日本で前科者に居場所がない問題が深刻な件

前科者に居場所がない、施設出身者に居場所がない問題。



◆保護観察所は「引受人」と認めず

 受刑者にとって、出所後の帰る場所や居場所がないのは切実な問題だ。それは、再犯のリスクにもつながるからだ。

 2022年の犯罪白書によると、刑務所から出た人が再犯して5年以内に戻ってくる「再入率」は、仮釈放者で30.1%。一方、満期出所者らは46.9%でさらに高い。仮釈放者は保護観察を受け、地域の保護司や保護観察官の指導を受けて社会復帰を図る。だが、満期出所者に保護観察はつかない。一般の人と変わらず自由ということだが、裏を返せば孤立しやすい。誰の支援も受けられないまま、再犯リスクが高まる恐れもある。

 受刑者は、服役中でも出所後に頼るべき人や施設を自らの「引受人」として認めるよう、申請できる。引受人にふさわしいかどうかは、保護観察所が調査する。引受人が決まった受刑者は、服役中の態度なども評価されると、仮釈放につながる。

 ただ、男性は服役中、マザーハウスを引受人に申請したが、不許可になった。他の場所にある更生保護施設を引受人とするように再び申請しても、認められなかった。「10回以上申請したが認められず、理由は教えてもらえないまま。不許可の回答すらなく『調整中』と言われたこともあり、頭にきた」と振り返る。

 昨年10月に出所した30代男性も「マザーハウスで出会った人々や事件前から付き合いを続けている友人は、自分の境遇を知った上で理解してくれる大切な存在」と述べた上で、服役中は引受人の申請が何度も不許可になったと明かす。「同じような対応を受け、理由を説明してほしいと感じている受刑者は多い」

 マザーハウスの五十嵐弘志理事長は「保護観察所に問い合わせると、受刑者とうちの団体の間に『関係性がない』と言われた」と話す。文通を続ける受刑者に面会しようとして刑務所に断られたこともあるとし、「受刑者と外部の人間や団体が関係をつくるのは、そもそも難しい。国は再犯防止をうたうが、満期出所者の問題に本気で取り組んできたのだろうか」と疑問を投げかける。

◆予算も態勢も脆弱な更生保護施設



東京都内にある更生保護施設の食堂

 受刑者が引受人を申請して認められない場合、どんな理由があるのか。

 東京保護観察所は「個々のケースについては回答できない。受刑者の人となりを踏まえ、引受人として申請があった人や施設の環境を確認し、個別に判断する」とする。

 関西地方の保護観察所に勤める50代の男性保護観察官は「引受人は、仮釈放された人が社会に復帰してから安定した生活を送れるようになるまで、衣、食、住を丸がかえで受ける」と話す。そうしたことをできる人や施設だと判断されなければ、引受人に認められないのが現実という。

 全国には、法相の認可を受けて運営する更生保護施設が約100カ所、これとは別に緊急的な宿泊場所を提供する「自立準備ホーム」が約470ある。2021年にこうした施設に身を寄せたのは、仮釈放や満期出所の人を含めて約7000人に上る。

 ただ、この男性保護観察官は「引受人として希望する受刑者の数に対し、更生保護施設の定員は10分の1に満たないくらい少ない。予算も体制も脆弱(ぜいじゃく)で、全ての希望にそうことは難しい」と指摘。「そもそも世間の多くの人が、出所した人々の再犯防止について理解や関心がない。『前科者』として嫌がる風潮も、受け皿が足りない問題につながっている」と話す。

◆施設にも向けられる根強い偏見

 出所者を遠ざけようとする意識はしばしば、更生保護施設にも向けられる。

 東京都内の更生保護施設の男性役員は「入所者が自立するためアパートなどを借りようとしても、施設に住んでいることが分かると、大半は断られてしまうという」と話す。

 それだけではない。男性役員は以前、施設を運営する更生保護法人のクレジットカードを作ろうとしたが、カード会社の審査で認められなかった。地方では、老朽化した更生保護施設を建て替える際、住民の反対運動が起きたケースもある。

 出所者や施設に対する根強い偏見について、男性役員は「出所者の立ち直りを阻む高い壁になっている」とみる。「出所して身寄りのない人の多くは、更生しようとしても住まいを借りられず、就職もできない。社会の壁に阻まれ続ければ、生活に希望を抱けずに孤独や孤立を深める。その結果、選択肢は再犯するか、ホームレスになるか、自殺するしかないと考えてしまう」

◆官民で新たな試みも「各団体の特徴生かし協力を」



東京都千代田区の職員に、大学教授が再犯防止施策について話した研修会=2021年12月、東京都千代田区役所で

 国も、手をこまねいているだけではない。昨年6月に成立した改正更生保護法は、保護観察所が地域の再犯防止に貢献するための「地域援助」を明記。この規定を踏まえ、法務省は同10月から北海道旭川地区、埼玉県、福井県で、出所者支援の新たな試みも始めた。地域で選ばれたコーディネーターが保護観察所と協力しつつ、民間団体やNPO法人などとも連携。出所者らの相談を受け、就労などを助ける「地域ネットワーク」をつくろうとしている。

