研究書評


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中村真. (2001). 精神障害者に対する否定的態度に関する研究の動向 (I): 日本国内における実態調査. 川村学園女子大学研究紀要, 12(1), 199-212.

〈内容総括・選択理由〉
  今回取り上げた文献は、精神障害者が受ける偏見と、その偏見が形成される原因と思われる理由について述べる。偏見が形成される理由は、社会のあらゆる側面を含めるこの記事に詳しくまとめられている。 調査も包括的で、具体的な情報が得られる。 このような情報は、このテーマを研究する上で非常に有用であり、それがこの文献を選んだ理由である。


〈内容〉
  社会心理学の研究では、近年、偏見の形成過程とその原因について研究が進んでいる。長年にわたる結論は、偏見は主として集団的な社会現象であるというものだ。 偏見は、人種、民族、性別、高齢者、地位・職業、学歴、外見、血液型、身体障害などに基づく特定集団のメンバーを対象に行われてきた。他の偏見に比べで、精神障害者に対する偏見に関する研究は少ない。

 今、精神障害に対して治療法の発展や薬品の開発により通院と服薬で日常生活営むことが可能な患者が以前に比べて増えている。でも、身体障害者と比較した場合の精神障害者に関する法律と制度が不備と遅れる。だから、精神障害者に対する偏見は相当に根深いものがある。また、住民の一般的なイメージでは、精神障害者の中にも、かわいそうだと思う人から近寄りがたいと思う人まで、実にさまざまな人がいる、大きな違いがある。精神障害者は手が届きにくく、恐ろしい存在であるという先入観が、多くの人々を精神障害者に期待させないのである。精神障害者が普通の生活に戻るために多くの努力をし、前向きに生きようとしているという事実は、ほとんどの人が知らないことだ。したがって、精神障害者の現状と彼らの努力を地域社会に知らせることが重要である。社会が精神障害者から距離を置いているため、「精神障害者は無能で危険、精神障害者であることは恥」というイメージが広まっている。 精神障害者である限り、一生他人の意見から自由になることはない。

 今後の精神障害者に対する偏見研究の展望に関して、偏見が形成される時期の青少年を対象とした調査や、大学生や社会人における偏見の解消は、より有望な政策構想のひとつである。純粋に精神障害者を支援する政策に比べ、精神障害者に対する社会的偏見をなくすための政策やプログラムは非常に少なく、この部分も非常に重要である。

〈総評〉
  精神障害は、現在、日本を含むどの国でも解決するのが非常に難しい問題である。 精神障害には様々な原因があり、一つの病気として扱うことができないため、精神障害を治すことは非常に難しい。精神障害は徐々に社会の注目を集めるようになり、多くの国が精神障害者を支援する政策を導入しているが、その実施は期待されたほどの効果を上げているとは言い難い。その本質は、社会が知的障害者について十分に知らないという事実にあり、精神障害から回復した人たちでさえ、社会に参加のはまだ難しい。 また、精神障害者が普通の生活を取り戻した後、何らかの偏見から再び精神障害者を再発させてしまうこともある。精神障害者を純粋に支援する政策に比べて、精神障害について知識を普及させ、身体障害者を精神障害者と同じように社会的に受け入れられるようにすることも重要だと思う。


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藤野ヤヨイ. (2005). 我が国における精神障害者処遇の歴史的変遷: 法制度を中心に (Doctoral dissertation, Niigata Seiryo University).

