袴田巖さん(87)の姉・ひで子さんと日弁連さんが再審法改正訴え




3月に再審が決まった袴田事件で、2014年3月に静岡地裁の裁判長として、再審開始と死刑の執行・拘置を停止し釈放を認める決定をした村山浩昭弁護士(66歳)が、5月19日に参議院議員会館で開かれた「再審法改正をめざす市民の会」結成4周年記念集会に出席。弁護団の水野智幸弁護士(法政大学法科大学院教授・元裁判官)の質問に答える形で対談し、同事件における静岡県警の証拠捏造を明確に指摘したほか、釈放もそれが理由だったとするなど踏み込んだ発言をした(以下は対談の要旨)。 ――決定に際し裁判官ら諸先輩の判決を覆すことに躊躇(ためら)いは?  再審開始決定には勇気がいる。三審で決めたことの重みを裁判官は知るから。しかし袴田事件の確定審の判決は異様でした。裁判所は検察の自白調書を職権で排除しており、このパターンは通常は無罪なのに判決は死刑になった。控訴審は8年もかけて袴田さんにはけないズボンを何回かはかせたほか、あてにならない証拠が多数ある中、なぜか5点の衣類だけが脚光を浴びた。それが本物の証拠か否か、真犯人が入れたかどうかだったが、他に支える証拠はないと思ったので躊躇わなかった。 ――捜査機関の捏造について。  証拠の違法収集を理由に無罪としたことはあったが(袴田事件では)最初はあそこまで大掛かりな捏造をするとは思わなかった。1年以上経って5点の衣類が見つかることは偶然ではありえない。(袴田さん以外の)誰かが入れたなら、緑のブリーフを袴田さんが使っていたことを知っていた者。衣類を味噌タンクに放り込めるのは、真犯人か捜査機関しかない。だが真犯人がそんな危険な場所に舞い戻ることは考えにくい。捏造しかないと思った。 ――死刑囚の拘置停止について。  懲役刑ならば停止で釈放だが、死刑の場合は執行停止だけで拘置の停止にはならないとされていた。合議体で拘置所を訪ねた際、袴田さん本人には会ってもらえなかったが健康状態も精神状態も極めて悪いと職員から聞いた。逃亡の可能性もまずなく、有罪になったのは捏造の結果。停止の決定文でやや感情的な言葉(これ以上の拘置は耐え難いほど正義に反する)も使ったが、釈放しかないと思った。(会場拍手)
「再審法改正の必要あり」

――その再審決定を東京高裁が取り消した時(18年6月)は?  もっと付け入る隙のない決定文が書けなかったかと、袴田さんとひで子さんに申し訳ない気持ちになった。また無罪判決まで時間がかかってしまうと思ったからだ。 ――最高裁が高裁決定を破棄して差し戻した時(20年12月)は?  クリスマス・プレゼントとか聞いた。差し戻しを主張した3人は裁判官や弁護士たちで、私たちの合議体はよほど司法界から信頼されていないのかと思った(笑)。再審開始を主張した2人は有識者で学者と外交官。狭い世界にいる裁判官よりそういう人たちのほうが常識的な判断ができるのでは。 ――今年3月の東京高裁(大善文男裁判長)の再審決定の評価は?  捜査機関の捏造について書いてくれた。これは勇気がいる。検察官すべてを敵に回すからだ。素晴らしい決定文だと思う。 ――今後の静岡地裁での再審裁判のあり方については?  検察が有罪立証、弁護側が証拠捏造を指摘する形で進むだろう。袴田さんの年齢(87歳)もあり、できるだけ速やかに進めてほしい。 ――再審法改正の必要性は?  以前はあまり感じなかったが、袴田事件を経験して、たった2次の再審請求にこれだけ年月がかかるのはおかしいと感じた。法的な規定がないからで、改正は必要だ。 ――裁判官から再審のあり方を問う声が出ないのはなぜか。  再審を経験する裁判官が少ないこともあるが、そう考える裁判官もいるはず。改正を目指して私もお手伝いしたい。                   ◇    ◇  集会冒頭では袴田さんが姉のひで子さん(90歳)とともに登場。「戦いが始まる」などと話した。

粟野仁雄・ジャーナリスト

「捏造しかないと思った」「袴田事件」死刑執行停止と釈放決めた元裁判官の証言

6/6(火) 7:06配信週刊金曜日





死刑判決から半世紀以上たち、裁判のやり直しが決まった袴田巖さん87歳。最初に裁判のやり直し決定を出し、袴田さんの釈放という決断を下したのが静岡地裁だった。その静岡地裁での審理を指揮した元裁判官が、袴田さんの支援者集会に出席した。語ったのは長年 胸に秘めていた思いと覚悟だ。 【動画】袴田事件・「ねつ造しかない」元裁判官の秘めた思いと覚悟

◆支援者集会に招かれた元裁判官

支援者集会(都内)