 立命館大の森久智江教授(犯罪学)は「更生保護法の改正は、社会復帰の環境調整により力を入れる流れになっている」と説明する。

 森久氏は、国の目指すような支援のネットワークが機能するかどうかは、「これまで刑務所を出所した人らを支援してきた各地の民間の団体や、自治体の福祉担当部署との連携も重要だ」と指摘。「民間の団体には、それぞれにポリシーやスキルがある。保護観察所や自治体は、そうした各団体の特徴を理解した上で、都合良く使うのではなく、地域の資源として協力を図ることが重要になる」と強調した。

◆デスクメモ

 以前、ストーカー加害者の女性を取材した。警察の警告を受けても付きまといをやめられなかった彼女は、民間団体のカウンセリングや依存症治療で更生を図っていた。細身の彼女に悪人の雰囲気はない。ある種の犯罪は医療的対応も必要だ。社会からの排除で問題は解決しない。(北)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/227928
こちら特報部


「満期出所者」の立ち直りを阻む社会の「壁」 更生に必要な支援とは何か、考えた

2023年1月29日 17時00分



◆再犯者の割合増加傾向、19年は48.8%、

 一般刑法犯に占める再犯者の割合は増加傾向にあり、2020年版犯罪白書によると、19年は48.8%に上った。出所から2年以内に刑務所に戻ってしまう人は、罪名別では窃盗が最も多く、全体の2割強を占める。

 法務省は厚生労働省と連携し、身寄りのない出所者を福祉サービスや医療機関につなぐ取り組みを進めている。19年度につないだ775人のうち、約4割の317人が精神障害者だった。しかし、行政と福祉施設の連携が十分でなく、どこにもつないでもらうことができない人もまだ多い。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/96262
コロナで会社辞め、放火未遂…逮捕9回、57歳男性に驚きの執行猶予判決 「社会で更生、最後の機会」

2021年4月7日 06時00分



 刑務所からの出所者らを雇用し、生き直しを支援する「協力雇用主」制度が、揺らいでいる。新型コロナウイルスの影響で、雇用主となる企業の経営が悪化し、出所者の新規雇用を断らざるを得なくなっているからだ。出所後に職業に就かないと再犯率が高くなるとのデータがあり、法務省も危機感を抱いている。 (木原育子)

 「自分が生きていくだけで精いっぱいになりました。申し訳ない気持ちでいっぱい」。刑務所を出た人を積極的に雇用してきた、東京都内で食品小売店を営む女性(59)がつぶやいた。薬物違反や性犯罪は再犯率も高いため採用しない企業も多いが、詐欺罪で服役した人以外は受け入れてきた。

 コロナの感染拡大の影響で売り上げは85%減。四月に少年の矯正施設から出所予定だった男性(21)を受け入れる予定だったが、「今回ばかりは厳しい」と泣く泣く断った。何度も面会を重ね、ハローワークや刑務官の人たちと協議を重ね、「この子なら」と思っていた。

 従業員の給与支払いも滞るようになり、薬物事件で有罪判決を受けた二人も今春に退社した。「新たな職を見つけて生きてくれればいいが…」と言葉少なだ。

 女性は九年前に、百貨店などに売り場を設けて自社製品を販売する会社を起業。従業員五人程度の小さな会社だが、家庭的な雰囲気を大切にしてきた。

 女性自身、幼い時に養子に出されるなど複雑な家庭環境で育った。大学在学中に養父母も亡くなり天涯孤独に。卒業後は経営コンサルタント会社に就職し努力を積んできた。「寂しくても生きてこられたのは仕事があり、社会に評価してもらえたから。必死に変わろうと努力する彼ら彼女らは一緒に生きていく仲間。応援したかった」と話す。二年前から協力雇用主に登録し、更生支援に協力してきた。



 法務省によると、協力雇用主の企業は、従業員五〜二十九人の中小企業が50・2%と半数を超え、建設業やサービス業、製造業が八割を占める。コロナの影響で支援策が行き渡らず、女性のように雇用を見送るケースは増えているという。

 協力雇用主の制度は登録者数は多いものの、実際に雇う企業はまだ少なく、雇用先の確保が長年の課題だった。国は雇用先を二〇二〇年までに千五百社に増やす目標を設定し一九年十月に達成したばかりだった。

 再犯で刑務所に戻った人は一七年で一万一千四百六十一人で、このうち無職率は72・3%を占める。

 女性は、殺人罪で無期懲役刑の女性受刑者にも採用内定を出しており、仮釈放を待っている。「どうしても事業を継続して、迎え入れたい」と苦境を耐える。法務省の担当者も「気をもむ状況だが、協力雇用主に支援策を紹介するなど、できることをして流れを食い止めたい」と話す。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/32453
出所者を支援する協力雇用主がコロナで採用断念 「更生の道」険しく

2020年6月1日 07時39分


軍拡を許さない女達の会



敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛費倍増を柱とした安保関連3文書などに反対する「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」が22日、東京都内でシンポジウムを開いた。市民ら約200人、オンラインで約700人が参加。会共同代表の田中優子前法政大総長は「会をつくったのは43兆円の軍拡増税と、台湾有事があおられていることへの危機感から。税金は本来、教育格差や少子化への対策にこそ使うべきだ」と述べた。

「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」のシンポジウムで意見を交わす(左から)古賀茂明さん、東村アキコさん、田中優子さん、前田佳子さん

