次から次に発行される「保険証もどき」 何のための健康保険証廃止?マイナ保険証の利用率は半年連続で減少中2023年11月15日 06時00分.今の保険証を残せばよい話ではないか マイナカードで「トラブルゼロ」は困難 編集委員・長久保宏美2023年8月4日 19時26分等マイナ保険証に関する記事PDF魚拓



「マイナ保険証」の普及を進め、現行の健康保険証を廃止する政府方針に反対する集会が25日、国会内で行われ、医療・介護施設関係者ら200人以上が参加した。





集まった署名の前で写真撮影する国会議員(右手前4人)ら

 野党各党の国会議員があいさつし、河野太郎デジタル相が自民党国会議員に配布した文書への批判が集中した。文章はマイナ保険証が利用できない医療機関があった場合、マイナンバー総合フリーダイヤルに通報するよう、支援者への呼びかけを依頼する内容だ。

 宮本徹衆院議員(共産)は「文書を読むと『マイナンバーカード保険証の利用率が低迷しています。その原因は、医療機関の受付での声かけにあると考えられます』とある。利用率が低いのはトラブルだらけだから。医療機関のせいにして密告を奨励するとは、とんでもない」と批判した。

 また、参加者は保険証廃止に反対する約42万筆の署名を、集会に出席した国会議員らに託した。(長久保宏美)

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社会


「密告を奨励するとは…」医療・介護関係者が怒りの集会 マイナ保険証「通報」依頼した河野太郎氏を批判

2024年4月25日 19時36分





政府は、国家資格の事務手続きや自動車変更登録などにマイナンバーを利用できる関連法を5月27日に施行する。保険証廃止も含めたマイナンバーの利用拡大には、個人情報保護の観点などで自治体からも懸念が出ている。マイナ制度に反対していることで知られる名古屋市の河村たかし市長に、その理由や利用拡大への考えを聞いた。(聞き手・高田みのり)





マイナンバーやマイナカードを巡り、インタビューに応じる河村市長

 —なぜマイナンバー制度に反対なのか。

 「全体主義というか、そういう思想だから。牛(の個体識別番号)は10桁、人は12桁。人間を牛化するわけです」

◆管理に服従する人間をつくる…民主主義と逆行する

 ―市長が考える制度のリスクとは。

 「リスクとして一番でかいのは、管理に服従する人間をつくってしまうこと。民主主義というのは民が主ですから、それに逆行する。カードの利権化も問題。同じように納税していても、カードをつくれば最大2万円分のポイントをくれるというのもどうなのか」

 —マイナの利点をどう考えるか。

 「にゃあ(ない)と思いますよ。時々、免許証を持っていない人が『身分を証明するものが欲しい』と言いますわね。でもまぁそれも、別に」

◆「保険証とマイナカードを二つ持てばいい」

 —政府は今年12月にも紙の保険証を廃止し、マイナカードと一体化させるが。

 「国は『マイナカードがあればどこかで倒れても持病や薬が分かって便利』と言うけど、ならカードを常時携帯してなきゃいかん。紙でいいんですよ、今の保険証で。(保険証とマイナカードを)二つ持っとりゃええじゃないですか」

 ―マイナカードを活用した証明書類のコンビニ交付について、名古屋市は長年「市長の強い意向」により政令市で唯一導入していなかった。ほかの自治体に比べてサービスが低いとの批判もある。

 「コンビニ交付は初期投資の1~2億円のほか、維持管理費もかかる。そのお金があれば他のサービスに使えますし。(市民の便利さより)もっと大きなものを守ろうとしてるということですわ」



マイナンバーカードの表面(見本)

◆名古屋市も証明書類のコンビニ交付導入へ

 ―その名古屋市も26年度のコンビニ交付導入を見据えて24年度予算に約500万円を盛り込んだ。かじを切ったのはなぜか。

 「僕はカードを持たんでもコンビニ交付できる仕組みを国はやらんと思っとったの。でも(マイナカード機能を搭載したスマホでの交付が可能に)なった。だで(なので)、不本意だけど名古屋もそうしようかと」

 ―マイナ制度の活用に肯定的になったわけではない。

 「いやいや全然反対ですよ。今は役人にとって都合がええだけ。ああいうの(マイナ制度、マイナカード)は早くやめた方がいい」

 改正マイナンバー法と関連法 国がデジタル社会の基盤整備のため、マイナンバーの利用範囲を拡大する法律。これまで社会保障、税、災害対策の3分野に限定していたマイナンバーの利用を、国家資格の事務手続きや自動車変更登録などにも広げる。在外公館でのマイナンバーカード交付申請や受け取りも可能となる。また、本人が不同意と回答しない限り、年金受給者の口座情報などが日本年金機構から国に提供され、公金受取口座として登録されるように運用する。

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マイナンバー反対の理由は「人間を牛化する」…河村たかし・名古屋市長の懸念 政府は5月に利用拡大

2024年4月11日 06時00分



現行の健康保険証廃止に反対する障害者団体などの集会が15日、東京・永田町の衆院第1議員会館で開かれ「態勢整備が進んでいない」などと訴えた。全国保険医団体連合会(保団連)が主催し、国会議員や障害者団体関係者ら約140人が参加した。

 全国の障害者やその家族らで構成する「障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会」(東京)の家平(いえひら)悟事務局長は「自分の意思決定を他人に伝えるにも支援が必要な障害者がいる。このような人のための態勢整備も進まない中、誰のための医療のデジタル化なのか」と強調した。

 現行の保険証は今年12月2日から原則廃止され、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証に移行する。保団連の竹田智雄会長は「政府は医療機関を巻き込んで強引なマイナ保険証推進策を進めるが、今の保険証はトラブル時のためにも残すべきだ」と話した。(長久保宏美)

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マイナ保険証への一本化で障害者が置き去りに…「誰のためのデジタル化か」当事者団体が国会議員に訴え

2024年2月15日 18時49分



河野太郎デジタル相が22日、記者会見で、マイナ保険証が使えない医療機関についての国への報告を求めるかのような発言をし、医療団体の反発を招いている。医療機関側が「紙の保険証」の提示を求める背景には、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証を巡るトラブルが続く現状があるからだ。

◆「マイナ保険証」が役に立たないトラブルが続いているのに



オンライン会見する河野太郎デジタル相

 河野デジタル相は22日の閣議後会見で、マイナ保険証を使えなかった場合、既に開設しているマイナンバー制度に関する電話窓口に連絡するよう求めた。

 河野氏は「医療機関を受診された際に、紙の保険証を持ってきてほしいと言われて、マイナ保険証が利用できなかったとの問い合わせが確認されている」とした上で、「マイナ保険証は一部の例外を除いて全ての医療機関と薬局でカードリーダーを設置し、マイナ保険証を受け付けることが義務化されている。利用できなかった場合には、マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)にご連絡をいただきたい。厚生労働省に情報提供し、事実関係を確認することになる」と述べた。

 政府は、現行の健康保険証の新規発行を来年12月2日に停止する方針を示している。マイナ保険証の利用が低迷する中、医療機関側にもマイナ保険証利用を促進させる目的と見られる。厚労省などによると、マイナ保険証の10月の利用率は約4.5%で、6カ月連続で減少した。

 この発言に対し、保険証廃止に反対している全国保険医団体連合会(保団連)の事務局担当者は「マイナ保険証で資格無効となるなどトラブルが頻発しているため、医療機関側は保険証の提示を求めている。それを不当な行為のように国に通報し、監督官庁から是正させると受け取れる発言で、断じて許せない」と話している。




