更生や指導ではなく公的支援を…貧困や性暴力に悩む「困難女性」に新法 自治体の意識改革がカギに2022年5月18日 06時00分.更生から支援に転換…売春防止法の抜本改正、今国会成立の公算 支援現場「困っている女性を助ける第一歩に」2022年4月1日 06時00分.売春防止法違反の女性を「処罰」…婦人補導院に廃止求める声2020年4月20日 02時00分東京新聞PDF魚拓



 売春防止法から女性への差別的な条文を削除し、貧困や性暴力の当事者らへの公的支援も明記した新法「困難女性支援法案」が18日、衆院厚生労働委員会で採決される。全会一致で可決された後、19日の衆院本会議でも可決、成立する見通し。売防法に基づく自治体の差別的な対応に傷つけられた女性からは「理不尽な対応を改めてほしい」と歓迎の声が上がる。支援団体は「実際に支援を担う自治体の意識改革こそが大事だ」と指摘する。(大野暢子)





◆DV被害女性「助け求める人に寄り添って」

 「ここまで傷ついても助けてもらえないのか」。東京都内に住む女性(26)は、2017年にわらにもすがる思いで頼った自治体への失望をこう振り返る。

 女性は当時、同居していた男性から暴力や暴言を繰り返し受けていた。預金通帳は取り上げられ、友人との交流も禁止。若い女性が殺害されたニュースを見た男性に「おまえもこうなるかもな」と脅された。半年間ほど耐えたが、命の危険を感じ、若年女性の保護や支援を担う都内のNPO法人「BONDプロジェクト」に駆け込んだ。

 女性には頼れる家族がなく、都道府県が売防法に基づいて設置する「婦人相談所」の一時保護所に身を寄せた。だが、部屋は共用で薄い布の間仕切りがあるだけ。携帯電話の使用や1時間を超える外出は禁止で、集団生活を乱したとみなされると、職員から叱責された。「これ以上は耐えられない」。10日後に施設を抜け出し、BONDに戻った。

 威圧的な対応を受けたのは、売防法で、一時保護所が売春をする恐れがある女性らを受け入れ対象とし、「更生」や「指導」を行うと規定されているからだ。実際には、売春と関係がない暴力の被害者らの受け皿にもなっているが、職員に支援対象という意識が行き届いていないとされ、「かえって当事者を追い詰めている」と批判されてきた。

 女性は「今回の法案の成立を機に、助けを求める人に寄り添った支援が広がってほしい」と語った。

◆自治体の「女性相談支援センター」、多様な支援へ

困難女性支援法案は売春を違法とする売春防止法は存続させるが、女性への補導処分や保護更生を定めた条文を丸ごと削除する内容を含み、1956年の制定以来の抜本改正となる。さらに新法案で、貧困や性被害に直面する女性らを「困難女性」と定義し、支援対象と明記。その尊厳を守る規定も盛り込んだ。

 民間の支援者らが特に歓迎しているのは、売防法に基づいて自治体が設置する婦人相談所の転換だ。新法案で「女性相談支援センター」に改称。女性の心身の健康の回復を図るため、医学的、心理学的な援助を行うだけでなく、就労の支援や住宅の確保などの支援を、対象者の意向を踏まえて行うように求めている。

 国には自治体に必要な財政支援を義務付け、都道府県にも困難女性を支援するための基本計画や支援施策に関する重要事項を定めるように要請。施行は2024年4月を予定している。

 NPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュン代表は「新法の掲げる理念を実現するには、法に対する自治体の理解が欠かせない。施行後は民間支援団体とも連携して困難を抱える女性の目線に立った対応をしてほしい」と求めた。

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更生や指導ではなく公的支援を…貧困や性暴力に悩む「困難女性」に新法 自治体の意識改革がカギに

2022年5月18日 06時00分



 女性への差別的な内容を含む売春防止法の規定を削除し、貧困や性暴力で行き場を失った女性の公的支援を明記した新法「困難女性支援法案(仮称)」の内容が固まった。既に与野党5党が党内手続きを終え、自民党は1日にも正式に了承する。目的を「更生」から「支援」へと抜本的に転換するのが柱で、今国会で成立する公算が大きい。女性たちの苦難に寄り添ってきた関係者の間では期待が高まっている。(大野暢子)

◆威圧的文言、一律で犯罪者扱い

 売防法は1956年に制定され、法の目的を示す第1条に「売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずる」と明記。3~4章に、同法違反で執行猶予付きの刑を受けた場合、独房のような「婦人補導院」に収容できるとの規定や、女性を一時保護する「婦人相談所」の役割として「必要な指導を行う」と定める条文もある。

 威圧的ともいえる文言が並ぶのは、戦後間もない時代の価値観に基づいているためとされるが、一度も抜本改正されてこなかった。

 売春は知的障害者らがだまされて従事させられたり、生活困窮でやむなく追い込まれたりするケースも多い。保護対象には家庭内暴力やストーカーの被害者も含まれるのに、一律に「犯罪者扱い」していることが、女性を追い詰め、生活再建を妨げているとの批判は根強く、与野党の女性議員が中心となり、新法制定の機運を醸成し、条文を議論してきた。



 新法では売防法の全40条のうち、売春を違法とする条文は残しながらも第1条を修正し、3~4章の計24の条文を削除。婦人相談所と中長期的に身を寄せる婦人保護施設の名称も一新し「医学的・心理学的な援助」「退所者の相談」が役割だとして、支援施設であることを明確にした。

 新法をすでに了承した5党は公明、立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主。自民も了承すれば、4月上旬にも国会提出される。

