トランスジェンダーになりたい少女たちは誤情報にあふれエビデンスに欠けるトランスヘイト本だと思います。TGやGIDからSRS手術含む特例法に基づく医療を受ける権利を奪わないで下さい。


トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』(トランスジェンダーになりたいしょうじょたち エスエヌエス・がっこう・いりょうがあおるりゅうこうのひげき、: Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters、以下「トランスジェンダーになりたい少女たち」)は、2020年アビゲイル・シュライアーによって書かれ、レグナリー・パブリッシング社英語版)から出版された本である[1][2]。この本は、「急速発症性性別違和(ROGD)」という論争のある概念を支持している[1][3][4][5]。ROGDは、どの主要な専門機関によっても医学的診断として認められておらず、信頼できる科学的証拠に裏付けられていない[1][6][7][8][9][10]

本書は、ソーシャルメディアインフルエンサーなどの影響を受け、トランスジェンダー[注 1]ではないのにそうだと思い込んだ結果、後に後悔することになる不可逆的な医療ケアを受ける子どもが増えている、また、その治療は科学よりもイデオロギーに基づく医師たちによって助長されると主張するものである[1][15][16]。著者は、出生時に女性として割り当てられた10代の若者たちを指しながら、「2010年代に思春期の女の子たちの間で突然、トランスジェンダーであるという自己認識が急増した」と述べ、これを「拒食症過食症多重人格障害の犠牲になった、不安感が強く抑うつ的な(主に白人の)女の子たち」の間の「社会的伝染」に原因するものだとした[1][16]。そして、若者の性別違和に対する治療法として、性別を肯定する精神医学的支援、ホルモン補充療法性別適合手術(これらをまとめて「ジェンダーを肯定するケア〈gender-affirming care〉」と呼ぶことが多い)をおこなうことを批判した[17][18]。また、流行から子どもを守るために「子どもにインターネットで交流させないこと」「親の権威を保つこと」「ジェンダー・イデオロギー教育を支持しないこと」「子どもの性別違和の主張を認めないこと」「出産能力は祝福であると娘に伝えること」などを親に勧めた[1][16][17][18]

この本の反応は賛否両論であり、肯定的なレビューの多くは著者の主張を支持しているが、批判の多くは本に利用された逸話の選択や主張の科学的根拠に関する問題に焦点を当てている[17][18][15]。この本がトランス差別的であるとして[19][20][注 2]、またトランスマスキュリン[注 3]ノンバイナリーであると認識する10代の若者を「彼女」と呼ぶ本書の姿勢をミス・ジェンダリングであるとして[23]、販売を制限しようとするいくつかのボイコットが行われた[24][25][26]

日本においても、当初は「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換[注 4]ブームの悲劇」というタイトルで2024年1月にKADOKAWAから刊行される予定だったが[30][31]、タイトルや事前公開された内容紹介について議論や批判が起き[32][33]2023年12月5日に発売中止と当事者への謝罪が発表された[34][35]。その後、産経新聞出版より2024年4月に『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』というタイトルで刊行された[36][37][38]

本の内容

原題『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』を意訳すると「取り返しのつかないダメージ:私達の娘たちを誘惑する(Seducing,そそのかす)、トランスジェンダーの流行・熱狂(Craze)」となる[39][40][41][42]

本書によると、2010年代初頭までは、トランスジェンダーの割合は少なく、大半が出生時に男性と判断された人々だった[43]。しかし、その後、出生時に女性と判断された青少年の間で、性別違和の自認が急増した[43]。これらの新しいトランスジェンダーは、幼い頃から性別違和を感じるのではなく、思春期になって初めて現れるのが特徴としている[44]。シュライアーは、自分の子どものトランスジェンダー自認や、トランスジェンダーに移行することに悩む親たちから話を聞き、精神疾患や個人的な問題を経験しながら、自分の性同一性に疑問を感じたり、トランスジェンダーであることをカミングアウトした10代の若者を何人か紹介した[45][46][18][47]。彼女は、彼女が 「少女」 と呼ぶ、出生時に女性と割り当てられた十代の若者たちが直面する孤立、オンライン社会力学、制限的なジェンダーとセクシュアリティのラベル、歓迎されない身体的変化と性的注意といった困難について説明した[48][45][1][23]。そして、こうした社会的な苦悩から抜け出す手段として、男性としてのアイデンティティを選択するのだと指摘した[43]

シュライアーは、SNSの影響力の大きさや、性別適合治療を積極的に推奨する風潮を問題視した[43]。本書では、RODG社会的な伝染が原因で急速に発症する性同一性障害)という言葉が作られた2018年の研究と、それに対する医療界の反応について触れ、診断の存在と研究結果を支持している[49][1][3]。シュライアーは、Tiktok、Tumblr、InstagramなどのSNSのトランスジェンダーインフルエンサーが「社会的伝染」の鍵であり、若者にトランスであると自認させ、胸の圧迫テストステロンを使用し、協力的でない家族と縁を切ることや嘘をつくことを頻繁に勧めていると主張している[50]。シュライアーは、学校でのジェンダー教育、トランスジェンダーに対する包括的な言葉、アイデンティティ政治を批判している[51][52]。彼女は、社会的な伝染から娘を守るために、親が取るべき対策として、「スマホを持たせないこと」「親の権威を保つこと」「ジェンダー・イデオロギー教育への反対」「インターネットの制限」「田舎での生活」「出産能力の祝福」などを提案している[53][1][16][18]

彼女は、ジェンダーを肯定するケアを批判し[54]、それに反対する人々としてケネス・ザッカーレイ・ブランチャードJ・マイケル・ベイリー、リサ・マルキアーノ、ポール・R・マクヒューらの主張を紹介した[55]。さらに、トランス・アクティヴィズムとそれに関連する論争について論じており、性別特有のプライバシーの懸念、パッシングとトランスの可視性、トランスの受容を高める上での有名人の役割、トランスジェンダーとレズビアン急進的フェミニストとの対立、女子スポーツに出場するトランス女性[注 5]アスリートなどが含まれている[52]。彼女によれば、トランスジェンダーの増加はレズビアンの減少に一致しているという[52]。シュライアーは、性別移行の取り組みについて後悔した経験を持つ多くの若い女性の話を書いている[59]。彼女は、思春期ブロッカー二次性徴抑制剤)や異性ホルモン剤を用いるホルモン治療外科的処置などの医療介入にはリスクが伴うと主張し、手術の失敗によって身体障害者となったトランスジェンダーの事例を紹介した[60]。また脱トランスした若い女性についても紹介した[59]

背景と出版の経緯

2020年のインタビューでのシュライアー

著者のシュライアーはコロンビア大学オックスフォード大学に通い、イェール法科大学院法務博士(J.D.)を取得した[1][61][62]ウォール・ストリート・ジャーナル紙にオピニオン・コラムを寄稿していた[63][64][65][66]