徹 底 追 及

▶実態は矛盾だらけ…マイナンバー関連の記事リスト


 保団連によるトラブルの実態調査では、医療機関のカードリーダーのエラーなどで保険資格確認ができず、患者に対し「いったん全額請求」した事例が510件以上、確認されている。(嶋村光希子、長久保宏美)

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「紙の保険証を」と言われたら国に連絡を…河野デジタル相が呼びかけ 医療団体「許せない」 マイナ保険証巡り

2023年12月22日 13時40分



全国保険医団体連合会(保団連)は20日、「マイナ保険証」の利用を巡るトラブルの実態調査について途中集計の結果を発表した。医療機関のカードリーダーのエラーなどで保険資格確認ができず、患者に「いったん全額請求」した事例が265医療機関で少なくとも510件あったという。

 調査は11月24日~12月12日に実施。全国4万1865(29都府県)の医療機関に調査票を送付。20日までに回収・分析した6032件について公表した。




12月14日時点の途中集計は

マイナ保険証で「いったん10割負担」が141件あった 6割近くの医療機関でトラブル 保団連が実態調査


 10月1日以降、58.4%の医療機関が「トラブルがあった」と回答。具体的には、複数回答で「名前や住所で『●』が表示される」(68%)、「資格情報の無効がある」(49%)、「カードリーダーでエラーが出る」(39%)、「負担割合の齟齬(そご)」(14%)など。



会見する保団連の本並省吾事務局次長(右)

 東京都内で記者会見した本並省吾事務局次長は「負担割合の相違や資格なしトラブルは、患者さんに怒鳴られる医療機関、無駄な時間と手間を取られる患者双方にとって実害。河野太郎デジタル相が会見で『これまでの負担誤りについては修正されている』などと言っているが、総点検後も業務の支障となる現場のトラブルはなくなっていない」と批判した。

 政府のマイナンバー情報総点検本部による点検では、医療保険で139万件の氏名などの不一致が判明した。厚生労働省は保険者などに点検を依頼し、2024年春をめどに確認作業を終える方針。(長久保宏美)

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マイナ保険証「政府の総点検後も実害続いている」 医療費の全額請求510件に 保団連調査の途中集計

2023年12月20日 18時38分



全国保険医団体連合会(保団連)は14日、「マイナ保険証」の利用を巡るトラブルの実態調査の結果を発表した。医療機関のカードリーダーのエラーなどで保険資格確認ができず、患者に対し「いったん全額請求」した事例が途中集計で141件あったことが分かった。

◆「該当の被保険者番号なし」「資格情報無効」…



会見する保団連の住江憲勇会長(左)=14日、千代田区永田町の参議院議員会館で

 調査は11月24日~12月1日に実施。全国1万1510の医療機関に調査票を送付。このうち13日までに回収・分析された1907件について公表した。

 その結果、今年10月1日以降、58.4%の医療機関が「トラブルがあった」と回答。具体的には、複数回答で「該当の被保険者番号がない」(25%)、「資格情報の無効がある」(50%)、「カードリーダーでエラーが出る」(39%)など。こうしたトラブルで、患者が保険料を支払っているのに保険資格確認ができず、いったん10割負担を請求した事例は78医療機関で少なくとも141件にのぼった。

◆「現行の健康保険証の存続を強く求める」と声明

 保団連の住江憲勇会長はこの日、東京・永田町の国会内で会見し「マイナ保険証に一本化してしまえば、医療現場でのトラブルなどで『無保険の状態』をつくりだしてしまうことは避けられない。現行の健康保険証の存続を強く求める」とする声明を発表した。(長久保宏美)

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マイナ保険証で「いったん10割負担」が141件あった 6割近くの医療機関でトラブル 保団連が実態調査

2023年12月14日 18時20分



これまでさまざまなトラブルが報告された「マイナ保険証」。

それでも岸田文雄首相は12日、政府の総点検の結果、問題ないとして来年秋に現行の健康保険証を予定通り廃止する考えを改めて示した。

本当に大丈夫なのだろうか。

特に心配なのはお年寄りだ。施設で高齢者の保険証などを預かるスタッフらは廃止をどう受け止めているのか。都内の特別養護老人ホームを訪ねて分かったこととは──。(長久保宏美)

◆特に意識することなく、身近に、黙っていても届くもの



職員の手を借りながら移動するお年寄り(中)

東京都葛飾区の特別養護老人ホーム「葛飾やすらぎの郷」。取材時点でショートステイも含めると60歳代から106歳の方まで96人が利用している。要介護度は3から5。認知症の方もいる。

「ここで生活しているお年寄りにとって、健康保険証は施設に預けておくもの。特に何の執着もないものですよ。職員の間でも最近はマイナ保険証の話は出ませんね」。

現行の保険証が来年秋に廃止され、その代わりにマイナンバーカードに保険証の機能を加えることについて、社会福祉法人「すこやか福祉会」の法人統括マネジャーで「やすらぎの郷」の施設長だった天野義久さん(44)はこう語った。

お年寄りたちにとって、特に意識することなく、身近にあるもの、黙っていても届くもの。病院に持って行って受け付けで見せれば済むもの。それが保険証だ。

施設では常勤30人、非常勤20人のスタッフがお年寄りたちの生活を24時間支える。

「現在、利用者の健康保険証はすべて施設側で保管しています。マイナ保険証は1枚も預かっていません。もし、保険証が廃止となると、全員が『資格確認書』に移行すると予想されます」と施設長の落合直人さん(47)は話す。

◆3タイプ 誰がどの「保険証」利用?

岸田文雄首相は今年8月、マイナンバーカードを持たない人に対しては全員に「資格確認書」を交付すると表明した。厚生労働省によると、本来、被保険者からの申請が必要だが、「当面の間」保険者(保険組合)が職権で交付するとしている。有効期限は5年以内で各保険者が設定する。

また総務省は、暗証番号不要で保険証利用限定のマイナンバーカードを導入。15日から全国の自治体で受け付けが開始される。資格確認書の交付時期など詳細については未定だ。

天野さんは今後の懸念材料として、施設側で3タイプの保険証を預かる可能性を挙げる。

「全員が交付された資格確認書を現在の保険証のように使えればよいのですが、今後もし、ご家族から『おばあちゃんのマイナ保険証を作りたい』と言われたり、『暗証番号なしの顔認証マイナカードを作りたい』という要望が出て、ご家族が申請した場合でも、施設側で管理することになるので、誰がどのタイプの保険証を利用しているかを把握する必要があります」。

落合さんによると、転倒によるけがや発熱などで利用者が医療機関を受診することは日常的にあるという。そのたびにスタッフは保険証を持参する。夜間の救急搬送の際にも保険証は必要だ。

約100人の利用者に対し、食事やトイレの介助、入浴などの業務以外の担当はケアマネジャーと生活相談員の2人だけ。この2人は家族や地域の相談対応の窓口となっており、今以上の業務負担をおわせることはできないという。

「保険証廃止で置き去りにされる人が出ないこと、介護が必要な方々の支援を行う事業者・職員の負担増につながらないことを祈るばかりです。やはり、現行の保険証を残してほしいと思います」と天野さんは話した。

◆お年寄りが心穏やかに過ごすには…取材を終えて



職員(両端)らと会話するお年寄りたち

「葛飾やすらぎの郷」の中庭には、1本の木が植えられている。「ナンキンハゼ」という木だ。

取材に行った時、紅葉した葉はほとんど落ちていたが、夕暮れにイルミネーションが飾られ、きれいだった。2階の談話コーナーから、この木を眺めながら「ここは本当にいいところ(施設)ですよ」とショートステイで滞在中の女性が記者に話しかけてきた。

