埼玉医科大学での性別適合手術から20年gid.jp手術要件の撤廃には、更なる議論が必要2019年2月20日gid.jp・Voice署名「男性器あるままの女性」 に反対しますと旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関する最高裁判決等旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関する最高裁判決に関する資料PDF魚拓と立民.公明の手術要件撤廃の特例法改正案がGID当事者及び生物学的女性の人権侵害になると思われる為、国会提出に反対な理由。



埼玉医科大で性別適合手術が行われてからすでに20年が経ちました。それまでブルーボーイ事件により長くタブーとされてきた性転換手術(当時の表現)を可能としたのは、一人の医師の志でした。そして、それが「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」につながり、特例法ができて性別の取扱いの変更が可能となり、社会の理解が広がる現在までの流れを作ったことは間違いありません。

それを実現した原科孝雄先生に、私たちは感謝をしてもしきれないほどの恩があります。

その原科先生から当時のことを振り返った手記をいただきましたので、ここに公開させていただきます。



SRS事始め

最近では特別珍しくないGIDに関する報道が始めて大々的になされたのは1995年のことであった。埼玉医科大学の倫理委員会でFTMの性転換手術の是非が審議されていることが報道され、多くの問い合わせで埼玉医大の電話交換台がパンクするほどの騒ぎであった(当時は性別適合手術という言葉は無かった)。わずかに20年前の出来事であるが、当時の事情を知らない若い人たちに、なぜ形成外科医の私が性別適合手術(SRS)を始め、いかにしてGIDのことが世に知られるようになってきたかを説明する。

申請番号22「性転換治療の臨床的研究」
主任研究者:原科孝雄(総合医療センター形成外科)分担研究者:木下勝之(同、産婦人科)、内島 豊(同、泌尿器科)、鍋田恭孝(防衛医大、精神科)研究の概要:性転換治療は本邦では全くタブー視されている問題である。これらの患者は肉体の性と、頭脳の中のそれとの相違に苦しみ、自殺にまで追いやられる場合もある。そして闇で行われる手術を受けたり、海外での治療を求めるなど、暗黒時代とも言える状況にある。諸外国、特に欧米諸国ではこの治療が合法化され、健康保険の対象にさえなっている国もある。この治療を医学的に系統づけ、これらの患者の福祉に役立つことを目的に、女性-男性の性転換をおこなう。対象症例:代表症例2例
なぜこの問題がそれまで議論されなかったのか?

この問題が長い間タブー視されてきた理由は、ブルーボーイ事件と呼ばれる不幸なできごとによる。1969年、ある産婦人科医が性転換手術を行ったことに対し、懲役2年、執行猶予3年、罰金40万円の重い判決を受けた。しかし当時性転換手術を禁止、規制する法律があったわけではない。警察、検察は、男娼(差別用語ではあるが、いわゆるオカマ、ブルーボーイ)の睾丸摘出術を行っていたその医師を検挙すべく、優生保護法(現在は母体保護法)第28条「何人も、この法律の規定による場合の外、故なく、生殖を不能にする事を目的として手術、又はレントゲン照射を行ってはならない」を準用した。しかし判決では決して性転換手術を全面的に否定したのではなく、しかるべき手順をもって行えば許されるものとしていた。その医師は大量の麻薬の横流しにもかかわっており、両者を合わせた刑が上述のようにきびしいものとなった。その結果世間では判決内容をよく知らないままに、性転換手術は大変な重罪であると誤って認識され、タブー視されるようになった。それ以来医師はこの問題を避けて通り、医療、法的サポートを必要とする当事者にとって『暗黒時代』が続き、ただ声なき声をあげて、救いを求め続けていた。

なぜ形成外科医である私が性転換手術を?



再建陰茎で子供ができたことを報じた新聞記事(夕刊フジ)。
この記事が私をジェンダーの道に導いた。 形成外科医である私の専門はマイクロサージャリーであった。その技術で26歳、新婚男性の交通事故で失ったペニスを再建したところ、子供ができ、そのことがテレビ、週刊誌に大きく報道された。

それを知った20代後半のFTM患者がペニスの形成を希望して来院したのは1992年のことであった。当時の多くの医師と同様に私も性転換症(性同一性障害)についてはまったく無知であった。しかしその患者はどこから見ても男性なのに、衣服を脱げばその体は完全に女性で、しかもどうしても自分は気持ちの上では男としか思えない、女の声がいやで焼き鳥の金串をのどに突っ込んで声を低くしたとの告白に驚愕し、そのことについて学ぶことを約束した。彼が残していった当時でも珍しかった本、『性は変えられるか?』(穴田秀雄著)には上記ブルーボーイ事件や、欧米諸国において30年以上前から行われていた性転換症の治療について詳細に解説されてあった。そして性転換手術もしかるべき手順を踏んで行われれば正当な医療行為とみ なされるだろうと記されていた。

