人間という生き物は、なかなか生まれ変われないものだ。
辞意を表明した川勝平太静岡県知事は3年前の11月、不適切発言をめぐって県議会で辞職勧告決議が採択された直後、「猛省する。来年は生まれ変わると富士山に誓った」と語ったが、やはり生まれ変われなかった。このとき知事は、参院補選の応援で、対立候補の地盤である御殿場市について、「コシヒカリしかない」とやって県民の顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。今回は、「毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかとは違い、基本的に皆様方は頭脳、知性の高い方たち」と、県の新人職員を持ち上げた。
権力に弱すぎるNHK
どこをどう読んでも職業差別発言だが、ご本人はそう思わなかったようだ。2日夕、知事の発言に怒った県民らから抗議の電話が県庁に殺到したことについてこう語った。
「それは読売新聞のせいだと思っています」
少し解説が必要だろう。知事の発言は、1日に行われた県の新規採用職員に対する訓示で飛び出した(このとき小紙記者は別の取材で立ち会っていない)。
普通の報道機関なら、知事の発言を問題視して即、記事にするところだが、地元の静岡新聞やNHKはそうはしなかった。
リニア中央新幹線建設を妨害してきた川勝知事を紙面で強く「支持」してきた静岡新聞が、「いつもの川勝節だ」と黙殺するのもあり得るだろう(「報道しない自由」もあるからね)が、国民の受信料で成り立っている「皆様のNHK」が、知事に忖度(そんたく)してどうするのか。
1日午後7時8分に配信されたNHKのネット記事では、「川勝知事 新人職員を前に能登半島地震などを踏まえて訓示」という見出しで、知事の訓示をかなり詳しく紹介しているが、「牛の世話」のくだりは、一字も載っていない。
川勝発言が炎上したのは、読売新聞が2日午前にネットで配信してから。小紙も知事発言の全容をつかみ、午前中から産経ニュースで報じた。NHKが本格的に知事発言を報じたのは、知事が辞意を表明してからだった。まあ、毎度のこととは言いながら、NHKは権力に弱すぎる。しかもその権力者が、地位を離れることがはっきりすると、徹底的に叩(たた)く。このような報道を続けるなら受信料制度をやめて「国営放送」にした方が、よほどすっきりする。
「自分の責任果たした」
それにしてもリニア中央新幹線建設をめぐる彼の抵抗ぶりは、常軌を逸していた。4期15年に及んだ川勝県政に、日本全体が振り回された。
JR東海が、令和9年の開業断念を正式に表明したのを見届けた彼は、立憲民主党の渡辺周衆院議員に「自分の責任は果たした」と述べた。リニア中央新幹線の開業を大幅に遅らせることが、自らの使命と考えていたのである。
彼は若いころ、「農村が都市を包囲する」毛沢東理論に傾倒し、知事に就任後も中国の習近平国家主席が唱える「一帯一路」構想に諸手(もろて)を挙げて賛成している。このような人物を4回も知事選で当選させた県民の責任は大きい。次の知事選こそは人物を見極めて投票していただきたい。(コラムニスト)