「一緒に遊ぼう」から「また明日」まで

山下七海さん、ありがとう。

ななみんとぼくのなつやすみ2

 声優の山下七海さんによるゲーム実況企画である。Instagramにおける告知から1か月間、絶える事無く更新され続け、5月31日惜しまれつつ最終回を迎えた。
 諸君はご覧になっただろうか。観ていないなら、記事を読んでる場合では無い。ななみんぼくなつ2を観てくれ。

オタクが過ごした夏休み。どうか、思い出語りにお付き合いを。


山下七海”なつやすみ”宣言!


 YouTuberデビューと、ゲーム実況の配信と、ぼくのなつやすみ2を選んだ事が発表された。

 これは大事件だと、沸くオタク(オレモ)。
 ぼくなつか。皆さんも驚いているが。”あつ森”でなくPSPのぼくなつとは。テレビゲームで遊ぶ習慣が無い。ソフトに関する知識は皆無に等しい。

あー、あの”キレイキレイ”みたいな絵で、シリーズとして評判が良かったよなあ。ゲームには疎いけれど楽しめるかな?推しがやってくれるから大丈夫か、みたいにフワフワしながら、YouTubeチャンネルの登録ボタンを押した。

──お仕事じゃないところでもみんなと思い出作りをちゃんとできてたら、生きてて2020年5月を振り返った時に楽しいなって思えるんじゃないかなと思うから、そういう思い出をつくる時間をがんばる
(山下七海さんの発言を抜粋)

山下七海さん、ありがとう。


ななみんとぼくのなつやすみ2


 山下七海さんがYouTubeに。ボク君が、富海のおじの家に。やって来る、ヤアヤアヤア(軽く流して)。
 いつもの山下七海さんとほのぼのした空気。アウェーにおける初戦でこれか。信頼があったとは言え、舌を巻いた。グループ時代のクール系楽曲で、メンバーが呼応し合う様にボーカルの語気を強める中で、彼女だけはマイペースであった事を思い出した(表現としてクールに歌う場面もある)。
 登場人物がボク君に呼び掛ける。同時に、山下さんがそれに応える。ボク君が水を浴びて、山下さんが冷たがる。ボク君が水に溺れて、全力で動揺する山下さん(その後、諦めて命を絶つのだが笑)。
 だが、彼女の自我が登場しない訳では無い。登場人物や行動に対する所感を耳にする機会も多かった。多くのキャラクターが、彼女に愛された。それ程でもない、普通の烙印(?)を押されたキャラクターも居た。サイモンとチョコカコと、多分つみれちゃんも(言及は無い)。マイペースに周囲を巻き込むタイプ。心象“普通”のハコに入れられる人物。個人的に思う、共通点だ。
 ななみんぼくなつ2における山下七海さんには、半身をボク君の一部として預けているという印象を受けた。山下七海in山下七海&山下七海inボク君だ。


ななみんとぼくとオタクたちのなつやすみ


 5月4日から31日まで毎日。山下七海さんのInstagramから、オタクたちのTwitterアカウントへと集合時間が拡散された。普段繋がりのない人々が、ここぞとばかりに連帯感を見せる。
 オタク同士で繋がる様に、と。山下七海さんのお言葉。オタクたちは忠実なシモベとして実践した。「22時から、ななみんぼくなつ配信!」「22時、ぼくなつ了解!!」という連絡網を、タイムラインで目にするのも楽しみの一つだった。

 山下七海さんによる集合の合図。何と言葉を掛けたか、ご存じだろうか。一緒に遊ぼう、であった。観てね、楽しみにしていてね、ではない。ああ、山下七海だ……(語彙かえって来て)。Instagramから、YouTubeと。山下七海コンテンツの特異性がそこに有る。
 楽しい時間を”届ける”でなく”共有”している。ゲームプレイを伴う他番組との明確な違いだ。

ななみんのねごと:月に一度の放送で、視聴者やファミ通スタッフの皆さんを翻弄する山下七海さんが見られ、視聴者参加型企画も開催される。オススメの番組。

 演者と視聴者、この線引きは絶対で。緩和する事(参加型企画等)はあっても、発信と受信の関係が変わる事は無い。
 プロとしての山下七海さんを推している。健全な在り方から生まれるエンタメを愛しているし、YouTube企画で揺らいでしまったら嫌だな、とさえ思っていた。
 山下七海さんが「22時集合!」と言えば。Twitterのオタクたちが連絡し合って。ぞろぞろと同じ時間同じ場所にやって来る。
 8月の富海、もはやYouTubeでは無かった。ゲームの展開に一喜一憂した。同じスピード同じフィーリングで、誰かを好きになったり嫌いになったり、面白がった。1か月の期間が設定されているゲームに、現実時間の1か月を費やした事はかなり大きい。オタクinオタク&オタクinボク君だ。それが、ななみんぼくなつ2だった。
 仲間たち皆で集まってワイワイ遊んでいるみたいに、山下七海さんは見せてくれていたのだと思う。本当に頭が上がらない。オタクたちも、良いオタクたちだった。
 一緒に遊ぼう、と言われ集まって。また明日、と言い合って別れる。作品内、洋と靖子が幼少期に交わしていた別れの挨拶も「また明日」だった。奇しくも、ゲームと現実が一致して、得も言われぬ気持ちになった。

現実が、データ化しているのかもね。


夏の終わり


 ななみんぼくなつ2は最終回を迎えた。夏休み以上に、夏休みだった。楽しかった時間も、チャンネル登録者9000人掛かりで後ろ髪を引いた所で、歩みを止めてはくれない。新しい日々が始まろうとしている。
 一緒に過ごした人々は何を想うだろう。事実を、どう受け止めているだろう。
 夏休みを終え、2学期の教室。お祭りや旅行に出掛けて「あれが楽しかった」「授業がかったるい」だの聞きながら、机に噛り付き、必死で宿題を片付けている。
 宿題は終わる(先生が諦める)。思い出話も新たな日々の憂いも少しずつ口にしなくなる。秋には運動会。冬にはクリスマスがあって。目の前の楽しい事に夢中になるのだ。テレビアニメやラジオの収録が再開され。携わる演者も、オタクたちも忙しなさに揉まれ始めるだろう。いつになるか見通しは立たないけれど。ライブもイベントも再開されたとしたら、刺激的な景色が目まぐるしくて、富海で過ごした日々を思い出す事は無くなるかも知れない。
 ただ、幼少期に過ごした夏休みが、ボク君にとって特別である様に。蝉の声に。潮の流れに。子どもたちが楽しげに駆け回る姿に。夢みたいな時間を、空を見上げては思い出す。そんな日が、訪れる事を予感している。

山下七海さん、ありがとう。


(アメーバブログ:2020-06-01より転載)

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