本書が支持する急速発症性性別違和(ROGD)という用語は、2018年にリサ・リットマンが提唱した仮説であり、「社会的な伝染」が原因で、性別違和を経験する子どもが急増しているというものである[67][68][69][70]。 ROGDは、どの主要な専門機関によって医学的診断として認められておらず、信頼できる科学的証拠に裏付けられていない[1][6][7][8][71][72]。本書『Irreversible Damage』は、ROGDに関する初の書籍である[73]

『あの子もトランスジェンダーになった』の原著『Irreversible Damage』は、2020年6月に保守的な出版社であるレグナリー・パブリッシング社英語版)から出版された[1][74][17][31]。この出版社は、「アメリカを代表する保守出版社」を自称し[75]AIDSの原因はHIVではなく薬物の使用であると主張する本[76]や、環境保護活動共産主義者の陰謀であると主張する本[77]、旧統一教会信者の反進化論[78]キリスト教右派白人至上主義者の本なども出版している[32][17][79][80]。本書『Irreversible Damage』は、2021年第2四半期におけるレグナリー出版の売上増に貢献した主要な書籍の1つになった[81]。パメラ・アルマンドがナレーションを担当したオーディオブックは、ブラックストーン・オーディオからリリースされた。イギリスでは、スウィフト・プレスから「10代の少女とトランスジェンダーの流行」という副題で出版された[82]

出版後、シュライアーは保守系メディアで有名な人物となった[83]。2021年3月、共和党から指名され、米上院で「平等法」をトランスジェンダーにも適用する拡大案に反対する証言を行った[83][66]。シュライアーは、法案に反対する理由として、トランスジェンダー女性(「女性を自認する生物学的男性」)は、「女性と少女にとって危険な存在である」「女性アスリートの奨学金を奪う」と証言した[66][84]。2020年7月、「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」のインタビューでは、性転換の願望を「伝染(contagion)」と呼び、摂食障害自傷行為と比較した[85][86]。また、番組でシュライアーはトランスジェンダーの若者を自閉症と関連付けた[87][86]Spotifyの従業員はローガンのポッドキャストエピソードをプラットフォームから削除するように求めたが[87][88]、同社はこの要求を拒否した[89][90]。この本で、シュライアーからインタビューを受けたトランスジェンダーYouTuberのチェイス・ロスは、2021年に「シュライアーはインタビューの意図を誤解させ、タイトルや内容も隠した」と述べ、この本に参加し当事者を傷つけたたことを謝罪し、本書を読まないように呼びかけた[1][91][92][93]

評価

この本の評価は賛否が分かれている[94]。『エコノミスト[73]』、『アイリッシュ・インデペンデント』のエミリー・ホウリカン[95]、『ナショナル・レビュー』のマドレーン・カーンズ[96]、『サンデー・タイムズ』のクリスティーナ・パターソン[97]、『コメンタリー』のナオミ・シェーファー・ライリー[98]、『タイムズ・オブ・ロンドン』のジャニス・ターナー[99]による肯定的な書評がある。神学者のティナ・ビーティー英語版)は『ザ・タブレット』で、心理学者のクリストファー・ファーガソン英語版)は『サイコロジー・トゥデイ』で、肯定と否定の入り混じった評価をした[82]。『ロサンゼルス・レヴュー・オブ・ブックス』ではサラ・フォンセカが[100]、『サイコロジー・トゥデイ』のブログ記事ではトランスジェンダーの精神衛生を専門とする研究者のジャック・ターバン英語版)がそれぞれ否定的な評価をした[17][18]。『サイエンス・ベースド・メディシン』は、医師のハリエット・ホール英語版)による肯定的な書評を撤回し、その後この本を批判する一連の記事を掲載した[15]肯定的:『エコノミスト』は、2020年の「今年の本」41冊中の1冊としてこの本を選んだ[17][18][101]。同誌は、「多くの関心を集める報道を生み出してきたこのテーマについて、初めてわかりやすく扱った本のひとつ」と評したが、主要紙での書評は少ないと指摘した[73]。同紙は、シュライアーを「インタビューした人たちの話を細心の注意を払って伝えている」と評価したが、10代の若者が医療介入を受けている程度を誇張している可能性を示唆した[73]。『タイムズ』は、2021年の「今年の本」33冊中の1冊としてこの本を選んだ[102]。マドレーン・カーンズは、デブラ・W・ソーの『ジェンダーの終焉』と並んでこの本を批評した[96]。彼女は、シュライアーの本が「個人的で、詮索好きで、しばしば感動的な物語」を提供していると述べた[96]。ナオミ・シェーファー・ライリーは、突然トランスジェンダーだと認識し始めたように見える青少年たちに「病んでいるものは何か」と問いかけたシュライアーは正しかったと書いている[98]。彼女は、トランスジェンダー医療とオンライン上のトランスジェンダー活動に対するシュライアーの批判を支持した[98]。ジャニス・ターナーはこの本を「恐れ知らず」 と呼び、この本をめぐる論争に言及し、その結論を支持した[99]。この本は保守的な団体から肯定的な批評を受けたが、それは彼らによると、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の名の下に黙殺されていた真実をもたらしたからである[103]。彼らの書評は、シュライヤーが「Woke(社会問題に目覚めたリベラル層)」に対して「勇敢に立ち向かい」、「アメリカを洗脳したトランスジェンダー過激派」が推進する「狂気」を暴いたと書いている[103]
中立的:ティナ・ビーティーはこの本を「不穏で、腹立たしく、説得力のある研究」と評した[82]。彼女は、シュライアーが被験者自身が知らないところで、親や専門家からの逸話を利用していることを批判した[82]。彼女は、「シュライアーの主張の多くには反論の余地があるかもしれない」としながらも、報告されている思春期に発症する異和感の症例の増加は、「現在よりもはるかに大きな注意と不安の原因となるはずである」と書いた[82]。心理学者のクリストファー・ファーガソン英語版)は、「トランスジェンダーを自認する人の多くは、実際にトランスジェンダーで、医療的ケアを必要とする人たちである」「広く証明された科学的事実を否定している」「境界性人格障害自閉スペクトラム症などのメンタルヘルスの問題を抱えるトランスジェンダーの青少年は、医学的な性別移行から十分な恩恵を受けられないかもしれない」などの前提を解説した[104][31]。ファーガソンは、「彼女の論文を完全に否定する気はない」としながらも、彼女は科学に「注意深く耳を傾ける」ことに失敗しており、「質の高い、事前登録された、オープンサイエンスで科学的な取り組み」がこの分野では必要であると書いた[104]
否定的:本書は複数の研究者から「多くの誤情報を含む」と批判され、方法論的・科学的な誤りが多数あると指摘されている[注 7]。一部の批評家は、この本が転向療法を助長していると指摘し、「トランスフォビア的で反トランス的」な本だと定義している[注 2]。精神科医のジャック・ターバン英語版)は、「誤った情報に満ちた突拍子もない本」と批判し、「当事者ではなく、子供がトランスであることを受け入れない両親へのインタビューに基づいている」「科学的証拠を誤って解釈し、データを無視している」「古い診断法を引用している」「『下品で攻撃的な言葉』を使っている」などの複数の問題点を指摘した[17][18]。ジャーナリストのマット・トレイシーは、『Gay City News』で「シュライアーがトランスジェンダーの若者を「彼女」と呼んでいることを批判した[23]。トレイシーは、シュライアーが「トランスジェンダーの若者性自認[注 6]を軽視し、出生時に女性と割り当てられたトランスジェンダーの少年やノンバイナリーの人々を同じ生物学的要素を持っていると誤認している」と指摘した[23]。サラ・フォンセカは、『ロサンゼルス・レヴュー・オブ・ブックス』で「シュライアーが「憲法修正第1条」の言論の自由を盾に、トランスジェンダーの人々の自己決定権を抑え付け、偏見に満ちた主張を展開している」と非難した[100]。ジャーナリストのメリッサ・ギラ・グラントは、『The New Republic』で「トランスジェンダーの作家や組織もシュライアーが検閲されていると考えている同じ方法で検閲されてきたが、それらが現在彼女を擁護する作家たちから注目されることはほとんどない」と述べた[64]。歴史家のベン・ミラーは、「白人の少女の生殖器ブラックホールによって消されている」表紙のデザインを、ナチスのプロパガンダポスターのデザインと比較した[118][119]。イスラエルのウェブサイト『Haokets』は、「表紙は『親の保護の義務』を鮮明にするために、題材とは異なる非常に幼い少女が描かれている」「少女は、妊婦のお腹ができる『はず』の場所に穴が空いており、何よりも子どもを将来の母親として認識する、本書の保守的な部分と対応する」と書いた[120]
SBM:『サイエンス・ベースド・メディシン(SBM)』は、2021年6月にハリエット・ホール英語版)による肯定的な書評を掲載し、「真剣に調べる必要のあるいくつかの憂慮すべき事実を提起している」「ジェンダー肯定を中心としたケアは、間違いで職務怠慢である」「現在の政治情勢はこれらの問題の科学的研究をほぼ不可能にしている」と指摘した[15][121]。その後、SBMは編集者による検討の結果、科学的妥当性に問題が多いとして書評を撤回する措置を取り、ホールの書評はマイケル・シャーマーによって『Skeptic』に改訂版が再掲載された[1][15][121]。SBMの編集者、スティーブン・ノヴェラデヴィッド・ゴルスキーは、後に撤回について説明し、ホールとシュライアーの主張は「いかなる証拠にも裏付けられておらず、科学的証拠の重大な誤読によってこじつけられたもの」と結論づけ、「逸話、異常値、政治的な議論、そして選択された科学」に基づいていると説明した[15]。その後数週間、同サイトはゲスト執筆者で医師のローズ・ラヴェルとAJ・エッカートによるこの本に関する一連の記事を掲載し、科学的な誤り、データの選択、誤った情報について同書を批判した[1][15][62][47][105][106][注 7]。ラヴェルは、「トランスジェンダーの科学と医学を誠実に理解しようとする人には、この本はお勧めできない」「本書がトランスジェンダーの若者必要とされる医療を受けられないようにする取り組みの主要な資料として使われ続けることを強く懸念している」と書いた[62]


