三色団子

和菓子店「葉山菓子店」の若女将である葉山春菜は、一見優雅で上品な27歳の女性だった。しかし彼女が思いもよらぬ恥ずかしい境遇に立たされることになるとは、彼女自身も予想もしていなかった。

春菜の店は、地元で評判の良い和菓子店だった。ある日、店主である父が提案したのは、一風変わったプロモーションアイディアだった。それは、「三色団子の顔出し着ぐるみを春菜に着せ、店前の商店街を歩かせよう」というものだった。

その着ぐるみは、ピンク、白、緑の三つの大きな三色団子を模しており、ピンクのところに顔出し部分があった。その下には肌色の全身タイツがあり、その全体がまるで三色団子が串刺しされたかのような形状をしていた。

春菜は全く乗り気ではなかったが、「新しい試みが必要だ」という父の強い意志に押し切られ、やむを得ずその着ぐるみを着ることになった。

春菜の街頭プロモーションは昼過ぎに始まった。天候は晴れ、気温は暑くも寒くもない、まさに散歩日和だった。だが、彼女にとってはそれどころではなかった。

着ぐるみを纏った春菜はまるで大きな三色団子が歩いているかのようで、通行人たちの目線を一瞬で引き付けた。最初は子供たちが指をさしてきた。「あ、見て!お団子だ!」という子供たちの声が、次第に大人たちの方へと広がっていった。彼らにとっては、いつもとは違う日常の一コマだったのだろう。

商店街を歩き続ける春菜にとって、それはただただ恥ずかしいだけだった。ある人々は驚きの表情で彼女を見つめ、ある人々は彼女に対して敬意を表すように頭を下げ、またある人々はスマホで彼女の姿を撮影し始めた。ある老婆は「あら、面白いわね」と笑っていた。

彼女が人々の間を通り抜けるたびに、その笑い声やささやき声が彼女の耳に入ってきた。「和菓子店の新しいプロモーションか?」、「若い人も大変ね」、「面白い、ウケる!」

それらの声が、次第に春菜の心を抉っていった。

春菜は恥ずかしさで赤面しながらも、父の期待を裏切るわけにはいかないと心に決めていた。それでも、顔を覆う大きな団子に隠れた彼女の瞳は、静かな絶望を宿していた。

商店街を歩く春菜の姿を見て、通行人たちは驚き、時に指をさしてくる者もいた。彼女はただただ恥ずかしさに顔を赤らめるしかなかった。

そうして数日間のプロモーション活動が終わり、春菜は疲れ果てて店に戻った。「春菜さん、お疲れさまです。」と店のスタッフが声をかけるも、春菜はただ無言で店の奥へと消えていった。店の名が広まったことは事実だったが、春菜の心は荒んだのだった。

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