メルマガvol.129 「初の逮捕者、AV出演被害防止・救済法の違反容疑について ~ぱっぷす解説と評価~」とAV新法に対する東京新聞記事PDF魚拓


2022年12月、AV出演被害防止・救済法による初めての逮捕者が出ました。遡ること10年前の、2012年からAV出演被害者の相談支援に取り組んできた私たちにとって、これは重要な出来事です。複数の大手マスメディアにも報じられました。(文末に参考リストあり)



ぱっぷすに相談を寄せられるひとには「この法律はあなたを守るための法律です」と伝えています。この法律ができるまではAV出演者の被害防止・救済に関する有効な法が整備されていませんでした。今回の逮捕について、2022年12月6日の報道によると、概要は以下のとおりです。 



●11月12日、映像制作会社役員がわいせつ電磁的記録媒体陳列罪で警視庁保安課により逮捕、起訴。

●12月6日までに、AV出演被害防止・救済法違反容疑で警視庁保安課により再逮捕。

●容疑者は容疑を認めており「簡単に利益が出て手軽だった」と供述。

●AV出演被害防止救済法の違反容疑での摘発は全国で初めて

●出演した女性は無修正での販売だと聞かされていなかった

●さらに、出演した女性に契約書類を交付していない”無契約”での出演だった

●2021年8~10月の間に7回にわたり契約書を交付しなかった疑い

●契約書を渡さなかった場合、6カ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される

●警視庁は同じような被害が出ないよう摘発を続ける方針






無修正AVとは、出演者の性器にモザイクをかける修正が行われていないAVのことです。無修正AVを頒布(はんぷ=広く行き渡らせる)ことは、刑法 175条「わいせつ物の頒布の罪」に抵触する違法行為です。出演者が刑法 62条「ほう助犯」で逮捕される可能性があることも制作者は知っていたはずです。しかし、出演者はそうしたリスクについて説明されず、違法行為に巻き込まれてしまったのでしょう。



契約書類を交付していない無契約での出演ということは、自分が出演したAVがどこで公開するのか、どのように販売されるのか、時期や期間などを出演した本人が確認することができません。それらの重要事項も伏せて撮影・販売し、巨額の利益を得ている悪質性が高い事件です。



容疑者の逮捕は、AV出演被害防止・救済法 6条によるものと思われます。有罪が決まれば、6か月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(21条2項)に処せられます。 

「制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。」(AV出演被害防止・救済法6条(出演契約書等の交付義務))

AVの販売は以前はDVDでしたが、現在はストリーミング・ダウンロード販売が主流となっています。2015年ごろからインターネット高速接続が容易になったことで、アダルト動画販売プラットフォーム等を活用して、個人がAVを作成して販売するほうが荒稼ぎできてしまう状況が続いていました。



「個人撮影 / 個撮 / 個撮案件」や「同人AV / 同人AVモデル」などのキーワードで検索すると愕然とさせられます。現状ではFC2コンテンツマーケットなどが温床となっているようです。



上記のキーワードについて、Twitterでハッシュタグをつけて検索をすると違法なスカウトが行われていることもわかります。アダルトビデオ出演は公衆道徳上の有害業務として扱われているので、職業紹介・あっせん・派遣はできないはずです。しかし、SNSなどを使ったAV出演への斡旋について取り締まりなどは行われていません。ナンパと称したAVのスカウトについても、大阪の繁華街では積極的に取り締まりを強化しているようですが、東京の繁華街では野放しの状況が続いていることを確認しています。警察は取り締まりを強化すべきではないでしょうか。



AV出演被害防止・救済法では、動画販売をするプラットフォームの本拠地が国内か海外かどうかに関係なく「差し止め請求権」を行使することができます。 無修正で販売された場合は、刑法 175条「わいせつ物頒布の罪」に違反することになります。民法 90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」により契約自体が無効となりますが、契約が無効になったあとも販売が続く悪質なケースもあります。




こうした場合にAV出演被害防止・救済法 15条「差し止め請求権」によって、販売を完全に停止させられるようになりました。この法律は被害救済のための法律です。

  

2022年6月にAV出演被害防止救済法が施行されてから、ぱっぷすには毎月10数件のAV出演被害に係わる相談が寄せられています。 現時点では、法律が施行する前に出演・販売されたAVについての相談が多く寄せられており、無契約の出演被害の相談もあります。



