2024年6月3日時点東京新聞さんとNHKさんの非同意強制型離婚後共同親権導入の民法改正案の問題点指摘の記事PDF魚拓



 離婚後の父母がともに子の親権を持つ共同親権を可能にする民法などの改正案が19日、参院本会議で審議入りした。衆院では、父母が親権を決める際、力関係に差があって合意を強いられることを防ぐため、付則が修正されており、参院の審議では修正内容に沿った運用が担保されるかなどが焦点となる。(大野暢子)





◆「DVや虐待の再被害生む」

 本会議では野党から共同親権導入への懸念が相次いだ。立憲民主党の石川大我氏は「法案は当事者である父母の合意がなくても、裁判で共同親権となる制度だ」と問題視。日本維新の会の清水貴之氏は「ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の再被害が生じるという不安の声がある」と指摘した。

 小泉龍司法相は、家裁が共同親権か単独親権かを判断する際に父母の合意より、子の利益を重視して決めると強調。DVや虐待の恐れには「親権の共同行使が困難な場合、裁判所は必ず単独親権と定めなければならない」と述べた。

 改正案は共同親権となるケースを事実上、厳格化する修正を行った上で、自民、公明、立民、維新、国民民主各党などの賛成多数で衆院を通過。共産党とれいわ新選組は反対した。 

 ◇  ◇

◆世論の理解、道半ば

 参院で19日に審議入りした離婚後の共同親権を導入する民法などの改正案は、どんな時に一方の親だけで決められる日常行為に含まれるかなど分かりにくい点が多く、制度への世論の理解は道半ばだ。父母の一方が拒んでも共同親権になり得る仕組みが妥当かや、子の安全・安心を守れるか、人手不足の家裁に適切な対応が取れるかなど、参院で議論を深めなければならない課題は多い。 

 父母が話し合いで共同親権を決めた場合だけでなく、意見対立で親権の在り方を合意できなくても家裁の判断次第で共同親権になり得ることに対しては、衆院で賛成に回った野党からも懸念が消えない。



◆立民の主張、衆院では修正に反映されず

 立憲民主党は衆院での改正案の修正協議で「父母の合意がない場合は共同親権を認めるべきでない」と主張したが、修正には反映されなかった。共産党はこの件を重くみて衆院で改正案に反対した。

 同じく反対したれいわ新選組は声明で「子の重要事項を決める度に別居する親の顔色をうかがわなくてはいけなくなり、同居親と子の心身の負担が増大する」と訴え、子どもへの心理的な悪影響を危ぶむ。

◆新規の家事事件は10年で3割増し、迅速に対応できるか

 紛争を解決する場となる家裁の役割が高まるが、人手が足りているとは言い難い。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)に迅速に対応して子の安心・安全を守れるかも焦点だ。

 国民民主党の川合孝典氏は19日の参院本会議で「裁判所の体制や民間に依存した避難など、支援が極めて脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘した。同様の不安は与野党に残っているが、政府から実のある答弁は聞かれなかった。

 最高裁によると、家裁が扱う新規の家事事件は2012年の約85万件から、22年に約114万件に増加。調停の平均審理期間は、18年の6カ月から22年には7.2カ月に伸びた。改正案が成立すれば26年までに施行され、共同親権への変更申し立てや、共同親権の父母が子の養育で対立した際の調停なども家裁が担う。

 首都圏の家裁で調停委員を務める女性弁護士は取材に「既に事件が多すぎて家裁は手いっぱい。子の人生を左右する判断が遅れたり、虐待の危険が見過ごされたりしないか」と案じた。

共同親権「離婚した父母の合意がなくても適用」に懸念相次ぐ 家裁は人手不足、参院審議入りも課題山積

2024年4月20日 06時00分


離婚後も両親の双方が子の親権を持つ「共同親権」の選択を可能とする民法などの改正案は、19日から参院での審議が始まります。改正法が成立すると、離婚後は父母の一方のみが親権を有する現行制度からの大きな転換となります。離婚後の共同親権を導入することで、子育ての環境はどう変わるのでしょうか。(大野暢子)





