「警戒心あれば信頼関係は成り立たない」…現役保護司が語る安全確保策の難しさ産経ニュース / 2024年6月10日 21時37分.1人で観察対象者と向き合う不安…保護司の多くは自宅で面接「身の安全を重く受け止めてほしい」読売新聞 / 2024年6月11日 5時0分.保護司殺害 更生支える人の安全どう守る読売新聞 / 2024年6月11日 5時0分等保護司の身の安全に関する記事PDF魚拓


[保護司殺害]<上>



 大津市の保護司新庄博志さん(60)を殺害したとして8日に逮捕されたのは、担当していた保護観察中の無職飯塚紘平容疑者(35)だった。保護司制度を揺るがしかねない事態に衝撃が広がった。事件はなぜ起きたのか。保護司の安全対策は十分なのか。

 「かつてない重大事案で、非常に深刻に受け止めている。安全対策の強化を至急、検討しなければならない」。制度を所管する法務省の幹部はそう語った。

 保護司は罪を犯した人らと向き合い、立ち直りを支援する非常勤の国家公務員で、給与は支給されない。全国に約4万6000人いる。自らも保護司で、全国保護司連盟の吉田研一郎・事務局長(66)は「本当にショッキングで、あってはならないこと。保護司として活動することに不安を感じる人が増えるのでないかと心配している」と述べた。

 飯塚容疑者は2018年10月にコンビニ強盗事件を起こし、19年6月に大津地裁で懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を言い渡された。同年7月に確定し、新庄さんの指導を受けながら更生の道を歩むことになった。



 更生の柱となるのは就労だ。しかし、飯塚容疑者は、職場になじめず転々と仕事を変えていた。

 21年2月頃からは、飯塚容疑者は大津市内の物販店でアルバイトとして勤務。接客はせず、主に商品整理を黙々とこなしていたという。ある従業員は「仲の良い職場だったが、壁を作る感じで会話に入ってくることがなかった」と振り返る。

 約1か月後、従業員間の LINE (ライン)に<社風も合わずパワハラも 凄 (すご)く精神的苦痛が 酷 (ひど)いため辞めさせて頂きます>とメッセージを残して突如、仕事を辞めた。別の従業員は「パワハラはなく、何が不満だったか分からない」と首をかしげた。

 22年2月から約4か月勤務した同市内の建設会社でも周囲と会話を交わすことなく、朝から夕方まで型枠に付いたコンクリートをこそげ落とす作業を繰り返していたという。

 職場に不満を抱えていた状況は、自身のものとみられるX(旧ツイッター)アカウントの記載からもうかがえる。23年8月には<1人ストライキの 顛末 (てんまつ)>として、勤務先とするスーパーへの憤りをつづった文書画像が添付されていた。他の従業員らからの注意に不満を抱き、そのまま早退して無断欠勤を続けたとし、<心理的に私のボロ勝ちでしたね>と記していた。



 新庄さんとの間に何があったのだろうか。Xには昨年、「保護って言葉はクセ者。保護観察とか〜。全然保護しない」との書き込みもあった。

 8日午後に開かれた大津保護観察所の記者会見では宮山芳久所長が苦渋の表情で「トラブルは把握しておらず、2人の関係性に問題があった認識はない」と繰り返し強調した。飯塚容疑者の生活状況を把握するための面接は、主に新庄さん宅で定期的に行われていた。事件が起きたのは、保護観察期間が終わる7月9日まで残り1か月半のことだった。



 ◆保護観察=罪を犯した人らを社会で更生させる措置。指導するのは保護司らで、国の保護観察所が作成した計画に沿って対象者の生活相談や就労支援を行う。勤務先や収入、交友関係などの生活状況を把握し、保護観察所に定期的に報告する義務があり、対象者が順守事項を守らなければ執行猶予が取り消されることもある。



殺害の新庄さん「熱心に向き合っていた」



 新庄さんは、滋賀県更生保護事業協会の事務局長も務め、20年近く保護司として罪を犯した人らの立ち直りを支援してきた。新庄さんの活動を知る人らは一様にショックを口にした。

