見出し画像

音楽劇「ジェイド・バイン」

7月31日、現場帰り。
電車を調べるため会場を出てすぐにスマホを覗くと一通の通知が届いていた。

それが私が初めて「音楽劇ジェイドバイン」というコンテンツに触れた瞬間だ。

歌うことに苦手意識を持っていることを公言していた前川さんが音楽劇の主演をするという事実に胸が高鳴る。
私はずっと前川さんの歌が好きだった。技術に関しては本人の言う通り決して上手い方では無いのだろう。
それでも、彼の感情の乗った歌声と歌っている時の豊かな表情が大好きだった。

主演という文字も音楽劇と冠したタイトルも嬉しくてホテルに着くまでの電車の中でティザーPVを数えきれないほど繰り返し見た。事故による遅延に巻き込まれホテルに着いたのは日付をとっくに超えた時間だったけれど、そんなアンハッピーすらも思い出のひとつとして彩られるくらい私は浮かれていたのだ。

上司から早く時期を決めなさいと急かされても残していた今年の長期休暇の1週間をここにつぎ込むと決めるまでに全く時間はかからなかった。

原作者である黒崎真音さんの思いや、脚本家である花奈澪さんの言葉に潜む熱量はまだ見ぬ物語に期待を膨らませるには十分すぎるほどだった。
一介のファンがこんなことを思うのはもしかしたら烏滸がましくて、おかしい話かもしれないけど、ひとつひとつ情報が解禁されてキャラクターが公開されるたびに愛着が沸いていく。こんなのは初めての体験だ。

私の初日は2022.11.18
せっかく見るのであれば色んな席、色んな角度から見たい。そして初めて見るからこそ、ステージ全体を見渡したくてA席を選んだ。

きっとあの景色を私はこれからもずっと忘れられないと思う。
1幕終わりの最後のナンバー。全員の声が重なった瞬間に全身に鳥肌が立った。
この物語が音楽劇である意味を頭よりも先に身体が理解した瞬間だ。ミュージカルさながらの荘厳なスケールに胸が震えた。
なによりも、錚々たる面々に囲まれたシアター1010の0番で、前川さんが歌っている。その姿を見た瞬間に涙が溢れて止まらなくなった。

私は前川さんの感情が乗った歌が大好きだ。
たとえ本人が卑下しようと、それは絶対に私の中で変わらないし揺るがない。
けれどそこに技術という新たな武器が加わるだけでこんなにも変わるのか。
この日から千秋楽までの8公演は私にとってどの瞬間を切り取っても幸せだった。
生まれて初めてこんなに何回も劇場で同じ作品を見た。色んな席に座って、毎日違う角度から見る。舞台はナマモノだとよく言うけれど、それをこんなにも肌で感じられる期間は今まで無かった。

そしてパンフレットの村田さんの言葉を反芻する。
地方に住んでいる私にとって配信は凄くありがたくて頼りがちなものだ。
しかし、同時に舞台作品ほど生で見ることに意義があるものはないとも思っている。
気軽に行けない距離だからこそ、その場で得られる情報量も、板の上から客席までの空気も、舞台から伝わる振動も、スポットライトの眩しさも、何もかもが劇場に居るから味わえることを私は知っている。

純粋に楽しかった。
芝居の熱量を肌で感じられることも、1度では味わいきれない細かなこだわりを掬いあげて楽しむことも。
何度も見ているのに常に新しい発見がある。そして、何度でも涙することの出来ることがなによりも嬉しかった。

千秋楽を終えた帰りの電車の中、この作品に出会えて本当に良かったと心の底から思えたことをどこかに残しておきたくて私はこのnoteを書きはじめた。
私にはイラストも描けないし、大層な考察なんて出来ない。私には文章を書くことしか能がないから、私が見て、受け取った「ジェイド・バイン」という物語を記しておきたかったのだ。