◆合意に至らなければ家裁が決定

 Q そもそも親権とは。

 A 子の世話や教育、どこで暮らすかの決定、財産の管理などを行う親の権利・義務のことです。予防接種や手術の同意、アルバイトの許可も含みます。現行法は婚姻中の父母にはともに親権があり、離婚後の親権は一方にあると定めています。親権を持つひとり親は現在、単独で子育ての判断ができますが、共同親権では元配偶者との協議が必要な場面が生じます。

 Q それはどのようなケースですか。

 A 例えば、緊急性の低い医療行為や引っ越し、パスポートの取得などは原則、片方の親だけでは決められなくなります。話し合っても合意に至らなければ家裁が決定します。

 Q 常に育児の相談をする必要まではないということですか。

 A 食事や子の習い事の選択、ワクチン接種、アルバイトの許可などの日常的な行為に加え、「急迫の事情」がある場合は不要です。

 Q 「急迫」とは。

 A 協議や家裁の手続きを経ていては、子の利益を害する恐れがあるときです。緊急手術や入試の結果発表直後の入学手続き、暴力からの避難などです。

◆協議離婚では父母が話し合いで選択

 Q 離婚後は一律に共同親権になるのですか。



 A 協議離婚なら父母が共同か単独かを話し合いで選びます。裁判で離婚する際は、家裁が親子や父母の関係を踏まえ、子の利益になる方に決めます。

 Q 既に離婚した人は法改正と無関係ですか。

 A 共同親権に変えるための申し立てはできます。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れ、正当な理由のない養育費不払いは、変更が認められない理由になり得ます。

◆判断の遅れなど懸念材料も

 Q 改正の理由は。

 A 離婚で子と疎遠になった親らに、単独親権しか認めていない現行法への不満が強いためです。離婚後も子育てで助け合う父母が増えれば、子の利益になるとの期待もあります。

 Q 課題は。

 A 離婚する父母は感情的な対立が深いことも多く、子が紛争に巻き込まれ続けたり、子を巡る重要な判断が遅れたりすることを懸念する声もあります。

<Q&A>離婚後の「共同親権」導入で子育てはこう変わる ワクチン接種やパスポート取得、引っ越しは

2024年4月19日 06時00分


離婚後の父母がともに子の親権を持ち続ける共同親権を導入する民法改正要綱案。父母が協力して子育てを続ける機運の高まりが期待される一方、自民を含む与野党には導入への慎重論もある。離婚後の家族のあり方を大きく変えかねないだけに、条文案が固まる前から議員らの激論が交わされている。

◆超党派の勉強会で想定される課題を確認



 「子どもが海外に修学旅行に行く際、親権者がパスポートの発行を拒否したら、どうなるのか」「対立が増え、日々の暮らしで大変なひとり親が裁判所に通わなければならなくなる」

 9日に開かれた超党派議員の勉強会では、導入後に想定される課題に関する意見が相次いだ。発起人は、自民党の野田聖子元総務相と立憲民主党の福山哲郎元幹事長。両党と日本維新の会、共産、社民の各党から計14人が参加し、法務省の見解や子連れで離婚した人たちの意見を聞いた。

◆立民・福山哲郎氏は「前提に無理がある」

 野田氏は「性別による対立や中傷が起きやすいテーマ。親のエゴでなく、子どもの利益に資するための冷静な議論が必要だ」と求めた。福山氏は子どものころ、父から母へのドメスティックバイオレンス(DV)があり、自宅から逃げた経験を明かし「本当にみじめで、恐怖だった」と語った。要綱案は、人格の尊重や協力を明記したが「それができる相手なら離婚や紛争にならない。法案の前提に無理がある」と訴えた。

◆与党は「意義を丁寧に伝えないと」「議論尽くすことが重要」

 共同親権を巡っては、導入を推進する超党派の共同養育支援議連(会長・柴山昌彦元文部科学相=自民)もあり、所属政党にかかわらず議員間で賛否がある。

 自民の法務部会関係者も「党としては推進が基本姿勢だが、意義を丁寧に伝えないといけない」と漏らす。公明党の山口那津男代表は13日、記者団に「不安を招かないように議論を尽くすことが重要だ」と語った。

