どのような事件か
今回の裁判は、原告のサファリさんとデニズさんに対してなされた入管収容が、自由権規約で禁止されている「恣意的拘禁」にあたり、違法だったことの確認と、違法な収容をした国に対して損害賠償を求める訴訟です。
イラン出身のサファリさんとトルコ出身クルド人のデニズさんは、難民申請をしても難民として認められておらず、今も在留資格がありません。入管はこれを理由として2人を収容し、彼らは2016年以降、3年半以上もの間、自由を奪われた生活を送ることになりました。
2016年 デニズさんは5月から、サファリさんは6月から、入管に収容される
2019年6月頃 ハンガーストライキを実施
2019年7月~ 2週間仮放免を繰り返される
2019年10月 国連恣意的拘禁作業部会に対して通報する (デニズさんは2020年3月から、サファリさんは2020年4月から現在まで仮放免中)
2020年9月 作業部会は「恣意的拘禁に当たり、自由権規約等に違反する」と発表
2022年1月 日本の入管制度は国際人権規約に反するとして国に対し提訴
2人は2016年以降、入管から無期限で収容されました。その結果、家族や友人と会ったり、外に出掛けたり、みんなで食事をしたり、電話やインターネットをしたり、という当たり前のことが、自由にできなくなりました。さらに、収容期限の上限がないため、いつまで収容されるのかわからないという出口のないトンネルにいるような、不安と絶望で苦しい日々を過ごしました。
入管収容に対しては、「仮放免」という保証金を納めて釈放される制度があり、ふたりは収容後、何度も仮放免を申請しましたが、認められませんでした。
2019年6月に、大村入国管理センターでナイジェリア国籍の男性が餓死したのをきっかけに、入管収容施設では、ハンガーストライキ/絶食が広まりました。ふたりも過酷な収容によって心を追い詰められ、絶食しました。ところが入管は、ふたりを含めた、絶食した一部の収容者に対して、まるで見せしめのように、2週間前後の短期間だけ、仮放免を許可して釈放し、2週間後にまた収容する、という運用を始めました。ようやく外に出られたのも束の間、2週間後にはまた出口の見えない収容に戻される、という恐怖から、ふたりは精神を深く傷つけられました。仮放免中の現在も、ふたりは収容による心の後遺症に苦しんでいます。
ふたりは、こうした入管の非人道的な行為について、国際社会に助けを求めることにし、2019年10月、国連恣意的拘禁作業部会に対して通報しました。その結果、同作業部会は、ふたりの通報に対して「2人に対する収容は恣意的拘禁に当たり、自由権規約等に違反する」という意見を発表しました。
今回、ふたりは、日本の裁判所に提訴することで、国連恣意的拘禁作業部会でも指摘されたように、ふたりに対する入管収容が自由権規約で禁止されている「恣意的拘禁」にあたり違法であったことの確認と、違法な収容をした国に対する損害賠償請求を行い、日本の入管収容のあり方の変革を目指します。
問題の所在
1 恣意的な収容、無期限収容の問題
原告のサファリさんとデニズさんに対して、必要性、合理性、比例性のない「恣意的拘禁」がなされた点に問題があります。
人は誰でも、自由が原則であり、権利です。特に、身体を拘束されない自由は、人の生活にとって最も重要な権利の一つで、これを恣意的・無期限に奪われれば、サファリさんやデニズさんが被ったように、大変な苦痛や絶望を強いられることになります。外国籍で、在留資格がないからという理由で、何年も収容するのは間違っています。
日本が1979年に批准(その条約に拘束されると合意すること)した自由権規約9条1項は、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない」と定めており、必要性や合理性、比例性を欠く「恣意的拘禁」を禁止しています。
原告のふたりは、 難民申請中で、逃げ隠れするおそれはありません。
デニズさんは日本人と結婚し、10年以上にわたって苦楽を共にしてきました。デニズさんの妻は、デニズさんがどれだけ長い期間収容されても寄り添い続けてきました。
日本語が達者で心優しいサファリさんには、多くの日本人の友人がおり、皆が、サファリさんが安心して日本で暮らせる日を心待ちにしています。 私たちは、そのような2人に対する前述のような入管収容が、必要性や合理性、比例性のない「恣意的拘禁」に当たるため、自由権規約に反すると訴えています。
2 入管法やその運用について
入管法に収容の要件や期間の上限、司法審査の手続が定められていないため、入管が独自の方針で収容を行うことができる運用は、必要のない収容や、収容期間の長期化などに繋がり、問題があります。
現在の出入国管理及び難民認定法(入管法)は、在留資格がない外国籍の人に対し、退去強制令書(強制送還を行う令書)を発付した後は、「送還可能のときまで」収容することができると定めています(52条5項)。そのため入管は、裁判所の判断を経ることなく、無期限に、外国籍の人を入管収容施設に収容しています。
