エナジー

新進のエナジードリンクブランド「パワーブラスト」の広告担当者は新たな広告戦略を思いついた。彼らのアイデアは、顔出し着ぐるみを使った広告を作ることだった。そこで選ばれたのがごく普通の一般人である杉本葵だ。彼女はまだ若いが、毎日仕事に家事にと忙しく、いつも元気が欠けているという日常を送っていた。広告は彼女がエナジードリンクを飲んで元気を取り戻すという内容だった。

しかしそこには、ある罠があった。それは、彼女がエナジードリンクの巨大な顔出し着ぐるみを着ることだった。その着ぐるみは、エナジードリンクの形状で、ラベルの上部には彼女の顔がぴったりと収まる穴があった。首元から下は全身を覆い、両腕と両足が出る穴もあり、まさに巨大なエナジードリンクそのものだった。

「私、こんな格好しなきゃいけないんですか?」と葵は広告担当者に尋ねた。しかし彼は、「これがブランドイメージを確立する大切な一歩だ」と言って聞かなかった。

そうして撮影当日。葵はエナジードリンクの顔出し着ぐるみを着せられ、数時間にわたって様々なシーンを撮影された。「なんでこんな格好を…」と思いながらも、彼女は撮影を最後までやり遂げた。

広告は大成功。そのおかげで「パワーブラスト」の認知度は急上昇し、売り上げも伸びた。しかし、そのすべてが葵にとっては苦痛そのものだった。彼女は自分がエナジードリンクの顔出し着ぐるみを着ることで注目を浴び、自分のプライバシーが侵害されることに深い悔しさを感じていた。

「次はもっと大きなステージで広告をやろう!」と広告担当者が言ったとき、彼女の心は冷たい絶望に包まれた。これからも彼女は恥ずかしいエナジードリンクの顔出し着ぐるみを着続けなければならないのだろうか。新たな広告プランでは、さらに大々的なキャンペーンが計画されており、彼女がその中心に立つことになっていた。

広告の成功は、葵にとっては新たな苦悩を生んだ。街を歩けば誰もが彼女をエナジードリンクの女性と認識し、笑ったり囁いたりする。友人からは「テレビで見たよ!」と言われ、知らない人からは自撮りを求められる日々が続いた。

しかし彼女は、プロフェッショナルとしての誇りを持っていた。恥ずかしいと思いながらも、きちんと仕事を遂行し、広告が成功した結果を受け入れるしかなかった。

「次は、もっと大きなキャンペーンだよ。葵さんのおかげで、私たちのブランドは大成功だ。これからもよろしくね」と広告担当者がニッコリと微笑んで言った。

彼女はその言葉に顔を歪めた。次も、次も、そしてこれからも、彼女はエナジードリンクの顔出し着ぐるみを着続けなければならなくなったのだ。

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