◆共産・田村智子氏「子どもの視点欠く」

 共同親権の導入推進を公約する維新は、独自法案の提出も模索。藤田文武幹事長は14日の記者会見で「強引に押し切るのではなく、絡んだ糸をほぐしながら前進させたい」と説明した。共産党の田村智子委員長は同日の会見で「そもそも『親権』という考え方は子どもの権利の視点を欠く。大本の議論が必要だ」と語った。(大野暢子)

「共同親権」本当に導入する? 推進の自民内部にも慎重論 公約の維新「強引に押し切らない」

2024年2月16日 06時00分


法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会は30日、離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」を導入する民法改正要綱案をまとめた。離婚後は父母の一方のみが持つ「単独親権」に限る現行法を改め、父母の協議や裁判所の決定により共同親権の適用も可能になる。離婚後の子育てのあり方が大きく変わろうとする中、3年弱に及ぶ検討作業に携わった関係者や、離婚・離別を経験した親らは今、何を思うのか。(大野暢子)

◆DVなど念頭に共同親権を適用しない場合も



街頭で共同親権の導入に反対する人々

 離婚後の父母の双方に親権を与えることを可能にする民法改正は1898年の明治民法施行後、初めて。要綱案に沿った法改正が行われると、父母は協議離婚の際に、共同親権か単独親権かを選ぶことができるようになる。

 協議が整わなければ、裁判所が子の利益のため、親子や父母の関係などを考慮して「単独」か「共同」かを決める。要綱案ではドメスティックバイオレンス(DV)や虐待を念頭に「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」や「父母の一方が他方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれ」などが認められた時、裁判所は共同親権を適用しないと整理している。

◆子に関わる権利と義務を協力して果たす

 要綱案では、父母の一方が単独で親権を行使できる場面として
(1)一方のみが親権者であるとき
(2)他の一方が親権を行うことができないとき
(3)子の利益のため急迫の事情があるとき

の3つを定義した。

 親権とは、子の身の回りの世話や教育、どこに住むかの決定、財産管理などを行う親の権利と義務のこと。要綱案に沿った法改正が行われれば、離婚後に共同親権となった父母は、一方の親権行使が不可能な場合と急迫の事情がある場合を除き、双方が協力して、こうした権利・義務を果たすことになる。法務省幹部は「共同親権となった父母は、離婚後も子の重要なことはできるだけ話し合ってもらう必要があるだろう」と見通す。

◆3委員が要綱案に「反対」



 家族法制部会では30日、要綱案への裁決が行われ、賛成多数で了承された。参加委員21人のうち、3人が反対を表明。慎重派委員の訴えをきっかけに加わったDV・虐待を防ぐ取り組みの必要性などを盛り込んだ付帯決議は、内容が不十分だとして2人が反対した。

 部会の議論は非公開。出席者によると、部会長の大村敦志・学習院大法科大学院教授は了承に当たり、「全会一致が望ましかったが、今回は(異論が残り)採決になったほか、通常ではあまり実施しない付帯決議も付けた。異例だと思っている」との所感を語った。

 要綱案は、2月の法制審総会で決定された後、小泉龍司法相に答申される見通し。政府は今国会への法案提出を目指している。

 要綱案の中身について、離婚・離別を経験した人々からはさまざまな思いが聞かれる。

◆子と会えていない男性、いずれ裁判も検討

 「妻との関係が破綻したことは受け入れる。ただ、子どもとの関係は別だ」。約3年半前、妻が2人の子を連れて家を出て以来、子と直接会えていないという関東地方の男性は、取材にこう心境を述べた。

 男性は「子には父母の両方に育てられる権利がある」と考え、共同親権の導入に賛成してきた。今後、裁判で妻が親権者となったら、将来的に共同親権を求めて家庭裁判所に申し立てることも検討している。