〇リリー ⇒純粋・無垢
初めて見た時、この人はずっと「箱庭で生きている人」なのだと思った。
年齢よりも幼いような言動はきっと守られ、愛されて生きてきた証だ。
彼女が初めに語る夢はおとぎ話のようにキラキラと美しくて、一点の曇りもない。
オーキッドの死で現実から逃れ、必要な夢を見る。
彼女にとっての防衛本能だったんだろう。
劇中のルピナスのセリフではないけれど、知らない方が幸せだったこともきっとこの世には沢山ある。
知らないまま夢の中に居ればきっと傷つくことは無かったのかもしれない。
彼女が夢から覚めなければ、オーキッドは彼女の夢の中で今でも生きていて、ダリアはずっと彼女の親友だった。そして、そばにいると誓ってくれたジェイドすらも目の前で失ってしまう。
そんなに辛い思いをするくらいなら私ならばいっそ幸せな夢を見たまま死にたいとすら思ってしまう。でも、現実から逃れ続けることは思考を止めることと同じだ。そして、ロータスの言葉で彼女は“生”を選ぶ。
もしかしたらドン底にいる彼女にとっては死ぬよりも辛い選択だったかもしれない。それでも生きると決めたからには前を向く必要がある。それこそがこの世界に残されたリリーにとっての使命だったのかもしれない。
最初と最後に読み聞かせをしているのは年老いたリリーだろうか。
もしそうだとするならば、彼女はその歳になるまできっとたくさんの経験を得てきたのだろう。その証拠に箱庭で生きていた頃の幼さはもう消え失せている。

黒崎さんの想いや傷から着想を得て作られたこの物語。
たくさん想いはあるけれど、ひとつだけ言うのならこの物語を産んでくれたことへの感謝を伝えたい。
テーマソングである「singularity」にもある通り、この世界は眩しくて残酷な程に美しい。
表があれば裏があり、光が強いほど影は深い。人は絶望を知るからこそ、希望を見いだせるのかもしれない。
黒崎さんの傷が姿を変えて、物語として心に残してくれたものを大切にしまっておきたい。
願わくば、またこの世界やその続きをまた見れますように。

〇オーキッド⇒愛情
オーキッドはこの世界の概念のような人と言っていた気がする。
とても優しく、愛情に深い人。
しかし、その優しさは時に残酷だ。
愛さないのなら優しくなんてするべきじゃない。
愛せないくせに「幸せになるべきだ」なんて言わないでほしい。その“幸せ”を与えられないのは他でもない貴方じゃないか。
彼の優しさが「何があってもダリアを守れ」というプログラミングに繋がっていたのならある意味、因果応報なのかもしれない。
しかし、オーキッドはきっと何も悪くない。本人に悪意も無ければ、他意もない。

ところで、オーキッドはどこまで分かった上でジェイドやイベリスを作ったのだろうか。
作中で特定の誰かのために作られたアンドロイドは彼らだけだ。オーキッドがジェイドに最初に組み込んだ部品は一体なんだったのだろうね。

君沢さんの演技を生で見るのは今回が初めてだった。
雰囲気に人の良さがありありと出ている。全ての人を見守り、包み込む父性のようなものが、この世界の概念であり、道標でもあるオーキッドととても良く合っていたように思う。

〇ウィリアム
純粋なオーキッドへの尊敬と絶大な信頼があるからこそ、兄を失った悲しみと憎しみが彼の人生を狂わせたのだと思う。

「アンドロイドは“モノ”ではありません」と咎めるキースに「俺は“モノ”しか作れないんだ」と叫ぶ姿が苦しくて仕方がない。
だって、きっと彼自身も分かっているはずだから。身体機能やプログラムの改造のためにただでさえ古い機体にジャンク品を組み込んで強化する。
ジェイド自身の意思から始まったことだとしても、強化の積み重ねはウィリアムのエゴだ。それを分かっているからこそ、ジェイドの感謝の言葉に視線を逡巡させ、俯くのだろう。

