繰り返される個人情報の不正流出 助長する名簿売買に打つ手は?

毎日新聞より

NTT西日本の子会社「NTTビジネスソリューションズ」(大阪市)の元派遣社員が約900万件の顧客情報を不正流出させていた問題は、西日本を中心に多くの自治体や企業に影響が広がった。個人情報の不正流出が絶えない背景には、不正な情報入手と転売を繰り返す「名簿屋」などの存在がある。名簿屋のうまみをそぐ手立てを講じることはできないのか。

今回、福岡県では自動車税の納税者について最大14万人の氏名▽電話番号▽郵便番号▽住所▽年齢▽生年月日――が流出した。情報は自動車税の納付が期限までに確認できなかった人に納付を呼び掛けるコールセンターで利用するもので、情報を保管するサーバーの保守管理をソリューションズ社が担っていた。保守担当の元派遣社員はUSBメモリーで持ち出し、名簿業者に渡したとみられ、警察が捜査している。

同種事案を巡っては、2014年に通信教育大手のベネッセコーポレーション(岡山市)の顧客情報約3504万件が流出。この時も、データへのアクセス権限があった保守管理業者の元エンジニアが、子どもや保護者の名前、住所などの情報を不正に持ち出しており、名簿業者に売っていた。元エンジニアは借金を抱えた中で、高額売却できる情報に目を付けていたことが明らかになっている。

これを機に、個人情報取扱業者では、一定以上のデータが持ち出される時に管理職以上にアラートが届く仕組みなど対策の重要性が指摘され、17年施行の改正個人情報保護法では、不正な利益を図る目的での情報提供や盗用に罰則を科す「データベース提供罪」が新設された。

それでも、18年の個人情報保護委員会の実態調査は、名簿業者の中に、不正に情報を入手して転売を繰り返す無届けの「ブローカー」が多数存在する可能性を指摘する。不正流出した情報は、悪質業者の勧誘で消費者被害を生むだけでなく、特殊詐欺や「闇バイト」による強盗事件でも使われる危険性がある。

大分県では、名簿の提供ルールを含む特殊詐欺等被害防止条例が20年4月に施行された。県内の特殊詐欺被害(相談含む)が17年に過去最多の237件に上ったのを機に独自に制定。個人情報の取扱業者が名簿を第三者に提供する際、偽名の人物や架空会社の関与を防ぐため、運転免許証などで相手の身元を確認するよう定め、県が業者への立ち入り調査や勧告などもできるようにした。

県の担当者は「条例で名簿の不正流通にハードルを設けることができた」とするが、「情報が県境や国境と関係なく流通する以上、県単位の規制には限界がある」とも話す。

個人情報の保護に詳しい中央大の宮下紘教授(情報法)は、多数の「買い手」の存在が金銭目的の不正流出を助長しているとみる。

そもそも現行の個人情報保護法は、個人情報の取扱業者が第三者に個人情報を提供する場合、本人の事前同意確認なしで提供できる「オプトアウト方式」を認めている。提供が停止されるのは、本人から業者に申し出があった場合のみだ。

この方式は、個人情報の性別や属性などを分析したビッグデータを収集・活用する上で有効で、企業の成長などに役立てる面が重視された事情がある。

一方、海外はどうか。EUでは、業者が個人情報を第三者提供する場合でも原則として本人の事前同意を必須とする「オプトイン方式」を取る。根底には、EU基本権憲章が「何人も自己に関する個人データの保護に対する権利を有する」と定め、個人情報を人権として保護する思想がある。

日本の個人情報保護法は3年ごとに見直されることになっている。宮下教授は、EU同様にオプトイン方式を原則とする必要性を指摘。「本人の事前同意を得た情報だけが流通すれば、名簿の売買をなりわいにする業者が減り、売却目的の不正流出が減るだろう。持ち出す動機が生じない環境にすることが重要」と話している。

NTTビジネスソリューションズは、今回の情報流出について、系列会社の運営するコールセンターを利用する59の顧客に被害が生じたとしているが、被害先の個別名は守秘義務を理由に公表していない。

ただ、被害側のホームページでの発表などで、福岡県のほか、千葉市▽大阪府豊中市▽同府松原市▽堺市▽奈良県橿原市▽三重県国民健康保険団体連合会▽岐阜県国民健康保険団体連合会▽徳島県鳴門市▽山田養蜂場▽森永乳業――など全国20超の企業・団体・自治体が判明している。

自治体などは「被害は確認されていない」としているが、流出した情報をたどるのは困難で、仮に被害が出ても因果関係の特定は難しい。

福岡県には県民から「自分の情報は大丈夫か」などと問い合わせや苦情が約160件(10月23日時点)寄せられ、県は特殊詐欺被害につながらないよう注意を呼びかける新聞広告を掲載。今後、対象者への連絡と謝罪をする方針だが、NTT側が流出したとするデータと、県側の持つデータの照合に時間がかかり、完了のめどは立っていないという。

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