なにごとにも後手後手のわが国において、医療面でもこのように開かれてない部分があることに対し生来の反骨精神を掻き立てられ、それでは自分がその治療を始めようと決心した。



治療への準備期間

全くのゼロから性同一性障害の治療を始めるに当たり、まず当事者の意見を聞くこととした。当時まだおおやけに顔を出していなかった虎井まさ衛氏(のちにミニコミ誌―FTM日本―を発行)には彼の紹介記事が掲載されていた雑誌社を通じて連絡をつけた。虎井氏の世話で彼を含め計5名の当事者と私の自宅で会ったのは1994年のことであった。倫理申請書にある『暗黒時代』は、その時の虎井氏の言葉であった。
性同一性障害に関する文献がまだ少なかったので1994年にオランダで行われたGIDの学会に参加した。閉鎖的なその学会の存在を知ったのは、前述のペニス再建法を英文で発表してあったのでそれを見た学会主催者が、Harashinaなる日本人形成外科医もGID治療に携わっているのではと考えて学会案内を送ってくれたもので非常にラッキーであった。この学会場では Human rights ―人権―なる言葉がさかんに飛び交っていて、性同一性障害は医療の面以上に人権、福祉の問題に深くかかわっていることを初めて強く認識した。またこの学会には精神科医、形成外科医など医療関係者、法律、福祉関係者の他に当事者が多数参加していたのが印象的であった。のちに私が第1回性同一性障害研究会(1999年)を主催した時にはそれを参考として当事者に参加を呼び掛け、今日までその伝統が受け継がれている。
初めてFTM患者に会ってから3年、十分に準備ができたと考えられた1995年5月に埼玉医科大学倫理委員会へFTM 2例の性転換手術の承認を求めて申請した。
しかし当時はそのようなことを言い出したらとんだ物笑いの種になるのではと半分恐れての決断であった。
申請翌日に精神科教授である倫理委員長に偶然会ったところ『からだの性とこころの性が違うなんて面白いことがあるんですね。』と言われた。当時は精神科医でさえ性同一性障害についてそれほど無知であった。
このことがリークしたのは、毎年行われている全国医科大学の倫理委員会委員長の会においての報告―埼玉医大でFTMに対する性転換手術の是非を議論しているーを共同通信社の記者がかぎつけ、それを全国の新聞社に発信したために全国一斉に記事となり、大きな波紋を描いた。これだけ注目を浴びた理由は、①タブー視されていた性転換手術を医科大学で行おうとしていたこと、②人権の時代でマスコミが飛びつくネタであったこと、③MTFの存在は世によく知られていたが、FTM、すなわち女性から男性への性転換はほとんど知られていなかったこと、などによると考えられる。
このニュースが流れた後に私は沢山の手紙を頂いた。そのほとんどすべてがFTMの人たちからであった。彼らは、自分は女性の体であることはよくわかっているが、どうしても気持ちの上では男性としか思えない、こんなことを考える人間は世界に俺一人しかいないんじゃないか、俺は精神病か、それとも変態か、と悩んでいたところ、新聞記事を見て自分と同じような人がいるんだ、決して俺一人ではないんだとわかっただけですっかり気持ちが楽になったと異口同音に書いてきた。当事者本人が、自分が何者であるかわからなかったほどFTMという存在は知られていなかったのである。
申請から1年後の1996年7月、埼玉医科大学倫理委員会は性転換手術を正当な医療行為と認める見解を答申した。そこに提示された付帯条件に対応するため、1996年9月、埼玉医科大学でジェンダークリニック委員会が結成された。
1997年5月、日本精神神経学会が性同一性障害の診断と治療のガイドライン「性同一性障害に関する答申と提言」を発表した。

第1例目手術

1998年10月16日、埼玉医科大学総合医療センター(川越市)で医療行為としておおやけに認められた国内初の性別適合手術(FTM)が行われた。第1例目は奇しくも1992年にペニスの形成を希望して来院し、私にジェンダーへの道を開いたそのFTM患者であった。
この時にも報道は過熱し、われわれ手術チーム3名が手術室に向かう廊下には数十台のカメラの砲列が待ちかまえていた。そして当日夜7時のNHKテレビのトップニュースとしてその画像が流されたほどの扱いであった。

その後

1999年3月には第1回性同一性障害研究会(GID研究会)が開催された。(2006年から学会に昇格)
2003年7月「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」いわゆる特例法が公布された。
2004年7月、上記特例法が施行され、当事者の戸籍上の性別変更が実際に行われ始めた。

なぜスムースにことが運んだか?