 「離婚後も2人で子育てするという選択肢を法的に保障するのが共同親権。父母の話し合いも、親権争いに重きを置いた対立一辺倒ではなくなるはずだ」と期待する一方、要綱案には不安も抱く。「親権を決める際、子の意見を尊重するということが書かれていない。親に会いたくない子が無理に会わされ、会いたがっている子が会えないということが起きるのではないか」

◆転居も元夫の許可制になる恐れが…



共同親権を導入する要綱案の了承に抗議する法制審議会家族法制部会の委員ら

 離婚後に元夫とトラブルになり、現在は住所を伝えずに高校生の子を育てているという女性は「共同親権になったら転居も元夫の許可制になるおそれがある」と危機感を強めている。「今の生活で精いっぱいのひとり親を、これ以上追い詰めないでほしい」というのが願いだ。

 実務家らの懸念も根強い。弁護士有志は1月24日、特に非合意型の共同親権は子へのリスクが高いとして、要綱案了承に反対する申し入れ書を法務省に提出。30日には、司法書士約2000人が参加する「全国青年司法書士協議会」も共同親権導入への反対を表明した。

◆父母双方の署名を求める場面が増えると…

 要綱案の了承を受け、元家裁調査官の熊上崇・和光大教授(司法犯罪心理学)は「共同親権が導入されると、医療機関や教育機関がトラブルを避けようと、子への対応に父母双方の署名を求める場面が増えるだろう」と指摘。父母の合意に時間がかかれば、子が不利益を受けると危惧し、「部会の議論は、これらのリスクへの検討がまったく不十分だ」と批判した。

 法制審部会は2021年春以降、離婚後の親権のあり方を計37回にわたって検討し、賛否を巡って時には激しい議論が交わされた。22年12月~23年2月に実施されたパブリックコメント(意見公募)では、共同親権と単独親権が併記され、団体からの意見では「共同」、個人からの意見では「単独」を支持する意見が多いなど賛否が割れた。

◆福祉分野の議論はほぼ手付かず

 部会は23年4月、複数の委員が最後まで慎重意見を訴える中、共同親権導入の方向性をまとめた。当時は話し合いで合意した父母への適用が想定されていたが、法務省は23年6月、父母が対立状態でも家裁の判断次第で共同親権の適用を可能にする制度案を示した。

 法務省幹部は取材に「慎重論にも配慮しつつ、丁寧に議論を重ねてきた」と強調する。要綱案には離婚後に養育費が支払われない問題への対策として、別居親への「法定養育費」の義務化も盛り込まれたが、委員の一人は「部会の性質上、民法の範囲内での議論にとどまった。子の利益に直結する福祉分野の議論はほぼ手付かずで、忸怩(じくじ)たる思いだ」と語った。

「共同親権」導入へ議論3年、欠けていた「子の利益」の視点 離婚を経験した親たちの不安は消えず 

2024年1月31日 06時00分


 離婚後共同親権は、離婚で子と疎遠になった親らの間で導入を望む声が高まり、2011年の民法改正時に衆参両院の付帯決議に「検討」が明記された。法務省幹部は「離婚後も、協力して子育てする父母が増える可能性がある」と期待される利点を話す。

 導入を求めてきた立命館大の二宮周平名誉教授(家族法)は、離婚後の面会交流や養育費の支払いが十分でない背景に、単独親権しか認めていない現行制度があると指摘。「子が父母双方に養育される権利を保障する必要がある」と話す。

 さらに「父母は未練や執着、反発から抜け出し、子のために協力するビジネスパートナーのような関係を築くべきだ」と強調。離婚する父母に「親ガイダンス」の受講を義務付けるなど支援体制の充実も求める。

◆「生活がもっときつくなる」大きい負の側面

 一方、元配偶者と距離を置きたいと考えるひとり親らにとって、共同親権の導入は負の側面が大きい。

 「子を巡る係争が増え、生活がもっときつくなる」。共同親権に関する都内の集会に参加した女性は涙声でこう語った。

 ささいなことで激高する夫は妊娠中、子に障害があると分かると「おまえの責任だ」と女性を責めてきた。別居後、夫が申し立ててきた面会交流調停にかかる弁護士費用や、精神的な苦痛からうつを発症したことで必要となった通院費など、100万円超の負担がかかったという。