マーケティングと流通

『Irreversible Damage』は複数の言語に翻訳され、スペイン[122]、フランス、ハンガリー[123]、ドイツ語[124]、シュライアーの演説に抗議者が集まったイスラエルなど、他の国々でも外国語版が出版された[125]。同書に対する反発から、日本での出版は中止され[126]、その後、別の出版社から発売された[36][37]

アメリカ

この本がトランスフォビアで、「グループに対する憎悪を煽り、トランスの現実を否定している」として[20]、販売を制限しようとするいくつかのボイコットが行われた[24][25][26]アメリカ書店協会がこの本を宣伝したことを謝罪し、競合の「ターゲット」がウェブサイトからこの本を削除した後も、Amazonは本書の販売を続けた[127]。2020年6月30日、本書は発売されると直ぐに、Amazonのベストセラーとなり、最も売れる本の1つとなった[128][20]。その後、Amazonの「LGBTQ+人口統計学」カテゴリーでハードカバー版、ペーパーバック版、Kindle版ともに上位3位にランクインした[107][129]。Amazonで「トランスジェンダー 」と入力すると、本書がベストセラーとして挙げられ、検索結果のトップに表示される[107][25]。本書は、アメリカでは12万部を超えるベストセラーとなった[30]。2020年6月、Amazonは出版の一週間前にこの本の広告を中止し、その理由を「性的指向を診断、治療、または疑問視する主張」をしているためと説明した[2]。2021年4月、従業員がAmazonに販売中止するよう嘆願したが、同社は「この本はAmazonのコンテンツ・ポリシーに違反しておらず、今後も販売を続ける」と回答した[108]。2022年3月、「No Hate at Amazon」と呼ばれるグループが、Amazonに、本書と『Johnny the Walrus』の販売中止を求める嘆願書を提出し、Amazonで販売できるコンテンツを従業員が民主的に決定できるようにする監視委員会を設置するよう求めた[25]。少なくとも従業員600人が嘆願書に署名し、2021年夏にAmazonの幹部に提出された[25]。Amazonがこれらの本の販売中止を拒否したことで、一部の従業員はAmazonで働くことを辞めた[107][127]
2020年11月、ディスカウントストア「ターゲット」はネット上での批判を受け、同書の販売を一時停止したが、シュライアーから「言論の自由の侵害」だと批判され[17][18][107][64]、再び購入できるようにした[24][111][130][109]。保守派は、同書の撤去をナチス・ドイツ焚書と比較した[110]。何人かのLGBTのコメンテーターは、撤去を支持すると表明した[111][109][23]。『Transgender Studies Quarterly』編集者のグレース・ラヴェリーは、Xで「少数派グループが大量生産された本を破壊することは、『国家主導による商品の破壊』とは異なる」と主張した[110]。『デイリー・ドット』のコラムニスト、アナ・ヴァレンスは、「これは検閲ではない。彼らは他の場所に出かけていき、それを買う購買力がある。この本はAmazonのKindleストアで最も売れているトランスジェンダーの研究書であり、これはアルゴリズム的にトランスの声を封じ込めている」と指摘した[110]アメリカ自由人権協会(ACLU)の弁護士であるチェイス・ストランジオは、「この本と思想の流通を止めることは、100%私の死守すべき課題である」とツイートした[131][64]。ストランジオは後にこのツイートを削除し、投稿の意図は「政府による禁止を求めているのではなく『トランスジェンダーの自己決定を市場がより支持するような情報環境を作ること』だったと説明した[131][64]。2021年2月、ターゲットは再びこの本の販売を中止した[108][132]
2021年4月、ハリファックス公共図書館に対し、この本を流通から外すよう求める請願が開始された[26]。同図書館は、知的自由を理由に、撤去は検閲にあたるとして拒否した[26]。これを受けて、ハリファックス・プライドは、今後ハリファックスの図書館ではイベントを開催しないと発表した[26]
2021年7月、アメリカ書店協会(ABA)は、加盟書店の750店に同書の販売を検討するよう販促ボックスに入れて郵送したが、このことを「重大で暴力的な事件」と謝罪し、同書を「反トランス」と位置づけた[128][74]。これはさらなる論争を引き起こし、「書店協会は本を検閲しようとしている」と主張する人もいれば、「謝罪が不十分だ」と主張する人もいた[128][74]


