22歳の彼が避妊をしてくれなかった…女子高校生のリアルな性の現状安全に「アフターピル」を入手できるようにするために著者遠見 才希子プロフィール産婦人科医PDF魚拓





産婦人科医の遠見才希子さんは、「えんみちゃん」のニックネームで大学生の頃から中学校や高校で性教育の講演を行っている。講演後は、時間の許す限り学校に残り、生徒たちから生の声を聴く。そこで、どれだけ多くの生徒たちが、望んだかたちではないセックスをして悩んでいるかを体感してきた。

厚生労働省の「第9回児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議幹事会」(平成30年9月)によると、児童虐待による死亡事例等の検証結果で、0歳児の虐待死の割合は47.5%、中でも0日児の割合は18.6%。加害者の割合は実母が55.6%で、虐待死の背景には、予期しない妊娠・計画していない妊娠、妊婦健康診査未受診などの状況が25%ほどいることがわかった。さらに、実母の年齢でもっとも多いのは、19歳以下で27%にも及ぶ。

また、2017年の厚生労働省の調査によると、全国の人工妊娠中絶の総件数は約16万5000件(そのうち1万4000件が20歳未満の未成年者)で、1日にすると約450件の人工妊娠中絶が行われている

性に関する問題は、「自己責任」とだけにしてはいけない現状がある。今話題の緊急避妊薬をめぐる問題も含めて「えんみちゃん」こと遠見さんの実体験をもとに、どういうことなのかをお伝えしよう。

「2ヵ月前に中絶した」
女子高生のやるせない現実

性教育の講演を始めたばかりの22歳の頃、ある高校でこんな出来事があった。
講演が終わった後、黒髪のおとなしそうな女の子が片づけを手伝ってくれた。

2ヵ月前に中絶したんだ

高校生に直接打ち明けられるのは初めてだった。
二人で教室に残り、たくさん話をした。
彼女の母親は、彼女が幼いころに蒸発していた。数年前から父親と一緒に住みはじめたけれど、会話はない。彼氏は22歳のフリーター。
彼は避妊を全然してくれなくて、つき合って1カ月で妊娠した。

「産んで欲しいけど、まだつき合って日が浅いし、お互いに良く知らないから結婚はできない。『中絶して』って言っても大丈夫な子なら言えるけど、俺からそんなこと言えないじゃん? 自分で決めて」と言われた。

中絶した2週間後に彼氏にセックスを迫られて、「痛い」って言ったけど彼氏はやめなかった。ゴムはつけてるけど、怖かった。

好きだから浮気されたくない。嫌われたくない。だからセックスする。

「どんなに反省しても、ひとつの命を殺しちゃったことには変わりはないんだよね。でも産みたかったな。今って産んでる子多いし。でも子供は親を見て育つから、今産んでも幸せにはなれないから、これでよかったんだよ」 

彼女は言いなれた台詞のように言った。

私は、もう彼女には傷つかないでほしかった。私と同じ20代の男性が、10代の女の子を傷つけるのを、私はほんとうに許せなかった。

でも、私にできることなんてなかった。マスカラが落ちて真っ黒になりながら、いっしょに泣くことだけしかできなかった。彼女の孤独や寂しさを、簡単に、埋めることができてしまうのは、男性だった。

性教育の現場で体感した女の子たちの葛藤

私は大学1年の頃から15年間、全国各地700ヶ所以上の中学校や高校で性教育の講演を行っている。大学6年の頃に、先に紹介した女子高生のエピソードを盛り込んだ書籍『ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって?』を出版した。

寂しさを埋めるために自分の居場所や存在意義を求め、セックスをする、という若者は想像以上にたくさんいた。そして、中絶に至るには様々な背景や葛藤があることを知った。私は、彼女たちとの出会いを通して、妊娠して中絶するために初めて産婦人科に来る女の子を病院で待つだけではなくて、社会にも出て、性のことを伝える産婦人科医になることを志した。

「悩んでいるけど、誰に言っていいかわからない」。妊娠、DV、性感染症など、時に命に関わり、一人で悩むにはあまりに大きな問題なのに相談することができない。日本では、性の問題がタブー視され、さらに性暴力に対する認識も甘く、「避妊してくれないセックスに応じたのが悪い」「レイプされた側にも落ち度がある」と自己責任論として片付けてしまう風潮はないだろうか。性の問題から目を背け、適切な情報を伝えてこなかった大人たちや社会に問題はなかったと言い切れるだろうか。
産婦人科医の遠見才希子さんは、「えんみちゃん」のニックネームで大学生の頃から中学校や高校で性教育の講演を行っている。講演後は、時間の許す限り学校に残り、生徒たちから生の声を聴く。そこで、どれだけ多くの生徒たちが、望んだかたちではないセックスをして悩んでいるかを体感してきた。

