ヨコシマ相談室 #4.マグロ女子の解凍方法
法外に安い歩合をどうにかするため、摩詠子を説得にかかったタロウ。ところが必死の説得はあろうことか恥ずい性癖の自己開示へとずれ込んだ。もちろん歩合は改善されず、ただタロウが「えっ俺ひょっとして特〇沼の住人なのえっ違うよねヤダ嘘マジ」と自覚しはじめたのみ。そんだけ…。
船橋の摩詠子のベッドサイドチェストの上のiPhone plus が震える。
「どれどれ。どんなお葉書がきているのかしら?」
葉書ではないことをわかりつつ、画面を確認する摩詠子。数分後、目をきらと輝かせメールを繰る手を止めた。
「あら。これは…」
「摩詠子様。ついでにラマ男。初めまして。私は26歳の男です。ご相談を差し上げたく筆を取りました。私には大学時代から何年も好きだった美人のF子(推定Fカップ)という友人がいました。大アピールの末に、社会人になってからようやく付き合い始めることができ、先日、ついに深い関係になったところです。」
(いいわね。ムズムズしちゃう…)
「ところがなんだかオカシイのです。行為中、どうにも彼女の態度が硬いというか…その…ああっ、こんなこと書いてごめんなさい!はっきり言います!一生で一番好きな人とついに関係したのに、ぶっちゃけるとその間中、どういうわけかミョ〜に気持ちよくないのです!しかし、だからと言って別れたいとかほかの女性と致したいではなく、彼女に不満があるわけでもありません。ただ…何か僕たちはボタンを掛け違っているんじゃないか、何かがちょっとだけズレているんじゃないか…そんな感じがして凹んでいるのです。こんなことになる原因が知りたいと思いご相談いたします。彼女を心から愛しているゆえ切実です。どうかご教示くださいませ。」
摩詠子はベッドサイドテーブルの上のヘッドセットを付けるやいなやすぐにiPhoneをタップしタロウを呼んだ。
「もしもし?タロウちゃん?ご相談のお手紙…お答えできそうなものがあったわ。この、F子さんのが大きすぎてボタンが弾けそうっていう…」
「(どこにそんなこと書いてあんだよ…)ねぇ、摩詠子姉…さすがに一回目の相談だけは別のおハガキにしませんか?」
「あら、タロちゃん。どうして?」
「解ってくれよ。こんなメール、あなたみたいな熟女に回答させたらどーせ『これは男のテクニックがダメねもっとこうソフトに…』みたいなありきたりでクッソつまんねー説教だろ?どんなエ〇面白い話が読めるかと思ったらさあ、いきなり俺たち男のプライド、ズッタズタ!そんなんじゃ読者はぜんぶ逃げるぜ?」
「うふふ。わたくしはテクニックが原因だなんてひとかけらも思ってないけど?」
「え…?」
そう、摩詠子はテクニックのことなど1ミリも考えていなかった。むしろ、もっとドチャクソアカン事に思いを馳せていたのだ。
「思い出してもみて?百戦練磨のあなたにだってたまにはあるでしょう?『どうもこの子とはイマイチ乗らないなあ。いいセッションにならなかったぜ』って時が。」
「…え。あ、まあ」
「ちなみに…そういう時はタロちんなら何が原因だったと思うのかしら?」
「えーー?まず俺が答えるのぉ?やだなあ…。えッと…そりゃ、『俺もまだまだダメだな、この子の身体も心も俺じゃ温っためられなかったんだな』って素直に反省するしかないよ、ふつうにさ」
「まあ…若いのに謙虚だこと!タロちゃんのそういう所、むしろ素敵よ」
「いやもうこの話は…恥ずかしいよ、勘弁してくれよ。相談者さんの話だよ、この2人のいったい何が原因だっていうんだよ?」
「聞いちゃう?なんだか恥ずかしいわ」
「(ここで照れるなよ…)ハイハイ、お願いします」
「きっとねえ…この彼女さん、
『ベッドの上で乱れると嫌われる』
と固く信じ込んでいて、それであと一歩を踏み出せないのね」
「…は?『嫌われる』だと?」
「そしてそのF子さんのカッチンカッチンのムードに応えるように、相談者さん自身までつられて固まってしまっているの!大好きな人に絶対嫌われたくないって思い(女)と、なんでこの人こんなに硬いんだって思い(男)、そんなお互いの遠慮が絡まり合って心が繋がらなくなってしまうの。大恋愛の末のカップルあるある、よね?。」
「は?…そんなこと?」
「あ、そうか…天性の男ビッチにはこのふたりの微妙な感じは理解できないかな…」