イスラエル

本書はヘブライ語に翻訳され、2023年にイスラエル保守的な出版社であるセラ・メイア出版社から出版された[120][113]。この出版社は、極右で反リベラルな政策を推進している[113][19]

本書は、イスラエルでも抗議活動を引き起こした[113][115][133]。イスラエル最大手の小売業者2社はこの本の取り扱いを拒否した[133]。2023年5月23日、アタリム広場にある公共施設で行われた発売イベントは、本書の内容を知った施設の人々が 「憎悪扇動」だと抗議したため、中止された[115][134]。イベントは近くのカールトンホテルに会場が移されて予定されたが、ホテルもイベントを拒否した[113][115]。5月28日、イベントはラマト・ガンにある右翼団体フォーラム・カフェ・シャピラ」 の敷地内で行われた[115][19]。イベントには、イスラエルとアメリカの右翼活動家や団体が参加し、本書を支持して宣伝した[19][135]。外では数百人規模の抗議デモが行われ、会場内ではトランスジェンダーの若者が「私たちは病気ではない、人間だ」と叫ぶ事態も起きた[133][135][136][137]

日本

日本では、KADOKAWAから2024年1月に刊行される予定だったが[30][31]、2023年12月にタイトルや事前公開された内容紹介について議論や批判が起き[32][33]、発売中止と当事者への謝罪が発表された[34][35]。その後、2024年4月に産経新聞出版より刊行された[36][138]。産経新聞によると、発売前に同社や書店に対して出版中止を求める脅迫があり[139][138]、一部書店は販売を見合わせた[140][38]

2023年、KADOKAWA

2023年12月3日、『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換[注 4]ブームの悲劇(監修・岩波明/訳・村山美雪、高橋知子、寺尾まち子)』という題名で、KADOKAWAから2024年1月に刊行されることが告知された[32][30]。しかし、日本語タイトルや宣伝文、発行前に公表された概要について、「トランスジェンダー差別を助長する」として[141][142]、各地で論争や批判が起きた[32][143]。Amazonの内容紹介には「幼少期に性別違和がなかった少女たちが、思春期に突然“性転換”する奇妙なブーム。学校、インフルエンサー、セラピスト、医療、政府までもが推進し、異論を唱えれば医学・科学界の国際的権威さえキャンセルされ失職。これは日本の近未来?LGBT法が施行され、性同一性障害特例法の生殖不能要件が違憲とされた今、子どもたちを守るためにすべきこととは」などと書かれていた[34][33][30]。出版関係者の有志24名は、「内容が刊行国のアメリカで既に問題視されている」「当事者の安全・人権を脅かしかねない[91][144]」などの意見を表明した[32][34][31]。12月5日、KADOKAWAの公式サイトで、タイトルや宣伝文が当事者を傷つけたことへの謝罪と発売中止が発表された[141][143][35]

発売中止以来、KADOKAWAは対外的な説明をしていないが、2023年12月8日付で、夏野剛社長や執行役が、刊行中止の理由や課題について、社員向けの声明を出していたことが、朝日新聞の取材で分かった[145][39]。声明文によると、「刊行中止の原因は、本書の内容によるものでも、SNSなどの抗議によるものでもありません」としており、「一石を投じるために刊行するなら、相応の準備が必要だが、それを怠った」「社内で内容を検証し、識者からも意見を求めるなどして、ジェンダー平等社会の議論を活発にさせるという編集意図を明確にしてから告知すべきだった」「扇情的なタイトルにすることで、もはや当初の編集意図が通じる状況ではなくなった」と説明した[145][39]

週刊文春によると、担当編集者は「ポリコレについて考える本を作りたい」と話し、トランスジェンダーについて議論を提起する翻訳本のシリーズ化を目指していたという[146][147]炎上については、事前に批判を予想して、保守系知識人に騒動になった際の応援を要請しており[32][147][148][39]ヘイト本的需要や炎上マーケティングを期待した可能性が指摘された[146][147]百田尚樹[32][149]島田洋一[150][151]徳永信一[152]、元産経新聞社勤務の三枝玄太郎[32][153]ナザレンコ・アンドリー[32][154]竹内久美子らは[155]、担当者から日本語訳を渡されて推薦文などを依頼されたことをXで公表している[32]。島田洋一は、自著で数ページに渡って本書を紹介した[156][150][157]。竹内久美子は、「背後にいるのはあの勢力」と左翼勢力の陰謀があるという話に結びつけていた[32][39][155]。産経新聞や旧統一教会系のメディア「世界日報」、法輪功系のメディア「大紀元時報」は、シュライアーがXで「活動家主導のキャンペーンに屈することで、検閲の力を助長する[158]」と批判したことを報じた[159][160][161]