無契約のAV出演について悩んでいる方に知ってほしいのは、この法律が施行する前に出演したものであっても「差し止め請求」ができる場合があります。相談員が詳しく話を伺って、然るべき手続きをして販売停止を実現できた例もあります。内閣府にさまざまな資料があるのでご自身で直接交渉してもいいですし、ぱっぷす経由で交渉することもできますのでご相談ください。(「キャンセル代がかかるよ」などと言って任意解除を妨げられた場合には、AV出演被害防止・救済法 20条「任意解除の妨げ」になります。ご相談ください。)





AV出演被害防止・救済法ができてから初の逮捕者がでたので、この法律が今後の抑止力になることを願っています。そして、さらなる被害の防止と被害救済のためには、この法律を改正しなければならない部分はまだまだあることも認識していますので、今後も注視してまいります。相談される方には「この法律はあなたを守るための法律です」と伝え続けます。






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2022年は前年の倍のペースで新規相談が増えています。

寄せられる相談に対応するため、支援体制の強化を急いでいます。




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(参考) NHK「「AV新法」適用 全国で初の検挙 出演者に契約書不交付か」(2022/12/06)

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20221206/1000087372.html

読売新聞「無修正」と伝えず違法AV撮影か、出演女性「知っていれば出なかった」(2022/12/06)

https://www.yomiuri.co.jp/national/20221206-OYT1T50201/

産経新聞「AV新法違反疑い初立件、映像制作会社役員を再逮捕」(2022/12/6)

https://www.sankei.com/article/20221206-RFM34WFFUFOTHOOWBC7NCZ26AA/

日経新聞「AV新法違反疑い初立件 会社役員、契約書不交付か」(2022/12/6) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF060JQ0W2A201C2000000/

朝日新聞「「AV新法」初適用 出演女性3人に契約書渡さなかった疑いで逮捕」(2022/12/6)

https://digital.asahi.com/articles/ASQD63CJ0QD6UTIL002.html

東京新聞「AV新法違反疑い初立件、警視庁 映像制作会社役員を再逮捕」(2022/12/6)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/218227

TBS NEWS DIG「「今でもトラウマ、一生消えない傷に…」出演強要被害の女性語る AV新法で初摘発 容疑者は「無修正と説明しておらず」」(2022/12/6) https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/223215?display=1

朝日新聞「AV被害防止法初摘発 経営者、契約書不交付疑い」(2022/12/7)

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15495528.html

時事ドットコム「AV出演被害防止法で初摘発 契約書不交付疑い、男を再逮捕―警視庁」(2022/12/06)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120600305&g=soc

↓ぱっぷすが取材に応えている記事 時事ドットコム有識者「業務に自覚を」 AV出演被害防止法で初摘発(2022/12/06) https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120600993&g=soc

メルマガvol.129 「初の逮捕者、AV出演被害防止・救済法の違反容疑について ~ぱっぷす解説と評価~」

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/pdf/seiritsu_joubun.pdf

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/pdf/seiritsu_furei.pdf





若者らへのアダルトビデオ(AV)出演強要問題で、被害者救済に取り組むNPOなど6団体は9日、1年間の契約解除期間を設ける与党の対策では不十分として、いつでも契約を解除できるよう法案の見直しを求める要望書を与野党に提出した。



 4月からの成人年齢引き下げに伴い、未成年を理由に後からAV出演契約を取り消せなくなった18、19歳の出演被害の増加が懸念されている。与党は、年齢を問わず救済するため、撮影終了日から1年間の無条件の契約解除や、撮影から公表まで3カ月置かなければならない規定を盛り込んだ法案を検討している。

 被害者支援に当たるNPO法人「ぱっぷす」など関係団体は9日、与野党のPT(プロジェクトチーム)の合同ヒアリングに「AV事業者による人権侵害の根絶を目指し有効な法律の手当を強く求める」とする要望書を提出した。

 要望書では、被害者が心的外傷後ストレス障害(PTSD)で死に追い込まれた事例もあると指摘。18、19歳は無条件、無期限の取り消し権や解除権を認めるよう訴えた。(佐藤裕介)

【関連記事】これではAV出演強要を防げない…「未成年者取消権」使えず 政府・国会は一刻も早く法整備を

AV出演強要対策の与党案は「不十分」 NPO法人「ぱっぷす」など6団体が強化訴え

2022年5月9日 20時07分



18、19歳の若者が、アダルトビデオ(AV)の出演契約を取り消すことのできる「未成年者取消権」が、1日から使えなくなった。成人年齢が18歳以上に下がったためだ。AV出演被害者の支援団体が求めてきた立法措置は間に合わなかった。早くから問題が指摘されながら、動かなかった政府や国会の不作為責任は大きい。(特別報道部・大杉はるか)