多くの利用者にとってこの施設は「ついのすみか」となる。そこで生活するお年寄りにとって、心配事がなく、心穏やかに過ごせることが一番大切なことだと思う。ことさら保険証のことなど、みんな気にせず生きている。

「資格確認書」の交付漏れは起きないのか。その後の更新は高齢者にもスムーズにできるのか。身寄りのない認知症の高齢者はどうするのか…。こうした現場を取材する度に、アナログな手段を併存させることはできないのか、と思えてしまう。「それが資格確認書だ」というのなら現在の保険証を全廃する意味はどこにあるのだろうか。

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入所者100人でマイナ保険証の預かり「ゼロ」 葛飾区の特養ホームが望むのは現行保険証「残してほしい」

2023年12月14日 06時00分



マイナンバー制度で相次ぐトラブルを受けて政府が11月末まで実施した総点検は、来年秋に現行の健康保険証の廃止を予定通り行えるよう、国民の不安を払拭する狙いがありました。点検結果は近く公表される見込みですが、そもそも政府はなぜ廃止を急ぐのでしょうか。(嶋村光希子)

 Q 来秋に保険証を廃止する理由は。

 A 医療のデジタル化の推進と、普及率が低迷していたマイナカードの取得を加速させるためです。



 廃止の方針は、2022年6月に閣議決定された政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」で初めて示されましたが、時期は決まっていませんでした。それをデジタル相に就任した河野太郎氏が22年10月、24年秋に廃止し、マイナカードと保険証を一体化した「マイナ保険証」に一本化する方針を唐突に打ち出しました。これまで任意だったカードの取得を事実上義務化し、期限を区切って一気に普及させようとしました。

◆カード取得率は伸びたが…保険証利用はわずか

 Q 普及は進みましたか。

 A  2回にわたるマイナポイントの効果もありカードの取得率は72.8%(11月末時点)まで伸びました。一方で、マイナ保険証の利用率は5%を割っています。

 政府は、マイナ保険証で受診すれば、医師らが過去の処方薬や受診歴を簡単に把握でき、医療の質が向上するといったメリットを強調しています。ただ、利用率の低さは、メリットを感じている人よりも、個人情報の漏えいを不安に思う人や必要性を感じない人が圧倒的に多いことの表れといえます。

 病歴や投薬歴といった医療情報は他人に最も知られたくない個人情報です。これだけマイナンバーを巡るトラブルが続けば不安になるのも当然です。

◆マイナ保険証なくても保険診療OK、「現行の保険証残せば済む話」

 Q マイナ保険証がないと、保険診療が受けられなくなりますか。

 A そんなことはありません。マイナカードを持っていない人のための「資格確認書」や、暗証番号の設定が不要な「顔認証マイナカード」など、保険証の代わりとなる証明書類を政府は次々に打ち出しています。一方で、複数の書類の存在で混乱が予想される医療現場の関係者からは「現行の保険証を残せば済む話」との批判が出ています。

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<Q&A>なぜ急ぐ?現行の保険証廃止 2024年秋にマイナカードと一体化されたらどうなる?

2023年12月7日 06時00分



 来年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードへ一本化する政府の方針に対し、地方議会から「待った」の声が相次いでいる。昨年秋以降、全国の約90の地方議会から反対や慎重な対応を求める意見書が国に提出された。静岡市議会は10月、自民党会派が主導する形で、来年秋の廃止にこだわらず、国民の理解を得るよう求める意見書を採択した。地方からの声に政府は耳を傾けるのか。(山田祐一郎)

◆静岡市では自民が主導し全会一致

 静岡市議会の9月定例会最終日の10月11日に「マイナンバーカードの安全と信頼の確保の取組を求める意見書」が全会一致で可決された。意見書は、マイナンバーへの保険証情報や公金受取口座の誤登録が相次いだことについて「マイナンバーカードの信頼を揺るがす事態」と指摘。政府が進めるデータやシステムの総点検に対し「まずは政府が国民の間に生じたさまざまな不安を払拭する必要がある」と強調した上で、来年秋の保険証廃止を「時期にこだわることなく、国民の理解を十分に得るよう強く要望する」と訴えた。

 意見書は、衆参両院議長と首相、総務相、デジタル相宛て。自民党会派が提案し、共産党会派などの修正意見を取り入れた上で提出した。自民党市議団で他会派との調整にかかわった堀努市議は「市民からいろいろな声が寄せられている。トラブル続きで自民党の支持率も厳しくなっている中、市民の声を政府に届けるのが地方議会の使命だ」と説明する。

◆衆院に意見書89件、参院には92件

 同様の意見書は、河野太郎デジタル相が健康保険証を廃止してマイナカードへの一本化を表明した昨年10月以降、全国で相次いでいる。「こちら特報部」が衆参両事務局に、地方議会から提出され、タイトルに「マイナンバーカード」「保険証」を含む意見書の件数を問い合わせたところ、衆院では89件、参院では92件確認された。多くは現行の健康保険証の存続を求めるもので、マイナカードの普及状況を地方交付税に反映させることへの反対もあった。



マイナンバーカードの表面(見本)

 個人情報のひも付けを巡るトラブルが相次いだマイナカード。政府は今年6月に河野氏をトップとする「マイナンバー情報総点検本部」を設置した。11月末までに総点検を終え、その結果を12月上旬に取りまとめる方針だ。

 依然として政府は「来年秋廃止」にこだわり続ける。4月のオンライン資格確認義務化以降、マイナ保険証の利用率は下がり続けている。10月30日の衆院予算委員会で、野党議員の指摘に対し岸田首相は「国民が不安に感じている。メリットが十分に浸透していない」と説明。保険証廃止の延期の考えについて問われると「見直しありきではない」としながら「総点検の結果を見た上で、期間の延長などさまざまな対応について適切に判断する」と述べた。

◆便利だからと強制、責任は押し付け

 地方議会から意見書が相次ぐ事態について、東北大の河村和徳准教授(政治学)は「マイナンバーなどデジタル化に際し、政府は『便利だから』という理由を掲げて地方に強制し、トラブルがあれば責任を押し付けてきた。合意を得るための丁寧さに欠ける進め方に対して、反発が生じている」と説明する。

 その背景にあるのは「国会議員と地方議員のコミュニケーション不足」だという。その上でこう強調する。「かつては意見書が出される前に、政権与党の議員に地方議員の声が圧力となり抑止力として機能していた。意見書を提出しなければ政府に伝わらないと地方議員が考える時点で、岸田首相をはじめとする国会議員の『聞く力』が低下しているのだろう」

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紙の保険証、本当に来年秋廃止する? 「立ち止まれ」の訴えが各地から続々…これって「聞く力」の低下では

2023年11月7日 12時00分



他人の情報を誤ってひもづけするなどのトラブルが相次ぐ「マイナ保険証」。政府は来年秋に現行の健康保険証を廃止する方針だが、当初は選択制にして併存させようとしていた。

それがなぜ「廃止」になったのか。24日から与野党の論戦が始まった臨時国会で、立憲民主党などは廃止の延期を求めるとともに、廃止に至った経緯も徹底追及する構えだ。(長久保宏美)

◆いまもトラブル続発に怒り



医療団体など主催の集会会場に掲げられた「保険証なくすな」ののぼり=19日、東京都千代田区で

「本当に保険証が廃止できると思うてはるんでっか?ホンネで言うて下さい」…。

10月19日、参院議員会館内の会議室で行われた会合で、大阪保険医協会加盟の医師らが厚生労働省の若い担当者らにこう詰め寄った。今年8月、岸田文雄首相や河野太郎デジタル相が相次ぐトラブルの中間報告を行った後も、日常的に診療所でマイナ保険証関連のトラブルが続いているため怒っているのだ。

