見出し画像

鉄道事業の比率が高いことは「尊い」のか?

※このエントリーはこれの続きです。

鉄道趣味者内でよく見る言説として、「不動産(など周辺事業)に力が入っていて、鉄道を軽視していてけしからん」というものがあります。
では、極めて鉄道に前向きとされていて、対比されがちなJR四国は現状をどう認識していて、将来的にどうありたいか、短期の営業計画および中計から見ていこうと思います。

JR四国は鉄道をどう捉えているか


2019年度時点で、営業収益260億円に対し鉄道運輸収入は224億円。およそ86%が鉄道運輸による収入であります。
これをもって、皆さんはどのように評価するでしょうか?
鉄道に邁進していて素晴らしい、でしょうか?
確かに、ワンマン列車において、多少の列車遅延を厭わず改集札に苦心する乗務員の姿を見ていれば、鉄道でなんとか取れるところから取ろうという風に見えるでしょう。それも事実だと思いますし、資料にも「1円でも獲得」と言及があります。

やりたいことは結局

しかしながら、現実にどのようになりたいか、についてはこう言及しています。

地域とともに、「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求する
鉄道特性を徹底的に磨き上げるとともに省力化・省人化による生産性
向上を推進し、鉄道事業の体質強化を目指します。また、当社グループ
と四国は運命共同体という認識のもと、地域の関係者と連携・協力し、
モビリティ間の連携強化、駅を中心としたまちづくり、公共交通ネットワークのあり方に関する検討などに取り組むことで、四国に最適で持続可能な
「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求します。

https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/jigyou/vision2021.pdf

どういうことか、関連資料を総合しますと、
・省力化・省人化(=いわゆる合理化)で体質強化する
・四国に最適で持続可能なモデル追求(=鉄道いる?いらない?)
ということを突き詰めていきますよ、ということになります。

また、その中で「新幹線等の抜本的高速化」にも言及しています。
これは、当然に現在の在来線では高速道路などの競合に太刀打ちできずジリ貧だから、身軽かつ大量高速輸送という鉄道特性を発揮できる形にシフトチェンジさせてくれ、ということを意味します。

つまり、基本方針をドストレートに言えば、速やかに新幹線を作り、在来線は必要性そのものも含め検討したい、ということになります。

・・・これって、結局はJR九州と同一ではないですか?

さらに、「鉄道マニア目線でポジティブ材料」と思える「鉄道の利便性向上」に関する言及は、駅前空間やMaaS的な仕組みの構築などが主眼で、輸送そのものの改善についてほとんど言及されていません。
また、収益改善策として示されているのは、「観光列車への注力」「運賃改定」など、これもJR九州と同一の取り組みであります。

結局のところ、在来線主体の鉄道事業の限界を示すのみであり、運輸においてブレイクスルー的な収益改善は望めないことを再確認している、ということになります。

「非鉄道事業における最大限の収益拡大」とは

同時に、「非鉄道事業における最大限の収益拡大」として、鉄道に並ぶ柱となる事業を創出することを志向しています。

具体的には、ホテル・駅ビルなどの従来からの取り組みに加え、他デベロッパーとの共同開発物件、および自社開発分譲マンション「J.CREST」シリーズの展開が例示されています。
同時に、賃貸等の収益物件の取得に前向きであることが示されています。

つまりは、不動産に注力することで、鉄道運輸収入比率を下げたい、と言っているわけで、多くの鉄道事業者と同様の収益構造にしよう、ということになります。

・・・あれ、ここも一緒ですね。

ビジネスモデルを素直に評価しませんか

以上のことから鉄道事業における収益改善策は、結局のところ大々的に打ち出しても極めて限定的な効果に留まり、新幹線や各種の合理化によってのみ収益が望めるということを改めて確認した、ということです。
鉄道趣味者が喜ぶような施策は、まずもって安定した収益の上に成り立っており、現状のような極めて不安定かつ悪材料の方が圧倒的に多い環境下では、急速にかつ粛々と各種合理化を進めるのみにしかなりません。
では、そういった取り組みで鉄路が維持されようとしているなら、まずは歓迎していいのではないか、と思います。

鉄道事業の構成比が高いことは、経営リスクを顕示しているだけでしかなく、速やかに他事業の構成比を高めなければ事業の継続性を揺るがす。
ということを認識した上で、どのように考えれば鉄道趣味が今後も楽しめるのか、ボールは趣味者に投げられていると感じています。
お金を一切落とさないで事実を消費するよりは、一旦現状を咀嚼して、その上で趣味者としてどうするかを考えるのが、より健全な態度だと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?