日本で外国人実習制度廃止との報道と韓国の雇用許可制。







「技能実習」廃止を提言 政府有識者会議が新制度創設求める2023/4/17福祉新聞



技能実習制度「廃止」の言葉を疑う2023/4/19Newsweek


技能実習制度「廃止」の言葉を疑う2023/4/19Newsweek


技能実習制度「廃止」の言葉を疑う2023/4/19Newsweek

多くの問題が指摘されてきた外国人技能実習制度の「廃止」にまで踏み込んだ報告書のたたき台が示された。私もまずは好意的に受け止めたのだが......



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外国人技能実習制度の見直しを目的とする政府の有識者会議で、4月10日に制度の「廃止」にまで踏み込んだ報告書のたたき台が示された。 【動画】海外メディアにおすすめ旅行先として紹介される日本 技能実習については、1993年の創設以降、深刻な人権侵害を含むさまざまな問題が指摘されてきた。少なくない実習生が来日前に多額の借金を抱え、悪質な事業者に当たっても転職すら許されないという仕組みに苦しめられてきた。 国際貢献の建前と人手不足の穴埋めという実態の乖離も隠しようがなく、いよいよ政府として大きく動かざるを得ないところまで追い込まれたと言える。 このニュースに対しては歓迎の声が多く飛び交った。私自身、技能実習の問題についてたびたび発信してきた経緯もあり、「廃止」という言葉をまずは好意的に受け止めた。 だが、会議で政府の事務局側が示し、有識者らも概ね賛同したとされる文書を読んで、それが技能実習の「廃止」という一言で済ませてよいような、そんなすっきりした内容ではないことが残念ながらすぐに分かった。 文書はこれまで有識者たちから出た多様な意見をまとめつつ、それを踏まえて今後の「検討の方向性」を示す形になっている。曰く「技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである」。 これを読めば誰でも「廃止」に目が行くわけだが、注目したいのはむしろ「人材育成」という言葉だ。 ポスト技能実習の新制度の目的を人材「確保」だけにするか、それとも「育成」も残すのか。そうしたせめぎ合いの末に「育成」が残った。この点こそが重要だと私は考えている。 理由を説明しよう。 そもそも現在の見直し論議の出発点となった古川禎久法相(当時)の昨年7月の発言はどうだったか。「長年の課題を歴史的決着に導きたい」としつつ、「国際貢献という目的と人手不足を補う労働力としての実態が乖離しているとの指摘はもっともだ」と述べている。 つまり、日本が途上国に対して「人材育成」で貢献するという建前の崩壊への認識こそが最初にあったわけだ。
そこまで「育成」に固執する理由は「転籍」か

それにもかかわらず、制度の廃止を打ち出した今回の文書にはなぜかしぶとく「育成」が残った。違和感を持たないだろうか。 (1)人材の「確保」に目的を変更した新制度に置き換えるのでもなく、(2)人材の「確保」を目的に最近作られたばかりの特定技能制度に一本化するのでもなく、(3)人材の「確保」と「育成」を目的とする新制度を作ってそこに置き換えようとする。 政府はなぜそこまで「育成」に固執するのだろうか。 そのヒントは、転籍(転職)について触れた次の箇所にあるかもしれない。 「新たな制度においては、人材育成そのものを制度趣旨とすることに由来する転籍制限は残しつつ(略)従来よりも転籍制限を緩和する方向で検討すべきである」。つまり、「転籍制限の緩和」を制限する論理として「育成」が持ち出されているのだ。 ここには外国人に上から目線で「育成してあげる」と言いながら、その同じ言葉で自由を奪ってきた技能実習の欺瞞的なあり方が残響してはいないだろうか。 新制度への移行は本当に「廃止」の名に値するのか、まだまだ注視が必要だ。 望月優大 <4月25日号掲載>

