離婚後共同親権導入について、その是非の判断も含めより慎重な検討を求める会長声明(千葉県弁護士会)ありしん@共同親権反対ですありしん@共同親権反対です2024年3月26日 21:43PDF魚拓



離婚後共同親権導入について、その是非の判断も含め
より慎重な検討を求める会長声明



1 2024年(令和6年)2月15日、法制審議会において、「家族法制の見直しに関する要綱」が取りまとめられ、これに基づき同年3月8日に民法の一部を改正する法律案(以下、「改正案」という。)が国会に提出され、同月14日に国会での審議が始まった。
 改正案においては、離婚後に父母双方が親権を行使する、いわゆる離婚後共同親権が導入されることとなっている。現行民法では、離婚をする際には父母の一方を親権者と定めなければならないところ(民法819条1項、2項)、離婚後共同親権が導入されると、離婚後も、単独親権のほか、父母の双方を親権者と定めることができることになる。共同親権となった場合、子の監護及び教育に関する日常の行為を除き、進学、医療、居所指定等の重要な事項の決定については共同親権者である父母双方の許可が必要となる。

2 しかし、離婚後の共同親権が導入されると、共同親権という名の下で、高葛藤父母の間でもいわば共同養育が強制される可能性が否定できず、かえって子の利益を害する可能性が高いことや、子の重要事項に関する意思決定について家庭裁判所の関与が激増し、負担増大が見込まれる一方で、家庭裁判所の人的・物的体制の強化がいまだ不十分であって、子に不利益が生じうるとの観点から、離婚後の共同親権の導入は、その是非の判断も含め、より慎重に検討されるべきであると考える。

(1) 離婚紛争の長期化
 当事者間で親権者が決まらない場合は、家庭裁判所が判断することになるところ、現在の単独親権制度の下であれば、子の年齢、監護の状況、監護の継続性、安定性、子の意思等、長年の家裁実務で積み上げられた親権者判断の基準により、父母の一方を親権者と定めることができる。
 しかし、共同親権が導入されると、裁判所は2段階の審理を要することになり、審理の長期化が懸念される。すなわち、裁判所は、2023年(令和5年)2月のパブリックコメント(以下、「裁判所意見」という。)において「父母の双方を親権者とするか一方を親権者とするかについて、要件該当性を判断し、次に、父母の一方を親権者とする場合には、父母のいずれかを親権者と定めるかを判断するという2段階の審理を要する上に、前者の争点を審理する段階では後者の争点について調査官調査を実施することができずに紛争が長期化するおそれがあ」る、としている。しかも、単独親権とするか、共同親権とするか、その判断基準については不明確である。

(2) 子の重要事項に関する意思決定が停滞してしまうこと
 離婚後共同親権では、進学、医療、居所指定等の重要な事項に関し、父母双方の許可が必要とされるが、それぞれ具体的にどの程度の重要性を持つ、どのような事項について親権者双方の許可が必要か不明確である。そうすると、何が「重要な事項」かという前提段階で紛争が勃発してしまうことも考えられ、そもそも協議のスタート地点に至ることができないこともあり得る。
 加えて、離婚に至る多くの夫婦は高葛藤状態にあり、子に関する事項だけ協力体制を築けるかというと、決して現実的ではない。結果的に、子にとって重要な事項の意思決定が停滞する上、離婚前と同様に子が父母の紛争下に長期間おかれてしまうことで、子が精神的な負担を負い続けることにもなってしまう。
 この点、父母の協議が調わない場合には、家庭裁判所が父母の一方が単独で決定することができる旨定めることができるとされているが、現状、家庭裁判所にそれだけの役割を担わせることは困難である。「裁判所意見」において、判断に緊急を要する場合であっても「当事者双方の主張立証ないし意見聴取に加え、審問や子の意向調査等があり得るとすると、裁判所の審理・判断には相応の期間を要し、調停手続の利用を前提とすればその期間も要するほか、不服申立ての手続も考慮すると、親権の行使が必要となる時期までに適切な審理を尽くすことができる制度となるかについては慎重な検討を要する」と、実務上の観点から具体的な懸念を表明しており、子の重要事項に関する意思決定が停滞してしまうおそれは払しょくできない。

(3) 離婚後も虐待や DV の影響を受け続けるリスクがより高まること
 改正案においては、父母が対立状態でも家庭裁判所が共同親権を命じることができるとされた。一方、裁判所が単独親権を命じなければならない場合は、子に対する虐待がある場合、または、父母間に DV がある場合とされた。
 しかし、虐待や DV は密室で行われる傾向にある上、精神的DV等においては客観的証拠を取得しづらいことから、その立証は容易ではない。その結果、裁判所が虐待や DV を看過して共同親権を命じてしまうおそれがある。
 また、協議の離婚であっても、早期の離婚を望む DV 被害者は、離婚を急ぐあまり加害者の求めに応じて共同親権を選択せざるを得ない状況に追い込まれてしまうリスクもある。そうすると、加害者が子に関する重要事項の決定をするという名目で、DV 被害者や子に関与し続けることが可能になり、被害者や子の心身が危険にさらされ続ける可能性が高い。

3 一方で、現行の離婚後単独親権制では、養育費の未払いが生じやすくなる、非親権者と子との面会交流が十分に実施できないこと等から子の利益を害している、との指摘がある。
 しかし、養育費に関しては、現行民法上、離婚後も親は子に対し扶養義務を負っているのであるから、養育費の支払義務があるのはいわば当然であって、新たに共同親権制が導入されることによって養育費の支払義務が発生するわけでもなく、また、支払いが確保されるものでもない。養育費の確保は、国の立替制度の導入を含め福祉的な観点からアプローチすることが肝要であり、共同親権の導入は的外れの議論である。
 さらに、面会交流に関しては、子の福祉に鑑み各家庭の様々な事情を総合的に考慮することによって条件等を協議していくべきものであるから、共同親権を理由として子と面会しやすくなるという性質のものではないし、現行法上、面会交流を求める調停・審判手続を利用して面会の条件等を協議することは十分に可能である。むしろ、現行の制度をより充実するものにすべく、司法予算の拡大や面会交流支援機関の充実等を図っていくことが目的に資するであろう。

4 以上のとおり、当会は、離婚後共同親権の導入については、その是非の判断や、よりいっそう子の利益に資するための制度設計の検討が必要とされることに鑑み、慎重に検討が重ねられるべきであると考える。

以上

2024年(令和6年)3月26日 

千葉県弁護士会 会長 菊 地 秀 樹

https://note.com/arisin/n/n37230e8bb689
離婚後共同親権導入について、その是非の判断も含めより慎重な検討を求める会長声明(千葉県弁護士会)


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