厚生労働省の「第9回児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議幹事会」(平成30年9月)によると、児童虐待による死亡事例等の検証結果で、0歳児の虐待死の割合は47.5%、中でも0日児の割合は18.6%。加害者の割合は実母が55.6%で、虐待死の背景には、予期しない妊娠・計画していない妊娠、妊婦健康診査未受診などの状況が25%ほどいることがわかった。さらに、実母の年齢でもっとも多いのは、19歳以下で27%にも及ぶ。

また、2017年の厚生労働省の調査によると、全国の人工妊娠中絶の総件数は約16万5000件(そのうち1万4000件が20歳未満の未成年者)で、1日にすると約450件の人工妊娠中絶が行われている

性に関する問題は、「自己責任」とだけにしてはいけない現状がある。今話題の緊急避妊薬をめぐる問題も含めて「えんみちゃん」こと遠見さんの実体験をもとに、どういうことなのかをお伝えしよう。

「2ヵ月前に中絶した」
女子高生のやるせない現実

性教育の講演を始めたばかりの22歳の頃、ある高校でこんな出来事があった。
講演が終わった後、黒髪のおとなしそうな女の子が片づけを手伝ってくれた。

2ヵ月前に中絶したんだ

高校生に直接打ち明けられるのは初めてだった。
二人で教室に残り、たくさん話をした。
彼女の母親は、彼女が幼いころに蒸発していた。数年前から父親と一緒に住みはじめたけれど、会話はない。彼氏は22歳のフリーター。
彼は避妊を全然してくれなくて、つき合って1カ月で妊娠した。

「産んで欲しいけど、まだつき合って日が浅いし、お互いに良く知らないから結婚はできない。『中絶して』って言っても大丈夫な子なら言えるけど、俺からそんなこと言えないじゃん? 自分で決めて」と言われた。

中絶した2週間後に彼氏にセックスを迫られて、「痛い」って言ったけど彼氏はやめなかった。ゴムはつけてるけど、怖かった。

好きだから浮気されたくない。嫌われたくない。だからセックスする。

「どんなに反省しても、ひとつの命を殺しちゃったことには変わりはないんだよね。でも産みたかったな。今って産んでる子多いし。でも子供は親を見て育つから、今産んでも幸せにはなれないから、これでよかったんだよ」 

彼女は言いなれた台詞のように言った。

私は、もう彼女には傷つかないでほしかった。私と同じ20代の男性が、10代の女の子を傷つけるのを、私はほんとうに許せなかった。

でも、私にできることなんてなかった。マスカラが落ちて真っ黒になりながら、いっしょに泣くことだけしかできなかった。彼女の孤独や寂しさを、簡単に、埋めることができてしまうのは、男性だった。

性教育の現場で体感した女の子たちの葛藤

私は大学1年の頃から15年間、全国各地700ヶ所以上の中学校や高校で性教育の講演を行っている。大学6年の頃に、先に紹介した女子高生のエピソードを盛り込んだ書籍『ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって?』を出版した。

寂しさを埋めるために自分の居場所や存在意義を求め、セックスをする、という若者は想像以上にたくさんいた。そして、中絶に至るには様々な背景や葛藤があることを知った。私は、彼女たちとの出会いを通して、妊娠して中絶するために初めて産婦人科に来る女の子を病院で待つだけではなくて、社会にも出て、性のことを伝える産婦人科医になることを志した。

「悩んでいるけど、誰に言っていいかわからない」。妊娠、DV、性感染症など、時に命に関わり、一人で悩むにはあまりに大きな問題なのに相談することができない。日本では、性の問題がタブー視され、さらに性暴力に対する認識も甘く、「避妊してくれないセックスに応じたのが悪い」「レイプされた側にも落ち度がある」と自己責任論として片付けてしまう風潮はないだろうか。性の問題から目を背け、適切な情報を伝えてこなかった大人たちや社会に問題はなかったと言い切れるだろうか。
産婦人科医として痛感した
緊急避妊薬の入手のしづらさ

現在の日本の医療体制において、主に産婦人科医による対面診療のマンパワーのみで、緊急避妊薬を必要とするすべての女性に早急に入手させることは困難である。私自身、地方の総合病院に勤務していたときに、それを痛感した。

休日の勤務は、院内に産婦人科医は私一人だ。その日も、朝から分娩や緊急帝王切開になる妊婦さんの対応などで忙しかった。そこへ看護師から「先生、救急外来に緊急避妊を希望の方がいらしてます」と電話が入るが、他の仕事に追われ、「緊急避妊なら、待ってもらってて」と言うしかなかった。

結局、私の手があいたのは3時間後。コンドームの脱落による避妊の失敗をした20代のカップルが、休日で自宅近くの医療機関は処方してくれるところがなかったため、3時間車を飛ばして来院し、顔面蒼白で不安な表情で待っていた。3時間待たされ、3時間かけて帰る、それでも無事に緊急避妊薬を手にして安堵した彼らの表情は忘れられない。「ここまでたどり着いてくれて本当によかった。入手しづらい状況でごめんなさい」という気持ちになった。