マイナ保険証の導入を巡って厚労省は、遅くとも2019年6月の段階で、現在、発生しているマイナ保険証関連のトラブルを予測していた。

「オンライン資格確認等システムに関する運用などの整理案」によると、このなかで、転職などに伴う保険組合の変更時に保険証の情報更新が遅れ「無効エラー」となるタイムラグ問題やシステムが使用する漢字コードの違いから、保険証の氏名の漢字が「●」で表示される問題など課題を列記し、対応策を検討していた。

にもかかわらず、なぜ、任意取得のはずのマイナンバーカードと保険証の一体化と現行保険証廃止に踏み切ったのか。厚生労働行政に詳しい専門家の中には「2024年秋の現行保険証廃止決定までの政策決定経過が不自然だ」という指摘がある。

◆2022年6月7日の閣議決定では…

政府は2022年度末までに、ほとんどの国民がマイナンバーカードを所持することを目標とし、22年6月7日の閣議決定では「23年4月からのオンライン資格確認の義務化とともに、マイナンバーカードの保険証利用が進むよう、24年度中をめどに保険者(保険組合など)による保険証発行の選択制の導入を目指し、保険証の原則廃止を目指す」とし、脚注に「加入者からの申請があれば保険証は交付される」としていた。

この決定は同年8月19日の厚生労働省の第152回社会保障審議会医療保険部会でも維持されていた。

しかし、この時点でのマイナンバーカードの交付率は50%を切っていた。そしてその後、河野デジタル相の口から「一本化」「廃止」の言葉が相次ぐようになる。

9月29日の「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」。河野氏は「第一に健康保険証、運転免許証…など全部マイナンバーカードにもれなく一本化し、加速をしていきたいと思っている」と発言。

10月13日午前10時10分からの記者会見では、岸田文雄首相とマイナンバーカードの取得利用の加速化について話し合ったことを報告するとともに「2024年秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と初めて、廃止時期を公言した。

同じ日の午後に開催された第155回社会保険審議会医療保険部会では、廃止時期が報道されたことに対し、一部の委員の中からは同部会できちんとした説明・報告を求める意見が出たが、事務局から報告はなく、同部会で正式に議論されたのは10月28日に開催された第156回の部会になってからだった。



◆廃止はいつ、誰が決めたのか?

こうした経過について立憲民主党の山井和則衆院議員は今年10月11日の国会内で行われたヒアリングの場で「河野大臣の会見の前の正式な会議で(廃止時期を)議論した形跡がない。24年秋廃止としたのは、いつ、どの会議か」と、厚労省の担当者を追及。

同党の杉尾秀哉参院議員も「そもそも、閣議決定では(廃止時期が)秋とはなっていなかった。いつ秋となったのか。24年度中は選択制で、それが、なぜ、24年秋廃止となったのか」と畳みかけた。

これに対し厚労省の担当課長は「基本的にオープンな資料、議事録などをもとに回答している」とした上で「2024年秋と明示的に審議会で事務局から示したのは156回(の部会)。なぜ秋になったかというと、実際に河野大臣が10月13日の関係大臣の間で廃止を確認したということ以上の情報は持ち合わせていない」と答えた。

デジタル庁の担当者も、河野会見前に事務レベルで議論があったかは「確認できない。いや、ないと思います」と回答した。

こうした説明について同党の山井和則衆院議員は「省庁間の水面下の会議で決定したということが明らかになった。なぜ、(専門家を集めた)審議会の部会にかけなかったというと、たぶん、通らなかったから」と指摘。

「そういう意味で保険証廃止は政治案件だ。マイナ保険証の利用率が5%(8月末時点)を切っているなかで、廃止して本当に大丈夫なのか再検討すべきだ」と述べた。

◆岸田首相、廃止延期に含み



24日、衆院本会議で答弁する岸田首相

立民は今月20日、健康保険証の廃止を延期するための法案を提出した。岸田首相は24日の代表質問で、来秋のマイナ保険証への一本化方針に関して「ひも付けの総点検と修正作業を見定め、さらなる期間が必要と判断された場合には必要な対応を行う」と廃止延期に含みを残した。

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マイナ保険証 選択制だったのに「廃止」に突然変わった日…審議会の議論飛ばし 立民が徹底追及の構え

2023年10月25日 06時00分


現行の健康保険証を来秋廃止しマイナンバーカードに一本化することに伴い、高齢者や障害者ら暗証番号の設定や管理に不安のある人たちを対象に交付する「暗証番号なし(顔認証)マイナカード」の受け付けが11月末以降、全国の自治体で開始される見通しだ。

暗証番号は不要で、保険証の機能に限定。マイナ保険証に加え、マイナカードを持たない人のための資格確認書などに続く「保険証」になる。マイナ保険証を補完する証明書類が続々と登場することで現場の混乱を招きかねず、現行保険証を廃止する意味が問われる。(長久保宏美)

◆保険証としてしか使えないマイナカード新設

顔認証マイナカードは、暗証番号の管理に不安を抱える高齢者施設の関係団体などからの要請を受けた措置。医療機関で受診する際、保険証としてカードリーダーの顔認証や、受け付け職員の「目視」だけで利用できる。



総務省

総務省が参院議員の伊藤岳氏(共産)の照会に対して回答した資料などによると、マイナカードから暗証番号を利用する機能を取り除き、「顔認証」にする設定は各自治体が担う。

利用できるのは保険証のみ。マイナポータル、各種証明書のコンビニ交付など暗証番号の入力が必要なサービスは使えなくなる。カードの追記欄に「顔認証」と記載し、医療機関で見分けがつくようにする。

申請は本人か代理人が、市区町村窓口で手続きする。マイナカードに保険証利用の初回登録をしていることが前提となる。登録済みの場合は、市区町村に申請書を提出することで切り替えられる。代理人の場合は委任状が必要となる。

◆一度、マイナ保険証として登録した上で機能を外す!?

登録していない場合は、事前にセブン銀行のATMか一部医療機関に設置してある顔認証付きカードリーダーで登録する。つまり、一度マイナ保険証として登録した上で、保険証以外の機能を外す手続きをする必要がある。

顔認証マイナカードのように、マイナ保険証を利用しにくい人や機能補完のため、次々と新たな「保険証」が誕生している。資格確認書のほか、70歳以上で自己負担割合が変更した際などに発行される「資格情報のお知らせ」と呼ばれる書類や、転職などで新しい保険組合のデータ更新が遅れ、全額自費負担を避けるための「被保険者資格申立書」もある。

現行の保険証を残せば、こうした複数の証明書類や煩雑な手続きは必要ない。医療関係者からは「何のための保険証廃止か」と疑問視する声が上がる。

◆繰り返される弥縫策「健康保険証残せば済む話」

マイナ保険証を巡る政府の政策が混迷の度合いを深めている。マイナ保険証の利用率はピークの4月から減少傾向が続く中、暗証番号なし(顔認証)マイナカードなど新たな保険証が発行される弥縫(びほう)策が繰り返される。医療関係者の間には「健康保険証を残せば済む話ではないか」との声はますます広がる。



国会内の集会であいさつする保団連の住江憲勇会長㊨=東京都・永田町で

「マイナ保険証と一緒に出す書類が続々とできる。医療機関に行って1枚で済まない。だったら、健康保険証残せという話です」

全国保険医団体連合会(保団連)の竹田智雄副会長は9日に国会内で開かれた集会で、次々と生まれる書類について「保険証もどき」と表現し、厚生労働省の姿勢を批判した。

顔認証マイナカードの交付方針は7月4日に示された。高齢者や障害者が生活する施設管理者や関連団体から「施設側で秘匿性の高い暗証番号を管理することは事実上不可能」などとする批判を受けて、考案された。

