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東大生が東大を訴えてみた【第1回】

下駄です。
前回の記事で「柱書」の部分に誤解があったので、訂正しました。
ご指摘ありがとうございます。

引き続き、裁判の申し立てを進めていきます。


訴状を書く

裁判の申し立ては訴状の提出をもって行います。
訴状は、

  1. 原告および被告の名称、住所等

  2. 請求の趣旨

  3. 請求の原因

の3パートから成ります。
このうち、「請求の趣旨」と「請求の原因」については、行政訴訟では書式が自由とのことだったので、Microsoft OfficeのWordを用いて作成しました。
(裁判でもワープロ使っていいなら大学生が手書きでレポート書かされてるのはなんなんだ??? )
「請求の趣旨」の内容がこちら。

1 被告は原告に対し、被告が原告に対して令和5年10月19日付「法人文書不開示決定通知書」(管理番号第2023―69号)において通知した、被告の保有する法人文書であって「総務部総務課危機管理チームが送受信したメール『アイヌ系団体』に関するもの」を不開示とした決定を取消し、同文書を開示する。
2 被告は原告に対し、被告が原告に対して令和5年10月19日付「法人文書不開示決定通知書」(管理番号第2023―92号)において通知した、被告の保有する法人文書であって「理学系研究科等総務課総務担当が受信したメール 2022年9月26日に総務部より送信され、学生に転送したメール その他アイヌに関するもの過去3年分」を不開示とした決定を取消し、同文書を開示する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

前回説明したとおり、法人文書不開示の取消を求めます。
訴訟費用についても請求の趣旨として記述しなければならないようです。書かなかったらどうなるんだろう。

続いて「請求の原因」がこちら。

原告が独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下、法とよぶ。)第3条および第4条にもとづいて行った法人文書の開示請求2件に対し、被告はいずれも不開示とする決定を行った。
被告が同決定を行った理由は、「該当するメール文書については、関連する事務の適正の遂行に支障を及ぼすおそれがあり、法第5条第四号柱書に該当するため不開示とする。」とされる。
しかし、本件開示請求の対象は法第5条第四号柱書のいずれにも該当せず、被告の決定は法に反する。
また、仮に被告の主張どおり本件開示請求の対象に「法第5条第四号柱書に該当する」不開示情報が含まれているとしても、被告は法第6条にもとづいて当該部分を除いた部分につき開示しなければならず、この義務を懈怠している。
さらに本件開示請求の対象の内容は、被告が市民団体「ピリカ全国実」からの定例申し入れに対する対応指針を学内の部局に対して通達する内容である。当該市民団体は被告が東京帝国大学から継承したアイヌ民族の遺骨をもと埋葬されていた場所に返還することを求めている団体であり、国立大学である被告が当該市民団体に対しどのような対応を行っているかについては、日本国憲法第21条が保障する知る権利の典型的な対象となる。
なお原告は被告に所属する学生であり、被告の研究倫理およびその運用については当事者となる。

前回の記述に多少の補強をしました。
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第3条と第4条については単に開示請求の権利について定められているだけで、特に問題ありません。
法第6条は、部分開示について定めています。

独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律

「不開示情報」とは、前回から度々問題になっている法第5条にひっかかる内容のことです。法第6条は「第5条にひっかかっていない部分については開示してくださいね」ということを言っています。
具体的には不開示情報が黒塗りされた状態で文書が開示されます。
皆さんも「海苔弁」という言葉を聞いたり、もしかするとニュースなどでそのものを見たことがあるんじゃないでしょうか。

黒塗り文書(いらすとやより)

筆者の立場としては基本的に「法第5条にあたらないでしょ」というものですが、「仮に法第5条にあたるとしても、それ以外の部分も不開示なのは(のり弁すら出てこないのは)法第6条違反でしょ」という主張を付け加えました。

ちなみに「懈怠」は「サボり」を難しく言ったことばです。元は仏教用語です。厨二心に刺さりますね。

懈怠(けだい、けたい)(梵: kauśīdya、カウシーディヤ)は仏教の煩悩のひとつ。悪を断ち切り、善を修する努力を尽くしていないこと。心が果敢でないこと。怠惰であること。

Wikipedia「懈怠」

いったい何ライフ愛好会なんだ……。
なお法律用語としての用法が合っているかどうかは保証しません!

また、「知る権利」についても言及してみました。知る権利は、人民が政治に関する情報を、権力に妨げられることなく知る権利のことです。
法は知る権利を制度的に保障するための法律と言えますね。
ではその権利の法的な源泉はどこかというと、日本国憲法第21条です。
鋭い方は「あれっ」と思ったかもしれません。なぜなら憲法21条は「表現の自由」を記述したものだからです。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

日本国憲法

憲法21条の条文を見てみると、知る権利については直接書かれていません。
憲法解釈は全く素人ですが、じつは表現の自由にはその前提として真実を知る権利も当然含まれていると考えられているそうです。
とはいえ、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が成立したのが筆者の生まれた1999年、法が成立したのが2001年なので、わりと最近まで知る権利は満足に保障されていなかったようですね。

ちなみに、法こと独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の制定が2年遅れたのってなんでだろ、と思ったのですが、独立行政法人って橋本行革の産物なので、2001年までは存在しなかったんですね。
名前が耳に馴染みすぎて気づきませんでした。

このあたりは暇なときに憲法の教科書を参照して加筆しようと思っています。

さて、今回問題になっているメールは、「国立大学法人東京大学が市民団体からの申し入れに対してどのような対応をしているか」という内容です。これは知る権利の対象である「政治に関する情報」のど真ん中と言えますね。(音ゲーだったら「良」とか「Perfect」ってやつです。)
しかもリークによれば、申し入れの中身を見ることもなく、最初から門前払いが予定されていたわけですから、重大です。
ならば知る権利や法の趣旨に基づいて文書を開示すべきである、ということをここでは主張したつもりです。