発売中止について 千田有紀武蔵大学教授は、産経新聞で「原作を読んで批判した者はどれだけいるのか。出版社に抗議して刊行を中止させるのは卑怯」と批判した[162]。文筆家の林智裕は『WEDGE』で、「キャンセル・カルチャー」「焚書(ふんしょ)」と評した[163]。ジャーナリストの佐々木俊尚は、Xで「焚書」であると抗議し、海外の批判的書評「本書はシュライアーが不快と危険を感じる世界観に対する中傷をまとめ上げたものにすぎない」を紹介し、「刊行されなければこういう議論もできない」と指摘した[164][165]。心理学者のクリストファー・ファーガソンは、毎日新聞で「アメリカでは共和党地盤の保守的な州で、トランスジェンダーの医療ケアを禁じる法律が次々と成立しているが、『本書が保守派への燃料となった』」と分析した[31]。そして、「トランスジェンダーの権利を擁護する人たちの懸念を理解し、深く同情するが、本を読むことを禁止する権利はない。正しい科学データと情報で対抗すべきだ」と指摘した[31]。ジャーナリストの北丸雄二は、出版社の責任について「大手に求められるのは知的な合否判断を行い、取捨選択すること」と指摘した[166][91]。近現代史研究者の辻田真佐憲は、朝日新聞のコメントプラスで、「問題のある本だからといって出版を止めるのは適切ではないが、今までどういう批判があったかを解説などで紹介することは必要」とし、「今回は、SNSでかなり煽った広報が行われており、それがネット炎上につながり、刊行中止の決定にいたった」「議論を引き起こす本については、もう少し丁寧に対応すべきだった」と指摘した[141]。音楽家のロマン優光は、『実話BUNKAオンライン』で「抗議運動は、固定的なメンバーによる、よくある程度の小規模なもの」「発売の意図やゲラの送り先の選考基準、タイトルや宣伝文の意図、発売中止の経緯などについて、関係者は説明するべきではないか」と指摘した[32]。哲学者の高井ゆと里群馬大学准教授は、朝日新聞で「KADOKAWAのタイトルや宣伝文は、トランス差別をあおる扇情的な内容で、誠実な問題提起が目的だったとは考えられない」「出版社が刊行中止の理由を十分説明しなかったため、『当事者らの批判のせいで読む機会が奪われた』との中傷を招いた」と指摘した[39]。弁護士の仲岡しゅんは、同新聞のコメントプラスで「本書の出版中止は公権力の介入ではなく、既に原著に対する批評があり、出版社自身の内部検討の結果として中止になった」と指摘した[39]

2024年、産経新聞出版

2024年2月10日、著者のシュライアーが、Xに「トランス活動家たちが日本の出版社を脅迫して出版をキャンセルした後、複数の出版社が入札合戦を繰り広げた」「日本語版は近日出版予定!」と投稿した[39][167]

4月3日、産経新聞出版から、『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』という題名で出版された[36][37][138]やAmazonのサイトには、「あの『焚書』ついに発刊」という宣伝文が掲載された[36][168][169]。産経新聞によると発売前の3月、同社と複数の書店に対して出版中止の要求と放火を予告する脅迫メールが届き、警察に被害届を提出した[139][138][38]。同社は、予定通り刊行した理由として、「脅迫に屈することは出版文化と表現の自由を脅かす前例を作ることになり得る」と説明した[140][38]。本書は予約段階から、Amazonの「社会一般関連書籍」カテゴリーで1位となり[170]、発売日には総合1位になった[169][171]。一部の書店が、脅迫メールを受けて、安全上の理由から本書の販売を見合わせた[38]。ライターの窪田順生は『ダイヤモンド・オンライン』で、脅迫行為について「焚書」「バグった正義感」と論じた[169]千田有紀武蔵大学教授は、この記事の『Yahoo!ニュース』のコメント欄で「トランスジェンダー活動家の言い分を全面的に擁護しない本や活動家が気に入らない著者の本の刊行は、これまでも、ひどい妨害を受けてきている」と指摘した[172]

日本における評価監訳と解説を担当した精神科医昭和大学特任教授の岩波明は、産経新聞で「さまざまな側面からトランスジェンダーの問題を取り上げている」「学術的にも非常に価値がある本だと思う」と評価した[173]。岩波は、本の解説でシュライアーの見解を一部支持し、トランスジェンダーに対するホルモン治療外科手術には重大な副作用不妊症を残す可能性があると指摘した[174]。また、原著の発刊に際しては、「トランスジェンダー活動家左翼団体などから、トランスジェンダーの人権を否定するものとして、執拗で頻繁な攻撃があった」と解説した[174]
原著の内容を検証する医療社会学やトランスジェンダー・スタディーズの研究者らは、朝日新聞で「そもそもトランスジェンダーは政治的な思想や流行ではない。子どもへの医療は慎重に行われており、必要な医療資源の不足の方が問題になっている」「信頼性の低い論文やデータを多用している」と指摘した[39]。研究チームは4月以降、原著の問題点をまとめた啓発サイトを公表する[39]

トランスジェンダーになりたい少女たち出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


KADOKAWAは5日、来年1月24日に発売予定だった書籍「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」(アビゲイル・シュライアー著、岩波明監訳、村山美雪・高橋知子・寺尾まち子共訳)の刊行を中止した。同日夜、同社ウェブサイトで発表した。

 原書は英語版のノンフィクション。日本語版の商品ページにトランスジェンダーを示唆して「熱狂はSNSで伝染する」などと紹介され、「トランスジェンダー差別を助長する」とX(旧ツイッター)などで批判の声が上がっていた。

 同社の発表文では「刊行の告知直後から、多くの方々より本書の内容および刊行の是非について様々なご意見を賜りました」と説明。「ジェンダーに関する欧米での事象等を通じて国内読者で議論を深めていくきっかけになればと刊行を予定しておりましたが、タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」と謝罪した。

KADOKAWAがトランスジェンダーめぐる本の刊行中止 批判受け

2023年12月5日 21時30分


KADOKAWAは5日、来年1月24日に発売予定だった書籍『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(アビゲイル・シュライアー著、岩波明監訳、村山美雪・高橋知子・寺尾まち子共訳)の刊行を中止することを発表しました。トランスヘイトを煽る悪質な本を翻訳して広めることに対する非難や抗議が相次いだことを受けての措置です。





 この本の原書は、2020年に米国で出版された「Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing our Daughters」(直訳すると「不可逆的損傷:我々の娘たちを性的に誘惑するトランスジェンダーの熱狂」)という本で、北丸雄二さんによると「ずいぶんと雑な論拠と推論が批判されて全米書店協会が販売したこと自体を謝罪したり。そのせいもあって話題になって結構売れた本。トランスフォウブのネタ本みたいな存在」です。Amazonも広告を拒否しています。また、この本に参加したトランスジェンダーのチェイス・ロスは、本の意図を知らずに参加し、当事者を傷つけたことを謝罪し、この本がコミュニティに対し嫌悪的で侮辱的だとして「この本を買わないでください。読まないでください」と呼びかけています。また、トランス男性のタイ・ターナーは「私たちトランス男性インフルエンサーを『小さな女の子を襲う捕食者』だ」「SNSで娘たちを感染させようとしている」として、「読むどころか、題名を見ても話題にしてもいけない。タグ付けして題名を広めてもいけない。その言葉自体がトランスジェンダーのあなたを深く傷つけるから」と語っています。