来秋の現行保険証廃止を目指し、マイナ保険証の欠点を補うため、厚労省は次々と新たな「書類」を作成する方針を示してきた。



まず、マイナカードの取得自体は任意であることから、カードを持っていない被保険者は、健康保険証の代わりとして「資格確認書」を保険組合(保険者)に対し交付を求めることができるとした。

8月には、移行期の混乱を防ぐための措置として「当分の間」マイナ保険証を持っていない人と保険者(保険組合)が必要と認める者全員に職権で資格確認書を交付できるとした。

また、マイナ保険証はカードを見ても被保険者資格など保険証の情報は分からない。このため、新規に被保険者資格を取得したり、70歳以上で負担割合が変わったりした際、「資格情報のお知らせ」という書類を発行。マイナ保険証と一緒に携帯しオンラインで資格確認できない医療機関でも受診しやすくなるとした。

さらに、「被保険者資格申立書」という書類もある。マイナ保険証は持っているものの、転職などで新しい保険組合のデータ更新が遅れ、受診時にオンライン資格確認ができない場合や、カードリーダーのトラブルでエラーになった場合、無保険扱いで全額自費とならないための書類だ。記載内容は保険証とほぼ同じだ。

◆マイナ保険証の利用率は停滞 10月は4.49%



一方で、医療機関でマイナ保険証が利用される割合は低迷する。今年10月時点が4.49%で、ピークだった4月末時点の6.29%から、6カ月連続で減少している。これを打破しようと、河野太郎デジタル相と武見敬三厚労相が13日、東京慈恵会医大付属病院(東京都港区)で、利用を患者らに呼びかけた。



東京慈恵会医大付属病院を視察し、来院する人にマイナ保険証利用を呼びかける河野デジタル相㊨、武見厚労相㊧=東京都港区で

さらに、医療機関が患者にマイナ保険証を利用してもらうことでお得になるよう、厚労省は2023年度補正予算案で、利用促進策として217億円を充てる。24年1月から11月までの間、今年10月と比較して利用率が増加した医療機関に対し、利用件数などに応じ支援金を交付する。

保団連の事務局幹部は「マイナ保険証が患者、国民にとって便利であれば、補助金の投入は不要なはず。税金を投入してまで、マイナ保険証の利用促進に医療機関を駆り立てるべきではない」と批判している。

マイナ保険証と顔認証カード マイナンバーカードには2つの電子証明書が搭載できる。1つは「署名用電子証明書」、もうひとつが「利用者証明用電子証明書」。健康保険証のひも付け(利用登録)は「利用者証明用」の役割。マイナ保険証で医療機関を受診するには、カードリーダーにカードを設置し、顔認証で本人確認を行うか、エラーが出た場合は申請時に登録した4桁の暗証番号を入力する必要があった。「顔認証カード」はこの手間を省く。マイナ保険証を持っていない人には、保険証の代わりとなる「資格確認書」が保険者(保険組合)から交付されるが、交付時期、方法などについては未定。

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次から次に発行される「保険証もどき」 何のための健康保険証廃止?マイナ保険証の利用率は半年連続で減少中

2023年11月15日 06時00分



 「政府には国民皆保険制度を維持するつもりがあるのかどうか。制度の根本をなすのが健康保険証なんです。それを無くそうとしている。代わりに作ると言っている資格確認書については、まだ何も詳しいことは正式に決まっていない。これ、あまりに無責任じゃないですか」

 岸田文雄首相が4日会見し、来年秋の保険証廃止延期は「点検結果次第」とする一方、マイナンバーカードを持っていない人全員に発行する「資格確認書」の有効期限を最長5年とする方針を示したことについて、さいたま市で診療所を運営する山崎利彦医師(58)は、政府の姿勢を批判した。

 記者は、マイナ保険証による医療機関でのオンライン資格確認が原則義務化された今年4月から、健康保険証を廃止しマイナンバーカードに一体化する「マイナンバー法」の国会審議や法案に反対する全国保険医団体連合会(保団連)、地方自治体職員、医療関係者、高齢者施設などの取材をしてきた。

 そこで気が付いたことがある。健康保険証の登録情報の管理・更新がすべて自動化されている訳ではないということだ。特に70歳以上の窓口負担割合は、所得により、細かく分類されており、自治体職員により、所得の確認と負担割合の変更が頻繁に行われている。転職、結婚などのタイミングで加入する健康保険組合も変わる。そして、原則として保険証は所属する保険組合側から被保険者に自動的に送られてきた。

 その保険証を一斉に廃止し、申請に基づき交付されるマイナンバーカードに保険証情報をひも付けて使うという発想は、一見、合理的に見える。しかし、被保険者情報に変化が生じた場合、保険者が所定のマニュアル通りにデータ入力しないとマイナ保険証のデータは誤ることになる。カードの券面だけ見ても誤りは分からない。

 現実に起こったことは、転職後、すぐにマイナ保険証を提示したら「資格なし」と表示され、使えなかった(保険組合変更後、登録情報更新の遅れ)、マイナ保険証で受診したら、誤った窓口負担割合で後に差額を支払うことなった(保険者側の登録手順ミス)、そして、医療機関窓口での顔認証エラー、暗証番号忘れで、保険資格は有効なのに「いったん10割負担請求」など、トラブルが続発している。

 7月26日、国会内で開かれた保険証廃止反対の緊急集会。岐阜市の竹田クリニックの竹田智雄院長(岐阜県保険医協会会長)は、マイナ保険証によるトラブル事例について「受付でマイナ保険証による資格確認ができず、いったん10割負担になりますと告げると、『手持ちのお金が少ないので、最小限の治療だけにしてください、いや、お薬だけお願いします』という患者さんがいる。こういう話を聞くと医者として本当に切ない気持ちです」と話した。

 「認知症などの人向けに暗証番号設定がいらないマイナンバーカード」(総務省)、「念のため保険証も持参して」(厚生労働省)、そして、マイナ保険証が窓口でエラーなどで読み取れない場合、1~3割負担で受診できるようにするため、患者の記憶をもとに手書きで記入し提出する「被保険者資格申立書の導入」(同)…

 マイナ保険証のトラブルが収束しない状況に、政府は6月の法案成立後、弥縫(びほう)策を出し続けた。全国の自治体や保険組合ではマイナンバーカードの登録情報の正確性の点検作業が行われているが、「マイナ保険証を使ったオンライン資格確認システムの運用が続く限り、窓口トラブルや負担割合の誤表示などミスが発生する」(住江憲勇保団連会長)のが実態だ。

 加えて、マイナ保険証は認知症のお年寄りが生活する施設の管理者、病院職員、難病患者、障害者にとって、決して使い勝手がよいツールとは言えない。

 「カードの管理・利用が難しいという人は資格確認書を使え」と言うことなのだろうが、大手企業の健康保険組合関係者によると「マイナンバーは分かっても、社員のうち誰がマイナ保険証を持っているかどうかは調べないと分からない。新規にカードを作る経費も必要で、職権で出せというが資格確認書の交付には課題があると思う」と話す。

 そもそも、各保険者(保険組合)の手間と新たな経費をかけずに、当面、今の保険証を残せば良いのではないか。マイナ保険証を使いたいと言う人はマイナ保険証を、今はそうではないという人は現行の健康保険証を使えるという選択権がどうして国民にないのか。(編集委員 長久保宏美)

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今の保険証を残せばよい話ではないか マイナカードで「トラブルゼロ」は困難 編集委員・長久保宏美

2023年8月4日 19時26分



来年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードとひも付けた「マイナ保険証」に一本化する政府方針を巡り、別人の情報がひも付けられたり、読み取り不具合のトラブルが絶えず、国民の不安が高まっています。

岸田文雄首相は8月4日の記者会見で、保険証の代わりとなる「資格確認書」をマイナ保険証を持たない人全員に交付し、その有効期限を5年以内に設定する考えを示し、不安払拭に努める方針を強調。現段階ではあくまでも廃止方針を維持する考えを示しました。

資格確認書とは何か、現行の健康保険証とどこが違うのか。マイナ保険証をめぐる課題や問題点をまとめました。(デジタル編集部)※8月4日更新

【目次】▼保険証と資格確認書、どう違う? ▼医療現場は混乱 ▼「医療DXの基盤に」と政府

◆保険証と資格確認書、どう違う?