「あんたが見ようとしなかっただけだろう」
ケナフの言葉にハッとする。
何かに囚われ続けると周りの色など見えなくなるのはきっと誰しもが経験したことがあるはずだ。
ジェイドはメンテナンスで自分の目に映る“今まで行動に必要でなかったもの”に感動を覚えるけれど、ウィリアムは兄の死の真相を追うあまり、他の全てに視界が狭くなっていたんじゃないだろうか。
新しいことを吸収し、世界に色を与えてくれたウィリアムに感謝するジェイドの姿はきっと眩しかっただろう。
それでも、オーキッドが残した手がかりを追うためにはそうせざるを得なかった。
ずっと戦い続けていた人なのだと思う。

終始なごやかなアフトの中で谷さんが弄られていた姿を思い出す。きっと普段から座組を盛り上げてくれていたんだろう。前川さんのことをジャイアン呼ばわりしていたけど、それを許してくれる優しい先輩なんだなぁとニコニコしてしまった。
素敵でした。

〇キース
私が1番大好きになったキャラクター
ずっと見えない敵と戦い続けた子。
大切な主人を殺した犯人を見ているはずなのに抜け落ちた記憶に苦しみ続けた。

フォロワーがキースのピアノは「思い出せない時の怖さに立ち向かうためにできることがキースにとってはピアノだった(パンフ談)ってことは、キースは今まで何度も、記憶を取り戻したくてあの曲を弾いていたはず。」だと言っていてハッとした。
(勝手に引用してごめん)

知っているはずの記憶が抜け落ちるというのはどんな感覚なのだろう。確かにそこにあるはずの記憶にぽっかりと空いた穴。そして、それが主人を殺し、主人の最愛の妻の精神を蝕み、現在の主人が囚われている事件の鍵を握っているだなんて、想像しただけでゾッとする。
オーキッドを癒すためにインストールされていた「音楽」は彼女にとっても大切な記憶であり想いを吐き出すツールひとつだったのだろう。
キースのピアノが日によって少しずつ違ったのはそれまでのみんなの芝居を受けてのことだろうか?
最後に鳴らす鍵盤の甲高い不協和音は焦りやもどかしさが綯い交ぜになっているようで苦しくて、逆に最後に1音だけ響く低音には思い出せない不安と恐怖が重くのしかかってくるようだった。
どちらの表現も好き。

「ウィリアム様は弱くなんかありません」という言葉に何度も心打たれた。
彼女の役割はオーキッドやウィリアム、そしてその周りにいる全ての人の記憶だ。そうして、ずっと見ていた彼女が告げるその言葉の力強さに涙が溢れた。
彼女はきっと誰よりも健気で強い心を確かに持っている。

ZAQさん、歌もピアノも本当に素敵でした。
How are you?でジェイドの発言にクスクスと肩をふるわせる姿も、ロータスに覗き込まれておすまし顔になる瞬間もあまりにもかわいらしい。
主人のアドリブに振り回されてもちゃんと話を合わせられる素敵なアンドロイドだよ笑
キースの一挙一動に完全に心を奪われてしまったのでもっと見たかった……。
私はキースちゃんが1番だいすきです。

〇ロータス⇒清らかな心、雄弁、沈着、救済

完璧を突き詰めればきっとそこには一切の無駄も許されないのだと思う。

新型アンドロイドとして生まれてきたロータスは完璧な存在であることが全てだった。
だからこそ旧型のジェイドを蔑んだし、無駄な思考はノイズでしかなかった。

でもジェイドの言葉で彼は初めて「無駄」だと切り捨ててきたものに目を向ける。
最善で最良の完璧なものだけが全てでは無いのが人間の世界だから。

紫炎の瞳にうつる世界で何ができるかを考えているロータスの姿も、そんな彼に生まれた「友を守りたい」という確かな意思にも毎回涙を零さずにはいられなかった。
ジェイドの心とともにただ生きることをリリーに諭すロータスの姿は無駄を排除し合理的かつ完璧であることが全てだったロータスとはまるで別人だ。
彼もまた成長し、“ココロ”を得たアンドロイドなのだと思う。