 この本を読んで内容をまとめてくださった方は、本文で「(間違ったトランスジェンダーを求めた子どもたちの両親は)エモやアニメ、無神論、共産主義、ゲイの目覚めなどについて、子供のためを思って認めたが、心を広くしすぎたのかもしれない」「ジェンダー教育は有害であり、子供をおかしくすると主張している。子どもたちがゲイとの連帯をするのにさえ親として怒れと言っている」と述べられていることを紹介し、「全体的には「昔は性の乱れがなくて良かった」というだけの話であって、その根拠は著者の主観である(なお著者はジャーナリストであり医者や、医学研究者ではない)」としています。こちらでは「トランスジェンダー治療の科学」に掲載されたこの本の医学・科学上の問題点が指摘されています。

(2023.12.25【追記】米医学博士ジャック・ターバン氏も本書の6つの問題を指摘し、虚偽情報にあふれていると批判しています



 KADOKAWAがこのような本を日本語に訳し、『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』とのタイトルで発売するという情報が12月2日、3日頃に明らかになり、拡散されました。KADOKAWAの公式サイトには「差別には反対。でも、この残酷な事実(ファクト)を無視できる?」という謳い文句で始まる紹介文で、「ジェンダー医療を望む英国少女が10年で4400%増! 米国大学生の40%がLGBTQ! 幼少期に性別違和がなかった少女たちが、思春期に突然“性転換”する奇妙なブーム。学校、インフルエンサー、セラピスト、医療、政府までもが推進し、異論を唱えれば医学・科学界の国際的権威さえキャンセルされ失職。」というセンセーショナルで差別的な文言が並んでいました(※現在は削除されています)

 これに対してLGBTQ+Allyコミュニティから非難や抗議の声が続々と上がりました。出版業界で働く小林さんという編集者の方からも「本書の著者であるアビゲイル・シュライアーが扇動的なヘイターであり、本書の内容も刊行国のアメリカですでに問題視されており、トランスジェンダー当事者の安全・人権を脅かしかねない」とする「トランスジェンダー差別助長につながる書籍刊行に関しての意見書」が出版関係者24名による賛同コメント付きで提出されていました。「今後、仕事を引き受けないことはもちろん、授業や研究でも図書を一切紹介しないことにします」と宣言した研究者の方もいらっしゃいました。

 6日の水曜日にはKADOKAWA本社前で抗議集会も予定されていました(※刊行中止を受けて、新宿駅南口での街宣に変更されました)

 

 こうした状況を受け、KADOKAWA学芸ノンフィクション編集部は12月5日、同社の公式サイトに「学芸ノンフィクション編集部よりお詫びとお知らせ」と題した文章を発表、「刊行の告知直後から、多くの方々より本書の内容および刊行の是非について様々なご意見を賜りました。本書は、ジェンダーに関する欧米での事象等を通じて国内読者で議論を深めていくきっかけになればと刊行を予定しておりましたが、タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」「皆様よりいただいたご意見のひとつひとつを真摯に受け止め、編集部としてこのテーマについて知見を積み重ねてまいります。この度の件につきまして、重ねてお詫び申し上げます」と謝罪しました。



 刊行が中止されたことは、本当によかったです。声を上げたみなさんのおかげです。KADOKAWAへの感謝のコメントも上がっています。

 一方、謝罪文について、「タイトルやキャッチコピーによって当事者が傷つけられた」という問題の矮小化が行なわれ、中途半端なものになっている、といった批判の声も上がっています。「あの子もトランスジェンダーになった」「SNSで伝染する性転換ブーム」というタイトルやコピーが、性的指向や性自認があたかも“感染”するかのようなデマに基づく差別的な煽り文句であることももちろん問題なのですが、そもそもこのような本を翻訳出版することが(ただでさえSNS上でのヘイトやバッシングに晒されている)トランスジェンダーコミュニティにどれだけ「Irreversible Damage」を与えるかということ、事は人権侵害であり、命にも関わる問題なのだということを踏まえ、KADOKAWAがIR情報で「性別・性的指向・性自認・性表現…などの多様性を尊重し、差別や偏見を許しません」と宣言しているように、改めて「LGBTQへの差別は許さない」というスタンスをきちんと述べていただけたら、損なわれた信頼(ダメージ)を回復できたのではないでしょうか。 

 

トランスジェンダー入門』の著者・高井ゆと里さんは、KADOKAWAの内部でしんどい思いをしている人に対してできることがあれば力になると呼びかけ、また、別の出版社がこの本を出す可能性に触れて「出版界全体の問題として考えてほしい」と訴え、「今回の「翻訳チーム」の憎悪扇動には、端的に恐怖を感じました。二度と繰り返してはならないし、問題はトランスヘイトだけでないことを再確認したい」とコメントしています。

 





参考記事:

ジェンダー書籍、刊行中止 「当事者傷つけた」と版元(共同通信)

https://nordot.app/1104755023576466120?c=39550187727945729

トランスジェンダーに関する翻訳本、KADOKAWAが刊行中止…「当事者を傷つけ申し訳ない」(読売新聞)

https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20231205-OYT1T50289/

KADOKAWAがトランスジェンダーめぐる本の刊行中止 批判受け(朝日新聞)

https://digital.asahi.com/articles/ASRD56W1PRD5UCVL02G.html

KADOKAWA、差別扇動的との批判相次ぐ書籍を刊行中止 「トランスジェンダーの安全人権を脅かしかねない」との意見書も(ねとらぼ)

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2312/05/news208.html

トランスジェンダー差別助長につながる書籍の刊行が中止に



 KADOKAWAは5日、来年1月に予定していたアビゲイル・シュライアーさんの著書「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」の刊行を中止すると発表した。題名やキャッチコピーが「結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」と謝罪した。

 同社の告知によると、書籍は性的少数者に関する内容で「気鋭のジャーナリストがタブーに挑む大問題作」などと宣伝していた。今月3日に刊行が告知されてから、出版関係者の有志が「内容が刊行国の米国で既に問題視されている」「当事者の安全・人権を脅かしかねない」として、同社に対応を求めるとの意見を表明していた。

© 一般社団法人共同通信社

ジェンダー書籍、刊行中止 「当事者傷つけた」と版元

2023/12/05


KADOKAWAは5日、来年1月24日に刊行予定だった、アビゲイル・シュライアー『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(岩波明監訳)の刊行を中止すると発表した。刊行の告知直後から、本書に関して様々な意見が寄せられたという。

角川書店

 同社は「タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」とコメントを出した。

トランスジェンダーに関する翻訳本、KADOKAWAが刊行中止…「当事者を傷つけ申し訳ない」

2023/12/05 23:32


KADOKAWAは5日、来年1月24日に発売予定だった書籍「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」(アビゲイル・シュライアー著、岩波明監訳、村山美雪・高橋知子・寺尾まち子共訳)の刊行を中止した。同日夜、同社ウェブサイトで発表した。

