売れ行き

新聞販売員の佳子は、地元の新聞社で働いていた。新聞社は最近、ネットニュースの普及で売り上げが落ち込んでいる。社内会議での話し合いの結果、販売促進として、新聞の顔出し着ぐるみを作ることになった。

その着ぐるみは、大きな新聞紙の形をしたもので、新聞の一面記事を模していた。顔を出す部分は新聞紙の写真部分になっており、着る人の顔が新聞の一面写真に見えるように工夫されていた。そのデザインは、どこか滑稽であった。

社内抽選で不運にも佳子が選ばれ、その恥ずかしい着ぐるみを着ることになった。「こんなの着て新聞売れるわけない」と彼女は思ったが、上司からの命令で逆らうことはできなかった。

「なんて恥ずかしいの」と彼女は毎日思いながら、街中を新聞の着ぐるみで歩いていた。周りの人々は驚いた顔をし、笑いをこらえる人もいた。彼女は自分の置かれた状況に苦しんだが、一方で新聞の販売状況は全く改善しなかった。

そして、ある日、佳子が通りで新聞を売っていたところ、テレビ局の取材班に見つけられた。「こんな面白いキャンペーンをやっている新聞社があるんです」とテレビで放送され、一夜にして全国にその存在が知れ渡った。

翌日からは、佳子の姿を撮影しに人々が集まるようになり、さらに恥ずかしい思いをすることになった。佳子は絶望したが、上司からは「テレビで取り上げられるなんて良い宣伝だ」と笑顔で言われるだけだった。

売れ行きは相変わらず上がらず、さらに恥ずかしい思いをする日々が続いた。その上、テレビで紹介されたために、新聞の着ぐるみを着る日々が長期化することが確定した。テレビで取り上げられた結果、佳子の恥ずかしい姿が注目されるようになり、新聞社からは「佳子さんの着ぐるみ姿がブランドになっている。これを途中で変えるわけにはいかない」と言われ、佳子が顔出し着ぐるみを着ることが正式な方針となった。

佳子は「こんなことなら、最初から抗議しておけばよかった」と後悔したが、すでに遅かった。彼女の日常は、まさに「地獄のような日々」になってしまった。

しかしながら、周りの人々はその恥ずかしい姿を見て笑い、彼女の辛さを理解する者はいなかった。新聞の売れ行きも上がらず、彼女の努力は何の成果も生まなかった。結局、佳子の辛い思いは誰にも分かってもらえず、彼女は自分の悲しみにただ一人取り残されることとなった。

「こんなにも頑張ってるのに、何も変わらない。それどころか、もっと辛い状況になってしまった。」と佳子は心の底から嘆いた。しかし、それでも彼女は強い意志で立ち上がり、次の日も顔出し着ぐるみを着て、街へと出かけていった。

彼女の姿は、それ自体が新聞の象徴となり、新聞がどんなに時代とともに変わろうとも、その精神が失われないことを象徴するものだった。だが、その全てが佳子にとっては、ただの無駄な努力で、恥ずかしい思いを強いるだけの事態でしかなかった。

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