松村龍之介さん
忘華から続けて前川さんとの共演してらっしゃるのでこの短期間に全然違うタイプのお芝居が見れたの本当に楽しかったなぁ。どちらも2人が対峙するシーンがあるけれど、表情がとても良いなぁと思った。端正な顔立ちと紳士のような佇まいに惚けてしまう。
少し嫌味ったらしさがあるのもジェイドに苛立ちを覚えているのもある意味人間味があって好き。
ところでハリソン家のアンドロイドちゃん達の日常を集めたスピンオフとか無い?

〇ルピナス⇒想像力、いつも幸せ、あなたは私の安らぎ

まだ感情のない旧式のジェイドに剣術を教えているシーンで彼は「じゃあ、ジェイドはずっとそのままなの?可哀想」と口走る。まるで子供のような素直さは時に残酷だ。
幼く作られているのだから当たり前だろう。

でも同時に色んなことを察せるし、誰よりも寄り添うことに長けた子なのだと思う。
そのジェイドに何度も声をかけ心配をするのも、キースが苦しんでいる時に一目散にそばに行くのもルピナスだ。
人よりも人の心が分かるアンドロイドを作ることがHRSN社のモットーですもんね。

だからこそ基盤に損傷があると分かったジェイドに手を伸ばしかけてやめてしまうあの仕草に胸が苦しくなる。きっと誰よりも寄り添える子だからこそ、何を言っていいか分からないのだろう。

パンフレットの最後のページにあるルピナスのサインを初めて見たとき、実はホテルでボロボロに泣いた。これはルピナスが残した物語なんだなぁ。

志村玲於くんは7~8年ほど前から一方的に存じ上げておりまして……。というか、実はちょこちょこリリイベとか行ってましたが、オタクする上でまさかこんな出会い方をする日が来るとは。
あの頃よりも大きくなって……身長は伸びてないけど。スパドラじゃ絶対に見せないあんな可愛らしい姿にニヤけが止まらなかった。美少女やんけ。
あとやっぱ玲於くんのダンスが好きなんですよね。動きに一切の無駄がない。正直、ダントツでダンスが上手くて見惚れた。
かっこよくて可愛くて誰よりも優しいルピナス。この役柄に志村玲於という人物を選んでくれたことに感謝しかないです。

〇エルモア・オルゴナイト⇒冷静沈着、豊かな感受性

オルゴナイトの石言葉を検索した瞬間に納得せざるを得なかった。
彼は作中で1番影響を受けて変化する人。
アンドロイドを「鉄と半導体の塊」と称した彼が、ジェイドの生き様に呆然と立ち尽くす姿が印象的だ。

「どうしてあそこまでアンドロイドを嫌うのか」をもっと掘り下げて頂けたら嬉しいなぁと。
ボイスドラマでも朗読劇でも続編でも小説でもアニメでもなんでもいいので。ほんとに。続きが欲しい……。

千葉さんは今回初めて見た役者さん。
まず顔がいい。この書き方だと語弊が生まれてしまうので言い方を変えると表情が良い。もちろん顔も良い。
周りに迎合せずに自分の信念を貫き通す強さと、ジェイドの姿にその信念が揺らぎ心が傾く瞬間の表情があまりにも良すぎた
お歌も上手い。エルモアのソロだいすき!!
千葉さんから滲み出る生真面目さがエルモアの姿とマッチしていて本当に素敵だったなぁと思います。
警察組かわええな。

〇オリヴァー・バスキントン

オリヴァーさんの存在って大きいね。
サイバー科と名を冠した部署が出来るほどにテクノロジーが発展した世界で聞き込みなどを主とした捜査をしてるだけあってこの人も自分の中の信念がある人なんだよなぁ。
ダウナーな雰囲気なのに熱いところも見えてこりゃついて行きたくなる男だよ。