 登壇した元経産官僚の古賀茂明さんは「台湾有事を盛んに言うのは中国ではなく米政府でもなく、米軍人。岸田文雄首相はどこまでも米国と共に戦争に向かおうとしている」と懸念を示した。「戦争になる前に、日本の財政が破綻する可能性が高い。台湾有事が盛んに言われるのは、安倍政権でメディア支配が進んだことも大きい」と語った。

 「漫画家は世のムードを一番初めに感じる」という漫画家の東村アキコさんは「日本は結構強い、戦争に勝てるのではという声をよく聞く。仕事がうまくいかない若者や、やりたいことをやれない子どもたちがいて、若者の間に『日本は一度壊れてしまえ』という破滅的な空気が広がっている。この状況を変えていかないと」と話した。 

 日本女医会の前田佳子会長は「戦時には男性がいなくなり、女性医師の採用が一時的に増えた。女性や医者が、戦争で利用されるようなことがあってはならない」と強調した。シンポジウムにはオンラインを含め計約900人が参加。本紙の望月衣塑子記者が司会を務めた。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/285341?dicbo=v2-01JIzK4
社会


「税金は軍拡より教育格差や少子化対策に」 平和を求め軍拡を許さない女たちの会がシンポ

2023年10月22日 21時18分




◆人間の安全保障なくして国家の安全保障はない 社会学者の上野千鶴子さん

 2014年に集団的自衛権が閣議決定され、15年には、安全保障関連法制が強行採決され、22年には安保関連3文書が閣議決定された。ウクライナ侵攻を奇貨として『安倍晋三元首相が生きていたら、これを機に改憲に持ち込めた』との声も聞こえるが、解釈改憲で好き放題できるのを目の前で見せられた。もはや改憲の必要性もなくなった。防衛費はGDP比1%のリミッターを外し、23〜27年度の5年間で43兆円を支出する。財源は増税で、米国製の格落ち武器を税金で買う。他方で守るべき国家も国民もやせ細っている。異次元の少子化対策といいながら財源の手当は論じられず、本気度は全く感じられない。人間の安全保障なくして国家の安全保障はない。

◆軍拡は日本と世界を滅ぼす道 法政大前総長の田中優子さん

 政府が昨年開催した防衛力強化に関する有識者会議は、外交による防衛を全く語らず、軍事力のみで語り、台湾有事を日本有事のように語る。1972年の日中共同声明で、中国(中華人民共和国)が唯一の合法政府だと明言したのに、台湾有事がどのように日本有事になるのか。有事への過程が全く説明されていない。戦時体制は国民生活を追い詰め、更なる少子化が進む。大学までの教育無償化が実現できれば、安心して子どもを育てられる。少子化に気候変動も重なり、世界が一致して対策取らなければない時に軍拡に走るのは、豊かになるどころか日本と世界を滅ぼす道だ。

◆メディアは軍拡を問う議論広げて 漫画家の東村アキコさん 

 私たちの税金でミサイルを買うことが、いつの間にか決まっていた。今回の軍拡は、大きなターニングポイントで、より深刻だが、主婦層などが見るテレビなどの媒体が、軍拡を問う議論をほとんどしないないのは恐怖だし不安だ。漫画家やクリエーターなど普段は活動に参加しない人からも署名をもらった。メディアの皆さんには(軍拡を問う)議論を広げてほしい。



軍事費増大の方針撤回などを求め、記者会見する「平和を求め、軍拡を許さない女たちの会」のメンバー=8日、東京・永田町の衆院第2議員会館で

◆戦争に突入しないといけないムードに 人材派遣会社「ザ・アール」創業者の奥谷禮子さん

 ウクライナ侵攻が起きて日本は戦争を回避できない、戦争に突入しないといけないとのムードが出てきた。おかしい。日本にとって一番大事なのは、経済力・産業競争力を上げること。人材の能力を上げるために教育への投資が重要。公立の学費無償化はもちろん、子どもにどう明るい将来を見せるかが重要。それが描けてない。岸田文雄首相は、中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席にも会わず、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記にも会わないまま、台湾有事を脅威と言っている。それが不安だ。皆さんと一緒に「軍拡反対」を言いに来た。

◆給与は上がらないのに社会保障費削減はおかしい 日本女医会の前田佳子会長

 おかしいことは「おかしい」と言わないと、おかしいことが正しいように見える。5年で43兆円使うと岸田首相は米国に約束したが、財布は一つ。軍事費を増やせば、他の予算が減らされる。物価が上がり、給与は上がらないのに社会保障費削減はおかしい。一部の後期高齢者の医療費の自己負担が1割から2割になり、国立病院機構や地域医療機能推進機構の積立金が軍拡に使われる。「この愚か者めが」と言った議員がいた(10年、子ども手当導入を巡る議論で自民党の丸川珠代氏)が、そのまま言葉をお返ししたい。

◆戦争は、最も有害な、男らしさの象徴 アクティビストの福田和香子さん

 日々高騰する物価に、上がらない給料。値引き商品を求める人たちが集うスーパー。全国に7000カ所もの子ども食堂ができ、給食費の支払いができない家もある中、防衛費の増額を岸田政権が決めた。一体何を見ているのか。増額とともに反撃能力の保有を押し進めるのは、戦争への準備をしているようにしか見えず、すごく不安。戦争は、最も有害な、男らしさの象徴。そんな男らしさはまっぴらだ。