「失礼かおい」
「では、ここでひとつ質問です。ベッドで女性が男性に一番望んでいることとは…なんでしょう?カッチッカッチッ…」
「ええ?クイズ?!そうだな…。ムズいが、わかった、やっぱ…やさしさ!…いや、あんがい…ケダモノのごときワイルド感!…かな…?」
「ぶっぶー。大ハズレ。ほっぺたプニ。答えはね…あえぎ声が大きい事よ」
「...ファッ…????」
電波越しの長い沈黙。
摩詠子のほんのわずかにかすれた甘い声だけが聞こえる。
「じつは、男のベッドでの価値はつまるところ、あ〇ぎ声のボリュームで決まるの…」
再びの沈黙。あまりにも想定外の答えを聞き、百戦錬磨の男は極寒の氷河に落ちこんでいる。
「そ、そんなトンチキな話…いまだかつて一度も聞いた事ねーんだけど…」
「そりゃ女性は奥ゆかしいから、人前ではそんな事申しませんけど。でもすべての女性は内心、男性が狂ったように感じまくって大声であえいで下さる事を深く望んでるのよ。相談者さんの怖がる気持ちもすごくわかるわ。けど、いいこと?一発、腹を括って、思いっきり大声であえいでみて?そしたらきっと彼女さんも盛り上がってくるわよ。あらまあ、なんだかあっさり解決したわね」
「…ちょっともう、おっしゃる意味がまったく解らないんですけど…」
「うふ。男女をあべこべにすればよく聞く話でしょう?感度が良い女が最高だ、とかなんとか。たとえば…代々木監督も仰ってるじゃない、ち〇トレなんか無意味だって。感度がいいのが〇器なんでございますって。本当に男が求めているのは、自分に心から感じてくれる相手なんですって。それの男版よ」
「…」
「〇ックスの時にちゃんと目の前の相手に本気で向かい合って、
自分の方から先に本気で女性に感動し、自分側から先に本気で感じて差し上げ、自分から先に本気で女性に恥をさらしてお上げなさい。
それが本当の意味で女性をリードするという事…それはモノホンの女たらしだけが知るエ〇の極意…じゃなかった、大切な彼女の心と身体をほぐしてあげるための愛の奥義なのよ。簡単でバカバカしい事のようで、実はこれがきちんとできる男はめったにいないわ。でもそれができれば…相談者さんの彼女さんも今まで出会ったどんな男との〇ックスもすべて消し飛ぶほどの快楽を感じ、乱れてくれるはず。必ず!」
「…納得いくような…いかないような…」
「たとえば〇Mプレイの責め手側ですら、D隷を深く官能させるために「リードする側(S)から先に官能の世界に没入し、受け手側(M)にとことん自分の恥を晒す』というプロセスがあるわ。パッと見『ワタクシは卑しいお前のものすごく恥ずかしい姿が見たくて見たくて堪らないんだよ…?さあ女O様にお見せなさい』とかなんとか偉そうで優位に見えるけど、これよく考えてごらんなさいな。『小太りの卑しいD隷おじさんの恥ずかしい姿が心底見たいでーす♥』だなんて、それこそものすごく恥ずかしくて卑しい事だし、究極の自己開示でしょう?つまり、女O様が、D隷より先に率先して恥ずかしいところまで堕ちて下さるからこそ、D隷は女O様と一緒に地獄の底から天高く羽ばたける…。とにかく、リードするとは、先に恥をかき、先に自己開示する事なのよ」
「例えが、なんというか、エグいがなんとなく解るような」
「タロウちゃん、わたくしいつも言うけど、巨〇ンも、絶倫もね、実は無意味なのよ。だってナメコかエリンギかで男の価値が決まるならどうしてこの世にレズ〇アンというものが存在するの?どうして女同士の間で究極のSE○が成立するの?」
「…言われてみれば…たしかにまあ…」
「つまりね。快楽を感じるのは、脳なのよ。女性が殿方のエリンギを褒めたとしたらそれはエリンギではなくエリンギを持っている殿方が自分という女性に心から感激して下さった事に、脳が共鳴して感激したからなのよ」
「エリンギではなく、脳なんだ、と。」
「そう。エリンギではなく、脳なのよ。」
摩詠子は、無機質なガラスの画面に向かって、目をきらりと輝かせ、満足げにうなずいて続けた。
ご注意【待て!今日いきなり20年連れ添った奥さんの上で突然絶叫するのはちょっと待て!いったん控えるのだ!焦らずそのまま次号を待て!】
次回:
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