発注ミス

22歳大学生の結城千尋。彼女は採用された着ぐるみ着ての風船配りのアルバイトを始めるところだった。しかし、初バイトの日、その控え室に置いてあったのは、顔が見えるタイプのゆるキャラの着ぐるみだった。普通の着ぐるみと違って顔の部分が開いており、アクターの顔がそのまま見える形状。

「あの、これ…なんですか?」と疑問を投げかける千尋。「発注ミスで顔の部分が開いてたんです。今更換えも効かないのでそれでいきましょう。」と言う上司。その一言で千尋の顔色が変わった。ゆるキャラの着ぐるみといえど、顔が見えてしまうとなると話は別だ。

しかし、アルバイトを辞める訳にはいかず、上司の言葉に逆らうことなく、千尋は着ぐるみを着始める。「これ、恥ずかしいです…」と千尋。「大丈夫、誰もそんなには見ないよ。」と上司。

やがてイベントが始まり、千尋は顔出しのゆるキャラとして、子どもたちに風船を配り始めた。その様子を見て、「お姉ちゃんの顔が見える!新しいね!」と楽しそうな声が上がる。「でも、恥ずかしそう」と同情の声も混ざる。

そんな中、千尋は笑顔を絶やさず、風船を配る仕事を続ける。自分の顔が見えるという恥ずかしさを感じながらも、子どもたちの笑顔に力をもらいつつ。「仕事だから」と心に誓い、一日を乗り切った。

イベントが終わった後、上司は「お疲れ様、結城さん。あれは予想外でしたね。でも、あなたの頑張りには感心しましたよ」と千尋に声をかけた。その言葉に、千尋は「ありがとうございます。でも、次からは普通の着ぐるみでお願いします」と笑顔で答えた。

上司は「そんな予算はないですよ、今日できたし続けられると思いますよ!頑張ってください。」

千尋は思わぬ返答にただただ唖然とした。

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