◆国から迷惑行為を受けている 市民運動家の菱山南帆子さん

 節約で「おしゃれに豆苗を育てれば」などという新しい愛国・軍国教育が始まっている。忙しくて疲れ、怒りさえも我慢するという諦めムードの中、軍事費に金を注ぎ、人を殺すミサイルに使う。本当にばかげている。いまいろいろなところで、迷惑行為の動画が出ているが、はっきり言って、私たちは国から迷惑行為を受けている。花柄の洋服を着て講演をしたら、ネトウヨ(ネット右翼)にたたかれたが「焼け野原よりお花畑の方がいいじゃない」という思いで、今日は花柄の洋服を着てきた。女たちは軍拡に怒っている。大きな運動を起こしていきたい。

◆私たちの生活に使って フリーライターの和田静香さん

 22年に実施された中高年シングル女性の生活実態調査では「コロナ禍で派遣切りに遭い心身ショックを受け生活も苦しい」(40代)、「エアコンもテレビも洗濯機もない生活」(50代)、「東京・幡ケ谷のバス停で殴打されて亡くなった大林三佐子さん=当時(64)=は未来の私かも」(60代)という声があった。(複数年度で使うための)防衛力強化資金に、23年度当初予算で3兆3806億円を繰り入れると聞き、頭がおかしくなりそうになった。私たちの生活に使ってください。勝手なことしないでください。

◆生活破壊のぎりぎりの瀬戸際、ここで止めないと ジャーナリストの竹信三恵子さん

 防衛費をGDP2%とする異様な軍拡の話を聞いた時、戦争が起きる前に人が死ぬ、と思った。今回のキャンペーンで声を掛けたら素晴らしい人が集まり、いかに、どれだけ人が心配しているか分かる。コロナ禍では20年3月に一斉休校があるなど、子どものいる人が働きに行けず、休んだら雇い止めに遭った人がいる。もっとひどい状況のシングルマザーもいる。食料支援を受けた後、支援団体に『2食が3食になった』『雑炊が普通の白米になった。お母さんがやっと笑った』と感謝の手紙が来ているという。生活は良くなっていないのに、兵器の爆買いは信じられない。異次元の少子化やるならもっとお金かかる。私たちは生活破壊のぎりぎりの瀬戸際にいる。ここで止めないと、止まらない。

◆憲法9条の非戦精神を貫くべきだ ヒューマンライツナウ副理事長の伊藤和子弁護士

 43兆円の軍拡に反対。5年でこれが終わる保障はない。その後、どんどん上がる可能性もある。コロナ禍に加えて物価高で、生活は苦しく、女性や若者が希望を持てない。日本の教育費はあまりにも高く、進学を断念する子どもや若者がいる。子どもを進学させるため、DVを我慢する女性もいる。生活費がなく、高額バイトの性的搾取の被害から抜け出せない女子大生もいる。年3兆円あれば大学授業料を全て無償化できる。どうしてそういうところに優先順位を与えないのか。将来世代を大事にしないと、この国はやせ細り滅びてしまう。また、軍拡は周辺国に挑発と受け取られ、軍事的緊張を高める。憲法9条の非戦精神を貫くべきだ。戦争は最大の人権侵害。日本の在り方を変える軍拡に反対し、政府に再考を促したい。

社会


軍拡は日本と世界を滅ぼす道 「平和を求め、軍拡を許さない女たちの会」会見詳報

2023年2月9日 18時22分



https://drive.google.com/file/d/1ct6rZIe-dsUla9pjK-pzpSadO88oHfOp/view?usp=sharing


◆#軍拡より生活 田中優子さん、上野千鶴子さんら国会内集会


署名を手渡す上野千鶴子さん(手前左)ら会のメンバー=8日、東京・永田町の衆院第2議員会館で

 「政府は戦争を回避する外交努力をしているのか。戦時体制は生活を追い詰める」。8日、東京・永田町の衆院第2議員会館であった「平和を求め、軍拡を許さない女たちの会」の記者会見で、法政大前総長の田中優子さんはこう語った。

 会には社会学者の上野千鶴子さんや弁護士の杉浦ひとみさんら12人が参加。先月13日から署名サイト「Change.org」で、「#軍拡より生活 子どもたちの未来に平和を!」と賛同を呼び掛ける。

 署名は既に約7万5000筆集まり、会見に訪れた立憲民主党や日本維新の会など野党6党の関係者に渡したほか、自民党本部を訪ねるなど各党に届けた。その際「日々の生活の大切さを守れないならば、戦争から市民を守るという政治の言葉も空疎なだけ」とするコメントも添えた。

 会見では「ウクライナ侵攻が起きて日本は戦争に突入しないと駄目というムード出てきた。おかしい」(人材派遣会社ザ・アール創業者の奥谷禮子さん)、「テレビでは軍拡の問題を問う議論をほとんど見ない。議論を広げてほしい」(漫画家の東村アキコさん)との声が上がった。