〈内容総括・選択理由〉
  今回取り上げた文献は日本の精神障害者に関する法律の歴史的変遷とその変遷が患者の治療にどのような影響を与えたかを明らかにする。これらの法改正は、精神障害者に対する日本の関心と態度を示すものであり、精神障害者をより科学的かつ合理的に扱う方法を考えることとなるかもしれない。


〈内容〉
  精神障害者の処遇に関する法制度は、これまで100年あまりの歴史しかない。 1900年3月10日、第14回帝国議会で日本初の精神障害者福祉法が制定され、精神障害者の強制治療が始まった。 しかし、この治療は家族による私宅監置であり、医療とはまったく異なる概念である。家族には精神障害者に対する配慮義務がある。 さらに、精神障害者についての治療法律は警察によって施行され、警察が精神障害者を管理し、家族の保護下に置いている。 この法律は、精神障害者の人権を無視しかねない。1901年、日本社会で知的障害者の拘禁などの人権侵害を行うべきではないとの声が上がり始めた。 医療を受けなければ治らない。当時、精神障害者は拘置所に収容され、囚人のような生活を送ることしかできなかった。 精神障害者の救済と保護のために、早急に実現しなければならない4つの目標がある。1.精神障害者にさまざまな施設を提供すること。2.精神障害者に関連する法律を制定すること。3.精神疾患について国民に伝えること。4.精神障害者を監督または治療する責任者に精神疾患に関する知識を教えること。この目的のために、公立・私立の精神科病院が設立されている。

第二次世界大戦後、日本政府は精神衛生法を制定し、精神障害者を可能な限り自宅から病院へ移送して治療を受けさせ、社会に危険を及ぼすおそれのある精神障害者を強制的に精神病院へ収容するようにした。さらにその後、メンタルヘルス・アセッサー制度が導入され、入院の前にメンタルヘルス・アセスメントが行われるようになった。常に法改正が行われる中、知的障害者に対する暴力や偏見による事件が起きている。 精神障害者の強制入院は現在も続いている。


〈総評〉
  精神障害者関連法の変遷からも、社会が精神障害者の人権にますます注目していることがわかる。 また、精神障害者に対する国民の意識と法律には強い関係がある。 精神障害者に対する法律のほとんどが強制的なものであれば、人々は精神障害者を恐れるようになる。 この偏見は、社会的に危険でない精神障害者にとっては致命的であり、普通の生活に戻る妨げになる。


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濱田由紀. (2015). 精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味. 日本看護科学会誌, 35, 215-224.

〈内容総括・選択理由〉
  この研究論文は、精神障害から回復した人々にとってのピアサポートの経験とその意義についてのものである。この記事では、精神障害者が治療を受けた後の回方法と、医学的な治療手段に加えて社会的な治療手段を探る。社会的治療によって、精神障害者はより少ない障害で社会に復帰し、精神障害の影からよりよく立ち直ることができる。


〈内容〉
  20世紀、「リハビリテーション」という概念は、精神障害者の手記から、精神障害者の実際の主観的な回復体験へと浮上した。2003年、米国の大統領の「精神衛生に関する新しい自由委員会」の報告書では、米国における精神衛生の目標は回復であると述べた。 「ピアサポート」、すなわち精神障害の経験者同士の平等で相互的なサポートは、リハビリテーションを達成するための重要な手段である。日本では、1960年代ごろから患者会や医療機関が患者をケアしてきた。しかし、日本ではリハビリテーションの概念の導入が遅れており、ピアサポートの実践も欧米ほど進んでいない。リハビリテーションを促す看護専門職の支援方法を構築するためには、すでに日本でピアサポートを経験した人たちの体験から、リハビリテーションのためのピアサポートの意義を理解する必要がある。 また、このことを日本の社会システムの文脈から研究した。 このことは、精神障害者のリハビリテーションの主観的体験に着目した看護学を構築するための示唆を与える可能性がある。

「ピアサポート」とは、「同じ経験を共有する人同士の相互支援」と定義されている。 ピアサポートには、自発的なものから組織的なものまで、さまざまな形態がある。ピアサポートを通じて、精神障害者は他者との触れ合いを通じて社会復帰を果たし、また自分の存在意義を見出すことができる。このプロセスによって、精神障害者は自分を精神病者だと考えることをやめ、普通の人と同じように生活できることに気づくことができる。 そして、他人に受け入れられていると感じ、他人に対する責任感も持てるようになる。