緊急避妊薬を求める女性たちは、藁をも掴む思いでやってくる。恐怖、罪悪感、絶望感、そしてタイムリミットに間に合うだろうかという焦り……。みな共通しているのは、どうしようもない妊娠に対する不安の中にいるということ。「緊急避妊薬」という名の通り、緊急で内服が必要であるにも関わらず、入手しづらい日本の現状は一刻も早く改善しなければならない。

9割のパブコメ賛成だったのに
認められなかったOTC化

こういった現状を打破しようと、2017年に緊急避妊薬のスイッチOTC(Over The Counter)化(医師の処方箋は必要なく、薬局で購入できる市販薬化)の検討会が医師や薬剤師らも含め、厚生労働省で行われた。パブリックコメントでは、9割が緊急避妊薬のOTC化に賛成だった(348件中、賛成が320件、反対は28件)。しかし、「医薬品による避妊を含め性教育そのものが遅れている」「安易に販売される懸念がある」などを理由に、OTC化は認められなかった。

日本では、OTC化すると、法律上、約3年後にはネット販売や代理人購入が可能となることや、海外のように薬局で薬剤師に相談し、説明を受けた上で購入するBPC(Behind The Pharmacy Counter)という仕組みや習慣が確立されていないことも理由として挙げられ、決して簡単な道のりではないことが明らかになった。
緊急避妊薬のオンライン診療解禁の光

OTC化が見送られてから約2年……。今まさに、厚労省では、緊急避妊薬を「初診対面診療の原則の例外」としてオンライン診療の対象とするかについて検討会が行われている。

もし、オンライン診療が認められた場合は、医療機関を直接受診することなく、スマートフォンなどのビデオ通話で医師の問診を受け、電子処方箋を用いて、近くの調剤薬局で緊急避妊薬を受け取ることが可能になるかもしれないのだ。

では、なぜ、突如このような議論が始まったのだろうか?

背景には、不適切と指摘される緊急避妊薬のオンライン診療や、インターネット上の個人的な売買や譲渡が頻発しているという問題があるといわれている。SNSやフリマアプリには「アフターピル1500円で売ります」といった書き込みがあり、不正な売買による逮捕者まで出ている。これは早急に改善しなくてはいけない問題だ。

でも、よく考えてみてほしい。なぜネットで購入してしまうのか? 「時間がない」「受診することに抵抗感がある」「病院が遠い」「価格が高い」……、こういったことがネット購入の理由になっている。

無料配布や低価格で薬局で購入でき、誰でも簡単にアクセスできる国ではこのような問題は生じないだろう。「安易に販売される懸念がある」としてハードルを上げ、高額に設定したことが日本の今の状況を生みだしたと考えられる。

オンライン診療についてはまだ検討中であり、条件の面では気になる議論もみられる。しかし、それでもこのニュースは、大きな前進だ。もちろんオンライン診療が可能になることがゴールではない。ゴールは、世界のスタンダード通り、処方箋を必要とすることなく、薬局で安価に入手できるようになることだ。

オンライン診療によって、これまでの院内処方ではなく、窓口が薬局になり、より多くの薬剤師が緊急避妊薬を扱うようになることは、将来的にOTC化につながる可能性がある。また、OTC化が実現するまでの間、対面診療以外でも安全に入手できるシステムが必要だ。

なにより大切なのは、困っている人たちが、安心して早く、緊急避妊薬を入手できる選択肢が増えることなのだから。

医療は人を罰さない

しかし、緊急避妊薬が簡単に入手できるようになったら……、「安易に乱用される」「性が乱れる」「やらかした人は自業自得」「性暴力被害者と区別すべき」、こんな声が聞こえてくる。

緊急避妊薬が必要となる理由や、女性が抱える問題の背景は様々だ。たとえ、不特定多数の人と避妊をしないセックスをして緊急避妊薬を求める女性がいたとしても、表面的な理由だけで「この人は安易に考えている」と決めつけることが誰にできるのだろうか。一方、性暴力被害にあってもそれを打ち明けることなく「コンドームが破れました」とだけ言う女性もいる。緊急避妊薬が必要になった理由によって、また、その理由を言えたかどうかによって、医療の提供を差別化することは人権侵害ではないか。

そもそも医療には、人を罰したり、律したり、ジャッジする役割があるのか?
緊急避妊薬は、個人の価値観や自己責任論でアクセスを差別化されるものではなく、必要とするすべての女性の健康を守るために、安全かつ平等に提供されるものでなければならない。

一番大切なことは、困っている人たちの目線にたって、様々な人たちが一緒に考え、変えていくことだ。私たちには、一人ひとり、安全で満足できる性生活を送り、適切な情報やサービスを受け、自分の体のことを自分で決める権利がある。日本も、性と生殖に関する健康と権利(セクシュアルリプロダクティブヘルス&ライツ)を大切に尊重する国であってほしい。

https://gendai.media/articles/-/64837?media=frau
22歳の彼が避妊をしてくれなかった…女子高校生のリアルな性の現状

安全に「アフターピル」を入手できるようにするために



遠見 才希子

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