◆虐待などの物証を示せなければ、元配偶者との関係継続



 約150の個人・団体が参加する「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」によると、同様の相談が離婚トラブルの経験者からやまない。虐待などをする親は共同親権の対象外とされても、被害者が物証を示せなかった場合に共同親権が適用され、元配偶者との関係を続けざるを得なくなるケースが想定されるからだ。

 関係者によると、19日の法制審部会では、原案の内容におおむね賛同する声が相次いだ。一方で、複数の委員から「実際に子を世話する親の安全・安心を守る規定がない」などと慎重な意見もあった。

◆法制審部会委員内にも「原案は拙速」の声

 お茶の水女子大の戒能(かいのう)民江名誉教授、ひとり親支援のNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長の2委員は、原案への意見書を提出した。共同親権では父母の紛争が続いて子に悪影響が出ると危惧し、「共同親権は父母の真摯(しんし)な合意がある場合に限定するべきだ」と主張。現段階での要綱案の採決は「拙速だ」として、来年1月以降も議論を継続するよう求めた。

「父母の紛争が続けば子どもに悪影響」 共同親権議論大詰めの法制審 離婚トラブル経験者らがなお不安なことは…

2023年12月25日 06時00分



6日の部会では、裁判で父母のどちらが親権を持つのか合意できない場合の制度設計などを議論した。法務省はこれまでの議論を踏まえた上で、たたき台として、単独親権と共同親権のどちらが▽子の利益になるのか▽子の世話を円滑に行えるのか▽子や父母の安全を害する恐れがないのかーなどを考慮した上で、裁判所が判断するという制度案を初めて示した。同制度案が採用されれば、父母のどちらかが反対しても、共同親権が適用される可能性もある。

 関係者によると、この制度案について、民法の専門家らを中心に「父母が合意できるかどうかよりも、子の利益が優先されるという考え方は自然だ」など、支持する意見が目立った。その一方、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者らへの影響を懸念する複数の委員からは「父母が合意できたケースに限り、共同親権を認めるという話ではなかったのか」「意見対立時の共同親権の強制は危うく、議論すること自体が不適切だ」などの批判が出た。

 共同親権を巡っては、別居親が子育てに関わりやすくなり、子の利益になるとの意見がある一方、DVや虐待の被害が続く恐れがあるとの見方もある。部会は、今月下旬の次回会合でも今回と同じテーマを引き続き議論し、秋以降に法相に答申する改正民法の要綱案に反映させる方針。 (大野暢子)

父母の合意なしで共同親権の適用も? 裁判所が判断との新制度案、法務省が初めて提示

2023年6月7日 18時15分


 法制審議会の29日の部会で、離婚後も父母双方が子の親権を持ち続ける「共同親権」の導入に向けた民法改正案の方向性が示された。早ければ来年の通常国会での法改正で、離婚後の親権は父母のいずれかが持つという現行制度が大きく変わる可能性がある。諸外国の類似の制度から、共同親権の利点や課題を探った。(大野暢子)

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◆定着したアメリカ「両親に養育されることが子の利益」



親子(写真はイメージです)

 離婚後も両親が共に子を育てる仕組みが定着しているのは米国だ。離婚数が増加し、男女平等の原則が普及していった1970年代以降、共同監護法が各州に広がり、これまでにほぼ全土で立法化されている。

 両親は離婚する際、子と過ごす時間の配分や教育・医療の方針、意見の食い違いがあった場合の対応などをまとめた「養育計画書」を裁判所に提出する義務がある。対立している両親は別々に計画書を提出し、裁判所の判断を仰ぐ。