〈総評〉
  ピアサポートは、薬物療法だけとは異なり、精神障害者が社会的なつながりを築くことを可能にし、他人と接することを恐れなくなり、精神障害に伴う自尊心の低さを少しずつ解消することができる。社会は現在、精神障害者をひとつのカテゴリーにまとめており、精神障害者はすべて社会にとってのリスクであると広く認識されている。 ピアサポートはまた、同じ精神疾患を患っていても、人はそれぞれ違うということを人々に認識させることができる。このセラピーは、精神障害者の新しい人生の模索に貢献している。

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中村真, ナカムラシン, 川野健治, & カワノケンジ. (2002). 精神障害者に対する偏見に関する研究: 女子大学生を対象にした実態調査をもとに. 川村学園女子大学研究紀要, 13(1), 137-149.

〈内容総括・選択理由〉

この研究論文は、女子大生の精神障害者に対する偏見を調査するためのアンケートに関するものである。 主な質問項目は、精神障害者との接触経験、態度、精神障害者と患者との距離感などである。 その結果、女子大生は精神障害者との接触経験がほとんどなく、彼らに対してアンビバレントな態度をとっていることがわかった。 また、精神障害者との積極的・積極的な接触は、精神障害者との社会的距離を直接的・間接的に縮めることになる。 一方、精神障害者に対する否定的な態度は、より大きな社会的距離と関連していた。


〈内容〉

 精神障害者に対する偏見は、現代における最も深刻な社会問題のひとつである。 精神障害者に対する否定的な態度が人々の間に存在することは事実であるが、その正確な決定要因に関する研究はほとんどなされていない。最も一般的なステレオタイプは、人々は否定的な回避的態度をとり、精神障害者になれば、一生語り継がれるかもしれないというものだ。 このようなステレオタイプによって、人々は精神障害者は危険で怖い存在だと考えるようになる。 実際には、治療の進歩や薬物療法の発達により、多くの精神障害者が普通の生活を送ることができている。本研究の対象は、一般教養科目「心理学」に在籍する女子大生60名である。 精神障害者と接した経験のある者は20%未満であった。これには、団体訪問、ボランティア活動、部活動への参加などが含まれる。精神障害者を理解する上で、直接的な接触経験の欠如は障害となりうる。

精神障害者の隔離の必要性や、精神科病院での生活訓練の必要性についての質問には、非常に肯定的な回答が多かった。 一方、「精神障害者への接し方」という質問に対しては、多くの女性が詳細な回答を寄せている。これは、女子学生が精神障害者に対してアンビバレントな態度を持っていることを示している。 つまり、精神障害者一般を見るときには、彼女たちの態度は肯定的であるのに対して、個人として精神障害者と接する可能性について尋ねられると、彼女たちの精神障害者に対する見方は非常に否定的になるのである。

は非常に否定的になった。 この両義性は、障害者がどの程度不当に扱われているかに大きく影響している。精神障害者と個人として交流する可能性の出現と偏見がどのように結びついているのかは興味深いことであり、今後の研究課題である。 また、「複雑化し競争が激化している現代社会では、誰でも精神障害者になる可能性がある」という質問に対して、70%以上の生徒が「はい」と答えている。 これは、近年注目されている精神病理学への関心の高さを示している。


〈総評〉

この記事のデータを見る限り、ほとんどの人が精神障害者についてよく知らないという態度をとり、また手を差し伸べることを恐れているようだ。 精神障がい者は怖い人ばかりではないし、前向きな人もたくさんいる」という印象を持っているようだが、接する機会が少ないため、それを確かめるのは難しい。 ニュースやソーシャルメディア上で、精神障害者が潜在的な犯罪者として登場することが多いことも、恐怖を深めている。

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倉知延章. (2014). 精神障害者の雇用・就業をめぐる現状と展望. 日本労働研究雑誌, 646, 27-36.