性同一性障害に関して始めて大きく報道されたのが1995年、第1例目のSRSが行われたのが1998年、それから5年後の2003年には特例法が制定された。西欧先進諸国よりは大はばに遅れたとはいえ、すべて後手後手に回りなかなか物事が決まらないわが国において、しかも誤解、偏見の対象になりやすい性にかかわる事柄―性同一性障害―に関する法律がかくも素早く制定された理由としては、1)人権の時代、2)マスコミの後押し、3)日本人の気質、の三つが挙げられる。このことが人権に深くかかわりをもつと感じたマスコミは大挙して厚生省、法務省に押し掛けて問題の早期解決を迫った。諸外国では人種、宗教、思想、職業、性的嗜好などのゆえに一方的、かつ不条理な暴力犯罪の攻撃対象とされることがあり、これをhate crime(憎悪犯罪)という。同性愛者、性同一性障害者などの性的少数者もそのターゲットとされ、単に性同一性障害者なるがゆえに殺された事件があり、それが映画化された(Boys, Don’t Cry)。これらの人たちを治療する側の医師さえも攻撃対象になり得るが、穏やかな日本人の気質ゆえか、この問題に対する厳しい反対意見を投げかけられたことは皆無であった。また日本人がマスコミの論調にたやすく誘導される点もプラスに働いたことは否めない。

おわりに

性同一性障害について声を上げたのは決して私が最初ではない。ブルーボーイ事件裁判の鑑定人であった高橋進、その弟子の塚田攻や、針間克己、阿部輝夫らの精神科医、法律家の石原明、大島俊之らがそれぞれの立場で当事者を診たり、それに関わる外国事情などを紹介していた。しかし医学や法律関係の書籍、雑誌に、『こういう人がいる、このように人権が侵害されている』と書いても世間の目を引くことはなかった。それまでタブー視されていた性転換手術を外科医が行うと言い出したのでマスコミが飛びついた。その後も倫理委員会の答申、日本精神神経科学会のガイドライン策定、第1例目の手術、特例法の制定ならびにその施行など、それぞれのイベントごとに大々的に報道され、この問題に対する世の理解度を高めた。これらの報道以前には、性転換は『趣味でやっている』、『商売のため』などが一般の認識であった。それが報道以降には『かわいそうな病気の人』(虎井氏言)に変化してきた。そしてあるアンケートでは、GIDを知っている-85.2%、なんとなく聞いたことがある-14.3%、合わせて99.5%の人が認知していた(毎日新聞、2009年9月3日)。それより14年前の1995年に倫理委員会へ申請した時には精神科教授でさえ全く無知であったことと比較して雲泥の差と言うべきであろう。
もしも私が行動を起こさなかったとしてもこの人権の時代にいつまでもこの問題が放置されていたことはあり得ない。しかし私のアクションが問題解決への道を少しでも早め、それによって悩み、苦しむ人たちにわずかでも光明を与え、暗黒時代からの脱出の手助けが出来たのは無上の喜びで、医師冥利に尽きる。



※ 画面最上部の写真は、原科医師(中央)がFTM の尿道延長・ミニペニス形成術を高松亜子医師(右)と行っている様子。
※ 本文中、現在使用されていない用語が含まれておりますが、作者の意向を尊重し原文のママを記載いたしました。



著 者



原科孝雄 埼玉医科大学名誉教授

埼玉医科大学での性別適合手術から20年

2018年10月16日

性同一性障害者が受ける性別適合手術は、病人や障碍者の患者本人の同意のなく行われた旧優生保護法の強制不妊手術とは異なり強制断種手術ではない事。
性別適合手術は精神科医が性同一性障害の患者を診察して、性同一性障害の本人が強く希望し、性別に対する違和感からくる苦痛・苦悩を取り除くためには手術をするしかないと判断されて性別適合手術は、身体に対して強い違和感があり、それを解消するために行われる手術であって性同一性障害者の当事者が必要としている事。
そして手術要件の撤廃について性同一性障害の当事者間で意見が分かれていますが、権利を侵害されることになる側である特に生物学的女性への配慮が必要であり性別適合手術手術を必要としないとなると、男性器を持った女性、女性器をもった男性が存在することになり手術を必要とせずに戸籍の性別変更ができるとなると、男性器をもった人、しかも場合によっては女性を妊娠させる能力を持った人がこうした女性専用の施設に入場し生物学的女性の権利を侵害してしまいますし、性的被害を受ける可能性が高い女性にとっては「安心・安全な環境を提供する」という意味合いと生物学的性別による区別で生物学的女性専用施設を守る必要性から、GID又はTG当事者原告のみの女性スペースを守る会さんより抗議声明のある特例法生殖能力喪失要件違憲最高裁判決と性同一性障害者特例法を守る会より抗議声明のある広島高裁外観要件違憲疑い判決を理由に2024年秋の臨時国会において立民や公明の手術要件撤廃の特例法改正国会提出や広島高裁外観要件違憲疑い判決に従った特例法廃止は認められないと私は思います。



2019年(平成31年)1月23日、最高裁判所は性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下性同一性障害特例法)が定める性別の取扱いを変更するための「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」と「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」という条文(以下手術要件と呼びます)が、憲法13条などに違反するとして、戸籍上は女性である岡山県在住の臼井崇来人(たかきーと)さんが手術を行わないで男性への性別の取扱いの変更を求めた家事審判で、「現時点では憲法に違反しない」との初判断を示し、性別の取扱いの変更を認めない決定を出しました。

