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部下氏が、“アレ”なのに出社してきた。数式: リーマン=必殺仕事人―会社の事務所 とは、なんなのか。

キムチを食べた。
味がない。匂いもない。

月曜日の朝一、
出社早々にボクの席にやってきた29歳の部下氏から、耳元でそんな報告を告げられた。
平和な空気が一変して地獄と化した。

イロイロとツッコミたい要素がある。
でも、彼はきっと「アレ」だ。
ここは感情的に叱ってはダメ。
ボクは、至って冷静をよそおった。

“とりあえず、少し離れてよ”

そう言って部下氏を遠ざけた。
忘れかけていたコロナ禍の生活様式、
「ソーシャルディスタンス」がここに完成した。

5m先に立った彼に、

“いつからなの?”
と、やんわり聞いた。

「先週の木曜日からです」
とズバっと堂々と答えた。

え!?

またツッコミたい要素が増えた。

“キムチの匂いも味もないなんておそらく「アレ」だろうから、とりあえず抗原検査か、PCR受けてきてよ。自身も安心したいでしょ”

そう指示すると、
部下氏は「ハイっ」と返事をし、病院へと向かった。

数時間後、抗原検査で『陽性だった』
との連絡があった。
ボクは、心の中で
“知ってた”
とつぶやいた。

いったい何を血迷って会社に来たんだ。
病気の連絡なんてチャットで十分。
有休だっていくらでもある。

それなのになぜだ??

部下氏とボクとのあいだには、一般的にいわれるソーシャルディスタンスの10倍以上の距離がある。もしかしたら、月のほうが近いかもしれない。

社会人として多感な時期の部下氏について書こう

彼はなぜ会社に来たのだろうか。

大半の人は、そんな疑問が湧く。
しかし社会人歴の長い人はある程度の想像がつく。

うん正解、その通りだ。

彼は、29歳にしては珍しく旧態依然な考え方と、働き方をする人間である。

歳の離れた経営者の考え方を取り入れて
旧態依然な考え方をあえてしている、
そっち方向へとすり寄らせている、染まっている、そしてZ世代の後輩たちに“おまえらは社会を知ってない、まだまだ甘い”
さとしたいタイプ、

そう言ったほうが正しいかもしれない。

社歴7年、29歳リーダー職。
後輩は5名できて、
責任を求められる分だけ、権限も少し与えられた。

オレって実は凄い、
こんな資格をもってるよ、
なんてさりげなく執拗に自己アピールする“若葉マーク社員”からはステージアップし、一皮むけた年齢とポジションになった。

代わりに
“(実際は従順なくせに)みんな言わねえからオレが上司にたて突いてやったぜ”
なんて、中間管理職ってつれーぜ的な立ち居振る舞いをフムフムと聞いてくれる後輩を前に飲み屋で豪語するステージに立った。

つまるところ、

権限ができた。
だけどそれは会社規模としてはショボい。
だけど後輩には一目を置かれたい。

そんな社会人として難しい立ち位置であり、
多感なお年頃の真っ只中、

それがいまの彼なのだ。

「不要不急の外出は避けてください」

もう少し彼について書こう。

緊急事態宣言発令中。
コロナ禍。
我が社は、全社的に積極的に在宅ワークを取り入れた。当然、我が部署も出社は自粛だった。

しかしそんなある日、
ボクはどうしても会社に行かねばならぬ用があって、出社した。

すると、
誰もいないはずの事務所に彼がいて、
会社の固定電話を使ってなにやら話していた。聞き耳を立てていると、どうやら相手はいつも仲良くしている後輩。
仕事の話も多少はあったが、ムダ話のほうが圧倒的に多く、ダラダラと話している。

電話が終わると同時に彼に聞いた。

“どうした?なにかトラブル?なにしにきたの?”

すると彼は言った。
「いえ。ボクの仕事は、どうしても在宅ではできない実務がありまして。出社できない上司部下のぶんまで出社してやってます。 実は普段からこうしてよく来てまして…」

出社の意義を胸を張って説明してくれた。

補足するが、
ボクは彼の直属の上司である。断言するが、我々の営業の仕事で会社にいなければできない仕事はなかった。
すべて在宅でできるように、事前準備やシステム面の環境整備はしっかりとやった。
頻繁に出社しなければいけない仕事なんてないのだ。

“それって具体的になに?”

と、彼に聞こうかと思った、、、
が、やめた。

論破する必要もない。
普段は社用スマホでじゃんじゃん電話しまくっている彼が、固定電話を使って後輩に電話をしている。
その姿こそが、彼の真の出社の意義なのだから。

後輩諸君よ、
オレはいま、会社にいまっせ、と。

この考え方の事実は、改めて考えてみても凄まじい。会社に来て、後輩たちとムダ話の電話をしていようとも、上司部下のぶんまで仕事をやっていることになるというのだから。

式にするとこうだ。

リーマン+ 会社の事務所 = 必殺仕事人

これを変換し、リーマンに関して以下の式が得られる。

リーマン = 必殺仕事人 ― 会社の事務所

この「必殺仕事人から会社の事務所を引くとリーマンになる」という数式がどういう意味をもつのかはサッパリ分からないので、
上記の不毛な数式は、
キレイサッパリ忘れて頂きたいが、

何が言いたかったのかと言うと、

彼は、「会社にいる人間は仕事をしている/自宅にいる人間はサボる」という重度の出社病患者なのだ。

出社制限のあった緊急事態宣言下では、
彼は俄然、出社して仕事することにメラメラと熱くなっていた。

でも…まあまあまあ。

わかるか。

ボクだって、権限もなにもない若かりし頃、
そういうところで“やってます感”、“オレすごい感”を出したい時期があった気もするから。

つまるところ彼は、自身がアレとわかっていて会社にやってきた

のだ。

彼のようなタイプは、台風で夕方まで電車が止まっていても、動きだす電車をひたすら待って、はるばると会社にやってくる。

まさに昭和から脈々と受け継がれてきた旧態依然の考え方、働き方であり、
「一生懸命会社に行く努力をした」
という会社に忠誠心を示すことが大事と考える行動原理なのだ。

わかるよ、ボクは。
新入社員のころ、ボクもそういう行動があったから。そしてこの部下氏の行動を“えーっ、ありえない”、と思って読んだ読者諸君にも、振り返れば、そうしたことがきっとある。

来週の頭から彼が復帰する。

君の価値は、そこじゃない、 
もうソロソロ「オレが、オレが」から脱皮しようぜ、若手を育ててオレなんかよりもスゴいよ、と評価してあげられる組織人、マネージャーとしてのステージへと行こうぜ、って、屋台でおでんとラーメン食いながらじっくり語ろうじゃないか。

ロン毛の慶應高校が優勝したし、
練習中の水分補給は常識とされるし、

今現在、20歳くらいの世代に、
マイホームで固定電話を持っている方が信頼あるよ、という考えを伝えても、「なんで?」というシンプルな反応しかこない。

もはやオカルト的な昭和の固定概念、旧態依然とした体質は急速に変わりつつある。

だからボクらおっさん、おばさんだって
時代に合わせて昭和からアップデートしようと日々もがいている。

体調悪いときは休めばいい。
台風で電車止まっていれば、その日は自宅でできる仕事をすりゃいい。

大丈夫だ。
だからといって君の仕事ぶりへの評価は変わらないから。

そしてね。
社員が1日、2日じっくり休もうとも、辞めようとも、会社は何もなかったかのように動いていくのだ。

だから若者よ。
長い人生。仕事なんてもっと気楽に考えればいいのさ。

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