〈内容総括・選択理由〉
日本における精神障害者支援は、医療を中心に、1980年代以降、福祉、就労、就労支援施策が推進されてきたが、従来の精神科医療モデルがすべての施策に影響を与えてきた。 精神障害者が治療を受ける必要性から、就労支援の取り組みは遅れている。 近年、精神障害者のプロフィールは多様化し、精神科病院は診断能力の向上を迫られている。

〈内容〉
2004年と2005年、日本政府は法定雇用率を1.8%から2.0%に引き上げた。 本報告書では、精神障害者の雇用状況の現状と見通しについて、こうした動きの歴史的経過と今後の影響を踏まえながら考察する。精神障害者保護法の制定から50年後の1950年(昭和25年)に精神衛生法が制定され、ようやく私宅監置が廃止され、精神病院での治療が中心となった。 しかし、この治療は治療や社会生活への復帰ではなく、隔離を目的とした強制入院であり、それによって社会が維持されるものであった。 その結果、治療から退院する道はほとんどなく、入院で治療が終わってしまうのが現実である。1993年(平成5年)には障害者基本法が制定され、初めて精神障害者が「障害者」として明示され、1995年(平成7年)には精神保健法が精神保健及び精神障害者福祉法に改正され、社会復帰の道はさらに前進した。

1955年、国際労働機関(ILO)は「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する勧告第99号」を採択し、「身体的、精神的又は心理的ハンディキャップにより職業に従事し、維持し、発展させる能力が損なわれている者」に対して職業リハビリテーションを提供すべきであるとした。

職業リハビリテーションは、「身体的、精神的または心理的ハンディキャップのために、自らの職業に従事し、維持し、発展させる能力が低下している人」に提供されるべきであるとし、精神障害者も含まれることを明記している。 勧告では、精神障害者も職業リハビリテーションの対象であるとしている。 しかし、日本では「障害者」は「身体障害者」とされ、精神障害者の就労や就労支援を行う制度はない。 これが、身体障害者以外の障害者(精神障害者等)に対する施策の遅れの主な原因である。

これは、精神障害者など、身体障害者以外の障害者に対する施策の実施が遅れている主な理由のひとつでもある。

〈総評〉
就労支援は精神障害者の社会復帰の重要な一部である。 精神障害者の経済的負担を軽減するだけでなく、雇用機関はマンパワー支援や職場適応支援を行うべきである。 また、企業も精神障害者とうまく付き合う方法を見つける必要がある。 こうした変革によって、精神障害者と一般市民が共生するボーダレスな時代がやってくるだろう。

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北岡(東口)和代. (2001). 精神障害者への態度に及ぼす接触体験の効果. 精神障害とリハビリテーション, 5(2), 142-147.

〈内容総括・選択理由〉
この文献は、精神障害者の態度に接触体験が与える影響について考察している。接触の度合いは、社会的距離と、精神障害者を想像し、感じ、評価することの両方に関連している。 精神障害者と接触したことのある人は、彼らをより好意的に評価する傾向があるが、これは必ずしも結果ではない。

〈内容〉
精神障害者と日常的に接することは、そうしたグループに対する偏見や態度を変えるきっかけになるかもしれない。 接触経験が多ければ多いほど、精神障害者に対する態度はより肯定的になる可能性が高い。 この仮説に取り組むため、本文献の著者らはある研究を行った。研究の主な対象は、精神障害者と接触することのない一般市民、接触経験の多い医療従事者、接触はあるがそれほど頻繁ではない地域ボランティアである。その中でも、精神障害者と接する機会の多い医療スタッフは、精神障害者に対してより好意的な印象を持っていた。 多くの無作為化標本調査でも、接触経験やボランティア経験が精神障害者のイメージや認識に重要な要因であることが示されている。