反さん!!渋いおじさんが超似合ってた。
私が知ってる反さんはテンションが高めな役柄の時が多くて、こんないぶし銀なキャラも出来る振り幅に感服です。
ダドリーとのシーンでちょこちょこアドリブ挟んでくるの密かな楽しみでした。個人的にはタバコのシーンで鼻から煙出すオリヴァーにダドリーが「トーマス⁉️」って返した日、サイコーに好きだった笑
エルモアくんが取り損ねた水が落ちるのを見つめた後に「もう1回やるか?」って聞くのもオリヴァーの茶目っ気が感じられるフォローで良いなぁ

やっぱ警察組かわいいんよ。(大事な事なので2回言いました)

〇ダドリー・イーグルアイ⇒「知識」「未来を知る」「災いを退け幸運をもたらす」

いわゆる元気の塊みたいな超王道キャラの彼。
エルモアに対して「お前の方がよっぽどアンドロイドみたいだな」と苦笑いをこぼすシーンが印象的だった。なんて唐突に真意を突いてくるんだ。
正義の警察官だもんな。実はすごく周りを見ている人なのかもしれない。だってイーグルアイだもん。

「金、貰っちゃったから」の瞬間の声のトーンの変わりように毎度ゾクゾクしちゃう。
そこから、ケナフの叫びをスマホで録音し終わったあとにニヤニヤが隠しきれていないのが可愛らしい。
まぁ裏切ったと思ったら裏切ってなかったけども。
禁煙なんてものを条件に危ない橋を渡るダドリーちょろくて可愛い。裏を返せばオリヴァーへの絶大な信頼なんだろうけど。

ほんとに警察組かわいすぎんだわ(大事なことなので……以下略)

あと「わりぃ、俺マンガ読まねぇんだ」ってセリフは初見でめちゃくちゃ痺れた。
いやーそこでそのセリフ持ってくる?サイコー。なみおさんも天才だし、それを成立させる深澤さんも天才。
てか、そういや私イース・イースターめちゃくちゃ好きだったわ。深澤さんの悪役芝居が嫌いなわけないのよ。かわいらしいお顔でニコニコと銃をぶっぱなしてナイフ振り回すのサイコーに好き!!!!あと身体能力やばない?
深澤さんって本当に目を惹かれるなぁと思った。すごく魅力的。ほかのお芝居も見てみたい。

〇ケナフ・ハウライト

ケナフさんには舞台が始まる前からずっとずっとお世話になりました。舞台が終わってからもあんな仕掛けで笑わせてもらって(詳しくは公式HPでロックを解いてもらえれば分かりますので笑)

話を戻して、ケナフって確かに道を踏み外した人ではあるけれど、すごく人間味のある役柄だなぁと思う。
綺麗事だけじゃ生きていけないのが人間だからね。

同時に、アンドロイドに対する愛情みたいなものは本物だったのかなぁとも思う。
きっとハリソン兄弟はプログラミングと物作りにばかり没頭していただろうし、利益なんて度外視だったんじゃないかなぁ。
それでも会社としてやっていくにはそうせざるを得なかったのかも。
1番人間らしいのかもしれない。

沖野さん
さすが殺陣師。コケ方が毎回綺麗でした!!(?)
あんなに2枚目なのに全てが3枚目で本当に面白い男だよ、ケナフって奴は。
毎日アドリブ楽しみにしてました。肘、もう大丈夫ですか?頭の回転めちゃくちゃ早いんだろうなぁ
普段はあんまりこういう役をしないと聞いたので、もっといろんなお芝居を見たいなぁ。今度機会作ります……!!