技能実習制度「廃止」の言葉を疑う2023/4/19Newsweek


技能実習制度の廃止で人材確保へ新制度案 カギは斡旋機関の健全化2023/4/25サンデー毎日


技能実習制度の廃止で人材確保へ新制度案 カギは斡旋機関の健全化2023/4/25サンデー毎日

日本の外国人労働者政策に大きな動きがあった。政府の有識者会議は4月10日、「外国人技能実習制度」の廃止と、それに代わる人材確保を目的にした新制度の創設を求める中間報告を取りまとめた。  同制度について今まで指摘されてきた主な課題は、①「技能移転による国際貢献」という目的になっている一方、実態は人材確保の手段と化し、本音と建前が乖離(かいり)している、②多額の借金を背負って来日する事例や、劣悪な労働環境でも職場を変更できず失踪する事例がある──などだ。  中間報告では新制度の目的を「人材確保」と明確化し、①の課題を解消するめどが立った。さらに、外国人により長く働いてもらうため、「特定技能」など他の在留資格への接続やキャリアパス(昇進の道筋)について言及した。  有識者会議には今秋にも取りまとめる最終報告に向け、国境を越える人の移動を活性化し、人材確保を促す方策として、母国や日本で培った技能・経験を評価する仕組み(技能の国家間相互承認や、技能検定の海外展開など)も併せて検討することを期待したい。  他方、②の課題は、本音と建前が乖離するために発生した技能実習制度に特有の課題であるかのように指摘されてきた。しかし、そうではないことが先行事例から示唆されている。  ◇韓国、台湾でも  例えば、低熟練業務に従事する外国人労働者を「実習生」ではなく「労働者」として受け入れる韓国や台湾でも、入国前の借金、ブローカーの介在、劣悪な労働環境、職場離脱(失踪)、半強制的な妊娠中絶など、技能実習制度と同様の事象が起きている。つまり、②の課題は、実習か労働かという受け入れ国側の制度目的にかかわらず、特に中・低熟練労働者の国境を越える労働移動に共通する事象といえる。  これを踏まえた課題の一つとして、企業と人材をつなぐ仲介斡旋(あっせん)機関をいかに健全化するかがカギとなる。受け入れ企業(多くは中小・小規模事業者)が海外在住の中・低熟練労働者を直接採用することは、双方の語学力や必要な諸手続きの困難さなどからほぼ不可能であり、両者をつなぐ仲介斡旋機能が求められる。
国が当該機能をすべて担う制度を運用する韓国では、相応の公費がかかっている。受け入れ人数の拡大を見込めば、この形は持続可能と考えにくい。そこで、民間の仲介斡旋機関の活用が必要になるが、当然コストがかかり、複数の仲介者が介在すると手数料の総額が膨らむため、何らかの管理が求められる。  中間報告は、日本側の仲介斡旋機関に当たる監理団体と登録支援機関の要件厳格化を盛り込んだ。だが、要件をパスした後の運用健全策は今後の検討課題だ。その具体策としては、法令順守状況などの外形的な基準を定めた上で、適正な機関への諸手続きの優遇、減税、表彰が挙げられよう。 (加藤真・三菱UFJリサーチ&コンサルティング副主任研究員

技能実習制度の廃止で人材確保へ新制度案 カギは斡旋機関の健全化2023/4/25サンデー毎日



外国人の単純労働者を受け入れる方便として使われてきた技能実習が、開始から30年たってようやく見直される。人権侵害の温床と批判されてきた制度を廃止し、労働者の確保を目的とした新制度を作るという。日本で働けば大金を稼げるとは必ずしも言えない時代となり、韓国など近隣国との労働者獲得競争も激しくなっている。技能実習を参考に同様の制度を作ったものの、19年前に見切りを付けた韓国の状況をあらためて考えてみたい。

国際移住機構から評価される「雇用許可制」

 韓国は1993年、日本をモデルに「産業研修生」制度を始めた。だが、労働者としての権利が保護されない制度には問題が大きいと判断され、2004年には単純労働者だという実態を認める「雇用許可制」に移行した。

 雇用許可制の特徴は、政府管理下での受け入れということだ。政府が各業界からの要望に基づいて、製造業や農畜産業など業種別の年間受け入れ数を決める。その上でベトナムやタイなど労働者を送り出す国と政府間協定を締結し、悪質なブローカーを排除しようとした。

 国際移住機構(IOM)から「先進的な移住管理システムだ」と評価される雇用許可制だが、実際には試行錯誤の面がある。滞在期間は当初、最長で4年10カ月とされたが、期間満了になっても帰らず不法滞在になってしまう人が続出した。そのため一定の条件を満たす場合には、いったん帰国した上で韓国へ戻れる制度となった。改めて4年10カ月滞在できるので、現在は最長9年8カ月にわたって働けることになる。