マイナンバーカード(一部画像処理)

Q 資格確認書とは?
A 政府は、マイナンバーカードを持っていない人、持っていても保険証とひも付けていない人、または紛失した人、介護が必要な高齢者や子どもらカード取得が難しい人でも保険診療を受けられるように、健康保険組合などの保険者が保険証の代わりとなる「資格確認書」を無料で発行する仕組みをつくっています。

Q 資格確認書には何が記載されているのですか?
A 氏名、生年月日、被保険者等記号番号、保険者情報などが記載され、紙または電子データで提供されます。

Q 資格確認書は申請しないともらえないのですか。
A 政府は当初、本人からの申請に基づき交付する方針でしたが、寝たきりの高齢者など本人申請が見込めないケースがあることから、岸田首相は8月4日、マイナ保険証を持たない人全員に対し、申請がなくても交付する考えを表明しました。

Q 資格確認書に有効期限はありますか。
A 政府は当初、期限は最長1年間で、期限が切れたら1年ごとに更新する運用方針でしたが、首相は「(健康保険組合など)各保険者が5年を超えない期間に決める」と述べました。

Q マイナ保険証と資格確認書では、患者が窓口で負担する受診料が変わるのですか。
A 資格確認書を利用した場合は、現行の保険証を利用した場合と同様、マイナ保険証を利用した場合よりも、政府は受診料を高く設定する方針です。

Q 現行の健康保険証は2024年秋に廃止されたら、どうなりますか。
A 発行済みの保険証は最長1年間有効とみなす経過措置が取られます。ただ、個人が加入する公的医療保険は、勤務先や居住地によって変わるほか、75歳になると後期高齢者医療制度に移ります。現在は、加入する保険が変わるたびに、健康保険組合や自治体などが新しい保険証を発行していますが、厚労省は加入する保険が変わった時点で経過措置は終了と説明。転職時期や年齢によっては、猶予期間が1年ではなく、ただちに終わるケースも想定されます。

Q 資格確認書と現行の健康保険証の違いがよく分かりません。健康保険証を残せば済むのではないですか。
A 政府は医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることを理由にあくまでも現行の保険証を廃止する方針です。一方、国民皆保険制度の下、マイナ保険証を持っていない人でも保険料を支払っている以上、保険診療を受ける権利があるため、三つが混在することになりました。このため、資格確認書の発行や運用を拡大すればするほど現行の保険証との違いが分からなくなり、その分、健保組合や自治体の事務量も増えそうです。

【関連記事】<視点>「マイナ保険証」への一本化でなく紙の保険証も使える社会に 編集委員・長久保宏美

【Q&A】マイナ保険証 資格確認書って何? 今の健康保険証との違いは?あくまで一体化方針を目指す政府<更新>

2023年8月4日 19時09分



2024年秋に現行の健康保険証を廃止し「マイナ保険証」に一本化する問題は、地方の開業医や自治体関係者を取材すればするほど、保険証をなくしてしまうリスクの大きさに気付く。

 政府はマイナンバーカードの「総点検本部」やマイナ保険証の「推進本部」なる組織を設置し、国民の不安を払拭する、としているが、その点検作業を行う現場からは政府の思惑通りに事が運ばないのではないか、という声が聞こえてくる。

 まず、マイナ保険証の本人確認作業の照会先の一つとなる「J-LIS」(地方公共団体情報システム機構)の住民基本台帳ネットワークシステムの情報がすべて正しいのかどうかだ。総務省によると、全国約1700強の全自治体が接続し、情報を入力している重要なシステムだ。

 結論から言うと「人の作業なのでヒューマンエラーは捨てきれない」(6月20日、立憲民主党の国会内ヒアリングで総務省担当者)。

 関西地方の市職員は「J-LISの情報に間違いがあるかないかと聞かれたら、そりゃあります。自治体の基幹システムに入力するときに、生年月日とかの間違いは。年に数件程度。すぐに気付いて修正することもあれば、10年以上、そのままのこともあります」と話す。
 
 また、関東地方の市職員は「間違いはある。有効な住民コードがあるにもかかわらず、転出がデータに反映されていなかったり、出生時に登録間違いをしていたりする。生まれてから転出など異動がなければ誰も気付かない状態のままです」と話す。
 
 誤っている可能性のあるデータで本人確認作業をすれば、また間違える可能性も捨てきれない。



「マイナ保険証」を利用した場合に発生するトラブル推計について説明する保団連の竹田智雄副会長(左から2人目)

 さらにマイナ保険証では、転職後、古い保険者(健康保険組合など)情報の更新が遅れ、新しい保険組合の資格が有効なのに「無効・該当なし」のエラーが頻発している。全国保険医団体連合会(保団連)の竹田智雄副会長は「マイナンバーのひも付けは被保険者が転職・退職、結婚など人生のライフステージに伴い、加入する保険者や加入形態が切り替わるたびに発生しうるトラブル」と指摘している。

 頻繁に医療機関を利用する高齢者、障害者、難病患者への配慮はないに等しい。家族と離れ、施設で暮らすお年寄りやその家族は今、保険証がなくなることに強い不安感を抱いている。認知症のお年寄りが暮らす施設の職員は「マイナ保険証の管理は、暗証番号を含め無理」と話す。
 
 厚生労働省は6月末、初めてマイナ保険証で医療機関を受診する際などには、従来の保険証も持参することを呼びかけるという。機器の不具合で保険資格を確認できない場合の措置だという。ならば、今後も今の保険証を使えるようにすればよいだけではないのか。

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<視点>「マイナ保険証」への一本化でなく今の保険証も使える社会に 編集委員・長久保宏美

2023年7月26日 11時42分



現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化させる「マイナ保険証」で、地域住民の健康を見守る小さなかかりつけ医が廃業の危機に立たされている。マイナ保険証導入で機器が必要になるほか、診療報酬の請求もオンラインが主流になり、医療のデジタル化について行けなくなっている。小規模開業医では、診療報酬を専用の用紙に手書きで記入し請求しているケースもある。その一つ、岐阜市の歯科医院で実情を取材した。(長久保宏美、写真も)

 JR岐阜駅から徒歩15分ほどの市街地にある篠田歯科医院。小さな待合室で院長の篠田公敬(きみたか)さん(73)が待っていた。

 「ずっとワンマンオペレーションでね。受け付け、治療、会計、カルテへの記入、診療報酬の請求事務、掃除、機器の消毒まで全部私1人でやってます。患者さんがそんなに多くないので、レセプト(診療報酬明細書)も紙なんです」