多くの人は、精神障害者について次のような印象や考えを持っている:1.自分が何をしているのかわからないので、怖いと感じる2.ほとんどの精神障害者はイライラしやすく、多動である3.精神障害者は犯罪を犯しやすい4.精神障害者は情緒不安定で、人を傷つける可能性がある5.精神病院は人里離れた場所に建設し、患者は隔離して治療すべきである。

〈総評〉
一般市民と精神障害者との接点を増やすことは、固定観念や偏見を減らす効果的な方法である。 有意義な交流を通じて、一般市民は精神障害者の状況やニーズをよりよく理解することができ、それによって共感と受容が生まれる。 まず、接触が増えることで偏見が取り除かれる。 直接接触することで、精神障害者に対する固定観念が崩れ、彼らのさまざまな側面を見ることができるようになる。第二に、参加性を高めることができる。交流は、より包括的な地域社会の環境作りに役立ち、精神障害者に対する孤立や差別を減らすことができる。 第三に、教育的効果である。 このような交流によって、一般の人々が精神保健の重要性や関連知識を理解することができる。 関連制度がまだ完全ではないにもかかわらず、マイノリティ・グループとして、精神障害者に対する一般の人々の理解を深め、彼らの認識を変えることが最も重要である。

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福井信佳, 中山広宣, 橋本卓也, 高畑進一, & 西川智子. (2012). 大阪府における精神障害者の離職に関する研究. 日本職業・災害医学会会誌, 60(1), 32-37.

〈内容総括・選択理由〉
国や地方自治体が発表する障害者雇用統計には、雇用者数のみが記載されており、雇用後に障害者が労働力として定着しているかどうかの指標である障害者移動率は記載されていない。 そこで筆者らは、大阪府が公表している「年間雇用障害者数」「対前年度増加障害者数」「入職障害者数」を用いて、精神障害者の離職率を推計する独自の手法を開発した。 その結果、精神障害者の離職率が身体障害者、知的障害者に比べて突出して高いことがわかった。 離職率は、今後の精神障害者の定着を図る手がかりとして重要な数値になると考えられる。


〈内容〉
厚生労働省は、精神障害者の就労状況について発表し、「精神障がい者の就労者数は増加傾向にあり、精神障がい者数も増加している」と報告した。現在、精神障害者の就労者数は、身体障害者に比べてまだ少ないが、今後さらに増加することが予想される。厚生労働省は精神障害者の雇用者数を公表しているが、離職率は公表していない。 雇用者数だけでは、精神障害者の雇用率が上がったかどうかは判断できない。 筆者の統計によれば、精神障害者の離職率はかなり高い。精神障害者の雇用率の上昇は離職率の上昇を伴っている。

この調査のデータによると、大阪府の精神障害者の年間平均離職率は75%であり、このような高い離職率は、現役の精神障害者が2年以内にすべて入れ替わることを意味する。 これに対して、一般の人の離職率は10〜20%程度である。 大阪府では、精神障害者の離職率は一般人口の約4倍である。

退職理由には、精神疾患の重症度や仕事への満足度など、さまざまな要因が含まれていた。 例えば、統合失調症の場合、仕事に対する期待が大きかったり、自分自身の能力を過小評価したりといった仕事探しの問題、上司や同僚の注意を過剰に気にするなどの対人関係の問題、体力低下、集中力の維持ができない、疲労感などである。企業にとっても、精神障害者をどう扱うかというジレンマがある。 精神障害者の抱える問題やニーズはそれぞれ異なり、同じ職業政策を確立することは難しい。精神障害者には、身体障害者ほど就労支援政策は有効ではない。このままでは、精神障害者の定着は今後ますます困難になり、将来的には大きな社会問題に発展することも予想される。