これは裁判官4人全員一致の意見ですが、うち2人は手術なしでも性別変更を認める国が増えている状況を踏まえて「憲法13条に違反する疑いが生じている」との補足意見を示したとのことです。

私たちは最高裁判所判断を妥当である考え、支持します。

以下、性同一性障害特例法の手術要件について、当会の考えを表明いたします。



1.性別適合手術は、強制断種手術ではない

性同一性障害特例法に手術要件があることを「断種要件」と呼んだり、旧優性保護法下において、遺伝性疾患や知的障害、精神障害の方の一部が国によって強制不妊手術を受けたことに関連づけて、国による不妊手術の強要であるとか強制断種であるかのように報道されたり主張する人が存在します。
しかし、性別適合手術や手術要件は、強制不妊手術でも強制断種でもありません。
まず、国による強制不妊手術は、本人の同意無く行われたものです。しかし、性同一性障害における性別適合手術は、本人の強い希望によってのみ行われ、しかも全額自費です。
性同一性障害の当事者の多くは、手術を受けたいために懸命にお金を貯めて、精神科や婦人科や泌尿器科に(場合によっては何年も)通って診断書をもらい、更に手術まで何年も待たされたり時には海外に行ったりしてまで受けます。
元々性別適合手術は、手術を嫌がる医師を懇願の末になんとか説得して、ようやく始まったという歴史的経緯もあります。このように強制性は存在しません。
確かに一部の当事者に「手術は受けたくなかったが特例法によって戸籍の性別の取扱いを変更するためには受けざるを得なかった。これは一種の強制である」と主張する人もいるようです。しかしながら、これはおかしな話と言わざるを得ません。
そもそも性別適合手術は、身体に対して強い違和感があり、それを解消するために行われます。精神科医が患者を診察して、本人が強く希望し、性別に対する違和感からくる苦痛・苦悩を取り除くためには手術をするしかないと判断して初めて行われるものです。しかもその診断が間違いでないように2人以上の精神科医が診ることになっていますし、更には専門家による判定会議も行われます。
当然、戸籍変更したいからというような個人の利得のために行うものではありませんし、それを理由として手術を希望しても、本来精神科医の診断は得られないし判定会議も通りません。
もし、本当は手術をしたくなかったけれど、戸籍の変更のために仕方なくやったという人がいるなら、その人は精神科医も判定会議のメンバーも騙したということに他なりません。
また性同一性障害特例法は「性別の取扱いの変更を行うには、手術をしなさい。」と定めているわけではありません。
この法律は、手術を行い、男性として、あるいは女性として生きている人の戸籍上の性別を、そのままだとあまりに不便だろうから現状に合わせて変更しましょうというものです。
つまり、「特例法の要件を満たすために手術をする」のではなく「手術をした人の性別を追認する」ための法律なのであり、順序が逆なのです。

2.性同一性障害の当事者の中でも意見が分かれている

そもそも、この手術要件の撤廃を性同一性障害の当事者が全員望んでいるのかというと、そうではありません。特に当会に所属している当事者の方には、手術要件の撤廃に反対の立場を取る人も多く存在します。
性同一性障害の当事者のうち、特に身体に対する強い違和感がある中核群と呼ばれる人たちは、手術を必要としています。従って中核群の当事者にとっては、手術要件があったとしてもそれ自体は大きな障壁とはなりません。

3.権利を侵害されることになる側(特に女性)への配慮が必要

手術を必要としないとなると、男性器を持った女性、女性器をもった男性が存在することになります。
世の中にはトイレ、更衣室、浴場、病室、矯正施設など男女別の施設がいくつもありますが、これらの施設が男女別になっていることには意味があります。特に、性的被害を受ける可能性が高い女性にとっては「安心・安全な環境を提供する」という意味合いがあります。
しかし、手術を必要とせずに戸籍の性別変更ができるとなると、男性器をもった人、しかも場合によっては女性を妊娠させる能力を持った人がこうした女性専用の施設に入場してくることになります。
世の中に女装した人の痴漢行為や盗撮などの性犯罪が多く存在する昨今、これで本当に女性の安心・安全な環境を提供することができるのでしょうか。
実際、手術要件の存在しないイギリスやカナダでは、女性用刑務所に収監された未手術の受刑者による強姦事件も発生しています。
もちろん、そうした罪を犯す人が悪いのであって、それによって無関係の人にまで累が及ぶのはおかしいという考えもあるでしょう。
しかし、罪を犯す人が悪いだけという論法であれば「女性専用車両」というものは必要ないわけです。痴漢は、それを行った人だけが悪いのであって、他の男性は無関係です。しかし女性専用車両が必要となった背景には、そうでないと女性の安心・安全な空間を確保できないと判断されたからです。
女性は、多くの人が小さいときから性的関心を受けたり怖い思いをしたりしています。触ったり盗撮したりという明らかな犯罪まではいかなくても、じろじろ見られたり、迫られたりしたこともあるでしょう。
それを考えれば、これはやはり男女別施設によって安心・安全な環境を提供されるという権利を侵害していると考えられます。となれば、当事者側の権利の主張だけで物事を通すことはできません。
それでは、入れ墨のように施設によって未手術の人を排除するということは可能なのでしょうか。
これも難しいでしょう。特例法では、第4条第1項に「法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」と定められています。従って性器の有無だけで法的に性別が変わった者を排除することに合理性は見いだしにくく「差別」にあたることになります。数年前に静岡で性別の取扱いを変更した人がゴルフ場への入会を拒否された事件では、差別にあたるとしてゴルフ場側が敗訴しました。
それでは「法律で別段の定めを作れば良い」という話になるでしょうか。例えば「未手術の人は特定の施設の利用を制限できる」とか。これもどうでしょう。これではある意味「あなたは完全な女性(または男性)ではない」と言われているようなものです。二等性別のように扱われることで当事者は傷つくことになります。

