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11-2 ちょっとしたペテン 小説「女主人と下僕」




今回のは大人が読めばわりとYARASIIかもしれません。


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息も荒くして呆然として無言のディミトリに構わず、マーヤはひとりごとのように、長々とつぶやくように話し続けた。


「で、ザレン様は、そうやってわたくしをディミトリ様という刺激物に近づける事によって、身体だけでなく、心の底まで興奮させて、その姿をディミトリ様に見せつけ、まるでザレン様の技だけで私があんなになったように見せかけてディミトリ様を騙したんです。

…つまり、あれはちょっとしたペテンなの。


確かにザレン様はとんでもなく的確に女のツボというツボを知り尽くしておられますわ。

それにわたくしもザレン様の事はお爺様としてならば大好きでございます。

もっと正直に申し上げますと、仮に、その、お若い独身の頃に出逢ったなら…ディミトリ様ほどには心動かされないとは思いますが、きっと少し好きになったんじゃないかな、というような、ちょっと手を握られる位なら全然不快ではないという素地みたいなものはありますの。

ですが、ですが、いくらなんでもたいして好きでもなんでもない相手にあんな数分かそこら触られたくらいで本来ならあんな風になんぞなりません。

だから、あの時、もし仮に、ディミトリ様がいないなら、わたくしは物理的に昂ったとしても、心は昂らず、たとえ身体はしびれて腰砕けになるくらいに刺激されたところで、冷静に『いい加減にしなさい!』とでもザレン様を叱り付けるか何かして、それで、おわりですわ。

…でもザレン様は自分の技術に、更にディミトリ様という刺激物を重ねる事で、

まるで、技術さえあれば女なんて相手など誰でも指一本で簡単にくにゃくにゃに従うかのように演出したんです。

つまり、これがわたくしがあんなになってしまったからくりなんですの。

きっとザレン様は、ディミトリ様をとことん叩きのめして、ディミトリ様に焼けつくような劣等感や競争心を煽り、ディミトリ様をザレン様に徹底的に従わせ教えを乞わせよう、きっとそんな策略を…キャァッ!!」


ディミトリは話している最中のマーヤを羽交い締めにしてスカートを手繰り寄せもう一度手を突っ込んだ。


「あのっ!さ、さっきのは説明でわたくし今はお話をしているので別に今は誘っている訳では!」

ディミトリはマーヤをかたくガッチリと抱きしめた。マーヤを痛がらせないように腕にわずかな空間を空けるようにはしているがマーヤが逃げようとしてもディミトリの腕はピクリとも動かないような馬鹿力であった。

「でもっ…お嫌じゃないんだよな…?お嫌じゃないんだよな…?だ、だってよ…さっきご自分から大胆にも許してくださったよな…?それよりなにより…なぜって…なぜって…」

そしてディミトリは震える声でマーヤの耳元に、耳たぶを舐るようにして囁いた。

「たまげたぜ…おいおい…なんだこりゃぁ。洪水じゃないですか…洪水じゃないですか…!」

「知りません!ディミトリ様がそんな眼で見なければわたくしこうはなりません!だからわたくしのせいではありません!」

マーヤの方も囁くような小さな声とはいえ、マーヤは目に涙を溜めて勢いこんで抗議したが、次第に気弱にくったりとうちしおれた。

「いえ…本当の所、ディミトリ様の目つきに反応してしまったのは…わたくしです…ごめんなさい、でも、身体が勝手に反応してしまって、もう、ど、どうしょうもないのです…恥ずかしいわ…どうしてわたくしこんなに恥ずかしい女なのかしら!自分で自分がいやで堪りません!!こんなふしだらな女はお嫌いですよね…!わ、わたくしをお捨てになるんですね…?」

マーヤの眼からつつと一筋涙が流れた。

「ば、馬鹿言わないで!そんな訳ないでしょう!ちょ、ちょっと!え!ぇ?ど、どうしたんだよ?なんで泣くの?泣かないで?…俺の方こそ今日ここに来る時にゃ泣きたい気分だったんだよ?ね?ね?そんな顔しないで?」

めそめそと泣くマーヤをあやしているうちに、あべこべにディミトリのしょぼくれていた心はすっかり温かくなってほぐれていった。

「自分で自分が気持ち悪いのです!こんな!こんな!あさましい!あさましい自分が!!」

そしてディミトリがホッとした表情でマーヤの髪を撫で優しい声であやしてやればやるほど、あべこべにマーヤの涙は咽び泣きに変わっていき、しまいにはディミトリの胸板にすがりついて泣きじゃくるほどになっていった。

「貴女って人は、まったく。いちおう言っとくけど、俺がその…貴女にそうなられて…へへ、嫌なわけないだろ?」

「…ほ、本当に?本当に?き、気持ち悪くないのですか?」

「おいそれ、まさか、本気で言ってんのかい?…こんなの…うれしいだけだろ?決まってんじゃねえか…泣くなって!ね、死ぬほどうれしいよ…?お、おい、聞いてる?…どうしちゃったんだよ?」