〈総評〉
精神障害のある人は、プレッシャーの高い職場や、サポートが得られない職場環境で、より不安や動揺を感じることがあり、その結果、長期間仕事を続けられなくなることがある。 さらに、多くの企業では、精神障害者に対する心理カウンセリングや同僚からの理解・支援といったサポート体制が整っていない。 精神障害者は、職場において差別や偏見に直面する可能性があり、それが精神的健康に影響を及ぼすだけでなく、キャリア形成や仕事の安定にも影響を及ぼす可能性がある。 精神障害者の状態が不安定で、ある一定期間正常に機能できないことがあり、その結果、仕事の成果や安定性に影響を及ぼすことがある。 これらの問題はいずれも当面の解決は困難であり、精神障害に関する支援政策の改善が必要である。

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吉井初美. (2016). 精神障害者のセルフスティグマ低減を目的とした介入研究課題: レビュー. 日本精神保健看護学会誌, 25(1), 91-98.

〈内容総括・選択理由〉
  現在の日本社会では、精神障害者に対する差別をなくすことを目的とした法案が数多く提出されている。 しかし、偏見をなくすための決まった方法はない。 本論文の重点は、精神障害者のセルフスティグマである。スティグマ化によって、ある人が自分自身を社会的価値の低い存在と認識する現象である。 これは自尊心の低下、社会からの逃避願望、治療を受けることへの消極性につながる。 現代社会では、精神障害者のセルフスティグマに関する研究は少なく、介入も非常に限られている。 その内容がデリケートであるため、この問題を避ける傾向さえある。


〈内容〉
  この研究では、作業療法士の介入は、精神障害者の低い自尊心を減らし、治療の継続性を促進することがわかった。 精神教育法は、精神障害者のセルフスティグマを軽減するための方策の中で最もよく用いられた方法であった。 精神障害者のセルフスティグマに関する研究は世界的に少ないが、これはおそらくセルフスティグマの問題が社会的要因を含んでおり、ケアにおいて取り組むべき問題として捉えられていないためであろう。 また、精神障害者がそのプロセスによって心理的負担を感じているという原因もある。

 セルフスティグマは、病気の治療や回復、人間関係に悪影響を及ぼす可能性があるため、精神障害者の身近にいる看護師が実践的な介入研究を始めるよう働きかける必要がある。 看護師はまず、精神障害者のセルフスティグマについて知ってもらい、患者集団とその悪影響についての知識を深めることで、研究や治療環境の改善を目指すべきである。その上で,国内で既に効果が実証され普及段階にある心理教育や集団 CBTを患者の様々なステージに応じて採用することで妥当性が検証されるのを期待したい。さらに,国外研究で示唆された効果的介入手法を国内に取り入れる方法がある。具体的には,Acceptance and commitment therapy (ACT)やComing out Proud(COP),Healthy Self- Concept, Ending Self-Stigma(ESS)は精神科デイケアや開放病棟で,音楽療法やAnti-Stigma Photo-Voice Intervention は病棟レクリエーションや精神科デイケアで,Goal Attainment Program(GAP)やThe self- stigma reduction programは精神科病棟で実施可能であろう。特にGAPは,看護師が看護過程と併せて負担なく実施できる可能性があり,妥当性の検証で特に多くの研究協力が望まれる。

〈総評〉
  精神障害者のセルフスティグマに関する研究は世界的に少なく、これは社会にとって非常に新しい問題である。これは、個人の精神的問題に対する否定的な認識や内面化された社会的偏見に関わる複雑で重要な問題である。このようなセルフスティグマは、個人のメンタルヘルスと回復過程に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。セルフスティグマを着せられると、自尊心や自己価値感が低下し、自分は愛されたり助けられたりする資格がないと思いようになる。 内面化された否定的な認識は、抑うつや不安の症状を増大させ、個人の精神的健康に影響を及ぼす可能性がある。 社会的見捨てられ感や孤立感は、絶望感や無力感につながり、メンタルヘルス状態をさらに悪化させる。恥や偏見を恐れから、精神障害者の多くは医者の助けを求めることを避け、診断や治療が遅れることがある。 セルフスティグマを着せられると、社会的交流が減少し、孤立感がさらに悪化する。 否定的な自己認識や行動パターンは、個人の人生の選択や機会を制限し、全体的な生活の質に影響を与える。

 

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樫原潤, 河合輝久, & 梅垣佑介. (2014). うつ病罹患者に対するスティグマ的態度の現状と課題―潜在尺度の利用可能性への着目―. 心理学評論, 57(4), 455-471.

