社説生成AIの利用拡大 著作権侵害の歯止め必要注目の連載 オピニオン 朝刊政治面毎日新聞 2024/2/11 東京朝刊English version842.社説踏切事故防止の新指針 視覚障害者の安全徹底を注目の連載 オピニオン 朝刊政治面毎日新聞 2024/2/12 東京朝刊 876文字.香港の国家安全条例 人と金の流出招かないか.デジタル社会と電力 AIの「電費」改善が急務PDF魚拓


人工知能(AI)の利用拡大に伴う著作権侵害に歯止めをかける一歩にしなければならない。文化庁がAIと著作権に関する「考え方」の素案をまとめた。

 AIで画像や文章、音声を生成するには、大量のデータを読み込ませる必要がある。2018年に著作権法が改正され、作品を味わう目的や著作権者の利益を不当に害する場合でなければ、無断でAIに絵や文章を学習させることができるようになった。

Advertisement



 改正はイノベーションを促進したい産業界の要望に応えたものだ。だが、どのような行為が「不当に害する場合」に当たるかなどはあいまいだ。

 チャットGPTといった生成AIは、いまや誰もが利用できるようになった。ネット上の記事など学習元の内容に近いものが生み出される例もあり、コストをかけずにデータを使う「ただ乗り」への批判も出ている。



 素案は、著作物の創作的表現をそのまま出力することを目的とした場合や、複製防止措置を講じたデータを読み込ませた場合は、権利侵害の可能性があると説明している。

 一方、作風や画風などをアイデアと同一視し、既存の著作物とアイデアだけが似ている程度であれば、権利侵害には当たらないとの考えを示している。



 しかし、アイデアと創作的表現の違いについては「ケース・バイ・ケースで判断される」と明言を避けている。

 文化芸術に携わる人々の間では素案への懸念が強い。時間をかけて創作した作品と同じようなものが、AIで簡単に作られてしまうことに危機感があるからだ。

 実際に作品などが無断で学習され、生成された例もあるという。アーティスト側からは「作風こそが創造性だ」との声も上がる。

 日本脚本家連盟や日本新聞協会は、著作権保護を徹底するよう法改正を求めているが、文化庁は法解釈で乗り切る考えだ。素案に対する国民の意見を踏まえて、今年度中に対処方針を決定する。

 AI開発と著作権保護をどう両立させるか。問われているのは文化芸術の未来にかかわる重大な問題だ。小手先の対応で済ませるようなことがあってはならない。

生成AIの利用拡大 著作権侵害の歯止め必要


踏切内で視覚障害者がはねられて死亡するケースが後を絶たない。痛ましい事故をなくすための取り組みが急務だ。

 国内には約3万2000カ所の踏切があり、30万人以上の視覚障害者がいる。2021年に静岡県三島市で、翌年には奈良県大和郡山市で死亡事故が発生したが、いずれも踏切に入っていたことに気づいていなかったとみられる。

Advertisement



 国土交通省が今年1月、踏切での安全性向上に関する新指針を作成した。弱視者が見やすい白色の点状突起物の両側を、2本の黄色の線状突起物ではさむ誘導路の線路内設置を「標準」対策と定めた。白杖(はくじょう)や足裏の感覚で踏切に入ったことが分かれば、スムーズな横断と危険回避が可能になる。

 22年の指針改定では、踏切の手前までの点字ブロック設置が「標準」とされたが、踏切内の誘導路については「望ましい」との位置づけにとどめられた。その結果、整備が進んだのは、事故のあった奈良県など一部に限られ、形状や配置に関する基準の明確化を求める声が上がっている。



 新指針は、こうした要望を踏まえて策定された。視覚障害者に実験に参加してもらったり、白杖での単独行動を指導する歩行訓練士らの意見を聞いたりして、当事者の声に応えるよう努めたという。

 国交省は対応が必要な踏切を全国で319カ所指定し、道路を管理する自治体や鉄道会社に改良計画書の提出を求めた。整備費の一部を補助し、改善を促す。



 だが、これで十分ではない。

 設置後も経年劣化や損傷がないか定期点検していくことが欠かせない。音で踏切内にいることを伝える機器の設置など他の対策も併せて検討していくべきだろう。

 山陽電鉄(神戸市)は21年、障害物検知装置に人工知能(AI)を組み合わせ、踏切内に取り残された人を認識するシステムの運用を始めた。鉄道各社は先進的な事例を参考にしてほしい。



