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「君たちはどう生きるか」母殺し&神殺し映画

ネタバレを含む個人的な感想です。


主人公が本を読む前後の話

最初に観た感想は、「これはどういう意味なんだろう」と思うものがありすぎて、ストーリーもなにもかもよく分かりませんでした。
2回目を観たときは内容がスルスル入ってきて面白くなった。
初見でストーリーがよく分からないと感じたのは、セリフの意味とか色んなモチーフにばかり意識が散漫してしまったからで。
ザックリ言うと、
要は主人公が『君たちはどう生きるか』を読む前と読んだ後で意識が変わりました、っていう話でした。
母が自分に残してくれた本を涙こぼしながら読んでるシーンでめちゃくちゃエンディングっぽい音楽が流れます。まだファンタジー始まってないのにもうここでこんなエンディングっぽい音楽!?って不自然に感じました。あそこで一旦区切りを付けた印象でした。
その後の展開は、本を読んだあとの眞人君の心の中と並走しながらの異世界展開って感じ?
本を読む前の眞人は、とにかくこの世界が嫌い。
母が死んだ世界に冷めている。父と2人目の母に嫌悪している。そんな2人に振り回されて用意された家も使用人のおばあちゃん達も学校もうんざり、って感じ。もう本当に、全てを見下してるって表情してます。
本を読んでからは、気持ちが切り替わったように急に男らしくなっちゃって。ケリをつけに行くぞみたいな感じで自ら異世界へと入っていきます。
ものの見方が変わったような、自分の在り方が変わったような。

性の目覚め

映画に出てくる“わらわら”っていうキャラクターが精子だっていう解釈にとても納得した。
DNAのような螺旋状になって上に飛んでいって人間になるって、精子ですね。
それに眞人がわらわらを見る直前は、トイレで用をたしてました。
自分のおちんを凝視してるシーンと、その直後にわらわらを見るシーンをわざわざ描くなんて。映画の中で眞人がトイレに行くシーンが2回も描かれるなんて。
私の勝手な予想では、ナツコに会って初めての射精したんじゃないかなと思ってる。
ナツコはとても色っぽく性的に描かれてた。唇とか睫毛とか髪とか。あれは眞人の目線でそう見えてるってことだから、ナツコに対して女をすごく意識したんだろうね。妊娠したお腹を触らせられたり、お父さんとキスしてるところを見たり。
「母親だなんてとんでもない!こいつは女だ!禍々しい女だ!きらいだ!でも体が反応してしまう!」っていうジレンマを感じます。

2人目の母・ナツコの描き方

ついでにすごく勝手な勝手な勝手な私の妄想解釈があって、眞人の母が入院してる病院が火事になったのってナツコのせいじゃね?と思ってしまいました。ナツコ、男を奪うために放火した?(私の妄想が飛躍しすぎだったごめんねナツコさん)
眞人の母が生きてるときから父とは深い関係になってたようだし、甥である眞人には赤ちゃんの頃に1回しか会ってないし、眞人のことが大嫌いだって言うし、自分が後妻になれて妊娠して嫌味なくらい嬉しそうだし、なのに赤ちゃんを身籠ったままあの世のような異世界に自ら行くし(罪悪感?)
眞人に「大嫌い!」と言ったときは咄嗟の本心で言ってるようでした。“あんたさえいなければ!”とでも思ってるような憎悪を感じました。
でも火をつけるなんて(あくまで私の勝手な妄想ですナツコさんごめん)、そこまでして略奪するって正気じゃない。じゃあ最初に男を略奪したのは姉のほうだったんじゃない?とか。勝手なドロドロ妄想してしまいました。
某ライターさんが、ナツコが初登場する人力車でやってくるシーンで、背景の看板に『燃料』て書いてあるって言ってて、それを確認したくて2回目を見に行きました。たしかにでかでかと『燃料』って書いてあって、わぁ…って思いました。ジブリアニメはセリフではなく絵を見ろといいますから。理由なくこんな風に背景画に文字を入れることは無いでしょうから、こんな風に妄想してしまいました。
まぁ、故意に火をつけたんじゃなくても火事になるキッカケを作ったのではと思ってしまいました。

眞人の心理は子供の頃に“2人の母親”というのを経験した人にしか分からない衝動や欲求や葛藤かもしれません。宮崎駿然り。

ことごとく裏切ってくる宮崎駿

あとは、ストーリーとか心理描写とかは置いといて、わくわくする展開が無いのが残念でした。
宮崎駿特有というかアニメーションだからこそできる、重力に逆らった「ふんぬ~っっ!」の感覚や、足場が崩れていくギリギリのところでジャンプしたり走り抜けたり「そんなん無茶だよー!」「行けーーー!」っていう感じの、パズーや千尋が見せてくれた躍動感が無くて。

異世界に入ったゾーンから、そういうワクワクが起こるのかと度々期待したけど、期待はことごとく打ち消されました。
期待する瞬間はきまって何かが溢れでる映像シーンでした。何かが膨らんで溢れてくると、私の期待も胸の中で膨らんだ。でもそれらはことごとく下へ垂れ下がり崩れていった。もうかつての作品のように重力に逆らう力は見せてくれない。

なんだか現実を見せられている気がした。

それに、出てくる食べ物はまったく美味しそうじゃなかった。おばあちゃんたちと食べている質素なご飯に対して眞人は「おいしくない」と言うし、
異世界で巨大な魚みたいなのの腹をさばいたとき、プルプルした魚の赤みが美味しそうに出てくるのかなと期待したけど、さばくと腹からは気持ち悪い内臓ばかりが異常なくらい溢れてくる。さばいていた眞人は気を失ってぐったりと突っ伏してしまう。内臓も眞人も下に垂れ下がっていった。
ヒミがパンにバターを塗ってるとき「そうそうこれこれ!やっと美味しそうなものが出てきた!」と思ったけど、バターは胸焼けしそうなくらい分厚く塗るし、ジャムは異常なくらい溢れて血のように顔にたくさん付いた。眞人が自ら頭に石で怪我を負わせたときの溢れる血みたいだった。
美味しそうな“ジブリ飯”を、わざと打ち砕くように作ってますよね。
登場するキャラクターをどれも好きになれない。わざとですよねってくらい、好きになれないように描いてる。

インコが表すもの

あと、あのインコ達が表しているものは何なんだろう。別に可愛くないし、面白味もないし、奴らは無自覚に恐ろしいことしてるし、中身の無い大衆って感じでしょうか。
集団心理で無自覚に恐ろしいことをしている大衆=Twitterですかね?🐦
だから鳥?

神殺し

そして、一番強く感じたのは、『日本アニメーション界の神』として祭り上げられている宮崎駿・自分自身の神殺し映画でした。
若いクリエイター達へ、宮崎駿の呪縛から解放されて好きなように新しいことをやってくれってメッセージを感じました。

過去の宮崎駿作品を彷彿させるモチーフがたくさん出てきたり(しかもそれが全部残念な感じで)、シン・エヴァっぽかったりなど、軸のストーリー以外の色んな事が交錯している刺激的な映画でした。
やたら『石』が象徴のように出てきますが、心理学者のユングがやたら石に意識を向けてたみたいです。晩年はやたら石の夢を見てたとか。『母殺し』=『人間が心理的に成長していくプロセス』として表現しているユング心理学の要素を感じる映画でした。
石は…なんだろう。自分の墓石をどれにしようかワクワクしながら考える歳にならないと理解できないかな。

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