マーヤは泣きじゃくりなが、その合間に休み休みこう言った。

「女は…どうでもいい男にどんなものすごい技を重ねられてくすぐられるより、この人しかいない、という男に…その…食い殺されそうな瞳で舐るように熱っぽく…その、見つめられた時の方がよっぽど、身体の奥底から感じてしまうものです………2度と来てくださらないかと思ってた!寂しかったの!寂しかったの!」

ふたりの様子はすっかり逆転し、泣き取り乱すマーヤをなだめるディミトリは、ついにははにかみつつも小さく笑い出していた。

「俺の負けだ。マーヤ様にも完敗だし、ザレンのくそ爺いにも完敗だよ。解ってる。マーヤ様は、俺のために、本当なら絶対にやらねえような事をなさって、無理して教えてくれたんだよな。さぞかし恥ずかしかっただろう。それでこんなに取り乱させてしまって…ごめん…全く不甲斐ねえな、俺」

ディミトリはマーヤを再び固く抱きしめた。

だが。

マーヤの嗚咽がようやく治まった頃、再びディミトリはマーヤからわざと一歩二歩離れて、身震いするようにして荒い息を吐きそのままマーヤをジリジリするような眼で獲物を睨みつけるように見つめた。すると確かに泣きはらしたマーヤの視線が泳ぎ、頬は赤らみ、腰が微かにピクリと震えたのだった。

ディミトリは、マーヤのその官能の震えと、自分の視線の関係性に、ついに、ようやく気づいて来たのだ。

こんな色男でもなんでもない自分が、まさか、眼力ひとつで女を官能させられる事があるだなんて!

しかも、何年も何年も手に入るはずもないと決め込んで諦めていた、この、身分違いの憧れの令嬢を。

ディミトリは、驚きつつも、それをもっともっと確かめたくなって、ますますわざとマーヤを舐るように見つめた。

「だが、だが、だが…ッ…俺ごときが熱っぽく見つめただけでとか…マーヤ様のそこがそんなになるなんて、そんなっ、まさか、嘘だろ…?アホな俺をだまくらかして調子に乗らせようとして、大嘘をついてるんじゃないんですかい?」

マーヤは泣き腫らした瞳でうるうると震えるように抗議した。

「嘘を吐こうにもどうやって嘘で身体をあんな風に反応させられるというのですか…!」


あの日以来、ずっと打ちひしがれていたはずのディミトリにすっかり生気が戻ってきた。

マーヤは必死で取り繕って隠そうとはしているが、ディミトリがどういう風にマーヤを見つめれば、マーヤが…頬を赤らめ、足元をふらつかせ、所在なさげなため息をついてしまうのか、気づいてみれば鈍感なディミトリにだって、すこしずつ、すこしずつ、感じ取れてきたのである。

ディミトリはとぼけつつも喜びと欲情で震える声で返した。

「いや。いや。信用できねえなあ…マーヤ様の仰ってる事は大嘘かも知れねえなぁ…?…へへ、こりゃあ...とことん確かめてみねえとなあ…ようし、じゃぁ今から思いっきり全身を隅から隅まで舐るようにがっつり睨みつけて差し上げますから、そしたらマーヤ様がもっと、もっと、そのっ、…濡れてしまうのか、お、俺っ、試してみてえ」

ディミトリがふざけた調子を装いながらもどんどん息が荒くなり欲情で眼をぎらつかせながら、マーヤにため息をつかせ、更にはその効果を再び確かめようとマーヤのスカートに手をかけた時、

「ディミトリ様。わたくしちょっと怒りますよ」

マーヤは、ディミトリをやさしい声で叱った。すると、調子に乗っていたディミトリはいかつい身体を縮こませるようにびくっとして固まってしまった。

ディミトリより頭ひとつふたつも小さく見た目も童顔な姿のマーヤであるが、昔貴族だった頃の習慣で命令慣れしているせいだろうか、それともディミトリがマーヤに惚れているせいなのだろうか、ディミトリはマーヤに命令されるとなぜか固まったように動けなくなりつい、つい、従ってしまうのだ。

マーヤはあくまでやさしい声で続けた。

「わたくしは真面目にお話ししたのに、その直後にいきなりそんな目で睨んで、とことんいじめて遊ぼうなんて、あんまりです。それより、お願い、どうかまずは、優しく抱きしめて下さいませ…」

「あ、う」

「わたくしこの数日淋しくて気が狂いそうでしたの。ザレン様との一件より前、ディミトリ様がこの2階の寝室にまではじめていらしてくれた時、まさにこのお部屋で、ディミトリ様は、たしか、『貴女が望むなら、これからはいくらでも抱きしめて差し上げる』、って、『それくらいお安い御用です』、って、たしかそう仰って下さったはず…です…わよね?…だめ、なのですか?」

「う、も、申し訳ない…悪かった…」

ディミトリはマーヤを天蓋のベッドの端に腰かけさせて、自分も隣に座った。

そしてディミトリは、結局マーヤに従い、そっとマーヤを抱き寄せたのだった。


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次話

おまけ





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