フジオさん

きっと僕とフジオさんは一生直接関わることはないのだけど、僕は彼のことを忘れない。ふとした時に思い出すだろう。

フジオさん、ちなみにこれは仮の名前で僕がイメージでそう呼んでいるだけなのであしからず。

高校生のころ僕は電車を2本乗り継いで高校に通っていました。

毎日同じ時間の電車で同じ席に座る、そして毎日同じ反対方向の電車とすれ違うのです。その向かいの電車に乗っていて毎日目が合うおっさんがいたのですが、それがフジオさんです。

ある日なんとなく目が合ってしまったのがはじまりでした。

それ以降、なんだかお互い意識している感じがありありと出ているのです。

絶対女の子となりたかったやつ。

なんで仮の名前のおっさんと。

ちなみにフジオさんは仮の名前と言いましたが、めっちゃ「フジオ!」って感じなんです。もしかしたら、藤尾富士男って名前の可能性も充分あります。そんなこと絶対おかしいって分かっています。分かっているのにこの説を唱えてしまうぐらい彼は「フジオ!」なのです。

みなさん、頭の中に「フジオ」を思い描いてみてください。自分が思う「フジオ」を自由に思い描いてください。

そいつです。

僕が出会ったフジオ、そいつです。

フジオさんはよく小説を読んでいました。

カバーをしていて、絶対に周りに中を覗かれないように信じられないぐらい少ししか本を開かず、その隙間から見て読んでいました。

絶対エロいやつです。

電車で読むのはリスキーだと思うのですが、当時のアイドルはトイレに行かない、手繋いだら結婚、ジャンプに載ってるエロいやつ読むのは親の許可いると思ってたウブちぇく少年は、ただただフジオさん大人だなぁと思ったものでした。

一度だけフジオさんと僕の心が通じ合う出来事がありました。

文化祭かなんかで天狗のお面を学校に持っていくことがあったのですが、どういったわけか僕の中に「フジオさん、僕がこれかぶってたらどう思うだろう」という暗黒系の好奇心が産まれたのです。

ごく普通の高校生にこの好奇心を抑えられるはずがありません。風でスカートがめくれたら迷わずパンツ見ちゃう、あの教室入ったら駄目と言われればついつい入っちゃう、テレビで坂東英二が怒ってたら笑ってしまう、それと同じなのです。もう誰にもちぇく少年を止めることはできないのでした。

フジオさんの乗ってる電車とすれ違う直前、僕は天狗のお面をかぶりました。

あの時の心臓の鼓動の激しさは、何年か前のR-1ぐらんぷりで楽屋からネタでつかうフリップがなくなった時の比ではありませんでした。あの出来事が「たまごかけご飯」だとしたら、この行為は「ジャンボオムライス」です。

フジオさんと目が合う。

フジオさんは少し驚いた顔をした後に、自分の鼻の前で拳をふたつ並べて天狗のジェスチャーをして、ウインクをして、ピースをして、親指を立ててグッドとしてくれました。

リアクション幕の内弁当です。

僕は凄く嬉しかったのを今でもはっきらら覚えています。

この出来事を帰ってから母親に報告すると「キモい。あとなんで文化祭で天狗のお面いるん?」と言われてしまいました。

ふっ。女にはこのロマンは分からねぇのさ。


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