交通安全

大学生の千尋は、地元の交通安全運動にボランティアとして参加することになった。だがその活動内容が、信号の顔出し着ぐるみを着て、子どもたちに交通ルールを教えるというものだと知ったとき、彼女は顔を真っ青にした。

その着ぐるみは、横断歩道にある赤と青の信号灯を模した部分で構成されており、赤の部分に顔が出る造りで、体は信号機全体になっており腕と足が出せるようになっていた。

その着ぐるみを作ったのは地元警察の巡査部長・加藤だった。千尋が何も知らずにボランティアに向かった時、加藤はにっこりと笑って「千尋さんはこの着ぐるみを着て活動しよう!」と言った。

「それは…嫌です…」千尋は反対したが、加藤は「交通安全のためだよ」と笑顔で押し切った。翌日から千尋はリリーちゃんとして交通ルールを教えることに。子どもたちは大喜びで、地域のおばさんたちは微笑んで見守ったが、千尋の心情は複雑そのものだった。

そして千尋の日常は一変。着ぐるみは動きづらいし暑いし、何より人前で恥ずかしい。毎日が辛く、終わることのない苦痛の連続だった。

そんなある日、加藤が「千尋さん、交通安全週間の時期が近づいてきたから、その時もリリーちゃんでお願いね」と言った。さらに大勢の人々の前で、恥ずかしい格好をする日々が続くことを知った千尋は、心底絶望した。

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