 レセプト 医療機関が健康保険組合など保険者に患者自己負担分以外の支払いを求める「診療報酬明細書」という名称の請求書。金額は医療行為・サービスを点数化した表に基づき算出する。医療機関は「社会保険診療報酬支払基金」や「国民健康保険団体連合会」の審査支払機関に対して手続きする。



診察室の説明をする篠田公敬院長=26日、岐阜市で

 篠田さんは、地元の私立大歯学部で学生の指導や付属診療所で治療に当たっていたが、2001年に父親の医院を引き継いだ。

 患者は月で延べ50人ほど。「4分の3は徒歩か自転車で来院し、ほとんどが私の親の代から通う患者さん、または、その子や孫です。保険証を忘れても10割請求なんて冷たいことはしません。月末に持ってきてもらえばいい」

 そんな篠田さんが昨年10月、政府が「健康保険証の2024年秋廃止」を決めた時は、心穏やかではなかった。「当時、マイナンバーカードがそんなに普及していなかったので、システムとして成り立つのかなと疑問に思った」

 厚生労働省によると、今年1月時点で全国の70%の医療機関はオンライン請求、27%が電子レセプトを光ディスクなどに記録し郵送する。篠田さんのように紙で請求するのは約7700機関(3.4%)と少数派だ。今後も「紙」の請求は可能だが、現行の保険証がなくなれば、マイナ保険証を読み取る機器もないため、保険治療ができなくなる。



外壁にツタがはう篠田歯科医院

 「レセプト用紙は県歯科医師会が供給していますが、使用する医師の減少で印刷部数も年々減り、いつまで続くか不安。保険証もレセプトも紙がなくなると、廃業を考えざるを得ない」

 国は地域でかかりつけ医を持つことを推奨しながら、篠田さんのような医療機関を存続の瀬戸際に追い込む。後継ぎがいない篠田さんはこう訴える。「来てくれる患者さんがいるのに、この先どうしようかな、と崖っぷちに立っている時に、マイナ保険証に背中をどーんと押された感じです」

◆過去最多の廃業届…さらに約1000件が閉院と推計

 全国保険医団体連合会(保団連)によると、全国の各地方厚生局に出された保険医療機関の廃止数は3月には、医科で724件、歯科で379件で計1103件の届け出があり、少なくとも昨年5月以降で最多となっている。

 これは4月に、マイナ保険証導入に伴い、医療機関に患者情報などをデジタル処理するオンライン資格確認が原則義務化されたことが大きな要因とみられる。

 また、現行の健康保険証が廃止される2024年秋までに「閉院・廃院する」との理由で、オンライン資格確認システムの導入猶予の届け出を国に出している医療機関数は、保団連の推計で約1000件にのぼるとみられている。

 保団連事務局や複数の医療機関関係者によると、過疎地域を中心に全国で医師らの高齢化が進んでいた状況下で、オンラインシステムの新規整備や維持に多額の費用がかかることや、情報漏えいのリスクなどを警戒し、閉院に至る事例も少なくないという。

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マイナ保険証で追い込まれる「かかりつけ医」…廃業が過去最多 「紙」が廃止なら保険診療を続けられない

2023年6月29日 06時00分



河野太郎デジタル相が新潟県内の講演会で、マイナンバーカードをめぐるトラブルについて、マイナンバー制度を始めたのは旧民主党政権だとして、野党議員の批判に「お前が始めたんだろ、と言い返したくなる」と語った。批判されると「悪夢の民主党政権」と繰り返した安倍晋三元首相を彷彿(ほうふつ)とさせる言いぐさだが、これは責任転嫁できるような話なのか。検証してみたい。(宮畑譲、大杉はるか、中山岳)

◆「民主党政権が作った制度」は本当か?

 「マイナンバー制度は民主党政権が作った制度。作った時の人が『一回ちょっと立ち止まれ』みたいなことをいうと『お前が始めたんだろ』と言い返したくもなる」。25日にあった新潟県内の講演会で、河野氏がこう述べたと、地元民放などが報じた。

 そもそも、河野氏の「民主党政権が作った」との言い分は正しいのだろうか。

 確かに、民主党政権時代の2012年の国会で法案が提出された。いったんは民主、自民、公明で修正合意に至ったが、自民党は国会中の解散を求めて協力拒否に転じた。結局、11月の解散で廃案となった。



マイナンバー(共通番号)制度を推進する会議で発言する民主党の玄葉政調会長(左端、当時)。自民、公明の幹部も出席していた=2010年12月5日、東京都港区で

 この選挙で政権を奪還した自民党は翌13年の国会でマイナンバー法案を提出、安倍晋三内閣の下で成立させた。しかし、さらにその前にさかのぼると、09年に麻生太郎内閣が「社会保障番号・カード」を導入する方針を打ち出したが、総選挙で惨敗して実現しなかったという過去もある。

◆番号制度の構想はもっと以前の自民政権でも

 さらに、国民が統一した番号を持つ制度の構想自体は、民主党政権が誕生するはるか前からある。

 1980年、大平正芳内閣が「グリーンカード」と呼ばれる、納税者番号制度を導入するための法案を成立させた。これは、少額貯蓄の優遇措置の悪用を防ぐためだったが、金融業界の反対などで導入前の85年に廃止された。

 民主党政権でマイナ制度の設計に携わった、元参院議員の峰崎直樹氏は「そもそもは大平さんから始まった。何を言っているのかという話」と憤る。正確に所得を捕捉して再分配を強めることを目指したといい、「われわれが主張してきた本当の狙いではなく、マイナカードを早く効率よく持たせようとしている。国会でも本来の目的が何だったのかを議論してほしい」と話す。

◆住基ネットの失敗、そして「消えた年金」

 02年には住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が始まったが、多くの反対と問題を起こして失敗した。こちらも導入したのは自民党政権。しかし、07年の大量の年金保険料の納付記録漏れが分かった「消えた年金問題」で、番号制度が必要との議論が盛り上がった。

 税や社会保障を機能させることが目的だったというマイナ制度。だが、マイナカードの事実上の義務化などは想定されていなかった。衆院厚生労働委員会所属の山井和則氏(立民)は「最大の問題は保険証の廃止。民主党政権では影も形もなかった話だ。医療現場などで不安と混乱は高まっている。民主党政権うんぬんより、河野大臣は廃止延期の決断をするのが今の責任ではないか」と批判する。

 民主党政権時に厚労相を務めた長妻昭衆院議員(同)は「事実関係をご存じないのでは」とあきれた上で「漏れたら取り返しがつかないから、医療情報のひも付けはやめてくれと大臣として言った。当時の政権全体でも、ひも付けは相当限定しなければならない、なんでもひも付けるのはダメだという話で始まった」と振り返り、現在の河野氏ら自公政権が進めるマイナンバーやマイナカードの利用拡大、ひも付け拡大路線との違いを鮮明にする。

◆任意取得だったはずなのに、事実上義務化



河野太郎氏

 特に河野氏が問われるべきは、任意取得のマイナカードを事実上の義務にしたことだ。昨年10月、健康保険証を2024年秋に原則廃止して「マイナ保険証」への切り替えを表明した。だが、他人の情報を誤登録されたり、病院で保険資格を確認できなかったりする事例が相次いだ。

 マイナンバー制度に詳しい水永誠二弁護士は「任意取得としつつ、でたらめな普及策を進めた結果、『誰一人取り残されない社会』というデジタル化の理念も崩れている。河野氏はマネジメント能力のなさを露呈しているのに、もとは民主党政権が作ったなどと言うのは責任転嫁でしかない」とあきれる。