〈内容総括・選択理由〉
  うつ病に対する汚名を着せるような態度は、うつ病患者にも非うつ病患者にも否定的な影響を与える。 本稿では、うつ病に対するスティグマとその軽減に関する先行研究の限界を探り、今後の研究がこれらの限界をどのように克服できるかを議論する。


〈内容〉
  日本では、うつ病を含む気分障害の患者数は100万人に迫り、うつ病は患者や周囲の人々に深刻な苦痛を与える深刻な社会問題とされている。うつ病にはさまざまな症状があり、気分の落ち込みなどの精神的な症状から、不眠やめまいなどの身体的な症状まで多岐にわたる。 うつ病は、自殺未遂や失業といった大きな社会的損失の危険因子である。厚生労働省のうつ病患者支援策には、うつ病患者の自助意識を高めるだけでなく、うつ病でない人がうつ病患者や自殺リスクの高い人を見分ける能力を高めることも含まれている。

うつ病患者に対する偏見の問題は、非常に大きな社会問題となっている。 うつ病の症状が重ければ重いほど、中立的な環境から感じるスティグマが大きくなり、自分自身に対してもスティグマを感じるようになるという研究結果もある。 こうした恥の感情は、うつ病患者が治療のために病院に足を運ぶことを妨げ、生きる意欲を減退させることもある。 このような偏見は、うつ病患者を助けようとする一般の人々の意欲にも影響する。 したがって、このような偏見の本質を研究し、スティグマを減らすために効果的な研究方法を用いることが不可欠である。

私たちの社会では、「うつ病」は普通の悩みや憂鬱の代名詞として誤用されてきた。 実際、この認識は間違っており、社会の偏見をさらに強めている。 社会一般が抱いている偏見は、患者にも知覚され、自分に対する偏見となる可能性がある。

研究によると、うつ病の人と接する機会が多い人は、偏見を持つことが少ない傾向がある。イギリスにおいて 2009 年から実施されている大規模キャンぺーンである “Time to Change” が挙げられるだろう。「Time to Change」キャンぺーンは、罹患者と交流する機会を設けながら精神疾患についての知識啓発を行う 「Education not Discrimination」、メンタルヘルスの話題についての話し合いや罹患者と非罹患者の社会的交流を促進する ‘’「Time to Talk」などのプログラムを年間単位で実施したものである。「Time to Change」 キャンぺーンが非罹患者の抱くスティグマ的態度の低減に効果的だったことをあわせて踏まえると、罹患者との接触と知識啓発の組み合わせを用いることは、うつ病罹患者に対するスティグマ的態度への介入を行う上での有力な選択肢となりうると考えられる。 質問票尺度に基づく先行研究では、うつ病患者の汚名意識を標的とした介入において患者との接触を用いた研究はなく、代わりに知識に焦点が当てられていることが示されている。

 

〈総評〉
  うつ病患者はしばしば偏見の対象となり、これは深刻な社会問題である。 こうした偏見は、メンタルヘルス問題に対する誤解や、正しい情報や認識の欠如から生じている可能性がある。うつ病は単なる気分の落ち込みではなく、多くの身体的、感情的、認知的問題を引き起こす深刻な精神疾患である。うつ病は単なる気分の落ち込みではなく、多くの身体的、感情的、認知的問題を引き起こす深刻な精神疾患である。 うつ病は、個人の意志力とは無関係の病気です。 他の病気と同じように、専門家による治療とサポートが必要です。 うつ病は、年齢、性別、社会的地位、個人の能力を区別しません。 誰でもうつ病にかかる可能性があり、だからといって弱者というわけではありません。