 「熱心に対象者と向き合っていた。まじめで実直な人だった」。新庄さんが就労を支援した保護観察中の男性を受け入れた大津市内の事業所の幹部は、こう振り返った。男性は今でも熱心にこの事業所で働き、事件を知った後は新庄さん宅に花を手向けに行ったという。この幹部は「対象者をどうやって自立させていくのか一生懸命考えているようだった。悲しく、悔しい」と話した。

 法務省は8日、全国の保護観察所に対し、▽保護司に危険が及ぶようなケースがないか点検する▽保護司から不安に感じていることなどを電話で聞き取る――ことを指示すると明らかにした。

職を転々、Xには「1人ストライキの顛末」と不満投稿…飯塚容疑者「保護観察は全然保護しない」

読売新聞 / 2024年6月9日 13時30分


大津市の住宅で5月、保護司のレストラン経営新庄博志さん(60)の遺体が見つかった事件で、滋賀県警捜査本部(大津北署)は8日、殺人の疑いで、大津市の無職飯塚紘平容疑者(35)を逮捕した。飯塚容疑者は過去に強盗事件を起こして保護観察中で、新庄さんが保護司として立ち直り支援を担当していた。捜査本部は事件の経緯を詳しく調べる。

 捜査本部によると、飯塚容疑者は「私はやっていませんし、何も答えたくありません」と容疑を否認しているという。

 逮捕容疑は、5月24日午後7時ごろから26日午後4時ごろまでの間、同市仰木の里東6丁目の新庄さんの自宅で、新庄さんの上半身を刃物で複数回突き刺すなどし、殺害した疑い。凶器は見つかっていない。

 新庄さんは5月26日夕、自宅1階のリビングで倒れているのを、親族に発見された。上半身には刃物による10カ所以上の傷が確認され、抵抗した際にできる防御創もあった。司法解剖の結果、死因は出血性ショックで、同24日夜ごろに死亡したとされる。

 捜査本部の説明では、新庄さんは5月24日午後6時半ごろ帰宅。この日は午後7時から、保護司として自宅で飯塚容疑者との面接を予定していた。新庄さん宅のインターホンのカメラには午後7時ごろ、飯塚容疑者の姿が映っていた。捜査本部は、飯塚容疑者がこの頃玄関から入り、犯行後、徒歩で立ち去ったとみている。事件当日より前に2人の間のトラブルは把握していない、という。

 飯塚容疑者は、5月24日以降行方が分からなくなっていたが、同28日、大津市内の路上でナイフを所持したとして銃刀法違反容疑で現行犯逮捕された。「山歩きのために持っていた」と供述しており、捜査本部が関連を調べていた。

 裁判記録によると、飯塚容疑者は同市内のコンビニでナイフを突きつけて現金約2万円を奪ったとする強盗罪に問われ、2019年6月、大津地裁で懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を受けた。翌7月に確定した。

 新庄さんは06年に保護司となり、18年間にわたって罪を犯した人の更生保護にボランティアで取り組んでいた。法務省によると、担当の保護司が保護観察中の人物に殺害された事件は初めてとみられる。

          ◇

おことわり 滋賀県警に逮捕された飯塚紘平容疑者(35)は、過去に保護観察付き有罪判決を受けました。犯罪歴は慎重に取り扱う必要がありますが、事件の重大性を考慮し、保護司と支援対象者という関係性を伝えるため、記事で触れました。

被害者宅インターホンのカメラに容疑者 大津市の保護司殺害事件、保護観察中の男逮捕

京都新聞 / 2024年6月9日 4時45分


大津市の住宅で保護司の新庄博志さん(60)を殺害した疑いで保護観察対象者の飯塚(いいつか)紘平容疑者(35)が逮捕された事件は、民間の使命感を頼りに世界に先駆けて運用されてきた保護司制度のリスクを浮き彫りにした。法務省は安全確保策を検討する見通しだが、信頼関係を基本とする制度だけに対策は容易ではない。

「保護観察対象者と向き合うときは『立ち直ることができる』と心から信じている。信頼関係を構築するのが何よりも大事」。大阪府内の男性保護司は、自身の役割をこう強調する。