〇ステム・アンバー⇒「長寿」

彼はいわば中立の立場で自分の興味関心のためにいろんな情報を吹聴してまわる。
常に傍観者としてそこに居る。
ところで彼は何故ラッキーストライクを知っていたんだろうね。
オリヴァーはどこで彼を見たんだろう。
そして何故、新型のジェイドのニュースに姿かたちが変わらないままそこに立っているんだろう。
彼は一体何者で、何を目的にしているのか最後まで謎の人。
これは次回作や過去編が無いと不完全燃焼ですよ。
全国ツアー楽しみにしていますね。

杉本新さん
n億回目だけど本当に初舞台?
何知らないフォロワー3人見に来て3人が3人とも「絶対嘘だ!!」って言ってた。
歌が上手い。芝居も堂々としていて本当に初舞台だなんて信じられなかった。やっぱり表現者なだけあるなぁ。さすがジャンルは違えど表現を生業とする人たちだ。

〇ダリア・ローダンテ

私には彼女の言動も思考も一切分からない。
彼女が至上の愛と呼ぶそれを愛だとは到底呼べないし、彼女が選んだ道は絶対に正しいものではなかった。
でも、「自分を愛せない自分を愛して欲しかった」という気持ちだけは少し分かる気がする。
たった1人でいい。誰かに愛されてさえいれば、自分の全てを肯定することが出来る気がするのだ。
箱庭の中で生きるリリーを受け入れているオーキッドはその最たる象徴のようにも受け取れる。

もしかしたら最初に手渡すあの花束は狭い世界で過ごすリリーへの小さな小さな意趣返しだったのかもしれない。

自分の愛した人を殺したアンドロイドであり、自分の全てを唯一肯定してくれる存在であるイベリス。彼女の目にはどう映っていたのだろう。
イベリスの向ける愛を作り物の感情だと嘲ると同時に、ジェイドの純粋な心に嫉妬を覚えるほどリリーに向けられる愛に焦がれていた。
幼い頃からずっと相対する感情に挟まれ続けていたのかもしれない。

でも、最後ジェイドに手が届かず地面に伏せるリリーとは違い、彼女の手は確かにイベリスに届くのだ。それなのに彼女の口から最初に出る言葉は「どうして私から全部奪うの?」という悲痛な叫び。

きっとダリアは気がついていないけれど、リリーの望む夢をダリアは簡単に手に入れている。そして、逆も然り。
ダリアが手を伸ばしても手に入らないものをリリーは簡単に手にして笑っている。
「どうして体が弱いだけのあんたなの?」
「幸せなはずなのに贅沢ね、人間って。」

彼女は一体どこで間違えてしまったのだろう。

今作の脚本家である花奈澪さん。
わたしが初めてなみおさんを見たのはダブステでした。そして、ダブステが無ければこの作品に前川さんは呼ばれてないんだと思う。前川さんはよく「縁」という言葉を口にするけれど、このご縁に関しては一介のオタクである私からも感謝申し上げたいです。ありがとうございました。
この作品が発表され、この作品に賭ける想いをブログを通して読んだ時、素敵な言葉を綴る人だと思った。この人の書く脚本を演じる前川さんの姿が見れることが楽しみで仕方がなかった。
このジェイドバインの作中に好きな言葉がたくさんある。挙げればキリがないほどに。
アフタートークの時になみおさんの言葉に実は涙してしまった瞬間があった。
これだけの愛と想いの詰まった作品に触れられたことを心の底から嬉しいと思っている。
また、なみおさんの書く世界に触れられる機会があったら嬉しいな。それがジェイドバインの世界だったらもっと嬉しいな。

〇イベリス

初めて見た時、「あいつらとは違う」だとか「自分は特別な存在」だと信じて疑わない感情はある意味とても人間らしい感情だと思った
しかし、彼の“愛”はかなり歪で嫌な程にまっすぐで、ブレることは無い。ある意味でとてもアンドロイドらしいのだ。
その二面性の凸凹加減が気持ち悪くもあり、とても美しかった。