 「暗黒の春がやってきてしまった。相談に来られた時に、なんと答えればいいのか」。AV出演被害者の相談や、拡散された映像の削除要請などの活動をしているNPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長は落胆する。

 成人・未成人問わず、だましや強要などの違法な手口で、本人が不本意なままAVに出演した場合、違法性を立証できれば、民法などに基づき、出演契約を取り消せる。だが、AV制作会社側は、合意の上の契約かのような「証拠」を残すため、実際に取り消すのは難しいという。

 ぱっぷす相談支援員の岡恵さんによると、制作会社側が作る契約書は、「制作者(など)から事実に反する説明をされたり、違約金請求などの脅迫を受けたことは一切ありません」など合法的契約であることを強調する内容が多い。

 しかし、スカウトや求人サイトでアルバイトに応じた若者が、言葉巧みにサインさせられ、断ると高額の人件費やスタジオ代を請求されるケースも多い。カメラの前で契約書を読まされ、SNS上に「がんばります」などの前向きな言葉を残させられることもある。

ある制作会社のAV出演承諾書

 契約書という文書での証拠に対し、だましや圧力めいた物言いは電話や対面など証拠に残らず、法的な対抗手段になりにくい。その点、未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は取り消すことができる(民法5条)という「未成年者取消権」は、未成年限定ながら、被害立証を必要としない強力な対抗措置だった。

 「取り消されると、制作側は遡及して映像の配信や販売の停止を求められるため、強い抑止力になってきた」と金尻さん。「これまで未成年がスカウトで業界入りしても、実際AV出演させるのは20歳以降が多かった。これがいきなり18歳から出演させられる。今後も飲酒や喫煙、ギャンブルは20歳まで禁止なのに、AV出演の解禁はおかしい」

◆動かなかった政府・国会 「問題の深刻さ、把握遅れた」

 金尻さんらは2014年から、この問題を訴えてきた。では、政治の側は気付いていなかったのか。

 実は、成人年齢を引き下げる民法改正案を審議していた18年6月。当時の上川陽子法相は「(AV出演強要について)現行制度で、十分か否かは、政府も検討を続けなければならない喫緊の課題だ」「法的体制、対策も含めて検討し、実現してまいりたい」と答弁していた。

 だが、その後、政府や国会では立法化の具体的な取り組みはなかった。与野党が議員立法の検討を始め、国会でも取り上げられるようになったのは3月下旬になってから。ある野党議員は「この問題の深刻さを把握するのが遅れた」と反省する。

 同月31日の参院内閣委員会で津島淳法務副大臣は「放置していいかという認識では全くない。穴が開くと心配している」と答弁。ぱっぷすらがその前日、議員会館を訪れ、改めて立法措置を求めた際には、対応した自民党の井出庸生衆院議員が「取り組みたい」と応じ、公明党の佐々木さやか参院議員も「根本的には法律がないと解決しない事案だ」と語った。ただ具体的な時期は見通せない。

 金尻さんは「明らかに不作為。18、19歳の被害者を出さないためにも、一刻も早く応急処置をしてほしい」と訴える。

【関連記事】「高校生のAV出演、主流になりかねない」NPO法人が強要被害を懸念 4月からの成人年齢18歳引き下げに警鐘

AV出演強要対策の与党案は「不十分」 NPO法人「ぱっぷす」など6団体が強化訴え

2022年5月9日 20時07分



 4月から成人年齢が18歳に引き下げられると、アダルトビデオ(AV)出演の強要といった被害が若年層に広がるのではと懸念する声が上がっている。18、19歳が結べるようになる契約は多様になるが、本人が後から契約を取り消すことのできる「未成年者取消権」は対象外となるからだ。性的搾取防止に取り組む支援団体は23日に集会を開き、「被害をなくすための立法的な解決を」と訴えた。(中村真暁)

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◆絶えない若い女性のAV出演強要被害

 「スカウトに声かけられてない?」「相談窓口やってます」。3月上旬の夜、NPO法人「ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)」(東京都文京区)のスタッフ5人が新宿・歌舞伎町の路上にいる女性たちに声を掛けて回っていた。

スタッフと一緒に歌舞伎町の夜回り活動に向かうNPO法人ぱっぷすの金尻カズナ理事長(右)=4日、東京都新宿区で

 マスクや弁当と一緒に配っていたのは、AV出演強要などの問題を伝える啓発チラシだ。歌舞伎町には常時、AV女優や風俗業へ勧誘するリクルーターが100人はいるとされ、ぱっぷすは約1年前から週2回、歌舞伎町で女性たちの声に耳を傾けてきた。