 関西学院大の山口亮子教授(家族法)は「養育を分担し、子を互いの家に行き来させる例もあれば、定期的に面会交流し、重要事項を話し合いで決める父母もいる」と説明。婚姻の有無とは別に、両親に養育されることが子の利益につながるとの考え方が浸透しているとして「日本も同様の仕組みが望ましい」と話す。

◆厳格なドイツ「容易に親権を剥奪される」

 ドイツも97年に民法を改正し、離婚後の共同親権を導入。京都大の西谷祐子教授(比較法)によると、米国と違って日常の養育は子と暮らす親が担い、重要なことは両親で決めるのが通例。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の問題もあまり聞かれず、社会に根付いているという。



 日本では、離婚後に子と疎遠になっている親たちを中心に、諸外国を手本に共同親権の導入を望む声がある一方、関係が悪化した父母の間では、子の面前でのDV、虐待、紛争といった負の影響が続く恐れがあるとして慎重論が消えない。

 諸外国の仕組みがそのまま日本社会になじむのかという懸念もある。西谷教授は「ドイツでは養育費の不払いは刑事罰の対象で、DVや虐待をする親は、離婚前でも日本より容易に親権を剥奪されるなどの厳格な制度がある」と指摘。日本で導入する場合には、弱い立場にある親や子にしわ寄せがいかないような環境整備が必要だと語る。

◆被害が表面化しづらくなったオーストラリア

 オーストラリアは95年に連邦家族法を改正し、子が父母の両方から世話をされる権利を明記。2006年には、主な世話を担う「監護親」を決める際、別居する親と子の交流に前向きな親を優先する条項を設けたが、わずか5年後の11年に削除された。

 大阪経済法科大の小川富之教授によると、この条項によって、監護親が「DVや虐待の被害を訴えて認められなかったら、交流に消極的と見なされて監護親でいられなくなる」と考え、被害が表面化しづらくなったという。「暴力などがないかを見極める支援機関や相談窓口を整備したのに、子に危害が及ぶ事件も起きた。海外で成功したから日本でもという主張は乱暴だ」と訴える。

 共同親権に関し、法務省に届いたパブリックコメントは約8000件。賛成意見の多くは団体から寄せられ、個人では単独親権の現行制度を支持する声が目立った。導入の是非を巡る国民的な議論はまだ深まっていないのが実情だ。

 日本の民法が定める「親権」 子の世話や教育、どこに住むかの決定、財産管理などを行う親の権利義務。婚姻中の父母は、未成年の子に対して共同で親権を行使するが、離婚後はどちらか一方が行使する。どちらが親権者になるかは協議で決めるが、協議で決められない時や、裁判で離婚する時は、裁判所が子の利益に基づいて決定する。

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「共同親権」海外の事例から見たメリットと課題 日本で導入するならどんな問題が?
2023年8月30日 06時00分


離婚後も父母双方が子どもへの親権を持ち続ける「共同親権」について、民間団体がひとり親を対象に行ったインターネット調査では、導入されても「選択しない」「どちらかというと選択しない」と答えた人が8割に上った。回答者の多くは離婚の背景にDV被害を挙げ、協力関係は難しいと考えていた。(出田阿生)

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 親権 進学先などの重要事項決定権や契約などの財産管理権、住まいを定めたり身の回りの世話をする監護権などからなる。日本では婚姻中は父母が共に親権を持つが、離婚に際して父母どちらかを親権者とする単独親権制を採る

 共同親権導入に慎重な立場をとるシングルマザーサポート団体全国協議会(加盟31団体)が6〜7月に調査。子連れで離婚した、ひとり親の会員2524人から回答を得た。

 同居当時、暴言などの精神的暴力、物を壊すなどの間接的暴力は7割、家計にお金を入れない経済的DVを受けた人は6割に上り、4割が子どもの虐待があったと回答した。全国の家裁で申し立てられた離婚のうち、女性(妻)側の理由の2〜4位が夫からの経済・精神・身体的DVとなっている司法統計(2020年)の現状を裏付けた。