2023年5月19日、袴田巌さんの支援者が開いた集会に、巌さん・姉のひで子さんとともに招かれたのは村山浩昭元裁判官だ。約10年間、胸に秘め続けた思いを語り始めた。

村山元裁判官「速やかに判決を」

村山 浩昭 元裁判官: 袴田さんの年齢を考えると、できるだけ速やかにきちっとした審理をして判決をしてもらいたい

◆地裁の再審開始決定で指摘した“捜査機関によるねつ造”

事件現場(1966年)

1966年、当時の静岡県清水市(現・静岡市清水区)でみそ会社の専務一家4人が殺害され、当時・従業員だった袴田巌さんが逮捕されたいわゆる「袴田事件」。

再審開始決定(静岡地裁・2014年)

2014年、静岡地裁は裁判のやり直しを認める決定を出した。その根拠の1つとされたのが犯行着衣。一度、警察が捜索したはずのみぞタンクから1年2カ月後に見つかった。 死刑判決の最大の根拠とされた5点の衣類について「捜査機関によるねつ造の疑いがある」と指摘した。

西嶋弁護団長「原理原則を生かした決定」

袴田事件弁護団・西嶋 勝彦 弁護団長:(2014年) 地裁の決定は「疑わしきは罰せず」という原理原則を忠実に生かした決定だと思います

小川事務局長「弁護団から偏見が消えた」

袴田事件弁護団・小川 秀世 事務局長:(2023年2月) 弁護団側からしっかり捏造の偏見が消えたのは、やっぱり静岡地裁がああいう形で、はっきりと警察による捏造の可能性があると言ってからですよね。裁判所が言っている。大きいですよね

村山元裁判官「常識論としてねつ造しかない」

当時・静岡地裁で審理を指揮していたのが村山元裁判官だった。 村山 浩昭 元裁判官: 1年ちょっと経って、みそ樽の中から血染めの衣類が出てきたというのは偶然ではありえない。論理的には真犯人がやったか、捜査機関がやったか、どっちかなんですが、真犯人がそんな危険なところに近づくとは思えないですよね。私は常識論として“ねつ造しかない”と思いました
さらに、死刑の執行停止と拘置の停止という決断を下し、袴田さんは48年ぶりに釈放された。

村山元裁判官「批判を受けようと釈放するしかない」

村山 浩昭 元裁判官: 袴田さんは健康状態が非常に危ぶまれていました。あとでどういう批判を受けようと、私たちとしては釈放するしかないという結論になったということです

◆「勇気いること」変わり始めた司法

若狭弁護士「確定判決に誤りの可能性があれば正すのが正義」

元検察官の若狭勝弁護士は2014年、これまでの裁判と変わり始めた状況について、こう話していた。 若狭勝弁護士:(2014年) これまでは確定判決の重み・威厳というものに価値を相当置いていたんですよね。確定判決がコロコロ変わるようであると、裁判そのものに対する国民の信頼が失われてしまうと。確定判決は維持しなければいけないということがまず大きな価値としてこれまで動いてきたんですが。最近は裁判員裁判(2009年)が始まって、司法は国民の目線で考えるという動きになってきました。となると、確定判決に誤りがある可能性があるのであればそれを正すのが正義でしょう、それが国民の素朴な感情でしょうと それでも、過去の裁判官の判断、判決を取り消すことは極めて大きなことだ。

再審開始決定(東京高裁・2023年)

村山元裁判官は、2023年3月、再審開始決定を出し証拠の「捜査機関のねつ造の疑い」に言及した東京高裁の判断について、「勇気のいること」と話す。

村山元裁判官「ねつ造への言及は勇気がいること」

村山 浩昭 元裁判官: 5点の衣類がねつ造ではないかと言及したのは、正直 こうした言及をするのは勇気がいることではあるんですよね。なぜなら、それを書くと検察官を敵に回すことははっきりしている。今回の高裁の決定については、その姿勢と中身を含めて、大変すばらしい審理と決定をされたと思っております

◆命の危機 捜査機関と司法に責任

再審法に証拠開示や不服申し立ての規定なし

村山元裁判官は一日も早い袴田さんの無罪判決を望むとともに、「再審法」の問題点を指摘している。 村山 浩昭 元裁判官: 袴田事件にかかわってから改正が必要だと真剣に悩み始めた、考え始めた。裁判官を退官するころには確信を持っていました。現在は確信がさらに強まっているというのが実情です
集会に先立ち、袴田巌さんと初めて対面。ひで子さんは、村山元裁判官に対し「命の恩人です」と感謝を伝えた。

村山元裁判官「命の危機にさらしたのは捜査機関であり裁判官であり裁判所」

記者: ひで子さんから「命の恩人です」と言葉をかけられたことについては。 村山浩昭元裁判官: とんでもないです。それは違う。命の危機にさらしたのは捜査機関であり検察官であり裁判所です