ボランティアによる献身的な活動が地域の治安を支えてきた一方で、保護観察対象者とのトラブルと無縁だったわけではない。

国の検討会の報告書によると、平成22年に茨城県内で保護司の自宅が保護観察対象者によって放火された事件を受け、全国500人の保護司を抽出して調査した結果、自宅で現金を盗まれたり車のタイヤをパンクさせられたりした被害が5件確認された。13~22年の10年間で、保護司が殴られるなどの人的被害が数件あった。

殺害された新庄さんは死亡当日、飯塚容疑者と自宅で面接する予定だった。国が平成31年に実施した別の調査では、73・4%が最も多く面接を行う場所を「自宅」と回答。プライバシー保護の関心が強まる中、自宅を更生の場に供する運用がいまなお続き、リスクにさらされてきた。

ただ、事件を受けた対応には難しさもある。男性保護司によると、対象者の中には虐待を受けた過去があるなど複雑な背景を抱えた人もいるといい、「相手への警戒心が出てしまえば、信頼関係は成り立たない。更生には保護司への絶対的な安心感が必要。本末転倒な対策をとってはならない」と話した。

世界に誇る「HOGOSHI」、海外にも輸出

保護司制度のルーツは130年以上前の明治21(1888)年にさかのぼる。実業家の金原明善(きんぱら・めいぜん)ら篤志家が「静岡県出獄人保護会社」を設立。その後、保護観察を刑事政策に取り込もうとした連合国軍総司令部(GHQ)の占領政策を経て、少数の保護観察官を大多数の保護司が支える世界にもまれな「官民協働体制」が構築された。

昭和25年には保護司法が制定され、現在の制度の骨格ができあがったとされる。日本独自の制度は海外にも〝輸出〟され、フィリピンやケニアなどが日本をモデルにした制度を導入した。

令和3年には法務省と国連が合同で「世界保護司会議」を京都で開催。「世界保護司デー」の創設を盛り込んだ「京都保護司宣言」が採択された。政府は「HOGOSHI」を足掛かりに、刑事司法分野での日本の存在感や影響力の向上を図っている。(野々山暢)

「警戒心あれば信頼関係は成り立たない」…現役保護司が語る安全確保策の難しさ

産経ニュース / 2024年6月10日 21時37分


[保護司殺害]<中>



 札幌から約150キロ北にある北海道羽幌町は日本海沿いの小さなまちだ。ここで、喫茶店を営んでいた男性保護司が、以前に担当していた男に殺害される事件が起きた。大津市の保護司殺害事件が起きる60年前のことだ。現場となった2階建て建物は今も当時のまま残る。

 羽幌町の保護司山崎猛さん(当時49歳)は1964年2月、来店した男に生活態度を注意したところ逆上され、包丁で刺されて亡くなった。

 面倒見が良く誰からも慕われる性格だった山崎さん。店を居酒屋にして約40年切り盛りする次女の智子さん(71)は、大津の事件について「保護司として地域を支えていたのは、父も今回の被害者も同じ。こんな事件は起きてほしくなかった」と語った。



 保護司は、1888年(明治21年)に静岡県の実業家有志が出所者らに宿泊所を提供するなど支援したことが起源だ。

 1950年に保護司法が制定され、社会奉仕の精神を使命として無給で担うことを規定。前任者の推薦を受けるなどした地元の篤志家らが、仮釈放や保護観察付き執行猶予の対象者と面接し、社会復帰を支援してきた。

 70年以上にわたり続いてきた制度で、過去に保護司が被害を受けたのは、羽幌町の殺人事件のほか、2010年に茨城県桜川市で担当保護司の自宅に放火したとして保護観察中の少年が逮捕された事件などがある。

 放火事件を受け、人的被害に加え物的被害への補償制度ができた12年以降、毎年約4万4000人〜約2万3000人が保護観察の対象者となった。このうち、対象者から暴行されたり物を壊されたりして保護司に補償金が支払われたケースは10件という。

 対象者が課される約束事を守らなければ仮釈放や執行猶予が取り消される場合もあり、保護司の指導に応じるための心理的な抑制になっている可能性がある。



 だが、対象者に向き合うことに不安を訴える保護司は少なくない。総務省が19年に全国の保護司4700人を対象に実施したアンケート調査では、26%が1人での対象者の面接に不安や負担を感じていた。