4.戸籍変更後に、変更前の性の生殖機能で子どもができる可能性

妊娠したFTMの人は生殖器をそのまま持っている訳ですから、当然男性に性別変更した人が出産したり女性に性別変更した人が妊娠させたりすることがありえます。つまり男性が母、女性が父ということがありうるということです。
実際、海外の事例で男性に性別変更した人が出産したという事例があり、ニュースにもなっています。
別に男性が母になってもいいのではないかという議論は確かにあるでしょう。が、こうなってくると男とは何か、女とは何かという定義というか哲学や宗教の扱う範囲になってしまいます。現状の法律や行政の体制はもちろんそれを前提としておらず、いろいろな制度で手直しが必要になってくるでしょう。
更に「家族観」も問題です。世の中には、保守系の方を主とする家族観に厳しい人が大きな勢力として存在しています。夫婦の選択的別姓が実現しないのも、代理母出産が実現しないのも極端に言えばこの人たちが反対しているからと言われています。特例法の「現に子がいないこと」要件の削除が実現しないのも「子どもの人権に配慮して」というよりはこうした人たちの家族観に反するというのが大きな要因と言えます。
そうした家族観からすれば、男性が母、女性が父となる要素は受け入れ難いと考えられます。私たちの存在は、そうした「家族観」を壊すものではあってはなりません。

5.要件の再検討が必要

現行の特例法から手術要件が無くなると、20歳(成人年齢が変更になれば18歳)以上、婚姻していないこと、現に未成年の子がいないこと、性同一性障害の診断を受けていることの4つが要件として残ることになります、果たしてこれでいいのかを考えなければなりません。
世界にはアルゼンチンのように、医師の診断書も必要なく申請だけで性別変更ができる国もありますが、日本もそこまで行くのでしょうか。
私たちは不十分と考えます。これだとホルモン療法も全くやっていない、身体の状態は完全に男性のまま、女性のままという人も対象になるからです。性同一性障害であるという確定診断は、身体の治療を始まる前に出ます。項目3に書いたように、権利を侵害されることになる側への配慮が必要ということを考えると、さすがに身体の状態が出生時の性別のままというのは厳しいと言わざるを得ませんし、社会適応できているとは言えません。髭もじゃの人を女性として扱うことに抵抗感があるのは当然でしょう。
とはいえ「性自認の性別で他者から見て違和感がないこと」のような基準は、客観性が無いため設けることは困難です。イギリスでは Gender Recognition Act 2004(性別承認法)において Been living permanently in their preferred gender role for at least 2 years(少なくとも2年間は望みの性別で日常生活を送ること)というように、性自認に従った性別での実生活体験重視の発想をしています。しかし、これもどうやって、誰が検証するのかという問題がでてきます。
基本的に法律は裁判官に判断を丸投げするような形ではなく、明確に判断できる基準を設けなければなりません。そのためには客観的な誰でもが評価できるような判断材料が必要となります。
それでは精神科医が判断するということではどうでしょうか?いや、これだと精神科医が完全に門番になってしまい、現在のガイドラインで唄われている当事者にサポ-ティブに接するということと反しますし、精神科医に人生の大問題を決める権限があるのかというのも疑問です。というわけで、手術を外すのであれば代わりにどのような基準を設けるのかについて、今後検討が必要でしょう。

6.性別の再変更の可能性の検討が必要

手術要件を撤廃すると、変更へのハードルはが大きく下がることになります。逆に言えば安易に性別変更を行う人が出てくるということです。現行の特例法では再変更は全く考慮されていませんが、手術要件を撤廃するとなると考えておかなければならなくなります。
もちろん自由に変更できて良いでは無いかという考えもあるでしょう。が、性別というものを、その時々の都合でそんなに変えて良いものなのか、私たちは疑問に思います。