 原書は英語版のノンフィクション。日本語版の商品ページにトランスジェンダーを示唆して「熱狂はSNSで伝染する」などと紹介され、「トランスジェンダー差別を助長する」とX(旧ツイッター)などで批判の声が上がっていた。

 同社の発表文では「刊行の告知直後から、多くの方々より本書の内容および刊行の是非について様々なご意見を賜りました」と説明。「ジェンダーに関する欧米での事象等を通じて国内読者で議論を深めていくきっかけになればと刊行を予定しておりましたが、タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」と謝罪した。

KADOKAWAがトランスジェンダーめぐる本の刊行中止 批判受け

2023年12月5日 21時30分






アビゲイル・シュライアー著『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』の日本語版が、KADOKAWAから出版予定だったが、中止になった。

この本は、2020年にアメリカで刊行された時にも物議を醸した。この時、医学博士ジャック・ターバン氏は本書の6つの問題を指摘して、虚偽情報にあふれていると批判している。

一体何が問題なのか。ターバン氏の2020年の寄稿(原題:デマだらけの新刊『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』トランスジェンダーの青少年を傷つけかねない一冊)を掲載する。

◆◆◆

アビゲイル・シュライアー氏の新刊『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』が大変な騒ぎになっている(訳注:2020年刊行時の米国での騒ぎを指す。原題 Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters 回復不能なダメージ:娘たちを唆すトランスジェンダー・ブーム)。

本書の中核をなす(そして誤った)前提はこうだ――本当はトランスジェンダーなどではなくただ混乱しているにすぎない「トランスジェンダー」の若者が途方もなく大勢いる。かれらはジェンダー・アファーミングな、すなわち自認する性に近づける医療的介入(ホルモン療法や性別適合手術など)を受けるようみな急き立てられていて、あとでそれを後悔することになるのだ。

誤った情報に満ちた突拍子もない本だ。医師そして研究者として、トランスジェンダーの若者のケアと理解にキャリアを捧げてきた私はそう思った。

こんな本にまさか影響力はあるまい、と思った。ところが大間違いだった。

インターネットが政治的なデマの広がり方を劇的に変えたことに気づいているべきだった。

ネット上ではしばしば、何が真実かがうやむやになってしまう。

無責任なジャーナリストじみた手口とまったくのデタラメに満ちた本書は、大当たりした。

Twitterで拡散し、雑誌エコノミストの2020年の「今年の本」にまで選ばれた(「今年の本」のリストは長いので、すべてをファクトチェックしていないのだろうと善意で解釈することにする)。

非主流派のいくつかの団体、たとえば米国小児科医師会(これは反LGBTQ団体なので、米国小児科学会と混同しないように)を除けば、トランスジェンダーの若者や多様なジェンダーの若者に対し、自認する性に近づけるケアを施すこと自体がいまの医学界で論争の的になることはない。

アメリカ精神医学会米国小児科学会米国内分泌学会米国児童青年精神医学会世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会などは、定められたガイドライン(例えば米国内分泌学会のものなど)に臨床医が従う限り、自認する性に近づけるための医療的ケアをトランスジェンダーの若者に施すのは適切だという見解で一致している。

そういったガイドラインを読めばわかるように、どのような治療が推奨されるかは個々人の発達段階によって変わるし、具体的な基準を満たさない若者は治療対象とならない。

この慎重な段階的アプローチについては、私も数年前にニューヨークタイムズに書いている。

それでも本書が注目を浴びた主な理由は、シュライアー氏に論争を巻き起こす才能があるからだ。

トランス嫌悪だとの(もっともな)非難を受けてアメリカのディスカウントストア・ターゲットがこの本をウェブサイトから一時的に取り下げたところ、氏はすかさず言論の自由の侵害だと主張した。

それについては本人がウォールストリートジャーナルに書いている。

言論や出版の自由を保障する憲法修正第1条があるからといって、ターゲットに自著の販売を強制できるわけではない。それでもこの本は人々の感情に訴えかけ、旋風を巻き起こした。私は憂慮せざるをえない。

一般的に、トランスジェンダーの若者は嫌がらせを受け、地域社会でスティグマを経験している。そのことは自殺率の高さを含めた(シスジェンダーと比較しての)メンタルヘルスの大きな格差をもたらしている。

しかし近年、過激な社会的保守派は、思春期のトランスジェンダーの若者を支援するための標準的な治療を実践する親や医師を刑務所に入れると脅し、医療を取り上げようとしている。

本書はその火に油を注ぐものだ。

だがそれよりなお恐ろしいのは、子どもの性自認を拒絶せよと親たちに説いていること。それこそがまさに、トランスジェンダーの子どもたちの自殺未遂の最大の予測因子の一つであるにもかかわらず。

自分に関係するデマが世間に溢れかえる――トランスジェンダーの若者たちがそんな目に遭っていいはずがない。本書について我々が知っておくべきことがいくつかある。

シュライアー氏は、自身が取り上げたトランスジェンダーの若者のほとんどに取材していない。

本書は、トランスジェンダーだと両親にカミングアウトした数人の若者について記している。

そして、その思春期の未成年や若者は、実際はトランスジェンダーではなくただ混乱していたのだと主張している。

だが問題なのは、シュライアー氏がこれらの若者にほとんど直接取材していないことだ。

シュライアー氏が取材したのはほとんどの場合親のみであり、その親たちは総じて、自分の子がトランスジェンダーを自認することを受け入れていなかった。

親の多くは子どもと疎遠になっていた。親から拒絶された子どもたちが深く傷ついたからだ。

そのような若者の心理を理解するには、子が口をきいてくれなくなった親の話を鵜呑みにするのではなく、本人の話を聞いてみる必要があるだろう。

さらに悪いことに、本で紹介したトランスジェンダーの若者が自分のことだと認識しないように細部を変更した、とシュライアー氏は前書きで説明している。

そうすることで、トランスジェンダーの若者たちが自分たちの言い分を述べたり、不正確な部分を指摘したりできないようにしたのだ。

シュライアー氏は、自分は政治とは無関係だと主張する。ところが本書は、保守派政治思想の推進を使命に掲げるレグネリー出版社から出ている。

シュライアー氏は、本は政治的なものではなく、自分は中立的な調査ジャーナリストだと主張している。

しかしレグネリー出版社は自らを「アメリカを代表する保守派出版社」と称しており、『バイデンの策謀』や『保守の心』といった本を出版している(編注:統一教会の創立者である文鮮明を擁護する本を過去に出したこともある)。