◆「収容」から寄り添いに…婦人保護施設は期待

 売春防止法に代わる新法を支援現場は約30年、求めてきた。関係者からは「本当に困っている女性を助ける第一歩となる」と歓迎の声が出ている。

 「施設を売防法から切り離し、差別性や閉鎖性の解消につなげたい」。全国で唯一、妊産婦に特化して受け入れている民営の婦人保護施設「慈愛寮」の熊谷真弓施設長は、こう訴える。

 売防法の弊害とされるのが、女性を一時保護するため、都道府県ごとに設置された「婦人相談所」の在り方だ。婦人保護施設で生活再建を目指す場合は原則、婦人相談所に2週間前後入らなければならない。売防法が「更生」を目的としているため、職員による行動観察に加え、携帯電話の使用や外出を制限するケースもある。こうした環境への拒否感から利用をためらい、支援につながらない人も多い。

 現在の婦人相談所や婦人保護施設は、売春にかかわった人より、家庭内暴力の被害者らの受け皿になっているのが実情だが、売防法は婦人保護施設も女性を「収容」する施設と定義。入所者を支える常勤指導員も、国が人件費を出すのは定員100人の施設で2人までで、熊谷さんは「入所者に丁寧に寄り添える体制が保証されているとはいえない」と語る。

 新法は、相談支援を行う職員について「人材と処遇の確保」や「必要な能力及び専門的な知識経験を有する人材の登用」を明記。立案にかかわった与党議員は「現場は非正規職員が多い。これを機に正規化を進めるべきだ」と説明する。

 具体的な対応策は法施行後、基本方針や基本計画という形で、国や都道府県に策定を義務付ける。どこまで支援を手厚くできるかが問われる。

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更生から支援に転換…売春防止法の抜本改正、今国会成立の公算 支援現場「困っている女性を助ける第一歩に」

2022年4月1日 06時00分



 執行猶予付き有罪判決を受けたにもかかわらず、売春防止法に基づいて二十歳以上の女性が身体の自由を拘束される施設がある。現在、全国でただ一カ所残る東京婦人補導院(東京都昭島市)だ。同法違反(勧誘等)の罪で裁判所から補導処分付きの判決を受けた女性たちが入る。だが、最近十年間の収容者は計四人にとどまり、「時代にそぐわない」と法改正や廃止を求める声が上がる。 (木原育子)

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◆3畳に鉄格子「刑務所のようだ」

 婦人補導院設置の根拠となる売春防止法は、戦後の混乱期、売春に身を投じる女性の保護更生を目的に一九五六年に制定された。

 法務省のホームページは婦人補導院の目的を「規律ある明るい環境のもとで、社会生活に適応させ…(中略)…社会で自立して生活できる女性として復帰させる」と説明している。

 だが、実際に東京婦人補導院を訪ねると、部屋のクリーム色の扉には頑丈な鍵がかかり、担当者の許可なく出入りはできない。一人用の部屋の広さはわずか三畳。立て板の向こうは便器がむき出しで、食事は小窓から配膳される。窓には鉄格子がはめられ、十センチほどの隙間から空が見えるだけだ。

 補導処分の期間は六カ月。施設での授業は、裁縫や食事の作り方など生活全般の学び直しが中心で、併設された東京西少年鑑別所の職員や近隣の女子少年院の教員が担当する。東京婦人補導院の担当者は「視察に来た方から『刑務所のようだ』との指摘は正直あります」と明かす。

◆収容者10年でわずか4人

 婦人補導院は五八年、東京、大阪、福岡の三カ所に設けられた。収容者が最も多かった六〇年には、計四百八人を収容した記録が残る。警察庁によると、六〇年に売春防止法の勧誘違反容疑で検挙された女性は一万二千四百五十四人で、婦人補導院への収容率は3・3%だった。

 収容者は時代とともに減少。法務省によると、二〇〇九~一八年までの十年間の収容者は一一、一二、一四、一七年にそれぞれ一人ずつ。同時期の検挙者数は計二千四百十二人で、平均収容率は0・2%だった。

 裁判所が補導処分付きの判決を出す件数が減った背景について、婦人保護施設の関係者は「刑事処分ではなく、支援施設への入所などで自立につなげる流れができているのではないか」とみる。検挙された女性の多くは、貧困など何らかの事情を抱えているからだ。

◆「時代にそぐわない、廃止を」

 売春防止法を巡っては、売春に応じた男性は処罰されないことなどから、法律の抜本的な見直しを求める声が根強い。

 厚生労働省が設置した検討会は昨年十月、女性の保護更生ではなく権利擁護のための新法制定を提言。ドメスティックバイオレンス(DV)の被害やアダルトビデオへの強制出演といった困難な問題を抱えた女性への専門的支援を盛り込むことを求めている。

 ジェンダー法に詳しいお茶の水女子大の戒能民江・名誉教授は「婦人補導院は売春防止法のシンボル的機能を果たしてきた。売春防止法には女性の尊厳の回復や自立支援は明記されておらず、処罰の意味合いが強い。福祉的視点が欠如しており、時代に合わせた法制度にするためにも補導院廃止を検討するべきだ」と指摘する。

 <売春防止法改正の動き> 4章で構成され、1956年の制定以来、抜本的な改正はされていない。厚生労働省の検討会が昨年10月、保護更生を目的とした同法4章を廃止し、女性の権利擁護の視点を盛り込んだ女性自立支援法(仮称)制定の必要性をまとめた。性暴力や性搾取の問題に対応できる法律に変えたい考えだ。与党の国会議員でプロジェクトチーム(座長・上川陽子元法相)を発足させ、法制化を目指している。一方、法務省が管轄する3章に規定された婦人補導院の見直しを巡る議論は低調だ。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/1711
売春防止法違反の女性を「処罰」…婦人補導院に廃止求める声

2020年4月20日 02時00分