 国や自治体、鉄道会社は事故の再発防止に向けて全力を挙げる必要がある。

 社会の理解も欠かせない。周囲の人々が声をかけることで安心感がもたらされ、命を救うことにつながる。だれもが安全に渡れる踏切にしていかなければならない。

社説

踏切事故防止の新指針 視覚障害者の安全徹底を

注目の連載オピニオン
朝刊政治面


毎日新聞 2024/2/12 東京朝刊 876文字


香港の中国化が進み、社会の統制が強まることを懸念する。



国家安全条例の制定について記者会見する香港政府トップの李家超行政長官=香港で1月30日、AP

 反体制的な活動を取り締まる国家安全条例の制定に向けた作業を香港政府が開始した。概要を記した文書を公表し、今月28日まで市民の意見を公募している。

 制定は、憲法に相当する香港基本法で義務づけられているが、市民の反発に配慮する形で事実上、棚上げされてきた。2003年に政府が制定を目指した際には、約50万人が参加する抗議デモに遭い、撤回した経緯がある。

Advertisement



 再び制定に動き出した背景に、国家の安全を最優先する習近平指導部の意向があるのは疑いない。20年に中国が施行した香港国家安全維持法(国安法)によって政府に批判的なメディアや民主派団体が弾圧され、壊滅状態となったことも、好機と判断したのだろう。

 文書によると、処罰の対象となるのは「国家への反逆」や「反乱と扇動」「国家機密の窃取とスパイ活動」などだ。サイバー攻撃を念頭に置いた「破壊活動」や「外国勢力による干渉」も犯罪の類型として盛り込む方針という。



 条例について香港政府は、国安法を補完するもので、日常的な外国人との交流や経済活動には影響が及ばないと強調する。

 だが、文書では国家機密について、科学技術の情報など幅広く定義する方針を示す。また、中国本土の反スパイ法と同様に、当局による恣意(しい)的な運用で摘発されるリスクが高まる可能性もある。

 国際金融センターとして自由で開かれた香港は、世界の人々を引きつけ、富を集めてきた。中国企業も資金調達の場としてきた。

 しかし、国際公約として高度な自治を保障した「1国2制度」は形骸化し、社会の閉塞(へいそく)感が強まっている。市民が外国に移住する動きや外資の撤退が目立つ。条例制定がこうした流れを加速させることは避けられないだろう。

 今月6日には、留学先のカナダで事実上の亡命の意思を示した民主活動家の周庭氏について、香港警察が指名手配したと明らかにし、強権的な姿勢を印象づけた。

 社会の安定は、そこに暮らす人々が不安なく生活できることが基盤となる。異論の排除と統制の強化による見せかけの安定は、香港の潜在力を損なうばかりだ。

社説

香港の国家安全条例 人と金の流出招かないか

注目の連載オピニオン
朝刊政治面


毎日新聞 2024/2/12 東京朝刊 889文字


デジタル化の進展でエネルギーの消費量が急増している。IT機器の省エネや電力システムの革新を急がなければならない。

 膨大な情報を処理するデータセンターの電力消費量が、2026年には22年の最大2・3倍になるという。国際エネルギー機関(IEA)が発表した推計だ。日本国内の年間消費量を上回る電力が、世界中のセンターで使われる可能性がある。

Advertisement

 人工知能(AI)の進化や普及の影響が大きい。計算量が多いチャットGPTは、グーグル検索の約10倍の電気を食う。サーバーの処理量が増え、発熱した装置を冷やす電力量も膨らむ。

 車の自動運転が普及すれば、AIの利用はさらに増える。安全保障の観点からデータの国内保存を求める声も強まり、日本でもセンターの新規立地が進む見通しだ。



 地域によっては電力需給の逼迫(ひっぱく)も懸念される。ただ、気候変動への影響を考えれば火力発電所などの増強は妥当とはいえない。

チャットGPTに省エネ対策を聞くと、「一般的な手法」として、効率的なハードウエアの使用などがあると答えた

 センターの新設にあわせて再生可能エネルギーを整備する動きもある。取り組みを加速させるには、発電量が天候などに左右される弱点を克服することが必要だ。蓄電池などを併用した出力の安定化、送電網の増強など、電力システム全体での対応が欠かせない。

 IT機器の省エネは喫緊の課題だ。演算能力を競ってきた半導体では、エネルギー効率の改善が問われることになるだろう。

 日本には有望な研究成果がある。NTTは、ネットワークで処理する情報を電気信号から光信号に置き換え、消費電力を大幅に減らす技術を開発中だ。情報通信市場を劇的に変えるだけでなく、国際競争力の強化につながる。早期の実用化が期待される。

 電気自動車では、1キロワット時当たりの走行距離を示す「電費」が着目される。デジタルサービスでも省エネ性能に目を向けるべきだ。IT機器やソフトごとに利用時の消費電力を可視化することで、利用者や事業者の意識変革を促すのも一案だろう。

 スマホをタップし、パソコンでクリックするたびにエネルギーが使われる。デジタル時代の構造的な問題に向き合い、環境への負荷を抑える社会を実現すべきだ。

デジタル社会と電力 AIの「電費」改善が急務

注目の連載オピニオン
朝刊政治面


毎日新聞 2024/2/14 東京朝刊 873文字