 AV出演強要を巡っては、若年女性の被害が絶えない。ぱっぷすには、16歳ごろに路上やネット上で勧誘され、水着写真の撮影や動画配信に従事させられた後、児童買春・ポルノ禁止法で規制されない18歳のタイミングでAV出演を強要されたといった相談が多数寄せられている。

 それでも未成年者取消権を行使すれば、映像配信や商品の流通を止められる。ぱっぷすでも、何度も被害を抑制してきた。金尻カズナ理事長は「成人年齢が引き下げられれば、被害が低年齢化し、18歳を迎えた高校生のAVが主流になりかねない」と危ぐする。

◆コロナ禍で新規相談が急増

 特に新型コロナウイルス禍では新規相談が増加し、2020年度は19年度の1.5倍の約280件に。21年度は約620件に上る。外出自粛の影響で家庭に居場所を失ったり、経済的に困窮したりした女性を狙い、AV業界などへの勧誘が増えたという。

スタッフと一緒に歌舞伎町の夜回り活動に向かうNPO法人ぱっぷすの金尻カズナ理事長(右)

 東京・永田町で開かれた23日の集会では金尻さんのほか、AV出演強要の被害経験がある社会活動家のくるみんアロマさんが「当時の私は20歳を超えていたが、18、19歳の人が冷静な判断で勧誘を断れるだろうか。(当時の)動画などはネットから消えない。消えない苦悩だ」として、若年層への予防啓発の必要性を訴えた。

 業界関係者も自主規制を進める。業界団体などでつくるAV人権倫理機構(新宿区)は23日、女優の契約や撮影について「20歳に達してからとすることを強く推奨する」とのルールを公表。18、19歳でデビューする場合も、「とりわけ丁寧な意思確認」を行うとした。

【関連記事】消費トラブル増加の懸念 4月からの18歳成人

「高校生のAV出演、主流になりかねない」NPO法人が強要被害を懸念 4月からの成人年齢18歳引き下げに警鐘

2022年3月24日 06時00分


インターネット上にあふれる過激な性描写のアダルトサイト。会員制交流サイト(SNS)経由で子どもが性犯罪に巻き込まれる事件も後を絶たない。子どもの妊娠などの問題に関わってきた産婦人科医ら専門家は性教育の重要性を指摘するが、保護者にとって性の話題はハードルが高い。望まない妊娠を避け、子どもを性犯罪の被害者、加害者にしないため、上手な教え方を学びたい。 (細川暁子)

 さいたま市の母親(48)は昨年七月、親子兼用のタブレット端末を見て驚いた。目に入ってきたのは、アダルト系のアニメサイト。嫌がる少女を男性が押し倒して性行為をする場面が描かれていた。中学一年の長男(13)に問いただすと、サイトを見たことを認めた。

 「年ごろの男の子が性に興味を持つのは自然だが、レイプのような性描写は見過ごせない」。母親は、妊娠の可能性がある性行為は責任が伴うことや互いの同意が必要であることなどを教えた。子どもがネットに簡単にアクセスできる今、「親が性教育をする必要性を感じた」という。長男は「母と話し、女性を大切にしなきゃいけないという気持ちになった」と話す。

 「アダルトビデオ(AV)やアダルトサイトがセックスの教科書になっている」と警鐘を鳴らすのは、全国の学校で性教育をする河野産婦人科クリニック(広島市)院長の河野美代子さん(72)だ。河野さんはAVの影響を受けた男性の乱暴な行為で、性器にけがをした十~二十代の女性を多く診てきた。AVではコンドームを使わず膣(ちつ)外に射精する描写もよくあるが「これでは避妊できない」。これまでに河野さんのクリニックを受診した性交経験のある十代の女性七百九人のうち、膣外射精をされた人の三割近くが妊娠していた。

 厚生労働省の「衛生行政報告例の概況」によると二〇一八年度、二十歳未満の人工妊娠中絶件数は一万三千五百八十八件。十五歳未満も百九十件と、心と体に負担がかかる手術を受けている若い女性が少なくないことが浮き彫りになった。

 性教育はこうした事態を避けるのに不可欠だ。しかし、中学校の保健体育の学習指導要領では、妊娠に至る行為や避妊は扱わないとしている。「寝た子を起こすな」といった批判は根強いが、河野さんは「きちんと教え、子どもを守るのは大人の責任」と強調する。

 妊娠した小学五年の女児を診察した時のことだ。相手は中学生。女児は自分が性交渉をしたという事実さえ理解しておらず、周囲も妊娠したことに気付かないまま中絶できる期間が過ぎていた。そのまま出産。生まれた赤ちゃんは特別養子縁組をした家庭で育てられることになった。

