ビッグモーター不正で金融庁が「三井住友海上」へ新たに報告命令。損保ジャパンの主張を覆す証拠固めか

東洋経済より
中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題で、金融庁が9月21日までに、三井住友海上火災保険に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出していることがわかった。

焦点は昨夏の取引再開までの各社の動き 複数の関係者によると、報告を求めているのは2022年6月の取引停止前後の経緯だ。同年7月25日に、損保ジャパンが抜け駆けするようにビッグモーターと取引再開するまでの過程で、競合関係にあった三井住友海上がビッグモーター側とどのようなやり取りをしていたかについて、詳細な報告を求めているとみられる。

不正請求問題を受けて、辞任を表明した損害保険ジャパンの白川儀一社長は9月8日の記者会見で、取引再開の判断理由として「(不正請求の)疑義を追及してきたことで、競合他社に(自動車保険の)契約がシフトするという強い懸念をもっていた」ことを挙げている。 

そのときの様子は、損保ジャパンの関係役員を集めた非公式会議の議事録にも残っており、金融庁もすでに把握している。 

関係者の話を総合すると、その議事録に書かれていた内容はこうだ。

会議の議論を主導した損保ジャパンの中村茂樹専務(現・常勤監査役、当時は首都圏営業担当)が冒頭で語ったのは、不正請求への対応をきっかけにして、競合他社に自賠責などの契約を奪われるかもしれないという危機感だった。中でも危惧していたのは、三井住友海上の動向だ。 三井住友海上がビッグモーターに対して、条件次第では「これ以上不正請求を深くは追及しないと耳打ちしているようだ。このままでは(契約が奪われる)厳しい状況だ」という趣旨の発言が、中村氏からあった。

競合他社が不正請求にいち早く目をつぶる姿勢を示し、契約を奪いに来ようとしているのであれば、自分たちも同様に目をつぶり、先手を打つように入庫誘導(事故車のビッグモーターへの紹介)を再開して契約シェアを守るべきという議論の流れが出来上がった瞬間だった。

三井住友海上とあいおいの連携 
一方で不自然なのは、中村氏が「ビッグモーター本部が7月はあいおい(ニッセイ同和損保)に自賠責契約を割り振ると各店舗に通知し始めている。三井住友海上とあいおいが連携しているのは間違いない」と発言したという点だ。三井住友海上とあいおいは、ともにMS&ADインシュアランスグループホールディングス傘下の損保である。

表向き、不正請求を追及している三井住友海上は自賠責の割り振りを停止されてしまうかもしれないが、MS&ADグループとしてあいおいを自賠責の受け皿にしようと画策しているに違いないと、中村氏が煽り立て、白川氏ら役員が同調したことになっている。 しかしながら、三井住友海上とあいおいががっちりと連携して、1保険代理店の自賠責契約のおこぼれを目の色を変えて取りにいくことなどあり得ないことは、損保業界にいる人間なら容易にわかる話だ。同じグループとはいえ、三井住友海上とあいおいの連携はそれほど強くないからだ。

契約流出に対する危機感が真因とは考えにくい また仮に三井住友とあいおいががっちり連携していたとしても、ビッグモーターの不正請求の隠蔽に加担するという“背任行為”を犯してまで、損保ジャパンが取引再開に踏み切る理由としてはあまりにも弱い。それゆえ、損保ジャパンが主張する他社への契約流出に対する危機感が取引再開の「真因とは考えにくい」(金融庁幹部)わけだ。 金融庁としては、白川社長が記者会見で強調していたそうした主張を覆すためにも、まずは三井住友海上に詳細な経緯説明を求める必要があると判断。「任意のヒアリングではなく、虚偽報告すると罰則がある報告命令でも三井住友海上はこう言っているが、あなたたち損保ジャパンの主張は本当に正しいのか」と突き付けようとしているとみられる。

折しも金融庁は、9月19日に損保ジャパンに立ち入り検査に踏み切ったばかり。それからわずか数日で逃げ道をふさぐ証拠固めをしようとしているところに、損保ジャパンへの不信感と憤りの強さが透けて見える。

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