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音楽家になりたいと思ったことはない

自分の作った音楽でお金をもらえるようになったのは、40歳になってからでした。音楽を作り始めたのは中学生の時からなので、実に四半世紀、ただただ音楽を作り続けてきたことになります。
音楽は若くしてプロになっている人も多いので、僕はかなり遅咲き(今、咲いてるかどうかはわからないけど)です。

ある人に「下積みが長かったんですね」と言われたことがあります。
なりたかった音楽家に40歳でなれた、と考えると、25年以上そこを目指して頑張ってきてわけで、その期間は下積み、と考えるのも当然かもしれません。
でも、その言葉にはちょっと違和感があったんです。
なぜなら、僕は一度も音楽家になりたい! と思ったことがなかったからです。

「音楽家になりたくない」とか「音楽家に興味がない」とか、そういう意味ではありません。
たとえば、「漫画家になりたい」と考える人は、ある程度漫画が描ける人でしょうし、「小説家になりたい」と考える人は、ある程度小説が書ける人でしょう。今は描いて(書いて)なくても「できる」という自信がある人だと思います。
「野球選手になりたい」と思う人は、運動が苦手な人ではないでしょうし、「水泳選手になりたい」と思う人は、プールに入るのも嫌な人ではないでしょう。
何かになりたいと考えたり、夢をみたりできるのは、自分の中にそれを思うだけの根拠がある人です。

僕には音楽家になりたいと思えるだけの何かがありませんでした。
なので、「音楽家」という未来はまったく見えていなかったんです。
音感がないから頭に浮かんだ音をエレクトーン(妹が習っていたので自宅にあった)で弾けない。
父親にギターを習ってみたけどまったく弾けずに「お前は音楽の才能がないなぁ」と言われてしまう。
歌も下手だし、リズム感もない。
でも、音楽を聴くのは好きだし、音楽の授業も好きでした。楽譜や音符も、音を目で見える形で書き出せるなんて! と興奮しました。
しかし、びっくりするほど僕には音楽の能力が欠如してたのでした。

音楽の能力はさっぱりでしたが、中学生の頃の僕には唯一自信のあることがりました。
それがプログラミングです。
今とは違い、インターネットもありません、パソコンではなくてマイコン、そのマイコンを持っている人は僕の住んでいた埼玉の西の方(田舎)ではほぼ皆無、学校でプログラミングができる人は僕の他に数人いるだけ。
そんな状況なので、周りと比べることもないし、できるというそれだけで凄い! と思っていました。
なんとなく、将来はコンピュータを作ったり、プログラムを作ったりする人になるんだろうなと想像していました。

そのマイコンでゲームを作り始めたのが中学生の時。
作ったゲームに音楽をつけたくなりました。とはいえ、マルチタスクな処理ができるわけではないので、BGMではなく、ゲームのオープニング画面で流れる音楽です。
エレクトーンで適当に音を鳴らしながら探り探りメロディらしきものを作りました。
まだDAWなんてものがなかった時代です。メロディを演奏するためのプログラミングが必要です。

MUSIC トレミフソラシUト

こんな感じで1オクターブの音階が演奏できます。
楽器の演奏もできない、音感もない、僕でしたが、なぜか曲を作ることができたのです。僕自身は楽器ができなくてもコンピュータでの自動演奏が可能でした。
いまでこそ、iPhoneにインストールしたGarageBandでいきなり曲を作り始める人もいるでしょうけど、その当時、楽器も弾けない人が曲を作るというのは、ほぼほぼありえないことだったのです。

そんなスタートでしたから、作曲を仕事にするなんてことは思いつきもしませんでした。
ただ、曲作りは楽しくて、その後も自作ゲームの音楽は作っていましたし、高校生になると、お金を貯めた買った新しいマイコンと音楽制作用ソフトで曲作りを続けていました。
誰に聞かせるわけでもなく、ただただ楽しくて曲を作ること、大学生になり、社会人になっても、ずっと続けていました。

楽器の演奏ができないのでバンドを組むという発想はなかったですし(当方プログラミング、ドラムベースギターボーカル求む)、自分の作る音楽がCDで聞いてる音楽と同じものだと思えなかったのでコンテストに応募するなんてことも考えませんでした。
ただ、曲を作って、できたものをカセットテープに入れて同人誌即売会で頒布したり(ほとんど売れなかった)、インターネットを使うようになってからはネットで公開したりしていました。
誰かに認められるとも思っていなかったですし、誰かが好きだと言ってくれるとも思っていませんでした。
ただ作って、ひっそりと置いておく。
それだけで十分楽しかったのです。

音楽家になるのは限られた優秀な人だと。
子供の頃からピアノを習って絶対音感もあって、楽譜が読めて初見で演奏できて、頭に浮かんだメロディを即座に譜面として書き出せて、そんな人だけが音楽家になれるんだと。
そう、思っていました。
音楽家になりたいなんてこと、考えることもありませんでした。
まさか、40歳で作曲でお金をもらえるようになるとは夢にも思いもせず。
ただただ楽しくて音楽を作ることが好きで続けていた先に急に現れた世界でした。

夢を持つのは大切なことだと人は言います。
人生に目的を持つのは良いことだと言います。
でも、夢は必ず叶うものでもないし、挫折もします。
夢を掲げてしまうと、他の人生の選択をしたくなった時に足かせになるかもしれません。
夢を持つよりも、好きで好きでずっと続けられる何かを、持つ方が良いのではないかと思っています。
誰かの評価や、誰かの賛辞を気にせずに楽しさだけで続けられる何かが見つけられたら、きっと人生は楽しいです。

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