大菩薩峠で気になること

大菩薩峠で気になったところをいくつか記録しておく。
未完ゆえ、続きがあれば明かされたのか?という内容がほとんど。

・お雪ちゃんと机竜之助
妊娠騒動がどうも有耶無耶で、琵琶湖で突然死にたがり、竜之助に殺されようとしたはずが、何故心中未遂の形となったものか。
まず、妊娠騒動からして、おばさんに嫌なことを言っているからかわれただけで心当たりはない、処女懐胎でなし、妊娠はしていない、という様子から、夢幻の描写、道庵との問答、お銀様の疑いを経て、これは妊娠しているのか?と何が何だか分からなくなったまま。
漂う舟の上で竜之助にじゃれていたかと思えば、殺してほしいと言い出して、未練を見せつつも絞められた。そこで場面は変わり、次に登場したときには、湖水にいるところをお角や伊太夫に救われる。それを知らないためか、お銀様が2人を弔った痕跡のみ兵馬が見つける。
お雪ちゃんは道庵らの保護下へ収まって、その後は分からず。
一方の竜之助は平然とさ迷い歩く。寂光院の尼と竜王明神を訪ねようとし、そこには嫉妬の神が待っているという。お銀様とでも再会するかと期待したところで場面は変わり、それっきり。

妊娠騒動以来暗くなったお雪ちゃんが死にたがるのはいいとして、それを締めたはずの竜之助まで琵琶湖に浮かぶに至る経緯が描かれないのが、酷く気になる。
兵馬が2人の弔いの痕跡から、その主がお銀様と知らず探し求める中で、そもそも竜之助の生とは?という問題も浮上させているが、さまよい続けて寂光院に至る竜之助は幻ではないだろう。
辻斬りのご本尊と言われながら、たださまよう姿は、自害した亡者達よりもいっそう亡者らしいかもしれないけれども。

・与八の罪
与八がお松の誘いを断って、沢井を離れて諸国の旅に出たのは「罪ほろぼし」らしい。お松からも、その「何をそれほどまでにして、罪ほろぼしをしなけりゃならないほどの罪をつくったの?」と問われている。

与八の思う罪とは何だったのだろう。
唯一罪らしい罪と言えば、お浜をかどわかしたことか。
無自覚のものも含めた与八個人の罪業について、これを滅ぼすべく、仏像を刻みながら旅をすることにした?
弾正の追善も目的に含まれていただろうか。

あえて読むなら、原罪という概念が介山の頭にあり、人類全体という大規模な集団の罪だと考えるのはどうだろう。キリスト教との接触があったようなので。
と言っても、与八自身がキリスト教の概念を知るはずはないので、竜之助の所業や幕末動乱の噂から、人々の罪というのを想定し、与八が代わって償うとすれば、一種の平和の祈りに近いのかもしれない。

善人ゆえに伊太夫の財を守るには不適当な人材だろうし、伊太夫の帰り次第そろそろ旅に出るか?というところ。もしその道中が描かれたなら、罪の内訳も明かされたのだろうか。

・七兵衛の最期
序盤では、七兵衛がいつか捕らわれて積み重ねた大罪が明らかになると書かれている。終盤で一度は捕まり、逃れるも、兵助によって再度捕まる。しかし、話はついていて、逃がしてもらえるという展開で、兵助と共に頭を丸め、七兵衛は駒井の船に無事たどり着く。
仙台の追っ手もかからないとなると、無人島(ではなかったのだが)開拓で活躍している分には捕まりようがないだろう。
七兵衛はいつ捕らえられる予定だったのか。仙台の件で捕らえられた時点では、余罪は追及されていないとすると、「それでいよいよ捕われるまでは七兵衛の大罪を知るものはなかったわけです。」はまだ先の話と思うのだが。

裏宿七兵衛は実在の盗賊らしい。Wikipediaには、大菩薩峠で有名になったとある。
介山は七兵衛が打ち首になったこと知識として書いただけで、作中でのその後の展開とは無関係なのか、あるいは、長い執筆期間の間に七兵衛が捕らわれる予定にあることを忘れたか?
元文4年に打ち首になるとすると、大菩薩峠に出てくる頃には亡霊か。あくまでも登場人物として借りてきた七兵衛は、打ち首になる運命にないと考えておくのがお松のために良い気がしてきた。

・ムク
超犬的能力を持つムクは善人と悪人を区別でき、悪人を忌避するはず。
ムクは竜之助と共に歩んだことがあるが、ムクとしてはどういうつもりなのだろう。米友が竜之助の面倒を見たように、目の不自由な人間を労る意志が先行したのか。辻斬りをするとはいえ悪意がないから悪人ではない?あるいは竜之助の二面性というか、辻斬りスイッチの入っていない時は悪と見なされないのか。
駒井の船での七兵衛は、頭を丸めたからもう盗賊ではないという認識なのか。

・米友の熊
熊に見とれて道庵を忘れた件の後、親熊の毛皮を慕う子熊に惹かれる米友。ムクのように忠犬ならぬ忠熊に仕立てるのは無理難題であろうが、懸命に世話をする様子がほほえましかった。
あずけっぱなしでどうなったことやら。終盤、米友はグレートデーンの電光のお世話係になるも、熊を思い出す様子はない。
その後、元気にしているだろうか。