 2018年には永住を視野に入れた「熟練技能(別名:点数制)ビザ」が創設された。雇用許可制などで一定期間働いた人を対象にしたビザで、年収や保有資産、韓国語能力、納税の有無などで点数を積み上げる。毎年の発給人数が決められており、高得点者からビザを取れる。400人から始まった人数は徐々に増やされており、22年は2000人、23年には5000人となった。

 韓国の外国人政策に詳しく、『移民大国化する韓国』という共著を昨年刊行した聖学院大の春木育美教授は日韓の共通点として、①少子化や高学歴化によって、労働集約型の低賃金職場や中小企業を若者が敬遠する、②非熟練労働者への門戸開放といった政策転換が進められている――ことを挙げる。「移民の受け入れではない」という建前を維持しようとしてきたのも、両国の共通点だという。

 日本の技能実習では自由に職場を移れないことが問題とされるが、韓国の雇用許可制でも転職には一定の条件が課されている。業種を超えた移動はできず、職場を移る回数にも上限がある。どちらの制度も家族の呼び寄せを認めておらず、この点からも「一時的な滞在」という制度設計になっている。

 ただ前述した「熟練技能ビザ」を取得できれば家族の呼び寄せも可能で、春木教授は「事実上の移民受け入れ」だと指摘する。尹錫悦政権は「出入国・移民庁」創設の方針を打ち出しており、「移民」を正面から認める政策転換に踏み出す可能性もある。

中国東北部に150万人の朝鮮族

 韓国で雇用許可制と並行して進められたのが、中国や中央アジアに住む韓国系の人々を労働者として呼び込むことだ。当初は大卒のホワイトカラーなどといった制限付きだったが、2007年に単純労働もできるビザが導入された。バブル景気にわいた日本が南米の日系人に就労可能なビザを出したのと同じ発想である。

 特に大きかったのは、中国東北部で自治州を持っていた約150万人といわれる朝鮮族の存在だった。朝鮮語(韓国語)を日常的に使い、食を含めた生活習慣も近いから、韓国社会になじみやすい。今では、約204万人(20年末)の在留外国人の3割超にあたる約65万人を朝鮮族が占める。

 朝鮮族には言葉の壁がないため飲食店や宿泊業などのサービス業や、家政婦や介護といったケア労働に就いている人が多い。専門職などに就く韓国人女性の場合、朝鮮族女性を住み込みの家政婦として雇い、食事の用意や子どもの世話までを頼るケースが珍しくない。

 ただ朝鮮族の出稼ぎ労働者の3割以上が60歳超で、新たに韓国へ来る人は減っている。韓国で稼いだお金を使って子供には高等教育を受けさせるという人が多いため、朝鮮族の単純労働者は減少していくとみられている。

韓国の「社会統合」政策を学ぼう

 韓国の取り組みで日本と大きく異なるのは、社会統合を進める政策だろう。韓国では07年に外国人処遇基本法が制定され、政府予算による施策が進められるようになった。現在は、外国人の単純労働者を対象にしたワンストップ支援センターの拠点が9カ所、民間委託などで運営する地域センターが35カ所に開設されている。

 センターは、各種の行政サービスや相談、生活支援などに15の言語で対応する。さらに韓国語教室やパソコン講座もあり、ほぼ無料で受講できる。韓国語教室は、韓国語教育の資格を持つ教師による本格的な授業だ。

 そして、春木教授が「韓国のイメージ管理という観点から優れている」と評価するのが「ハッピー・リターン・プログラム」という講座だ。外国人労働者を対象に、帰国後に役立つ職業訓練などを提供する。気持ちよく帰国してもらい、韓国のファンを増やそうという仕組みになっている。

 19年に「特定技能」を新設した日本もワンストップ支援窓口の整備を目標にしてはいるものの、現状は全国で3カ所のみ。日本語教育は地域のボランティアに多くを頼っているのが実情だ。外国人労働者に日本を選んでもらうためには、韓国の取り組みを参考にさまざまな施策を重ねていく必要があるのだろう。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230421/se1/00m/020/001000d

日本より進んでいる韓国の外国人労働者政策を知る 澤田克己



澤田克己氏・毎日新聞論説委員

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/11436.pdf