奈良市内に建立された安倍晋三元首相の慰霊碑「留魂碑(りゅうこんひ)」を巡り、SNS(交流サイト)で悪質なコラージュ画像が出回っている。自民党奈良県連会長を務める高市早苗経済安全保障担当相は14日の記者会見で、「ただのコラージュ画像といわれても、容認し難い」と述べ、「惨劇の現場となった奈良県の者は、大変つらい思いをしている。安倍氏を守ることができなかったという痛恨の思いだ」と説明した。
問題の画像は留魂碑の写真を合成する形で、碑の前に多数のゴミ袋を積まれているものだ。県連有志が留魂碑の建立にあたって懸念したのが、こうした碑をおとしめる行為だった。
高市氏は会見で、慰霊碑の設置について「場所は当初、事件現場近くも考えたが、悪い想像をすると、ペンキをかけるなどの被害、トンカチで破損されるような被害が起きてしまってはいけない。だから(不特定多数の人が訪れない)霊園内とした」と語った。
留魂碑は今月1日、銃撃現場の近鉄大和西大寺駅から約5キロ離れた若草山のふもとにある霊園「三笠霊苑」に建立し、除幕した。そばに防犯カメラを設置し、警備員が巡回している。
昨年7月の銃撃事件直後から、高市氏ら奈良の関係者は慰霊碑の設置を目指してきた。ただ、2カ月後に行われた安倍氏の国葬(国葬儀)に対する反対運動が広がり、奈良市は10月、市としての慰霊碑の現場への設置は見送る方針を表明した。
自民関係者は複数の案を検討しつつ、実行に二の足を踏んだのが実情だ。慰霊碑を建てても安倍氏を快く思わない人や愉快犯に碑が傷つけられる恐れがあったからだ。
建立に関わった高市氏の周辺でも今年6月中旬、「ペンキで汚されたり、トンカチで壊されたりするようなことは耐え難い。これ以上、安倍氏を汚すことはならない」と述べ、多数の注目を集める一周忌に合わせた設置は難しいとの声が広がっていた。
高市氏側は昨年秋から別の懸念も抱えていた。今年4月の県知事選だ。知事選は高市氏が総務相時代に秘書官を務めた元総務官僚と、県連の一部が支持する高齢の現職がそれぞれ出馬し、保守分裂を招いた。高市氏が建立を主導する形にみられれば、他方から反発を招き、計画が頓挫する恐れもあった。
一連の状況を踏まえ、現場に居合わせた参院議員や民間人らは直前まで、留魂碑の計画を大半の県連幹部に伝えず、水面下で進めた。
関係者の多くは安倍氏への銃撃を防げなかった悔恨の念を抱えていたという。事件現場で安倍氏を介抱した地方議員は事件後、現場を訪れることを避けた。「目をつむると、苦しんでいる安倍氏の顔が浮かんでくる」という。