「内密出産」国内初の事例から2年 熊本市の慈恵病院が会見12月21日 18時01分. 熊本・慈恵病院「内密出産」、2年で21人…親の虐待・過干渉などの過去「特に配慮が必要」2023/12/22 07:01.「説得ではなく勇気づける支援を」内密出産2年 慈恵病院が会見大貫聡子2023年12月22日 10時00分. 内密出産、法整備進まず「じゃあ自分たちで」腹くくり…慎重だった熊本市も支援に動き出す2023/10/19等内密出産法制化の必要性伝える記事PDF魚拓


妊婦が医療機関だけに身元を明かして出産する「内密出産」について、国内で初めてとなる事例から今月で2年となるのにあわせ、熊本市の慈恵病院の蓮田健院長が記者会見し「内密出産は、赤ちゃんの生命と健康、お母さんの健康と安全を目的としていることを理解してほしい」などと改めて述べました。



熊本市の慈恵病院は、予期せぬ妊娠をした女性の自宅などでの「孤立出産」を防ぐため、病院だけに身元を明かす「内密出産」を独自に導入しています。



病院によりますと、内密出産の国内で初めての事例があったおととし12月から今月までの2年間で、いずれも県外に住むあわせて21人の妊婦が内密出産で赤ちゃんを出産したということです。



このうち、12例は母親の匿名を維持している一方、9例は出産後に身元を明かして内密出産を撤回したということです。



病院の蓮田院長は初めての事例から2年となるのにあわせて、21日に記者会見し、「2年でさまざまなケースを経験した。内密出産は赤ちゃんの生命と健康、お母さんの健康と安全を守ることが目的だと理解してほしい」と述べ、改めて重要性を強調しました。



病院では内密出産をした女性に聞き取りを行っていて、理由を尋ねたところ、ほとんどが「親に知られたくない」と答え、虐待や過干渉などにより親との関係がうまくいっていないケースが多かったということです。



蓮田院長は、内密出産を撤回したとしても、女性たちが対人関係に不安があるなど現実的に育てることが難しい場合がみられるほか、公的なサポートがぜい弱であることなどを指摘しました。



蓮田院長は、各都道府県に1か所の内密出産に対応する医療施設の設置や、国に対して内密出産の法整備をするよう求めていきたいとしています。

「内密出産」国内初の事例から2年 熊本市の慈恵病院が会見

12月21日 18時01分


熊本市の慈恵病院は21日、病院の担当者にのみ身元を明かす「内密出産」を新たに7人が利用したと発表した。2021年12月の最初の出産以降、約2年間で21例となった。21人のうち半数近い9人は出産後に身元を明かして内密出産を撤回し、子を引き取るなどした。出産後に「産んだ子を育てたい」などと愛情が芽生えたためとみられる。
初事例からの2年間を振り返る蓮田理事長(右)(21日午後、熊本市の慈恵病院で)

 2年の節目に合わせて蓮田健理事長が病院で記者会見し、21人の居住地域や利用した理由、生まれた子の処遇などを明らかにした。全員が熊本県外在住の成人(18歳以上)で、19歳以下が8人、20~29歳が12人、30歳以上が1人。家族関係は全員が「厳しい」とし、内密出産を希望した理由は、「母親に知られたくない」が8人、「親に知られたくない」が7人だった。「宗教問題」「戸籍に入れたくない」「不倫」と答えた女性もいた。来院して24時間未満で5人が出産。帝王切開は2人で、本人の同意だけで行った。8割近い16人は妊婦健診を受けていなかった。

 21人のうち9人は、出産3日後から2か月後までの間に翻意して身元を明かし、匿名性を撤回した。6人は自ら養育したいと申し出て、残る3人は特別養子縁組を希望した。病院が説得したわけではなく、自ら望んだという。

 匿名性を維持している12人が産んだ子では、2人については特別養子縁組が成立。5人は特別養子縁組の手続き中で、5人は乳児院や慈恵病院で育てられている。

 利用した女性は全員、親らの虐待や過干渉、ネグレクト(育児放棄)といった問題を抱えていたといい、蓮田理事長は「内密出産を利用した母親には特に配慮が必要で、途切れのないフォローをしなければならない」と述べた。

熊本・慈恵病院「内密出産」、2年で21人…親の虐待・過干渉などの過去「特に配慮が必要」

2023/12/22 07:01


 病院の担当者だけに身元を明かして出産する「内密出産」。国内で唯一取り組む慈恵病院(熊本市西区)の蓮田健院長と蓮田真琴新生児相談室長は21日の会見で、初事例から2年たち、見えてきた女性たちの傾向や課題があると語った。