アンドロイドの医療過誤が露呈した時に「誰が責任を負うのか」という問いが出てくるけれど、それってイベリスの殺人にも通ずるんじゃないだろうか。
イベリスは自分の意思で人を殺したと言うだろうし、実際にダリアの命令を無視してる。
じゃあ、イベリスとダリアが仮に捕まったとして裁かれるのは一体どちらなんだろう。
イベリスに心があったなら裁かれるべきはイベリスだけれど、ダリアを守るという意思すらもプログラミングであったわけで……
考えたら考えただけ分からなくなってしまったのでこれ以上はまたいつか。

単調な喋り方に機械と人間の狭間のような動き。あんなにも生気を感じられないのに、ダリアに抱き寄せられるあの瞬間に今にも泣き出しそうな子供のような顔をするんだ。それでも決してこぼれない涙が余計につらい。
あれを見てイベリスに感情が無いなんて私には言えなかった。
ダリアとイベリスは一体どこへ行ったんだろう。
今後どんな人生を歩んで、どんな最期を迎えるんだろう。
犯した過ちは消えないけれど、少しでも2人の未来に光があってほしい。

村田さんの存在感って本当に凄い。居るだけで空気を変えてしまう。芝居のしの字も分からない私ですら芝居の上手さに息を飲んでしまう。
どうしてもわたしは前川優希さんのオタクなので、そんな人を相手に前川さんが剣を混じえて言葉をぶつけ合っている事実に胸が震えました。
アフタートークでふわふわ喋る村田さんとイベリスの姿がアンバランスすぎて脳がバグるかと思った。
なみおさんのパンツ隠すために(語弊)自分のサクロライトを差し出すの見た瞬間に笑い死ぬかと思った笑
間違いなく最高傑作ね。

〇ジェイド・バイン⇒私を忘れないで

最初に起動した時の瞳が印象的だった。
まっすぐに相手を見ているはずなのに、どこか虚空を見つめているよう。きっとその瞳には何も写っていない。
小さい頃、実家にあった綺麗なビスクドールがどうしても怖くて仕方なかったことをふと思い出す。あんなにも綺麗なのに、どうしてこんなにも恐怖を覚えるのだろう。
人間の形をした、人ならざるものへの無意識な畏怖だろうか。

リリーが綺麗な目だと称するその翡翠の瞳にきちんと色が宿ったとき、その瞳がキラキラと輝いて見えた。
どこかを見ているのに何も写っていなかった瞳にはっきりと意思が見えるあの瞬間が大好きだった。

オーキッドが彼に組み込んだ“ココロ”は機械である“カラダ”と乖離していて、感情を出力出来なかっただけなのかなぁ。
命令を受けて動くだけだったと彼が言うあの時期にもジェイドは自分の使命を考えているし、ロータスやルピナスのように強くなりたいという意思もあった。
ただ、どう動けばいいかという思考が旧型の彼には欠落していた。感情を感情として理解して処理するだけのキャパシティが存在していなかったのかもしれない。
メンテナンスに行き始めて、様々なものが強化されていくのは人間で言う「知識を得る」ことに相当するんじゃないだろうか。

考えるには知識という材料が必要だ。知識を得て、視界が広がれば自分とは違う視点や見解を知ることが出来る。そうすれば必然的に今まで見えて居なかったものが見えるようになる。

感情を覚え始めたジェイドはダリアに「考えることは心ですか?」と問う。
命令を遂行して得られる結果が行動の目的だった彼に生まれた意思こそが“ココロ”だったのかもしれない。

自分の持っている意思すらもプログラミングであることを信じられないイベリス。
たとえプログラミングでも自分の世界は変わったと叫ぶジェイド。
きっと2人とも正しいのだと思う。

さて最後にリリーの元へ届けられたものは一体なんだったんたんだろう。
そして、軍事用として生まれてしまった新たな「ジェイド」の使命は一体なんだろうね。

本当はもっと書きたいことがいっぱいあるんだけれども書けば書くほどまとまらなくなってしまったのでここまで。
本当に楽しくて、幸せな8公演でした!!

いつかこの物語の続きが見られますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?