◆「誰もが無関係でいられない」 主婦連と日本消費者連盟

敵基地反撃能力保有や防衛費の増額などに反対する共同声明を出した(左から)東京都地域消費者団体連絡会の奥田明子共同代表、神奈川県消費者団体連絡会の庭野文雄事務局長、主婦連合会の河村真紀子会長、日本消費者連盟の纐纈美千世事務局長=東京都千代田区

 消費者団体の「主婦連合会(主婦連)」と「日本消費者連盟」は6日、両団体として初の共同声明を発表した。

 敵基地攻撃能力は国際法が禁じる先制攻撃となる危険性をはらみ、非戦をうたう憲法に反すると指摘し「平和な暮らしを妨げ、命を脅かす一切のものを拒否するのが消費者運動の基本」と主張した。全国の消費者団体などに呼び掛け、既に28団体が賛同した。

 都内で会見した主婦連の河村真紀子会長は「敵基地攻撃能力や防衛費増大は戦争を回避する力を高めない」と訴えた。日本消費者連盟の纐纈(こうけつ)美千世事務局長は「戦争は生活の隅々まで影響を及ぼし、誰もが無関係でいられない」と話した。

 賛同団体に名を連ねた神奈川県消費者団体連絡会の庭野文雄事務局長は「戦争がウクライナで起き、日本の平和を心配するのは当然だが、専守防衛を投げ捨て、敵基地攻撃能力に結び付けるのは強引で飛躍した結論だ」とくぎを刺した。



https://www.tokyo-np.co.jp/article/230101
「戦争への道歩むな」女性らグループが相次ぎ声を上げる 岸田政権の敵基地攻撃能力・防衛費倍増方針に反対

2023年2月9日 06時00分



 

集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法の成立から8年となった19日、安保法廃止などを訴える集会が東京・永田町の国会周辺であった。約1100人(主催者発表)が「憲法違反の法律はいらない」などと声を上げた。

成立から8年、安保法制に反対を訴える人たち

 「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」などが主催。議員会館前の路上には「止めよう大軍拡」「武力で平和はつくれない」などと書いた横断幕を掲げた参加者らが並んだ。
安保法制に反対を訴える人たち

 登壇した安保法制違憲訴訟全国ネットワークの杉浦ひとみ事務局長は、米国との軍事協力を深める日本政府を批判し「周辺国との緊張関係は、日米が一緒になってつくっている」と指摘。「子どもたちに戦争をする国を残すわけにはいかない。主権者である私たちが国を変えなければならない」と訴えた。

安保法制に反対を訴える人たち

 安保関連法に反対するママの会の長尾詩子弁護士は、防衛関連予算が増大する状況に「シングルマザーや非正規雇用者ら生活に苦しむ人が多い中、なぜ軍拡なのか」と批判。「政治に対して傍観者になってはいけない」と呼びかけた。(小野沢健太)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/278407
「戦争する国、子どもたちに残せない」安保法成立8年で国会前デモ

2023年9月19日 21時31分


https://drive.google.com/file/d/1a66PlC4ZCHJAEKBgrXQ_QvYb5_cZsLs_/view?usp=sharing


安全保障関連法の成立が強行されてから19日で8年。安保法の狙いは「日米同盟」強化で紛争を未然に防ぐ抑止力を高め、日本国民全体のリスクを減らすことだが、日本周辺の緊張は緩和されるどころか、むしろ高まっている。

 「集団的自衛権の行使」を認めた安保法を起点に、「敵基地攻撃能力の保有」に至った防衛力の抜本的強化が、アジア・太平洋地域の緊張緩和に寄与しているのか、冷静に考えるべき局面である。

 今年8月、台北市で開かれた国際フォーラム。自民党の麻生太郎副総裁から驚くべき発言が飛び出した。

 「今ほど日本、台湾、アメリカなどの有志国に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はない。戦う覚悟だ。防衛力を持っているだけでなく、いざとなったら使う、台湾海峡の安定のためにそれを使う明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」

 仮に中国が台湾を武力統一しようとする場合、日米などの民主主義国は台湾とともに戦う。その覚悟を示すことが中国に対する抑止力になる、という趣旨である。

◆国民に「戦う覚悟」迫る

 麻生氏は以前にも、台湾有事は日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たり得るとの見解を示したことはある。

 今回の発言は戦争防止が目的であるとはいえ、日本国民に「戦う覚悟」まで求める内容であり、当然、見過ごしてはなるまい。

 憲法9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又(また)は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めており、武力行使の可能性に言及して台湾問題という「国際紛争」を解決しようとすること自体が憲法に反するからだ。

 しかも麻生氏は、岸田文雄首相=写真、2021年11月の自衛隊観閲式で=を支える政権首脳だ。台湾に同行した自民党議員も麻生氏の発言内容は首相らと調整済みと説明する。

 もし政府が武力による威嚇を認めるなら憲法解釈の重大な変更に該当し、到底容認できない。首相は見解を明らかにすべきだ。

 首相は昨年の国家安保戦略など3文書改定で「敵基地攻撃能力の保有」を容認し、防衛予算を「倍増」する防衛力の抜本的強化へと大きくかじを切った。殺傷能力を有する武器輸出にも踏み切ろうとしている。