 病院によると内密出産に至った女性21人のうち、18人は「家族(母親、父親など含む)に知られたくない」ことが最も大きな理由だった。「宗教問題」「不倫」「戸籍に入れたくない」を挙げた女性も1人ずついた。親が過干渉であるケースも目立つという。

 蓮田真琴新生児相談室長は、女性の共通点について「みんな必死であること」と話す。相談の中で慈恵がなければどうするのか女性に尋ねると「一人で産んで一緒に死ぬ、殺すかもしれない、という言動が見られる」と言い、「身元を明かして産むという選択肢がない人が来ている」と指摘した。

 全国に妊娠相談窓口が増えたことについて、蓮田院長は「喜ばしい」と評価しつつ、身元を明かすよう説得する対応が見られると指摘。匿名出産を法制化するフランスなどでは女性に選択肢を説明して勇気づけるスタンスなのに対し、日本では「孤立した女性から見れば『私を助けてくれない』ということになる」心配があるとして、「せめて、熊本に匿名での支援体制があることを伝えていただきたい」と望んだ。

 慈恵病院では匿名で子を預かる「こうのとりのゆりかご」にも取り組むが、内密出産は女性にとって最も危機的な期間を職員が伴走することになるため、「お母さんの支援と、赤ちゃんの人生のスタートのお手伝いもしなければならない。当院のマンパワーでは1カ月に1件のペースが適正」という。そのため、同様に取り組む施設が増えることを望んだ。21例でかかった費用は約1200万円で、全額病院が負担した。

 生まれた赤ちゃんのその後については、今月1日現在で特別養子縁組が2人、特別養子縁組成立にむけて準備中が8人、実母や親族が養育している子が2人、里親1人、乳児院2人、慈恵病院に入院中が3人、不明が3人。赤ちゃんは出生直後から、特別養子縁組を前提とした里親につなぐまでの約6カ月を乳児院で過ごすが、「泣いたら抱っこしてもらえる家庭的な環境が望ましい。養育専門の里親の元で過ごしてほしいが、その受け皿がない。その開拓は行政や私たちの課題です」とも話した。(大貫聡子)

「説得ではなく勇気づける支援を」内密出産2年 慈恵病院が会見

大貫聡子2023年12月22日 10時00分


慈恵病院理事長 蓮田健さん<6>



 慈恵病院は2006年、親が養育できない子を匿名で託す「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を開設すると表明した。当時、産婦人科部長だったが、それを知らされたのは発表の1週間ほど前。報道で事の重大さを知り、身震いがした。

赤ちゃんポスト・内密出産・無料の食堂、赤字だけど…「子どもたちのために」熱い思い

こうのとりのゆりかごの前で「女性たちは必死の思いでここまで来る」と話す蓮田さん(9月22日、熊本市西区で)

 当初は「子の遺棄を助長しかねない」と懐疑的だった。預けられたひとりぼっちの赤ちゃんを見つめ、「親は何をしているんだ」と憤りすら覚えた。

 ただ、ゆりかごの前で立ち尽くしたり、一緒に訪れた家族と泣いていたり、すがる思いで慈恵病院にたどり着いた事情を何度も聞くうちに、少しずつ心境が変化していった。「養育する力が及ばなかったんだろう。悪くは言えない」と考えを改めた。

 意義を感じるようになった一方で、懸念もあった。自宅などで一人で出産し、遠方から訪れる事例が相次いだためだ。「危険な孤立出産を誘発している」との批判も多く、できれば孤立出産は避けたいと思っていた。

 解決策の一つとして、ゆりかごを検証する熊本市の専門部会が17年に提言したのが「内密出産」だ。ドイツでは、妊婦が公的機関に実名を明かし、仮名で出産できる内密出産制度が一定の成果を上げていた。「それができれば、孤立出産を防げる」

 国に導入検討を求めた提言だったが、法整備が進まない現状に、「じゃあ自分たちで担おう」と腹をくくった。19年12月、内密出産を受け入れると発表した。

 生まれた子の戸籍作成などで行政の協力が不可欠だが、熊本市は「法整備が必要」と慎重で、実施を控えるよう求められた。それでも、内密出産だから救える命があると信じていた。21年12月、初の内密出産が行われたのはそんなときだった。

 市に報告すると、大西一史市長(55)が「直接会って話を」とひそかに病院を訪れた。「抱いてください」。生まれたばかりの赤ちゃんを、そっと渡した。

 「その温かさに命の重さを感じた。『生まれてきて良かったんだよ』と、可能な限り支援しなければと思った。蓮田さんの行動力に突き動かされた」。大西市長は、こう振り返る。