社会における偏見は、うつ病患者の自己汚名を招く可能性があります。これは、うつ病患者が自分自身に対して否定的な評価や認識を持ち、しばしば自責の念や自尊心の低下を感じることを指します。 うつ病患者は、自分は役立たずで価値がない、あるいは自分は他人の愛や支援に値しないと考えるかもしれない。


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傳田健三. (2016). 子どものうつ病. 再考, 児童青年精神医学とその近接領域, 57-415.

〈内容総括・選択理由〉
 1980年代、子供うつ病はほとんど注目されず、まれな疾患と考えられていた。 しかし、子供うつ病は、人々が考えているよりもはるかに多くの死傷者を出している。 子供うつ病は成人とは異なる臨床症状を示すため、子供の特有の治療アプローチが必要となる。本論文では児童と青年期のうつ病性障害について、その診断、疫学、症候学、併存障害、転帰,治療などについて総合的に解説する。


〈内容〉
 子供のうつ病は、しばしばADHDや行動障害と併存している。子供のうつ病は家庭内虐待などの要因と強く関連しており、成人のうつ病に発展する可能性は低い。青年期のうつ病は、他の精神疾患と併発する可能性は低く、基本的には幼児期のうつ病から発展し、成人期のうつ病になる可能性が高い。うつ病性障害の34.7%は単独で発症し、うつ病性障害の27.4%は不安障害(分離不安障害、社会恐怖症、単発性恐怖、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖など)と合併して発症し、うつ病性障害の24.2%は破壊的行動障害(ADHD、行為障害、反抗性障害など)と合併して発症した。 の患者が破壊的行動障害(ADHD、行為障害、反抗的反抗障害など)を有し、13.7%の患者がこれら3つの障害をすべて有していた。破壊的行動障害(例:ADHD、行為障害、反抗的反抗障害など)を同時に有する小児では、24.2%が3つの障害を同時に有し、13.7%が3つの障害を同時に有していた。

うつ病発症の要因は、個人、家族、社会的背景との関連で評価され、明らかな環境的ストレス要因は排除または軽減される。初期段階の介入はうつ病に特化したものではなく、一般的な環境調整、心理教育、支持的心理療法が含まれる。家族への介入には、精神教育や両親の家族コミュニケーションの改善が含まれる。児童や青年の家族に対する介入の第一のタイプは精神教育である。家族に子どものうつ病を十分に認識させ、親が共同治療者の役割を担うよう促す。第2に、不安、焦燥、パニック発作、親のうつ病はしばしば家族機能の低下の原因であるため、親のうつ病症候群を改善することが重要である。親のうつ病は、育児不振、親の性格の問題、夫婦の不和、子どもに対する怒りなどの問題を伴っている可能性が高い。具体的な問題にもよるが、問題解決のプロセスや問題の根底にある家族関係のパターンに対処する介入を行うことで、家族のコミュニケーションを改善することができる。


〈総評〉
 小児うつ病は、子供や青年が罹患する気分障害であり、成人のうつ病と同様に、小児うつ病は日常生活や学習、人間関係に大きな影響を及ぼす可能性がある。 うつ病は、子どもの将来の社会的、職業的、対人関係に影響を及ぼし、健全な社会機能を確立することを困難にする可能性がある。 多くの人は、うつ病は大人だけが経験する問題だと誤解しており、子どももうつ病にかかる可能性があるという事実を無視している。 さらに、うつ病は一部の文化圏で汚名を着せられ続けており、親や教師がこの問題を認めたがらないことにつながっている。 多くの親や教育者は、子どものうつ病の症状や影響に対する理解が不足しており、行動上の問題や気分の落ち込みの段階と勘違いし、適時に気づいて助けを求めることができない。

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