さらに、自社の著者リストについて「アン・コールターをはじめ、保守派の思想と行動で知られる有名人が名を連ねている」とまで自慢している。

シュライアー氏の客観性にさらに疑問を抱かざるを得ないのは、本書全体を通してみられる、粗野で攻撃的な言葉づかいだ。

たとえば、性別適合手術を受けるという極めて個人的な決断を論じるにあたり、こんな調子なのだ。

「この人たちのほとんどが、男らしさを定義する特徴を得るために必要な陰茎形成手術を受けないのだから、男性自認とやらの脆弱さがいやでも目につく。小便器の前に行けば男性ごっこもおしまいだ」

シュライアー氏は「性別違和はほとんどの事例(70%近く)で解消される」のだから、自認する性に近づけるための医療ケアを若者に提供すべきではない、と主張しているが、この統計は誤っている。

この統計を不正確に用いて氏は、ほとんどの人が決断をあとで後悔することになるのだから、自認する性に近づけるための医療介入がトランスジェンダーの若者へ提供されるべきではない、と主張する。

だがシュライアー氏が引用している研究は、新しい診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)の「性別違和 gender dysphoria」ではなく、「性同一性障害(gender identity disorder)」という古い診断法を用いている。

これがなぜ問題かというと、この古い診断法だとトランスジェンダーでなくとも診断基準を満たすことがあるのだ。

古い基準は主に性表現(ボーイッシュな女の子や、「女の子向け」のおもちゃが好きなシスジェンダーの男の子など)に焦点を当てていた。

そういった子どもたちはトランスジェンダーではないのだから、ほとんどがトランスジェンダーでなかったと後から判明しても、まったく意外ではない。

このDSM-IV(精神疾患の診断と統計マニュアル第4版)の「性同一性障害」診断の問題は、DSM-5で修正されている(編注:DSM-IVは1994年、DSM-5は2013年に発表されている)。

さらに、氏が参照した研究は思春期前の非常に幼い子どもを対象にしている。

だが現在の医学の総意において、思春期前の子どもには自認する性に近づける治療は行わないことになっている。思春期を迎えて初めて提供されるのである。

思春期を迎えたトランスジェンダーの若者が、あとになって自分はシスジェンダー、すなわち非トランスだったと結論を下すことは稀だ。

シュライアー氏は、トランスジェンダーだと言う子どもの多くは実際にはLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)なのに怖くてそう言えない、それはトランスジェンダーの方が辛くないスティグマだからだ、と主張する。だが実際のデータはその逆を示している。

トランスジェンダーだと主張する若者は実際にはトランスジェンダーではない、という自らの主張の裏付けとして、シュライアー氏は「ライリー」という名のティーンエイジャーの証言を取り上げている。

それによると、現代の若者は同世代からの圧力のせいでLGBだとカミングアウトできず、受け入れてもらうためにトランスジェンダーを名乗るしかない、とライリーが語ったというのである。

シュライアー氏は、そういう子どもは実際はトランスジェンダーではないのに、LGBであると言うのが怖いという理由だけで性別移行を選んでいるのだ、と論じている。

これはまったくのナンセンスだ。

ゲイ・レズビアン・ストレート教育ネットワーク(GLSEN)の2019年の大規模調査で、トランスジェンダーの学生はLGBの当事者よりも学校で強い敵意にさらされていることがわかっている。

この研究では、トランスジェンダーの子どもの4人に1人近くがいじめのせいで転校を余儀なくされたことも明らかにされている。

さらに、アメリカ疾病予防管理センターのデータでは、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルと答えた思春期の子どもは10.5%で、トランスジェンダーの1.8%より遥かに多かった。

シュライアー氏は、思春期の子どもたちに思春期ブロッカー〔二次性徴抑制ホルモン療法〕を与えると、よりトランスジェンダーと自認し続けやすくなると述べているが、これも間違いだ。

シュライアー氏は本書の多くを、トランスジェンダーの若者に二次性徴抑制治療を認めるべきではないという主張に費やしている。なぜなら氏は、その薬のせいで本人たちが性自認に「執着」しがちになる、と考えているからだ。

まずそもそも、トランスジェンダーであるのが悪いことだと示唆すること自体が不適切だ。

だがシュライアー氏はそもそも、科学文献を単純に読み間違えてもいる。

オランダで行われた大規模な研究で、二次性徴抑制療法を始めた子どものうち、自認する性に近づけるためのホルモン治療(エストロゲンやテストステロンなど)に進まなかったのはたった1.9%だったことにシュライアー氏は注目している。

しかしこれは、二次性徴抑制療法のせいでトランスジェンダーであることをより強く認識するようになったからではない。

むしろ、オランダでは二次性徴抑制療法の開始基準が厳しく、ガイドラインが遵守されていること、すなわち、ジェンダー専門のクリニックに6カ月通い、厳格な審査を受ける必要があったことの結果だと言えるだろう(日本のガイドラインにおいても「二次性徴抑制療法は正常の思春期発達の文脈の中で評価されるべきであり、本人の発達や同年代の二次性徴との齟齬をきたさないなどの慎重な配慮を要する」と明記されており、ケアは慎重に進められている)。

自認する性に近づけるための医療的ケアがトランスジェンダーの若者のメンタルヘルスを改善していることを示すデータを、シュライアー氏はことごとく無視している。

シュライアー氏は、「ライリー」のようなティーンエイジャーのエピソードや、子どもと疎遠になっている親の話をここぞとばかり紹介しているものの、自認する性に近づけるための医療ケアがトランスジェンダーの思春期の子どもに恩恵をもたらすことを示す査読付き科学論文にはさほど興味がないようだ。

もっと読みたいという方々のため、文末に参考文献をいくつか記しておこう。

まとめよう。米国小児科学会米国内分泌学会の医師は、トランスジェンダーの若者にはどのような支援がベストなのかという明確なガイドラインを発行している。

読者諸賢におかれてはそういった信頼すべき情報源に頼られたい――本書『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』などではなく。

トランスジェンダーの若者たちを支援する最善の方法についての正確な情報は、もっと広く知られなくてはならない。

著者:ジャック・ターバン(医学士、保健学修士):文筆家、スタンフォード大学医学部児童青年期精神医学特別研究員。トランスジェンダーや多様なジェンダーの若者の心の健康の研究に携わる。

査読:デボン・フライ 原文:米国の心理学専門誌“Psychology Today”ウェブ版 (2020年12月6日掲載)

共訳:エミリ・バリストレーリ、紅坂紫、長谷川珈

医学的監訳 池袋真 (女性医療クリニック LUNA ネクストステージ トランスジェンダー外来、産婦人科専門医、GID学会認定医)

参考文献

De Vries, A. L., McGuire, J. K., Steensma, T. D., Wagenaar, E. C., Doreleijers, T. A., & Cohen-Kettenis, P. T. (2014). Young adult psychological outcome after puberty suppression and gender reassignment. Pediatrics, 134(4), 696-704.

Costa, R., Dunsford, M., Skagerberg, E., Holt, V., Carmichael, P., & