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no.3

汗をかきながら田んぼの間を30分ほど歩き、地図アプリで見つけた喫茶店にたどり着いた。派手な服装の外国人のポスターでコラージュされたえんぴつみたいな柱、エアコンの風に揺れる緑。年季の入った花模様のソファとオレンジ色の床。店の奥には金魚が泳ぐ大きい水槽と、壁一面の女の人の顔、時限爆弾みたいな赤い文字が大きく表示されているデジタル時計。
クリーム氷コーヒー
サイコロ状に凍らされたコーヒーにバニラアイスがのっていて、シナモンの浮いたミルクをかけていただくという。一口のんで笑ってしまった。シナモンとミルク、合わないはずない。なぜか少しディズニーランドを思い出しながら、続けて何口か飲んでみる。氷はまだガリガリとかたい。ちょっと身体が冷えてきたので、依頼された原稿に何を書こうか、過去の新聞を読みながらじっくり考える。

時間が経って思い出したようにミルクを吸い込んでびっくり、さっきよりコーヒーの味が濃くなっている。氷自体がコーヒーなのだから当たり前なのだが、時間とともに味が変化して美味しさが増していく飲み物なんて、喫茶店にぴったりすぎて作った人に感謝状を送りたい。もっと時間をおくと氷は柔らかくくだけるようになる。溶けたアイスのミルキーな甘さとシナモンの香りが最後まで美味しい。すべて飲み干した頃、隣のおじさんのテーブルにハンバーグが運ばれてくる。オニオンソースのちょっとすっぱい匂いにおなかがすいたけれど、そろそろ次の目的地に向かおうかと店を出る。

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