 法制審議会(法制審)では、DVや虐待を家裁が認定すれば共同親権にはしないという案も出ているが、アンケートでは「DVを訴えたが面会交流を実施された」と回答した人が、調停経験者の2割以上いた。金澄道子弁護士は「家裁ではDVや虐待が過小評価されている。両親が協力できる関係なのかを判断する司法の基盤が不足している」と指摘する。

 法務省委託調査(11年)では、単独親権制の下でも当事者の7割が面会交流は「行われている」と回答。12年には面会交流を明記した改正民法が施行され、家裁が原則として実施させる流れは強まっている。

 大阪経済法科大の小川富之教授は「欧米諸国では共同養育を積極的に進める法改正をした結果、子どもが殺されるなどの事件が相次いだ反省から、別居親の権限を抑制する方向へ向かっている」と説明。全国協議会の代表で家族法制部会の委員でもある赤石千衣子さんは「養育費の支払いとの引き換えに共同親権を選ばされる恐れもある。もっと慎重な議論を」と訴えている。

◆法制審でも賛否割れる

 共同親権制度は、離婚後の子の養育を巡る家族法制の見直しの一つとして、2021年3月から法制審家族法制部会で議論されてきたが、委員の中でも賛否は割れている。7月19日に示された中間試案のたたき台では、共同親権を可能とする案と、現行の単独親権を維持する案を併記。部会は近く試案を公表し、パブリックコメントを募る。(小林由比)

 12年施行の改正民法で、離婚協議の際に面会交流や養育費の分担について取り決めることが明記されているが、「離婚後も父母双方に養育責任があることを明確にすれば、円滑な面会交流や養育費の支払い確保が期待できる」などとして共同親権を求める動きがある。

 一方、「適切な面会交流や養育費支払いの促進は親権制度が原因ではなく、家族内にDVがあった場合、被害を継続させる恐れがある」として反対する意見も強い。
◆首を絞められ、鍋の中身を投げつけられた

 「共同親権になったら、本当に逃げられなくなる」。小学生の子を育てる30代のシングルマザーは、強い危機感でこう語る。夫のDVから子連れで逃れたが、別居4年の今も離婚が成立せず、面会交流を強いられている。今の住まいの近くには交番があり、「何かあったら駆け込もう」と、張り詰めた日々が続く。(出田阿生)



 夫は周囲にはいい人だと思われ、会社でも出世しているが、家では別だった。結婚後に暴言など精神的暴力が始まり、出産後は身体的暴力も加わった。髪をつかんで引きずられ、首を絞められ、煮えたぎった鍋の中身を投げつけられた。時には子どもの前で暴力をふるわれた。別居すると、夫は調停や裁判を9件起こし、中には妻に6000万円を請求する訴えまであった。

 面会交流の実施について、家裁の調停ではDV被害を伝え、「夫が子どもに物を投げて流血させたこともある」と訴えた。だが調停委員は、面会場所が公園やテーマパークなので「第三者の目があるから大丈夫」と取り合わなかった。

◆子どもの前で罵倒される面会交流

 面会交流に子どもを連れて行くと毎回、夫に罵倒される。その様子を子どもに見せるのがつらい。「調停委員はDVや虐待に詳しくない。調査官も、面会交流は実施するのが原則だと言うばかり。被害が軽視されている」と感じている。

 離婚が成立していないため、現在は「共同親権」の状態だが、弁護士を間に入れても話し合いができない。「共同親権になったら父母が協力して子育てできるようになるわけではない。嫌がらせを続ける道具として子どもが使われ、暴力から逃れられなくなるだけです」

子連れで離婚したひとり親の8割が共同親権に否定的…「DVや虐待が過小評価されている」

2022年8月27日 06時00分


離婚後は父母どちらかの単独親権とする規定を見直し、共同親権を選べるようにする民法改正案が16日、衆院本会議で与党などの賛成多数で可決された。起立採決で、自民党の野田聖子元総務相(岐阜1区)は起立せず、反対した。

◆「政党間のけんかみたいになっている」

党の方針に従わなかった理由について、採決までの国会審議が性急すぎるとした上で「法律をつくる側としては、調理されていないものを出されるような感じだった」と本紙などの取材に答えた。