 憲法に基づいて歴代内閣が堅持してきた「専守防衛」のタガは緩み、9条の形骸化が一層進む。

 その起点が15年、当時の安倍晋三政権が国会内外での反対論を押し切って成立を強行した安保法による安保政策の抜本的転換にあると言っても間違いはあるまい。

 安保法の主眼は、日本が直接攻撃されていなくても、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある「存立危機事態」に該当すると政府が判断すれば、集団的自衛権に基づいて他国への武力行使ができるようにすることだった。

 当時の国会審議で、安倍首相はその意図を「紛争は予防され、日本が攻撃を受けるリスクは一層なくなっていく」と説明していた。

 しかし、その後の日本周辺の国際情勢は緊張を増すばかりだ。

◆軍事重視が緊張高める

 北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、ウクライナに侵攻したロシアとの軍事的な協力関係を強めている。中国は軍備増強とともに海洋進出を強め、武力による台湾統一の選択肢を放棄していないとみられている。

 台湾海峡の緊張は、日本が集団的自衛権を行使して参戦する可能性に現職政治家が言及するまでに高まっている。

 中国の軍事的台頭を咎(とが)め、状況に応じて日本も防衛政策を適切に見直す必要性はあるとしても、安保法以来の軍事力重視の姿勢が地域の緊張を一層高める一因になっていないか。少なくとも軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」に陥っている現実から目をそらせてはなるまい。

 集団的自衛権の行使を認めた安保法は憲法違反だとする安保法違憲訴訟で、最高裁は憲法判断をせず、原告側の上告を退けた。

 しかし、今必要なことは、日本を再び「戦争をする国」にしないために、安保法の違憲性を正面から問うことではないか。

 このままでは防衛力はどこまでも増強され続け、憲法の平和主義は完全に死文化する。破滅的な戦争に至ったように、一線を越えれば、もう元には戻れなくなる。私たちは自覚しなければならない。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/278219
社説・コラム
社説


<社説>安保法成立8年 元に戻れなくなる前に 

2023年9月19日 06時52分




 

他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法が成立して、19日で8年となった。岸田政権は2024年度末、防衛省に陸海空の各自衛隊などを一元的に指揮する常設の「統合司令部(仮称)」を創設する方針。在日米軍の運用・作戦指揮権を握る米インド太平洋軍司令部との連携強化が目的で、日米の軍事的な連携をさらに強める。日米の一体化が進めば、日本の主体性は弱まり、米国の戦争に協力を強いられるリスクが高まりかねない。(川田篤志)

◆24年度末に240人態勢で発足へ

 統合司令部の創設は、昨年末に防衛大綱を改称して策定した「国家防衛戦略」に盛り込まれた。防衛省は組織のあり方について検討を重ね、8月末の24年度予算概算要求で関連費を計上した。司令部は防衛省庁舎がある東京・市谷に240人態勢で発足させる。

 統合司令部は、平時から部隊運用を束ねる計画の作成や訓練を重ね、日本が攻撃を受けた「武力攻撃事態」など有事への対応に備える。米軍との連携も強化し、新設ポストとなる統合指揮官は、インド太平洋軍司令官のカウンターパート(対応相手)となる。

 従来は、制服組トップの統合幕僚長が米統合参謀本部議長とインド太平洋軍司令官の両者と調整に当たっていたが、自衛隊と米軍の対応関係や指揮系統を明確化する。日米一体運用の円滑化が一層進むことになる。

◆「極端な指摘は当たらない」

 米政府は、日本を含む広大な地域を管轄するインド太平洋軍の所掌を見直し、在日米軍に指揮統制機能を与える組織改編を行う可能性がある。台湾を巡る米中の武力衝突などが発生した場合、日本が直接攻撃を受けていない段階で、自衛隊の出動が求められる恐れもある。

 木原稔防衛相は15日の記者会見で「自衛隊と米軍は独立した指揮系統に従って行動し、日米一体となって活動するという極端な指摘は当たらない」と述べた。それでも、有事の際に一体的に行動する自衛隊と米軍の指揮や作戦統制をどう線引きするのかは不明瞭だ。

 拓殖大の川上高司教授(安全保障論)は、自衛隊だけで中国軍に対抗できない中、日本が侵攻された場合に米国が助けない「捨てられる」リスクを恐れ、日本側が米国に接近していると指摘。日米一体化が進みすぎた結果、台湾有事になれば「日本は米国の戦争に巻き込まれる可能性が高い」と危惧(きぐ)する。

 安全保障関連法 集団的自衛権の行使容認を柱に、安倍政権だった2015年に成立した。日本への直接攻撃がなくても、米国など密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」とし、他に適当な手段がないなどの要件を満たせば、日本が武力で他国を守る集団的自衛権を行使できると定めた。歴代政権は集団的自衛権について「必要最小限度の自衛権行使」を逸脱して憲法上許されないとしてきたが、安倍政権は憲法解釈を変更して容認を閣議決定した。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/278149
政治


防衛省の「統合司令部」が高めかねない戦争協力リスク 安保法成立8年 攻撃されていなくても自衛隊出動?