 次々と明らかになる問題に隠れがちだが、今月2日成立のマイナンバー法などの改正法は、行政機関が年金や児童手当の支給で把握する市民の口座情報を登録できるようにした。本人から一定期間内に不同意を明示されなければ、登録できるとしている。

 法改正案を議論したデジタル庁の有識者会議メンバーで立命館大の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は、個別に同意を取るのは自治体の負担になるとしつつ、「同意を得た人のみ登録する方が筋は通っている」と述べる。

 その上で、口座登録のあり方とは別に、公金給付の方法も議論が深まっていないと言う。「世帯ごとに一つの口座に振り込んだ方が自治体の事務作業は減る。だが、例えば家庭内暴力の被害者など事情のある人は、個別に振り込まれた方がいいはずだ。公金給付のあり方と、個人ごとの口座を登録するマイナンバー制度にはズレがある。給付を担う自治体も戸惑っているが、政府はビジョンを示せていない」

◆名前の漢字とカタカナを照合できないって…



小学校に出向き、児童のマイナンバーカード申請用の写真を撮る富山県朝日町の職員。各地で国主導のカード交付率競争が起きた=2022年12月、同町で

 公金受取口座登録を巡っては、親が子どものカード取得後、親名義の口座を子どもの口座として登録したケースなども約13万件発覚。「そもそもシステムに重大欠陥がある」と話すのは、元東京都国立市長で今は同市議の関口博氏だ。

 マイナンバーカードの取得者は「マイナポータル」のサイトから口座登録できる。だが、マイナンバーの漢字氏名と、マイナポータルで登録する口座のカタカナ氏名は照合できない仕組みになっている。システムエンジニアの経験もある関口氏は「親子でなくとも、現行のシステムだとマイナカード取得者と、全く別人のカタカナ氏名と口座を登録することができてしまう」と問題視する。

 デジタル庁は25年6月までにシステム改修する方針という。ただ、関口氏はマイナポータルで本人に代わって利用する「代理人登録」も問題があると指摘。「カードと暗証番号を知る代理人は、口座情報や処方薬の履歴など多くの情報を得られる。犯罪に悪用されるリスクもある。個人情報を一手に集めるマイナンバー制度は多くの問題があり、抜本的に見直すべきだ」

◆「河野切り」で保険証廃止を延期?

 21日発足の「マイナンバー情報総点検本部」は、マイナポータルで閲覧できる29項目のデータで誤登録などを調べる。そうした中、本部長である河野氏の「責任転嫁発言」をどう見るか。

 政治ジャーナリストの泉宏氏は「言わずもがな。次期総理を狙うなら口にしてはいけないことくらい分かりそうなものだが、性分なのだろう」とあきれ気味だ。一方、自民党内の動きとして「マイナカード問題の責任は全て河野氏に取らせようとする向きもある。岸田首相周辺には『河野切り』をした上で保険証廃止の延期を表明し、政権浮揚につなげる思惑もちらつく」と見た上で、苦言を呈する。「国民不在の騒ぎは止めるべきだ。政府は日本の将来に必要なデジタル化の方向性と中身を、改めて真剣に説明する必要がある」

◆デスクメモ

 2万円分のポイントで釣る、マイナカードの普及率と交付金を連動させるとして地方自治体をあおる、健康保険証を廃止するからカードを持てと言う。こんな強引すぎる普及策を進めた結果、システム欠陥を見逃しミスが多発した。「お前が始めたんだろ」と言われるべきなのは誰か。(歩)

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「お前が始めたんだろ」発言は真っ当なのか…河野太郎氏の言い分を検証した マイナ制度のトラブル批判に反論

2023年6月28日 12時00分



政府は今月9日に閣議決定したデジタル施策の「重点計画」で、母子健康手帳(母子手帳)とマイナンバーカードの一体化を目指す方針を示した。一体化に対し、子育て中の親や医療関係者らから不安の声が上がっている。相次ぐマイナカードのトラブルで情報流出への懸念が高まっている上、親と子双方の情報を一覧できる紙の手帳の良さが損なわれる可能性があるためだ。(嶋村光希子)

◆「プライバシーのかたまり」だから

 「これだけトラブルが重なると、情報が消えたり漏えいしたりしないか心配」

 東京都千代田区の診療所に、生後2カ月の長男の予防接種に訪れた会社員女性(32)は声を落とす。子育て支援をする一般社団法人「乳幼児子育てサポート協会」の行本(ゆくもと)充子代表も「母子手帳は体重や疾患などプライバシーのかたまり。情報管理の安全性が担保されないままでは一体化は反対」と訴える。



 政府は重点計画の中で、健康保険証や運転免許証などとともに母子手帳を挙げ、マイナカードとの一体化を目指すとした。ただし、母子手帳を一体化する時期や、紙の手帳を廃止するかどうかの方針は計画の中では明確にしていない。

 政府はこれまでも、必要なときにスマートフォンなどですぐに情報を確認できるといった利点を挙げ、母子手帳のデジタル化を進めてきた。現状でもマイナンバー取得者向けサイト「マイナポータル」で、出生時の体重や乳幼児健診の結果などを確認できる。

◆情報入力は「職員が手作業で」

 今後マイナポータルで確認できる情報を拡充する方針だ。しかし、自治体職員が手作業で情報を入力するため、マイナ保険証で実際に起きている誤入力や、職員の負担増も懸念される。

 こども家庭庁によると、母の情報は母のマイナカードに、子の情報は子のカードにそれぞれ記録している。一体化されると、親子の急病時に出産までの記録や予防接種などの医療情報をすぐに確認できなくなる可能性がある。

 小児科医で母子手帳の歴史に詳しい大阪大の中村安秀名誉教授は「丁寧な議論をすることなく、一体化を進めることは拙速すぎる」と批判。「母子手帳は母子一体の考え方で母と子の情報が合わせて書かれている。親子の絆の証しとして、親が子へ手渡すことも多い」と指摘する。

 「紙の手帳がなくなるのは困る」との声が多く上がっていることについて、こども家庭庁の担当者は「当面は紙の手帳を廃止する議論は難しそう」と話した。

母子健康手帳 1942年に発行された「妊産婦手帳」が始まりで日本発祥とされる。母子保健法に基づき、妊娠を届け出た人に自治体が交付。妊娠の経過や乳幼児の発育、予防接種履歴の記録だけでなく、育児に役立つ情報も載る。妊産婦や新生児の記録など厚生労働省が様式を定めた全国共通部分と、自治体が独自に編集できる任意部分がある。今年4月、11年ぶりに内容を拡充した。

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「困ります」母子手帳とマイナカードの一体化 手帳の一覧性は失われ、情報漏えいなどトラブル懸念も

2023年6月27日 06時00分



政府は21日、他人の情報がひも付けられるなど、マイナンバーカードを巡る問題に対応する省庁横断の「情報総点検本部」(本部・デジタル庁)を設けました。岸田首相は同日の記者会見で、秋までにデータの総点検を終える考えを表明しましたが、国民の不信は募っています。

 また、厚生労働省が同日、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)に示したインターネットによる計2000人を対象に実施したアンケートでは、「マイナ保険証」での受診歴を持つ10~70代の1000人のうち、56.5%が「メリットは特にない」と感じていることが分かりました。岸田首相は会見で来秋に現行の保険証を廃止し、マイナカードと一体化させる政府方針に「変更はない」と述べましたが、理解が十分に得られているとは言えない状況です。

 最近相次いだトラブルなどを巡る記事をまとめました。(デジタル編集部)

<特集>マイナカードのトラブル底無し 岸田首相は秋までに総点検するというが…マイナ保険証利点なし56%

2023年6月21日 21時33分