 「性教育は、性に対して抵抗感のない三~十歳のうちに行うといい」と話すのは、元看護師・のじまなみさん(38)=埼玉県和光市=だ。「お母さん!学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!」(辰巳出版)の著書があるのじまさんは、親子を対象に「とにかく明るい性教育・パンツの教室」を各地で開く。

 性について話しやすいのは互いに裸になるお風呂の時という。のじまさんらは、水着で隠れる部分と口、胸を合わせて「水着ゾーン」と呼ぶ。「『水着ゾーン』は大切な場所」と伝えると子どもも理解しやすい。「そこを無理に見たがったり、触りたがったりする人は危険だし、自分もそんなことをしてはいけない」と教える。万が一何かされたら逃げる、必ず大人に伝えるよう言い聞かせるといい。

 「命の大切さや相手を思いやる心をはぐくむことができるのが、性教育」とのじまさん。自身も三人の娘たちに、妊娠・出産の仕組みを説明しながら「生まれてくれてありがとう」という言葉を伝えたという。

性犯罪からどう守る 「水着ゾーン」は触らせない

2020年1月10日 02時00分


2022年4月1日から、民法の改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。明治時代以来、約140年ぶりの変更で、高校生を含めた10代の若者が「大人」としてさまざまな契約ができるようになる。一方で、トラブルの増加を心配する声も。これまでと何が変わるのか、改めて押さえておきたい。 (河郷丈史)

◆ローン契約可能に

 法務省によると、民法が定める成人年齢には「一人で契約できる」「父母の親権に服さなくなる」という意味がある。このため、成人年齢に達すると、親の同意がなくても携帯電話の契約をしたり、クレジットカードを作ったり、一人暮らしのために賃貸住宅を借りたり、ローンを組んで高額な商品を買ったりと、さまざまな契約が可能となる。

 ただ、全国の消費生活相談窓口に寄せられるトラブルの相談は、成人して間もない二十代前半で急増する傾向にある。二〇年度の年齢別の相談件数で、未成年の十八〜十九歳の平均が四千八百二十件だったのに対し、二十〜二十四歳は一・六倍の七千七百四十一件に上った。

 「成人後に被害が急増する大きな要因の一つは『未成年者取り消し権』が使えなくなること」と国民生活センター。未成年が親の同意を得ずに契約をした場合、成人とうそをついたなど一部のケースを除き、契約を取り消すことができるという民法の規定だ。成人年齢の引き下げ後は十八、十九歳に未成年者取り消し権が適用されなくなるため、トラブルの増加が心配される。

◆高校での教育充実

 成人直後に目立つのは、エステや脱毛などの美容サービス、もうけ話をうたう副業サイトや投資商品、情報商材などの契約を巡るトラブル。インターネットの情報を見て自ら連絡したり、会員制交流サイト(SNS)で知り合った人物や友人から誘われたりしたことがきっかけで、契約時にお金がなくても、消費者金融や学生ローンで借金をさせられたり、クレジットカードで支払わされたりする場合もあるという。身近な契約やお金について、十代のうちから理解を深めることが重要となっている。

 来年四月から始まる高校家庭科の新学習指導要領では、契約の重要性や消費者保護の仕組みといった消費者教育に関する内容を充実。家計管理への理解については、株式や債券、投資信託などの金融商品の特徴や、資産運用の視点に触れることが盛り込まれた。

◆識者に聞く 考える「態度」必要

 成人年齢の引き下げにどう備えればいいか。日本消費者教育学会会長で、椙山女学園大教授の東珠実さん(61)=写真=に聞いた。

 18歳になれば高校生でも消費者として責任を負うことになるため、契約やお金に関する最低限の知識が必要となる。ただ、難しい法律の知識などを学ぶ必要は必ずしもなく、契約に対する正しい「態度」を身に付ければいい。

 相手に誘われるままに勢いで契約をするのではなく、よく考える。「必ずもうかる」といったあり得ない話を持ち掛けられたとき、「変だな」と気付いて、すぱっと断れる。シンプルなことだが、これができるだけでもトラブルは減る。

 もしトラブルに遭ったら、大切なのは相談機関に相談すること。未成年者取り消し権が使えなくても、さまざまな消費者保護の仕組みがある。相談は自分の被害を回復するだけでなく、他の人が新たに被害に遭うことを防ぐことにもつながる。

消費トラブル 増加懸念 18歳成人 来年4月から

2021年7月22日 07時37分