2023年9月19日 06時00分



集団的自衛権の行使容認を柱とした安全保障関連法の成立から、19日で7年。当時の国会前には、多い時で約12万人(主催者発表)が抗議デモに集まり、若者や学者、母親など多様な人々が立場を超え、反対の意思を政権に突きつけた。当時のデモの盛り上がりは、日本の社会に何を残したのか。市民の動きを野党の連携につなげる役割を果たした「市民連合」の中野晃一上智大教授(政治学)に聞いた。(大野暢子)

 —なぜ、あれほど多くの人が声を上げたのか。

 「政治家は、主権者である私たちの民意を代表するべき存在だ。それが、私たちのことを忘れて暴走を始めたため、主権者が公の場に出て『声を聞いて』と訴えざるをえなくなった。議会政治、政党政治を修復させようという動きだ」

 —当時の安倍政権は反対論を押し切り、安保法を成立させた。デモが社会に残したものは。

 「2015年のデモ以降、国会議員や既存のメディアに政治を任せず、自ら意思表明する市民の姿は当たり前になった。森友・加計学園や『桜を見る会』を巡る問題で浮かび上がった権力の私物化や、名古屋出入国在留管理局でのウィシュマさんの死などに市民は怒り、メディアも取り上げた。抗議の回路ができている。最近では安倍晋三元首相の国葬に反対する声が広がり、政権も無視できなくなっている」

 —政党への影響は。

 「市民は安保法成立を『敗北』とはみなさず、粘り強く政党を動かし、選挙の構図や結果を変えた。安保法廃止を目指す複数の野党に働き掛け、選挙の候補者を一本化させる野党共闘が代表的だ。共闘すれば必ず勝てるわけではないが、共闘しなければ巨大与党に対し、勝負にもならないのが現実だ」

 —昨年の衆院選、今年の参院選で市民と連携した野党共闘は不十分だったのでは。


 「15年の運動の遺産は食いつぶしている。世界的にも市民運動が盛り上がり続けることはなく、必ずサイクルがある。悲観していない。また広げていくことが重要だ。主権者の声を反映させる政治を取り戻すための模索は今も続いている。15年に始まった『未完のプロジェクト』だ」

 —年内にも改定される国家安全保障戦略に「敵基地攻撃能力の保有」が明記されれば、憲法9条に基づく専守防衛が揺らぐ。

 「15年に国会前に押し寄せた人々に共通していたのは『戦争する国にならないでほしい』との願いだ。9条改憲や敵基地攻撃能力の保有に前向きな議論を聞くたびに『この政治家たちは民意を代表できているのか』と疑いたくなる。与野党は、あの時に示された民意を忘れてはいけない」

 なかの・こういち 1970年生まれ。上智大国際教養学部教授。米プリンストン大政治学博士号取得。安保法への抗議をきっかけに結集した識者や市民が中心となって、立憲民主党や共産党など複数の野党による国政選挙での連携を後押しする「市民連合」の運営委員。著書に「右傾化する日本政治」(岩波新書)など。




◆市民によるデモ、社会に根付く 若者世代主導やSNS活用も

 デモによる市民の抗議行動は安全保障関連法に限らず、さまざまな局面で展開され、世代や手段を広げながら日本社会に根付いてきた。



 大きな契機になったのが、2011年3月の東京電力福島第一原発事故だ。各地で脱原発を求める動きが広がり、翌12年に当時の野田政権が関西電力大飯原発の再稼働を検討し始めると、毎週金曜の夕方に首相官邸前で抗議する市民が増加。最大で20万人規模(主催者発表)に膨らみ、誰でも参加できる活動として定着し、昨年まで続いた。

 第2次安倍政権の発足後も、特定秘密保護法や「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法など、国民の権利を脅かす法案が国会に提出されるたびにデモは活発化した。

 安保法の抗議デモで注目されたのは、大学生らでつくる「SEALDs(シールズ、自由と民主主義のための学生緊急行動)」だ。国会前で声を上げ続け、政治への関心が薄いとされる若者世代のイメージを覆した。最近では、政治に関心のある若い女性らが「選挙ギャルズ」を結成し、安倍晋三元首相の国葬や改憲に反対するデモを主導している。

 人が集まりにくい新型コロナウイルス禍で、交流サイト(SNS)を活用した「デモ」も拡大し、力を発揮している。20年春、検察幹部の定年を政府の判断で延長可能とする検察庁法改正案への抗議がツイッター上に投稿され、多数の賛同が集まった。世論の反対に検察幹部の不祥事も重なり、政府・与党は法案の成立を断念した。(市川千晴)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/203416
「あの時示された民意忘れるな」 安保法成立7年 国会前デモの歴史的意義は 中野晃一上智大教授に聞く

2022年9月20日 06時00分




原発再稼働反対を訴える人たちが続々と首相官邸前に押し寄せ、道路を埋め尽くした。右上は国会議事堂=2012年6月29日、東京・永田町で(中嶋大撮影)

◆「困っている人のため」から「自分自身が強い恐怖と危機を感じて」

 東京圏では1980年代以降、大きなデモが途絶えていた。しかし2011年以降には、それが変化した。

 その理由は、東京電力福島第一原発の事故の衝撃だった。東日本の人は、11年3月11日に何をしていたか、いま聞かれても答えられるだろう。その後の数週間に感じた不安もたぶん覚えている。その後の社会運動を考えるうえで、この衝撃の大きさは、いくら強調してもしすぎることはない。