 市はその後、「現行法で出来ることを」と支援に向けて動き出した。課題は少なくないものの、病院と市で検討会を共同設置し、子の出自を知る権利について話し合っている。

内密出産、法整備進まず「じゃあ自分たちで」腹くくり…慎重だった熊本市も支援に動き出す

2023/10/19 16:00道あり 蓮田健さん


慈恵病院理事長 蓮田健さん<8>



 100年以上の歴史を持つ慈恵病院(熊本市)だが、少子化が進み、経営は楽ではない。親が養育できない子を匿名で託せる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」や、病院の担当者だけに身元を明かす「内密出産」の運営は、どうしても赤字が避けられない。利用する女性たちに費用の負担を求めていないためだ。それでも、「経営者がぜいたくをしなければ続けられる」と覚悟を決めている。

孤立出産する女性の混乱、法廷で証言…殺人や遺棄の悲劇を減らすことにつながると信じて

匿名での出産を受け入れているフランスの県立病院を視察する蓮田さん(左)(11日)=岡林嵩介撮影

 さらに支援を広げようと、昨年、受け入れる方針を明らかにしたのが「匿名出産」という仕組み。内密出産と異なり、病院にも身元を明かさないのが大きな特徴となる。子が出自を知る権利を確保できなくなることなど多くの課題があるが、「誰にも知られずに出産したい」との願いに向き合いたいと考えている。今月には、出自情報を国が管理し、全ての産科病院で匿名での出産を受け入れているフランスを視察した。

 子どもたちのために、出来るかぎりのことをしたいとの思いは、出産時にとどまらない。

 病院では2016年から、毎週木曜日に「子ども食堂」を開き、地域の子どもに無料で食事を提供している。ゆりかごへの預け入れ理由として「生活困窮」が多かったことがきっかけだった。「子どもには何の責任もないのに……」。経済的に困窮する家庭の支援につながればと、突き動かされるように始めた。病院の看護部長や、妻・真琴さん(46)らも料理を振る舞う。これまでに380回を超え、多い時で70人ほどが訪れる盛況ぶりだ。

 預け入れられた子らの特別養子縁組や里親制度にも関わっている。17年には夫婦で里親として登録した。「子どもが泣き、つらい姿を見ると、何もせずにはいられないんです」。熱い信念を胸に、優しいまなざしを注ぎ続ける。

 (岡林嵩介が担当しました)

赤ちゃんポスト・内密出産・無料の食堂、赤字だけど…「子どもたちのために」熱い思い

2023/10/21 12:00道あり 蓮田健さん



慈恵病院理事長 蓮田健さん<7>



 9月20日、松山地裁(松山市)で開かれた裁判員裁判。白衣ではなく、灰色のスーツにネクタイを締め、弁護側の証人として証言台に立った。

赤ちゃんポスト・内密出産・無料の食堂、赤字だけど…「子どもたちのために」熱い思い

松山地裁で証言を終えた蓮田さん(9月20日、松山市で)=岡林嵩介撮影

 被告は33歳の女性。竹林で独りで産んだ男児を、置き去りにして殺害したとして、殺人罪に問われていた。孤立出産などに関する弁護人の質問に答え、「陣痛のストレスは相当なもの。パニックになり、対応力も低くなる」と状況を証言した。

 親が養育できない子を匿名で託す「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」は、殺人や死体遺棄を防げないという批判にさらされてきた。

 「彼女たちはなぜ、ゆりかごを使わなかったのか」。存在を知らない。遠い。病院まで来るお金がない――。理由を知りたいと、2年ほど前から裁判の傍聴を始めた。

 インターネットに「赤ちゃん」「遺棄」といったキーワードを設定し、関連記事が自動で通知されるようにしており、事件を知ると、現地の弁護士会に手紙を送って支援を申し出ている。これまでに4回、証言台に立ち、5件の意見書を書いてきた。

 松山地裁の裁判員裁判では、母親には軽度の知的障害があったことが明かされた。事件への影響が争点となり、女性の精神鑑定を自ら手配した。

 「被告を救いたいという思いはあるが、減刑してと言っているわけではない。背景を理解した上で判決を出してほしい」との思いからだった。

 鑑定を担当した精神科病院「人吉こころのホスピタル」(熊本県人吉市)の地域連携医長、興野康也さん(47)は、「まっすぐな情熱には心を打たれる」と話す。

 刑事裁判では、同じような状況を抱えて陣痛で混乱し、事件に至ってしまう女性を何人も見てきた。だからこそ、陣痛を迎える前に病院で保護する必要があると切実に思う。

 「自分が裁判に出て社会に注目されることで、事件を起こしてしまう女性たちの背景を知ってほしい」。悲しい事件を減らすことにつながると信じ、活動を続けている。

孤立出産する女性の混乱、法廷で証言…殺人や遺棄の悲劇を減らすことにつながると信じて

2023/10/20 12:00道あり 蓮田健さん