遠くから見ても分かりやすい形にデザインされたものであると解釈しました。これらのデザインにおいて、モチーフの形態のどこに成田さんが以外性を見出していたのか観察すれば、何らかの糸口が見つかるのではないかと思いました。

加えて、私の幼少期の体験も作品に反映しようとしました。かつて初代『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』を鑑賞していたとき、登場する怪獣、宇宙人に対して「これは何がモチーフなんだろう」と幼いながらに常に考え、後日図鑑で似た特徴の生物を探したり、怪獣の面影を見出したりして楽しんでいました。『形の意外性』についての考察は、私にとっては過去の体験ともリンクするものでした。

以上の点を踏まえつつ自らモチーフを探し、それらを再構成したり、あるいは面白さを感じた形態についてはそのまま用いてみたり、さまざまなパターンを試しながらデザインをしていきました。

結果は、今の私の頭でそれなりに面白い形を発想できたとは思っていますが、新しい怪獣を作るという当初の目的からは程遠いものでした。原因は、私の中に未だ独自の怪獣観を確立できていないことが第一にあると思います。これについては描画技術の向上と併せ、今後の課題です。また、いくつかの怪獣の中には、これは奇形ではないと断言はできないものもあります。成田さんの作品は、気味悪さをねらったデザインや、あるいは神話の怪物やモンスターを描いた物であっても決してグロテスクにはならず、そしてどこか愛嬌を持っています。それは鑑賞する人の視点に立って制作していることの現れであり、私にそうした姿勢が弱かったことは、絵を見てもらう側として反省するべき点です。

以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。今後の活動につきましては全く未定の状態ですが、ひとまず作品についてご意見、ご感想をいただければ幸いです。



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