 私は11年4月の東京・高円寺の脱原発デモから参加していた。原発事故直後の脱原発デモは、それまでの日本の運動とは違って見えた。それまで私が見た運動は、自分は特に困っていないが、困っている人のために声を上げるといった印象のものが多かった。あるいは、自民党政権を批判するための運動だった。

 しかし当時の東京の脱原発デモは、「遠いところで困っている人」のためというよりも、自分自身が事故に強い恐怖と危機を感じて来ている参加者が多かった。また原発事故当時は民主党政権で、脱原発運動は自民党政権の批判運動ではなかった。そうした運動に、万単位の人が集まっていた点で、それまでの運動とは違って見えた。これは事故の衝撃がデモを自然発生させ、それまで運動に縁がなかった人々を駆り立てたからにほかならない。



小熊英二さん

 とはいえ事故から半年もたつと、その衝撃は薄まっていった。だが12年6月29日の官邸前には20万人といわれる人が集まった。

 これは原発事故後の各種の活動の総結集だったと考えている。当時はデモだけでなく、放射線量の計測をしたり、給食で配慮を求めたり、署名を集めたりと、東京近辺でたくさんの運動が行われ、新しい参加者が増えていた。そうした各種の運動参加者が一点に結集したのがあの日の官邸前だったと思う。

 首都圏反原発連合(反原連)の官邸前抗議は、12年3月末に始まった時点では200~300人の小さな運動だった。官邸前で行うことに何かの計算があったわけではない。経済産業省前で抗議していたら、次は官邸で大飯原発の再稼働を決定するそうだから官邸前で抗議する、という流れだった。ところがそこに、人が集まってくる形になった。結果的に「官邸前抗議」という象徴的な行動形態を作り出し、それを9年にわたって維持したのは、反原連の功績といえる。

◆脱原発から安保法制反対運動に



 原発事故後にこうして台頭した運動が、15年の安保法制反対運動につながった。15年8月に国会前に集まった約12万人とされる参加者の約7割は、12年6月の脱原発官邸前抗議の参加者と重複していたという調査がある。つまり原発事故後に運動に参加し始めた人々が、15年に再結集したのがあの時の国会前だった。「安保」という名称がマスコミや年長者の注目を惹(ひ)き、12年より報道されたことも好作用した。SEALDs(シールズ)の役割は、いわば再結集の触媒だったと思う。

 しかし私の印象では、12年までの脱原発運動と、15年の国会前は、質が違うものだった。参加者が恐怖や危機を感じて集まっているというよりは、ニュースを見て問題だと思ったから来ている、と私には感じられた。

 とはいえこれは、デモの文化が、一種の定着を見た結果ともいえる。原発事故の衝撃で、一群の人々が運動に参加するようになり、官邸や国会の前で直接行動する慣習ができた。そしてその後は、何かことが起きると、デモが期待されるようになった。

 日本は先進諸国では異例なほどに、直接抗議の文化が途絶えていた。原発事故は不幸だったが、政治参加の文化が一定の定着をみたことは、率直に評価されるべきだ。

おぐま・えいじ 慶応大総合政策学部教授。専門は歴史社会学。脱原発デモの現場映像や参加者らの証言を収めた映画「首相官邸の前で」(2015年)を製作、16年に日本映画復興奨励賞受賞。

【関連記事一覧】新年連載「声を上げて~デモのあとさき」
「デモから生まれた政治家」れいわ新選組代表 山本太郎さん 「政治が暴走しそうな時こそ声を上げる」
高3だったあの時、「民衆の歌」で気持ちが一つになった… 障害者施設職員として「個人を尊重する社会に」(1月5日)
デモは民の熱意のバロメーター 新風吹き込む仕掛人「次に政府がやらかした時にバーンといけばいい」(1月4日)
「独りじゃなかった」SEALDs元メンバーの大学院生・是恒香琳さん「活動は確かに引き継がれている」(1月3日)
「脱原発」叫び強くなれた 写真家・亀山ののこさん 「黙っていることがスマート?ちっともそう思わない」(1月1日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/151768
福島第一原発事故の衝撃がデモの文化を定着させた 映画「首相官邸の前で」製作の小熊英二・慶応大教授に聞く

2022年1月1日 06時00分




 原爆死没者慰霊碑(公式名は広島平和都市記念碑)は、昭和20年(1945年)8月6日、世界最初の原子爆弾によって壊滅した広島市を平和都市として再建することを念願して設立したもので、ここに眠る人々の霊を雨露から守りたいという気持ちから、埴輪(はにわ)の家型に設計されました。中央の石室には原爆死没者名簿が納められており、石棺の正面には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれています。この碑文は、すべての人びとが原爆犠牲者の冥福を祈り、戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓う言葉であり、過去の悲しみに耐え、憎しみを乗り越えて、全人類の共存と繁栄を願い、真の世界平和の実現を祈念する「ヒロシマの心」が刻まれているものです。

 広島市では、この碑文の意味を正確に伝えるため、慰霊碑前の平和の池の中に、多言語(日本語、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、中国語(簡体字)、ハングル)での説明板を設置しています。

https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/faq/9398.html
原爆死没者慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、どういう意味ですか?(FAQID-5801)

ページ番号:0000009398 更新日:2023年1月31日更新


職親プロジェクト日本財団

コレワーク

https://www.moj.go.jp/KYOUSEI/CORRE-WORK/index.html