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ウッドショック 経過と材料について

前回お話ししたウッドショックですが、現在は木造住宅の構造材のみならず、内装の下地やイベントの看板等に使われている下地材、カウンターの集成材なども品薄感が出てきており、今後一層皆さんの生活にも影響が及んでくることになりそうです。

輸入材の入荷量不足と遅延に端を発したウッドショックですが、現時点では代替え樹種として引き合いが強まった国産の桧や杉の価格が急騰しています。先月比で2倍強とかなりの値上がり幅になっていますが、第三四半期の材木の先物契約価格と契約数を考えると、値上がりと品薄はこれからが本番となります。主要材料であった輸入材の入荷量減・入荷の遅延→代替え樹種としての国産材の需要増→国産材も品薄→価格急騰という流れで輸入材、国産材とも品薄・価格急騰ということになっています。

木材価格推移

これはあくまでも参考値ですが、30坪程度の住宅で構造材がウッドショック前の価格から、一棟あたり80〜100万円の値上がりになってきています。(※間取りや樹種、会社ごとの仕入れによってもばらつきはありますが) 構造材だけでもこれだけの値上がりですから、鋼材や新建材などの値上がりも含めるとお施主様の負担はかなりのものとなってきています。
木材先物相場が急落したというニュースもあるので、一部ではいずれ日本の相場にも関係してくるという見方もありますが、少なくとも年内は品薄・価格高騰は続く見通しです。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO7334948028062021QM8000/?unlock=1


木造建築物の構造材の輸入が滞っており、新築が建てられないということになっているのですが、一口に木造建築物と言っても現在様々な工法があり、私の携わっている仕事では在来軸組工法という工法を扱っています。その他ではツーバイフォー工法とかは有名なので皆さんご存知ですかね?

在来軸組工法とは簡単にいうと、梁や桁と言われる横架材と柱で構成された骨組みに耐力要素を取り付けていき、外装・内装をそれぞれ仕上げていくという構成になっています。
今回のウッドショックで現在一番問題になっている骨組みの構造材について、どのようなものがあるのかに触れてみたいと思います。


■製材(ムク材)とは

 原木の皮を剥き、帯のこなどで切断して、使用する寸法に整えたものを製材(ムク材ともいう)と言います。
樹種でいえば杉、桧、松などです。一般的に「木材」としてイメージする材料ですね。強度の基準についても何通りかありますが、ここでは割愛します。
製材の中で曳きたてた状態の未乾燥材を「グリーン材」、天然乾燥材をAD材、人工乾燥材はKD材と呼びます。グリーン材は未乾燥のため収縮や狂いが大きく、床の不陸や仕上がりのクレームにつながることが多いので、乾燥技術も発達した現在は収縮やくるいが少ないKD材が主流となっています。
#もし主要な構造材でグリーン材を使われている建築会社があれば要注意です

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■構造用集成材とは

 エンジニーアードウッドとも呼ばれ、強度性能が保証された材料となります。建築業界ではEW(イーダブリュー)とも呼ばれています。
20世紀初頭にドイツが発祥し、世界中に広まったと言われています。
一括りに「木材」と言われますが、厳密には木材を一度バラバラにして(ラミナというひき板状の原料にする)接着剤で張り合わせるため「木質材料」と言われます。

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木質材料の中には、みなさんご存知の合板や積層のカウンター材なども含まれます。

■構造用集成材の特徴
構造用集成材のひき板に使用される樹種はさまざまで、代表的なものは米松、欧州赤松、スプルースなどで木の種類により強度も異なります。
あとはひき板の強度の組合せにより、材料の強度等級が与えられるという感じです。

集成材について具体的にどんな特徴があるかというと
①製材と比較して狂いが少ない
②製造段階で欠点(節など)を取り除ける
③製材と比較して強度のばらつきが少ない
④木材をラミナ(曳き板)に分解して接着剤によって再構成するため、接着の耐久性に依存する
⑤製造段階で接着不良があると材料自体の大きな欠陥になる

①についてはあくまでも「ムク材と比較して」ということになりますから鉄やプラスチックのような均質さはありませんが、木材と比較した場合は狂いが少なく、内装への影響が少ないのでクレームを嫌う建設会社は採用する場合が多いです。もちろん乾燥割れや多少の狂いはありますが、乾燥割れ程度であれば強度にはほぼ影響は出ないでしょう。

②は一度ラミナという状態にバラバラにするため、その過程でひどく欠点になる箇所は取り除けます。

③については、JASで規定されたラミナの構成によって強度等級が与えられ、製材品と比べ強度のばらつきが少ないのです。
強度等級というのは、例えば「E105-F300」という表記になります。「E」というのはヤング率(簡単にいうと変形のしにくさ)、「F」は曲げの基準強度をそれぞれ表しています。この数値が大きいほど強度が高いということになります。構成するラミナの強度が同じものを使用した場合「同一等級構成」(主に柱材)、異なる強度のラミナを使用する場合「異等級構成」「対象異等級構成」(主に横架材)などになります。「異等級構成」は材料が負担する力に応じてラミナの強弱を使い分けることができるので効率的と言えます。

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④、⑤については構造用集成材の特性としては当たり前になりますが、製造過程の管理が重要になります。ちなみに使用するボンドにも種類があり、ボンドの持つ耐候性によって使用できる用途も変わってきます。使用するボンドの種類によって3種類の使用環境に区分されます。

・使用環境A:屋外使用 ※主にレゾルシノール接着剤
・使用環境B:屋内使用で準耐火の性能
・使用環境C:屋内使用で耐火規定なし ※主に水性高分子イソシアネート

構造用集成材でも使用環境Cに区分されるものもあるので
屋外使用を考えている部材については注意が必要になります。
この辺りは建築関係の方でもご存知ない方もいらっしゃるな、という印象があります。


■構造用集成材が普及した背景
元々、日本の木造住宅の構造材は、横架材でいえば杉・地松など、柱材でいえば杉、桧などの製材使用が多かった(地域によっても異なりますが)のですが、構造体のプレカット(工場で加工が行われる)が普及したこと、また住宅品質確保促進法(いわゆる品確法)の施行にも後押しされ杉や桧の乾燥材(KD材)の使用が増えていったわけです。しかしKD材は全体の流通量の約2割程度しかなかった(らしい)ことなどから、安定供給力や価格競争力による優位性を持って欧州産の構造用集成材が普及していくという流れになりました。
構造用集成材の特性として、製材と比較してくるいが少ないということなどから、クレームを恐れる建築会社などが特に内装の仕上げに影響を及ぼす柱材から特に普及しました。

上記のような背景でシェアを伸ばしてきた輸入の構造用集成材。
現在では国産杉などのラミナを使用することも増え、一時期よりは国産材のシェアも増えてはいますが、今以上に活用していくためには前回述べたように林業の整備が必要になり、まだまだ時間がかかると思います。それでも良いサイクルが生まれて国内の資源をしっかり活用していける仕組みができることを願っています。

ご拝読いただきありがとうございました。


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