収容された人は、「仮放免」が許可されれば外で生活することができますが、法務省入国管理局長が2018年に出した通達によって、収容に耐え難い傷病者でない限り仮放免を許可せずに収容を継続する、という運用が始まり、収容期間が全体的に長期化しました。前述のように、ハンガーストライキを行った人に対する見せしめのような仮放免・収容がなされたのも、入管法に収容の要件に関する定めがないために、入管が広い裁量によって仮放免や収容を運用していることに原因があります。
3 国連恣意的拘禁作業部会の意見に対する対応について
前述のとおり、入管法が入管収容について司法審査を定めていないため、入管の広い裁量によって収容が続けられてきました。収容を争う途は限定されているため、原告2名は、国連の恣意的拘禁作業部会に助けを求め、それが認められました。 しかし、同作業部会から、ふたりに対する入管収容は自由権規約に違反するという意見が出された後も、国は責任を認めようとせず、賠償もしていません。
原告が立ち上がった経緯
サファリさんとデニズさんは、今日も、難民として認定されるのを待ちながら、不自由な仮放免生活のままで、長期収容で受けた心身の苦痛に耐えています。国連が違法と判断した収容の犠牲者に対して、国は、一切謝罪することなく、何らの賠償も、収容で受けた心身の傷の治療費の負担もしようとしないのです。
そして現在も、ふたりのように、長期収容に苦しんでいる人々や、仮放免生活の中で長期収容の悪夢や爪痕に苦しみ続けている人々がいます。入管を相手にアクションを起こすことは勇気のいることです。しかし、サファリさんとデニズさんは、自分のためだけではなく、虐げられている多くの人のために立ち上がり、この訴訟を提起することを決意しました。
訴訟を通して実現したいこと
「サファリさんとデニズさんに対する入管収容が自由権規約に違反する」という意見は、すでに国連恣意的拘禁作業部会から出されています。
在留資格がないというだけで、必要性、合理性、比例性のない恣意的な収容を入管が続けてきたのは、日本に住む私たちの問題でもあります。私たちは、さらに日本の裁判所でも、日本の入管収容が自由権規約に違反していることを確認することで、社会により広く、入管法と入管収容の運用を変えなければならないと訴えたいと思っています。
それとともに、国には、長期間収容されて心身共に傷ついた人々に対して、賠償をして償うという、当たり前のことをしてほしいと思います。
資金の使途
訴訟提起のための印紙、切手代
研究者、専門家の意見書作成費用 交通費、通信費、コピー代など
通訳・翻訳費用
会場使用料
※上記費用に計上した上でお金が余った場合には、弁護士費用に充てさせていただきたいと思います。
※2023年8月に第一目標であった100万円を達成いたしました。さらに充実した訴訟活動を行うため、ネクスト・ステップとして200万円を目指しています。ご協力の程お願いいたします。
担当弁護士のメッセージ
入管の長期収容問題はこれまでも深刻でしたが、2019年に入管収容施設でハンガーストライキ/絶食が広まった後の、2週間仮放免と再収容という扱いは、あまりに非人道的で、許しがたいものでした。それをきっかけに、国連恣意的拘禁作業部会への通報を行うことにしましたが、さらに根本的な問題である、無条件、無期限、司法審査のない収容という問題を、正面から問うことにしました。
この裁判では、自由権規約9条1項(恣意的拘禁の禁止)と、9条4項(拘禁にあたって司法審査を受ける権利)という、国際人権条約を法的な根拠として主張しています。
日本では、残念ながら国際人権条約があまり浸透しておらず、政府は国連の条約に基づく審査で勧告が出ても、無視してきました。入管収容問題についても、これまで自由権規約委員会や拷問禁止委員会、人種差別撤廃委員会から、問題点を指摘されてきましたが、日本政府は全く耳を傾けてきませんでした。
私たちは、日本の入管収容が国際人権条約に違反することを日本の裁判所でも明らかにすることで、入管収容はもちろん、様々な人権問題について、日本政府が国連機関の指摘を尊重し、国際人権条約に沿った対応がなされるようにしたいと考えています。
担当弁護士の紹介
▲担当弁護士と、原告のデニズさん、サファリさん
浦城知子・東京弁護士会・信和法律事務所
小川隆太郎・東京弁護士会・東京共同法律事務所
駒井知会・東京弁護士会・マイルストーン総合法律事務所
鈴木雅子・東京弁護士会・いずみ橋法律事務所
岡本翔太・東京弁護士会・翔栄法律事務所
私たちは、難民事件をはじめとする外国籍の方々の人権問題に取り組んでいます。人権に国境はないという信念の下、国際人権条約を日本の裁判に活かしたいと思っています。
入管収容問題はここ数年で、社会から注目されるトピックになりました。 入管収容の国際人権条約違反を正面から問う今回の訴訟に、ご支援いただければ幸いです。