『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の英語字幕の敬称使用についての経緯

本作の英語字幕における敬称使用について、経緯をお伝えします。

本作に登場するキャラクターのひとりは、地球外知的生命体です。宇宙船の乗組員たちはこの生命体を「サザレイシさん」と呼びます。この「さん」の部分を表現するため、わたしたちは英語字幕において敬称「Mx.」を使用し、「サザレイシさん」を「Mx. Sazareishi」としました。作品の中では、この生命体は有性生物であるか否かさえ定かではありません。この設定に応じてこの敬称を選びました。しかし、これは配慮に欠けていました。「Mx.」という敬称が生まれ、用いられているに至る背景には、ジェンダークイアの人々の、知られたくない性別を知られること、自身の性同一性を強制的に男性/女性で括られることをめぐる苦しみの歴史、闘争の歴史があります。その背景·文脈への知識と理解を欠いたわたしたちには、この点について観客の方から指摘されるまで、「サザレイシさん」が「Mx.」という敬称を持つことと、「サザレイシさん」が凶暴性や知性を測られるシーンが作中に存在すること、このふたつが結びつくことによってこの作品が孕んでしまうかもしれない暴力性に対して、想像を働かせることができませんでした。わたしたちの無知と思慮の浅さをわたしたちは恥ずかしく思います。

指摘を受けた翌日——それは東京公演の最終日でしたが——公演前にメンバーで集まり、話し合った結果、英語字幕の「Mx.」を削除しました。東京公演においては、最後の一ステージのみ、差し替えられた字幕が用いられました。その後、この問題については、京都公演以降に向けて改めて検討しました。その結果、現在は性別を同定する敬称の用いられていない英語字幕を使用しています。

チェルフィッチュ 主宰・岡田利規 プロデューサー・黄木多美子、水野恵美