7. 結論として

結論的に、現時点で手術要件を外すということについては議論が不足しており時期尚早と考えます。
少なくとも、当事者のニーズがどれくらいあるのか、実際に外した場合影響を受ける(特に女性)側の受け入れは可能なのかなどの調査が必要でしょう。また、上記項目5で書いたような要件をどうするのかという検討も必要です。
GID学会や日本精神神経学会には、まずはこうしたアカデミックなエビデンスを揃えていただくよう要望いたします。また、今後の性別変更の要件についても試案を提示すべきでしょう。
さらに、手術要件撤廃を訴えている人は、国に対してその要望を行う前に、世間に対して男性器がついていても女性、子どもが産めても男性なのだということについて、理解と支持をとりつけるべきでしょう。
以上より、私たちは「性同一性障害特例法からの現時点での性急な手術要件の撤廃には反対。撤廃するかどうかを含め、今後更なる意見収集や国民的議論が必要」と考えます。
これに基づき、今後国会議員や関係省庁にも議論をスタートするよう求めていきたいと思います。
私たちは、社会の一員です。当事者の主張がわがままになってはなりません。この問題は、みなさんで大いに議論をし、納得をした上で進めようではありませんか。

2019年2月 運営委員一同

性同一性障害特例法の手術要件に関する意見表明

手術要件の撤廃には、更なる議論が必要

2019年2月20日



「男性器あるままの女性」 に反対します提出先:広島高等裁判所岡山支部 裁判官 、メディア各位 、(追加)岸田首相、法務省、厚生労働省、消費者庁、文部科学省、内閣府男女共同参画局、警察庁、内閣法制局




作成者:水田慧活動詳細
経過報告1
コメント256


活動詳細

※署名は、Voiceから届いたメールのリンクを承認して、完了します。メールアドレスは発起人には知らされません。メールをご確認のうえ、承認をお願いします!

1、署名の目的

「男性器あるままの女性」に、反対します。

10月25日最高裁大法廷の決定で、性同一性(障害)特例法の第4号規定が違憲と決定しました。

性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件(裁判所のサイト、判例結果のページに移動します)

第5号規定、外観要件は広島高等裁判所に差し戻しになりました。こちらも違憲となると、…

生まれが男性の身体男性の性別の取扱いは、その人が望む場合、「男性器あるままの女性」とみなされ法的に認められるようになるでしょう。

しかし多くの一般女性の声は聞かれていません。私たちは安全と人権を求めて声をあげます。

この署名とコメントとを一緒に届ける予定です。ご意見をどうぞお寄せください。



2、活動立ち上げの背景・理由

5年ほど前から、一般の女性たちは反対の声をあげてきました。しかし、その声が無視されてきています。名のあるフェミニストや学者は、これらの動きに賛同しているからです。ただ一部、千田有紀教授と牟田和恵教授、キャロライン・ノーマ教授、作家の笙野頼子さん、ジャーナリストの郡司真子さんたちは反対を表明したため、トランスヘイターとして糾弾されたり、不当に出版や講演会のキャンセル等をされています。

「半年ほどで外観要件は、違憲の判決がだされるはずだ」との予想もありました。時間がありません。

外観要件が違憲とされ「男性器ある女性」が認められたら、女性と子供たちは危険に晒される可能性が高くなります。考えや立場の違い、それらを越えて「男性器ある女性に反対する」とだけの署名運動が必要だと考えました。

3、 問題点は何か?

性別を変えることは基本的人権の問題だとされています。しかし、大法廷の決定で考慮されているのは性同一性(障害)の人の人権のみであり、一般女性の人権は無視され、消されようとしています。本来は女性のスペースの問題であり、女性の基本的人権が蔑ろにされようとしています。反対の声をあげる人は、トランスヘイター、TERFなどと糾弾されてきました。話す価値もなしと無視され続けています。話すことすら出来ない環境は、「言論の自由」が保障されていません。意見が違うならばなおのこと、議論されるべきではないでしょうか。議論もされず、言論統制のように黙らされる、全く不健康な社会になりつつあります。私たちは公正な議論を求めています。※この署名を立ち上げようとしていた12月3日、まさにこの言論の自由が脅かされるようなことが起きました。アビゲイル・シュライアー著「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇 」が翻訳・出版される予定だと知らせがあり、その後すぐ非難とキャンセルの動きが起き始めたのです。まだ日本で出版もされていない本なのに「この本はヘイト本!」と激しい調子で一部の人が言及しています。この動き、どう思われますか。

【追記】12月5日7:38 X(旧ツイッター)のKADOKAWA公式から「お詫びとお知らせ」があり、刊行中止になるとのこと。残念です。

【追記2】産経新聞出版から4/3に出版が決定。Amazonでは一位になる注目度。

【追記3】産経新聞出版(東京都千代田区)が4月3日に発行予定の書籍「トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇」について、同社宛てに出版中止や取扱書店への放火を予告する脅迫メールが届いていた



なんと、またもや妨害が。今度は前回を凌ぐ凶悪さ。放火するとまで。取扱をやめるという本屋も…。言論の自由は?