村山元裁判官(右)袴田さん(中央)ひで子さん(左)

袴田さんが有罪か無罪か、再び審理が始まる時、決着がつく日を村山元裁判官は待ち続ける。

【袴田事件】捜査機関の“ねつ造”を指摘した元裁判官「批判を受けようと釈放しかないと」

5/31(水) 6:00配信テレビ静岡

再審=裁判のやり直しが決まったいわゆる袴田事件。袴田巖さんの姉、ひで子さんや弁護団が6月6日、東京で行われた集会で、長期化の要因となっている検察官の不服申し立てを法律で禁止するべきなどの再審法の改正を訴えました。 都内の衆議院第二議員会館で行われたのは、日弁連が主催する再審の手続きについて法律の改正を訴える集会。集会では賛同する弁護士や国会議員らが参加し、いまの法律が冤罪を救済するための制度になっていないなどと批判しました。 静岡県内でも、長きにわたって冤罪が疑われてきたのが、いわゆる袴田事件。1966年に旧清水市で一家家4人が殺害された事件で逮捕された袴田巖さんは、死刑が確定しました。 袴田さんをめぐっては2023年3月、東京高裁の決定で、再審=裁判のやり直しが確定していますが、最初の再審の申し立てからすでに42年が経っています。 <袴田巖さんの姉 ひで子さん> 「弟は大変苦労してやっと社会に戻ってまいりました。でも、まだボケっとしておりまして、何が何だか分からないという状況です」 6日の集会では、袴田事件の審理が長期化したことを受け、裁判所が一度、裁判のやり直しを認めた際には検察の不服申し立てを法律で禁止することなどを求めました。 一方で、袴田巖さんをめぐっては、裁判のやり直しに向け、静岡地裁、検察、弁護団による三者協議が進められていて、2回の協議を終えています。5月29日の2回目の協議で、静岡地裁は検察と弁護団に対して、それぞれが裁判で主張する内容=冒頭陳述の案を7月10日までに提出するよう求めています。 <伊豆川洋輔記者> 「こちらで進められている弁護団会議では、裁判所が求めた冒頭陳述案の趣旨について、具体的な調整を進めているということです」 弁護団はやり直しの裁判で、捜査機関による証拠品のねつ造に焦点をあてるため、これまでに明らかになった証拠を整理し、冒頭陳述の案にどのように盛り込むか話を進めたといいます。 <袴田事件弁護団 小川秀世弁護士> 「具体的な段取りを裁判所が提示して、それにこちらも答えるようにやってきていますので、そういう意味では(やるべきことが)明確になってきている」 一方で検察は冒頭陳述の案の提出について回答を保留していて、有罪立証するかどうかについては、7月10日に考えを示すとしています。

静岡放送(SBS)

「検察の不服申し立て禁止すべき」袴田さん弁護団が再審法の改正訴え「冤罪救済する制度でない」

6/6(火) 20:37配信静岡放送(SBS)


 強盗殺人罪で死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審開始などを受け、日本弁護士連合会が6日、再審制度の法整備を求める集会を国会内で開いた。  現行の刑事訴訟法には、再審における証拠開示や裁判官の権限などの詳細が定められておらず、冤罪(えんざい)救済を困難にしているとの指摘がある。  この日の集会には、自民党や立憲民主党、日本維新の会など、各党の議員約30人が集まった。  登壇した巌さんの姉・秀子さん(90)は、48年近く拘束された巌さんについて「やっと社会に戻ってきたが、まともな話はできない」と現状を報告。「法改正を、弟の48年を、よろしくお願いします」と訴えた。  国民民主党の玉木雄一郎代表は「間違いを前提に制度をつくるのが立法府の責任だ。スピード感を持って超党派で取り組んでいきたい」。自民党の鈴木貴子衆院議員は「活動のための活動であってはならない。(法改正という)実を取りに行きたい」と話した。  日弁連は対策本部を立ち上げて刑訴法の抜本的な改正を求めている。(遠藤隆史)

朝日新聞社

袴田秀子さん「再審の法改正を」 国会議員に訴える 日弁連が集会

6/6(火) 18:16配信朝日新聞社


死刑判決から半世紀以上たち、裁判のやり直しが決まった袴田巖さん(87)の姉・ひで子さんは、6日 再審制度の法律改正を求める集会に出席し「巖を助けてください」と訴えました。 姉・ひで子さん: (巖さんは)まともな時も話はできません。これは48年の長い拘置所生活の後遺症だと思っております。再審開始法を、ぜひ皆様、弟の48年をどうぞよろしくお願いします。助けてくださいませ 集会を開いた日本弁護士連合会は、再審制度について証拠開示の基準や手続きが定められておらず、不備があるなどとして法律の改正を求めています。

テレビ静岡

「巖を助けてください」袴田さんの姉 再審制度の法律改正を求める日弁連の集会で 静岡

6/6(火) 19:59配信テレビ静岡