 兵庫県西宮市の男性保護司(51)は7年前、元対象者の男に呼び出された店で「紹介された仕事がうまくいかないのはお前が悪い」と言いがかりをつけられ、「殺すぞ」「暴力団の仲間がいる」と脅された。その後、男の仲間が自宅に押しかけてきたため、家族の避難を余儀なくされたといい、「保護司やその家族の身の安全をもっと重く受け止めてほしい」と求める。



 保護司を守る対策はどうなっているのか。国の保護観察所が対象者の裁判記録などから、対象者に粗暴な言動などがあると判断した場合は法務省職員である保護観察官が直接担当する。保護司経験が浅い場合などは複数であたることもあるが、多くは1人で対応しているのが実情だ。

 大津市で殺害された保護司の新庄博志さん(60)も、保護観察中の無職飯塚紘平容疑者(35)(殺人容疑で逮捕)を1人で担当していた。大津保護観察所は、新庄さんを担当にした経緯については「差し控える」として明かしていない。

 面接場所も課題だ。保護司は従来、信頼関係を築くため対象者を自宅に招くケースが多く、新庄さんもそうだった。だが、近年は抵抗感を抱く人も増えている。

 法務省は全国の保護司の活動地域886地区に活動拠点「更生保護サポートセンター」を整備。面接場所としても活用できるが、休日や夜間は閉鎖される施設もあり、「使いにくい」と漏らす保護司は多い。

1人で観察対象者と向き合う不安…保護司の多くは自宅で面接「身の安全を重く受け止めてほしい」

読売新聞 / 2024年6月11日 5時0分


罪を犯した人や非行少年の社会復帰を支える保護観察制度を、根底から揺るがす事態だ。保護司の安全確保に向け、対策を急がねばならない。

 大津市の保護司新庄博志さんが自宅で殺害されているのが見つかり、警察は、新庄さんが担当していた保護観察中の無職飯塚紘平容疑者を殺人容疑で逮捕した。

 飯塚容疑者は、コンビニ強盗で執行猶予付きの有罪判決を受けていた。新庄さんとの面接の際に襲った疑いがあるとされる。

 容疑者が投稿したとみられるX(旧ツイッター)の書き込みには「保護観察とか〜。全然保護しない」などとあった。警察は、保護観察を巡って不満を募らせた可能性があるとみて調べている。

 犯罪者の立ち直りを支援する保護司が、その活動中に命を奪われたとすれば、あまりに衝撃的で痛ましい。一体何があったのか、詳しい動機の解明が不可欠だ。

 保護司は全国に約4万6000人いる。法務省の保護観察官と連携して、保護観察中や仮出所中の人と面接し、生活や就労の相談に乗っている。身分は法相の委嘱を受けた非常勤の国家公務員だが、実質は無給のボランティアだ。

 これまで、保護司の家が担当する少年に放火された事件などはあるが、保護観察中の対象者に殺害された例は過去にないとされる。保護司が安心して活動できるよう再発防止策を講じるべきだ。

 罪を犯した人に家庭の温かみを感じてもらうため、面接は保護司の自宅で行われることが多い。今回のような事件が起きた以上、面接場所として、各地の更生保護サポートセンターや公民館などをもっと使いやすくしてはどうか。

 保護司が不安を感じる対象者については、複数人で面接するといった工夫も重要だろう。

 保護司は高齢化が著しく、なり手不足が深刻だ。そのため、法務省は、人材の確保や待遇の見直しを進めている最中だった。事件により、なり手不足に拍車がかからないか心配される。

 犯罪者に接してきた警察OBや法曹関係者を登用するほか、保護司を支援する仕組みを整備するなど不安の 払拭 (ふっしょく)に努めてほしい。

 明治時代に篤志家が刑務所の出所者を支援したのが保護司の始まりで、社会奉仕の精神を掲げている。だが近年、地域社会は変容し、篤志家頼みには限界がある。

 時代に見合う制度に改めることが大切だ。薬物依存など対象者が抱える問題も複雑化しており、保護司の研修充実も欠かせない。

保護司殺害 更生支える人の安全どう守る

読売新聞 / 2024年6月11日 5時0分