4、活動内容の詳細



この問題はまだ多くの人に知られていません。この署名を通じて知ってもらい、判断していただきたいです。女性は、「男性器ある女性」と一緒に女湯に入ることができるのか。男性は、妻や母、娘が、「男性器ある女性」と一緒に女湯に入ってよいと思えるのか。女湯や女性トイレだけに限らず、女子スポーツ、女性の政治家を増やすためのパリテ法、クォータ制、医療の統計などにも混乱が生じます。不利益を被るのは圧倒的に女性です。女性専用の場所に「男性器あるままの女性」が入ってくる未来を、次の世代に渡してよいのかどうか。

この問題が詳しく知られていない、議論されていない事も大問題です。「性的マイノリティが好きなように生きる」というふんわりとした伝え方ではなく、現実を多くの国民に知らせなければなりません。しかし、メディアはトランスジェンダー擁護の立場からの記事しか出していません。メディアは速やかに現実を報道してください。

5、エールの使用法


広島裁判所に署名を渡しに行くための交通費、署名やコメントの印刷代、郵送代などに充てさせて頂きます。

↑上記のつもりでしたが、設定ミスでエール募集していませんでした。拡散エールのみです。もしカンパしても

いいよ!という方は、noteの方へよろしくお願いいたします。mizuのnoteはこちらです。訂正理由をnoteでも書くつもりです。

「広島裁判所に署名を渡しに行くための交通費、署名やコメントの印刷代、郵送代などに充てさせて頂きます。」※2024年1月31日 訂正します。こちらでの修正方法がわかったので覚悟を決めました。今までお金を渡していただくということにとても強い抵抗感がありましたが、印刷や、交通費にそこそこの金額はかかります。しがないシングルペアレントである自分には大きな金額です。でも、カンパをしていただくのは申し訳ないという気持ちがありました。しかし、日本ではカンパが集まりにくいとか協力しにくい空気があるのは、こう思う気持ちからだというのに気がつき、思い切ってエールをお願いする方向へ修正します。ご無理のない範囲でできる方がいらっしゃいましたら、ぜひお願いします。お気持ちに感謝し、大切に使わせて頂きます。



団体はありません。一般の個人の活動です。

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みず 

「男性器あるままの女性」が、たとえ「みなし」でも実現してよいものかどうか。

1日診断などが横行する現在の状態では、当事者にも間違った身体にうまれて生きにくいという誤解をさせてしまいます。「男性器あるままの女性」を認めることが、本当に人権を守ることになるのでしょうか。当事者には早急な治療ではなく、時間をかけた後悔しない治療が必要ではないかと考えています。

女性と子供に安全な専用スペースが必要です。性犯罪が多くあり、届出も出来ない、裁判でも裁判官に女性が少なく正しい裁判が行われない現状では、被害を防ぐための予防策が大切です。女性専用の場所のセキュリティホールを大きくする違憲判決は支持できません。

手術をしない、「男性器あるままの女性」を法的に女性とみなすことに反対します。第5号規定、外観要件を合憲としてください。



※1月31日 訂正1 「提出先 岸田首相」追加。裁判所が署名を受け取ってもらえないという情報があり、首相はじめ各関係省庁へ追加提出をしたいと考えています。

※同1月31日 訂正2 エールの募集をしていませんでしたが、訂正方法が判明したのと考えを変えたので、エールを募集する設定に変えました。

https://voice.charity/events/644
「男性器あるままの女性」 に反対します



https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/163/093163_hanrei.pdf










2024年7月3日

【談話】旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関する最高裁判決について

立憲民主党 
政務調査会長 長妻 昭
子ども・子育て担当NC大臣 菊田真紀子
障がい・難病PT座長 横沢 高徳


 本日、旧優生保護法の下で障がいや特定の疾患がある人たちが不妊手術等を強いられ、国に賠償を求めた裁判で、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法は憲法違反だとする初めての判断を示し、国に賠償を命じる判決を言い渡しました。

 旧優生保護法の下で、重大な人権侵害である不妊手術等が強制され、身体的、精神的に耐えがたい苦痛を経験された方々に対して、立法府に身を置く一員として心から深くお詫びします。

 訴訟は、不法行為から20年が過ぎると賠償請求権が消える「除斥期間」の適用についても焦点となっていましたが、最高裁判所は「除斥期間」を適用せず、「除斥期間」を適用した仙台高裁の判決については審理をやり直すように命じました。被害に遭われた方々が、社会的差別や偏見がある中で、旧優生保護法に基づいて行われた手術の違法性を認識し、訴訟を提起して被害回復を図ることは困難であったと考えられます。「除斥期間」を適用しなかった本判決を評価します。

