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8-8 事後、ディミトリは 小説◆女主人と下僕



前話



マーヤはすこしずつ緊張が解けて、その行為の合間合間に、はにかんだ表情で、

「あの…なんだか…だいぶ怖くなくなって来ました」

と、言いながらディミトリのそれに、うやうやしくそっと繰り返し口づけして、ディミトリを喜ばせた。


事後、ディミトリは薄い菫色のシルクのガウンをマーヤから無造作に剥ぎ取り、びっくりして縮こまろうとする全裸のマーヤの全身を、無造作にごしごしと拭いて、優しく微笑んでから、ぐちゃぐちゃになったシルクのガウンをぽいと床に投げ捨て、全裸のマーヤをぎゅうと抱きしめてそのままマーヤを抱えて倒れ込むようにベッドにもぐりこんだ。

女主人と下僕 薔薇青


やっと正気になったディミトリはマーヤをガッチリとしかし痛がらせないよう注意しながら抱きしめて言った。

「すまなかった。本当に、何から何まで申し訳なかった…。貴女に俺は酷いことばかりしてしまった。疲れ果てましたでしょう?夜明け前の刻に叩き起こしてしまって、そもそも睡眠不足ですよね。マーヤ様、このまますこしお休みなさい」

「あっあのディミトリ様」

「ん?」

「わたくし、いまが一番嬉しいです。こうやってゆっくりおそばでディミトリ様の体温を感じていられる事に、ずっと憧れておりました。いま、こうしているのが、さきほどとは全く違った意味で、すごくすごくきもちいいんですの…」


ディミトリはマーヤのおでこと髪を撫で、自分の顎の下にマーヤの頭をガッチリ挟むようにしてもう一度抱きしめた。

「俺もです」

ディミトリは内心、

(おいおい、我ながらよくもまあ噓くせえ気障を言うもんだ!あれだけ滅茶苦茶やらせておいて何が「俺もです」だよ!アホか!) 

と自分自身に突っ込みたくなる気持ちもあったが、その「こっ恥ずかしい気障な」台詞は、決してただの嘘偽りではなく、獣でない方のディミトリの半身から出た本心ではあったのだ。

思えばこんなやわらかい女の身体にゆっくりと埋もれたのは何年振りであろうか。遠い遠い昔に嗅いだ甘いにおいだ。

確かにこの10年で一度や二度なら夜の女を買った事もあるし、少年時代には例のいんら○おかみとの狂気じみた交接の経験はあったが、それはこんな安らぐモノでは決してなかった。

ディミトリにとってはこの優しいふわふわと柔らかい小柄な女の感触は遠い遠い昔に幼児の時に母に抱かれた以来のもののようにも感じられた。

女主人と下僕 もも

対するマーヤはディミトリの硬い胸板に自分の額や閉じた両目を押しつけて囁いた。閉じた両目に自分とは違う熱いくらいの体温と男の匂いが感じられた。

ディミトリから感じる、微かな微かな匂いは、シーナ国からランス国へと亡命する際に、船で一時寄港した、エキゾチックな南国の焼けた土の香り、そしてその港街のそこかしこに感じられる南国のスパイスの香りにもどこか似ていた。

「ディミトリ様からはかすかな太陽のにおいがするの…南国の夏の陽に灼けて乾いた土のようなかすかなにおい…わたくしこれが大好きなの…」


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