法案への賛否に関しては「(心情的には)保留。賛成とか反対とかではなく、よりよい法律を提出したいと願っていた」と語った。

本会議の討論で、各党が互いを批判したことにも触れ「政党間のけんかみたいになっているのを聞いて、子どものための法律だったはずが、これでは私は賛成しかねるという思いにかられた」と述べた。

野田氏は、共同親権の導入に慎重な立場をとる国会議員らによる超党派勉強会の発起人。ドメスティックバイオレンス(DV)などを理由に子連れで別居した人らから導入への懸念などをヒアリングしていた。今年2月の初会合では、海外で共同親権が一般的だという推進論に対して「(国際社会で一般的な)選択的夫婦別姓の導入は30年間放置されているのに、にわかに起きた共同親権の議論はどんどん進む。立法府の一員として違和感を覚える」と指摘していた。

野田氏は2005年、当時の小泉純一郎首相が推進した郵政民営化関連法案に反対し、05年9月の衆院選に無所属で立候補して当選。自民党は05年10月に離党勧告処分とし、野田氏は処分を受け入れて離党したが、06年12月に復党した。

民法改正案には、自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主、教育無償化を実現する会の各党が賛成した。立民と同じ会派に所属する社民党の新垣邦男氏(沖縄2区)は「法案に賛成できない」として採決時に退席した。(大野暢子、坂田奈央)

共同親権法案、衆院採決で自民・野田聖子氏が「造反」 審議の性急さを指摘 与党などの賛成多数で可決

2024年4月16日 17時49分


衆院法務委員会は12日、離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」を導入する民法改正案を、与党などの賛成多数で可決した。来週に衆院を通過し、参院に送られる見通し。自民、公明、立憲民主、日本維新の会の4党の合意に基づき、親権の在り方を決める際に「父母双方の真意」を確認する措置を検討することを付則に盛り込むなどの修正をした。
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◆就学支援金の受給の可否に影響する可能性も



 離婚後の共同親権を導入する民法などの改正案は、根強い慎重論に配慮し、共同親権となるケースを事実上厳格化する修正が盛り込まれた。だが法案の核心部分は変わっておらず、一方の親だけでできる行為の範囲は曖昧なまま。父母間の紛争が増え、子に不利益が及ぶ懸念は残されている。

 「共同親権のケースで、どんな時に一方の親だけで親権を行使できるのか、明らかでない部分がある」

 12日の採決後、立憲民主党の道下大樹氏は、記者団に厳しい表情で語った。

 改正案は、共同親権の父母でも、日常の行為や「急迫の事情」があるときは、一方の親だけで親権を行使できると定める。具体例が明文化されていないせいで、対立や紛争に発展しやすいことが心配されてきた。

 法務省は審議で、日常の行為として「食事やワクチン接種、習い事の選択」を例示。「急迫」の解釈は、入試の合格発表直後の入学手続きや緊急手術など、協議や裁判をしている時間がないケースだと答弁した。

 ただ、一方の親だけで決められる医療行為の範囲は「緊急性による」と述べるにとどめ、明示しなかった。慢性疾患がある子への治療方針を決める際、協議が難航する可能性がある。

 さらに高校の授業料負担を軽減する就学支援金を巡って、文部科学省は、共同親権なら原則、父母の所得を合算して受給の可否を判定すると説明。十分な養育費を受け取れていない子が所得制限で支援から漏れるおそれが浮上した。共産党の山添拓政策委員長は12日の記者会見で「奨学金や生活保護など、社会保障に影響し得る」と問題視した。

 法務省による2022年度のパブリックコメント(意見公募)には8000件超が集まり、団体からの意見は導入に賛成が多かった一方、個人からの意見では反対が賛成の2倍に上った。社会の理解が追いついているとは言い難く、参議院の審議で不安を払拭できるかが問われる。(大野暢子)

離婚後の「共同親権」…子どもに不利益が及びかねない「懸念」とは 民法改正案が衆院委で可決

2024年4月13日 06時00分