 被害に遭われた方々が高齢化していることもあり、立憲民主党はこれまで政府に対して上告を断念するよう強く求めてきました。私たちの要求に応えず上告したことにより、いたずらに時間が費やされたことを政府は猛省すべきです。その上で、本判決を重く受け止めて速やかに判決に沿った対応をするとともに、総理大臣は被害を受けた方々に直接謝罪するべきです。

 今年の通常国会において、立憲民主党を含め超党派で「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」を改正し、一時金の請求期間を5年延長しました。政府は、一人でも多くの方に一時金が支給されるよう、対象者への効果的な広報を早急に行うとともに、一時金の水準等を含む今後の対応について、不断の検討及び見直しを行うべきです。

 立憲民主党は、あらゆる差別に対し、断固として闘います。障がいの有無などによって差別されない社会の構築、一人ひとりが個人として尊重され、多様な価値観や生き方を認め、すべての人に居場所と出番のある共生社会の構築に全力を挙げて取り組んで参ります。


以上

【談話】旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関する最高裁判決について




本日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の5件の上告審において、旧優生保護法による被害について、除斥期間(平成29年法律44号による改正前の民法第724条後段)の適用を制限するとの統一的判断を示し、国に対して被害者への損害賠償の支払いを命じた(原審が仙台高等裁判所の事件については、損害額等について更に審理を尽くさせるために原審に差戻)。




本判決は、特定の疾病や障害を有する者等を対象とする旧優生保護法の不妊手術に関する規定は、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」上、差別的なものであり、憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを認め、同規定の立法行為は違法であったと判断した。

その上で、除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある者等を差別して不妊手術という重大な人権侵害を行った国の責任は極めて重大であること、③被害者らが損害賠償請求権を行使するのは極めて困難であったこと、④国会は、1996年に旧優生保護法を母体保護法へと改正した後、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。




これまで、旧優生保護法国賠訴訟に関しては、全国各地の地方裁判所及び高等裁判所において、除斥期間の適用の有無について判断が分かれてきたが、本判決によって、除斥期間の適用が制限され、国は被害者である原告らに対して賠償金の支払義務を負うことが明確になった。




1948年に制定された旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に掲げた法律であり、このような優生思想に基づき、1996年に母体保護法に改正されるまでの間、障害のある人に対して、不妊手術が約2万5000件、人工妊娠中絶が約5万9000件、合計約8万4000件もの手術が実施された。これは戦後最大規模の重大な人権侵害である。

国は、本判決を尊重し、旧優生保護法による被害の全面的回復に向けて、大きく舵を切らなければならない。

まずは、現在上告受理申立てをしている2件の高等裁判所判決について、速やかに同申立てを取り下げるとともに、係属中の全ての訴訟について、原告らとの間で協議を行い、和解による早期の全面的解決を図るべきである。また、旧優生保護法国賠訴訟の原告らだけでなく、全ての被害者について被害回復を実現する必要がある。

被害回復措置について、一時金支給法は、一時金が低額であることや配偶者に対する支給規定がないなどの点で極めて不十分である。また、同法による一時金支給の認定件数は、2024年5月末時点で1110件にとどまっている。

そこで、現行の一時金支給法を抜本的に改め、旧優生保護法の違憲性を法文に明記するとともに、不妊手術等を受けた者の配偶者を含め、全ての被害者に対して被害を償うに足りる適正な額の補償金の支給を定めた補償制度を再構築すべきである。




旧優生保護法に基づく手術の実施が開始された1949年から75年、旧優生保護法が母体保護法へと改正された1996年から28年もの年月が経過した。旧優生保護法の被害者らは皆、既に高齢であり、亡くなった被害者も数多くいるのであるから、上記の被害回復措置の実現には、もはや一刻の猶予も許されない。




なお、当該大法廷での審理及び判決に当たり、裁判所は、弁護団等との協議に基づき、障害のある当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供し、全ての人に開かれた裁判に向け、歴史的な一歩が踏み出された。その一方で、当事者向けの手話通訳等の手配が公費で行われないことなどの課題もあり、引き続き、障害者権利条約に基づく手続上の配慮及び合理的配慮の提供が求められる。




旧優生保護法は、多数の障害のある人に取り返しのつかない被害を与えただけでなく、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根づかせ、障害のある人の尊厳を傷つけた。今もなお、障害のある人は、結婚、妊娠及び出産、子育て等の家族形成に限らず、日常のあらゆる場面で周囲からの差別・偏見に苦しんでいる。

当連合会は、本判決を機に活動を更に充実かつ加速させ、被害回復が全ての被害者に行き届くまで真摯に取り組み続けるとともに、優生思想に基づく差別・偏見をなくし、被害者の尊厳が回復され、誰もが等しくかけがえのない個人として互いに尊重し合うことができる社会を実現するために、全力を尽くす決意である。







2024年(令和6年)7月3日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子

旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明