それに加えて、法的に意味があるかは不明ですが、「原告(筆者)は東大生であり、東大の研究倫理がガバガバだったら自分に降り掛かってくる可能性あるんですよね」ということも書いておきました。これは説明するまでもないですね。

文字ばっかりのパートおわり。お疲れ様でした。

訴状を提出する

さて、出来上がった訴状を提出しに行きます。
訴状、切手、裁判手数料の3点が必要です。
切手は事前に用意していなかったので、地下の郵便局(東京高等裁判所内郵便局)で買います。
6000円分、指定された組み合わせで買う必要がありますが、この郵便局ではデッキが組まれた状態で在庫されていました。

切手を買う

再び地裁14階の民事訟廷事務室事件係に来ました。

事務官「訴状は自分用、被告用、裁判所用で3部用意してください。」

もっと早く言ってよぉ~
自分用、保存用、布教用でしたっけ?

地下にファミマがあり、コピーができました。

弁護士っぽい感じの人がたくさんいた(いらすとやより)

14階(3回目)。(撮影禁止のせいで結局文字ばっかりになってない? )
今度こそ必要なものは揃っています。

事務官「訴額がいくらになるか諸説あるので、手数料は後日納付してもらいます(意訳)」

そういうパターンもあるんですね。
おさらいですが、財産権上ではない争いについては、訴額(争っている金額)が一律で160万円の扱いになります。
今回は不開示決定2件の取消を求めていますが、これが一体のものなのか(160万円)、それとも別々のものなのか(320万円)によって、手数料が変わってくるとのことです。
320万円想定で手数料2万1000円を準備してきましたが、今回は必要なかったようです。

事務官「では訴状を受理します。」

受付票を渡されました。

受付票

地裁民事第51部というところが担当のようです。
事件番号は「令和6年(行ウ)第129号」とあります。何やら意味ありげな記号ですね。
調べてみると、この記号は「行政事件記録符号規程」という規程によって定められており、「行ウ」は地裁の普通の行政事件に割り当てられるらしいです。
つまり、「令和6年(行ウ)第129号」は「東京地裁で2024年に提起された訴訟のうち、普通のもので129番目の事件」という意味らしいです。
何はともあれ、これにて正式に裁判が始まりました。

事務官「ところで、いま証拠を提出することもできますが、どうしますか? 」

「ついでにオイル交換いかがですか? 」的なノリで言われましても……。

オイル交換いかがですか?  (いらすとやより)

と思いきや、証拠持ってました。
前回出てきた「法人文書不開示決定通知書」です。

証拠も例によって3部用意する必要があるのでファミマに行きました。
3点提出し、「甲第1号証」から「甲第3号証」までハンコを押されました。それっぽくなってきたー!

ここまで30分くらいでした。
くぅ~疲れましたw これにて訴状提出完了です!

お手紙

2週間ほどして、裁判所から郵便が届きました。

お手紙

おっ、日程調整来たか?!

もはや隠す意味のない原告名

「事務連絡」。

  • 1C係に係属した。

  • 2万1000円払え。

……はい。
結局、訴額は320万円になったようです。

手数料納付書

ここに収入印紙を貼り付けて持っていけばいいようです。
どちらかというと、同封されていた別紙の方が重要そうです。

別紙

あなたが提出した訴状の請求の趣旨第1項及び第2項は、いずれも行政事件訴訟法(以下「行訴法」といいます。)3条2項所定の「処分の取消しの訴え」として国立大学法人東京大学があなたに対してした不開示決定の取消しを求めるとともに、行訴法3条6項所定の「義務付けの訴え」としてあなたの各開示請求に係る文書の開示の義務付けを求めるものと解されます。その場合、請求の趣旨は下記のとおり記載するのが通常です。云々。

「お前の訴状読みにくいねん」と言われているようです。
「行政事件訴訟法」という法律が出てきました。

この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

行政事件訴訟法第3条第2項

この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

行政事件訴訟法第3条第6項

ここではあまり特別なことは書かれていないようです。重要なのは、「取消し」「確認」「義務付け」「差止め」の区別を理解し、何を求める訴訟なのかわかりやすく書くことにありそうです。
元の「請求の趣旨」では、

被告は原告に対し、被告が原告に対して令和5年10月19日付「法人文書不開示決定通知書」(管理番号第2023―69号)において通知した、被告の保有する法人文書であって「総務部総務課危機管理チームが送受信したメール『アイヌ系団体』に関するもの」を不開示とした決定を取消し、同文書を開示する。

「請求の趣旨」第1項

と「取消し」と「義務付け」を一緒に書いていました。
それを、

1 被告が令和5年10月19日付けで原告にしてした法人文書不開示決定(第2023ー69号)を取り消す。
2 被告は、原告に対し、原告が令和5年8月17日付けで開示請求をした法人文書の開示決定をせよ。

と書き直してね、と言われています。
ちなみに受付の事務官氏は、「『第2023ー69号』みたいな処分の番号は、学外では通用しないから、どういう処分なのか特定できるように書いてください」と言っていた気がするのですが、書記官氏の意見は違ったようです。

特に異存はないので、「はい、請求の趣旨の記載を上記のとおり訂正します。」の方にチェックをつけました。

というわけで、収入印紙と回答書を提出してきました。とくに面白いこともなく、30分くらいで終わりました。

次回予告

次回から実際に裁判っぽいことが始まりそうです。お楽しみに。
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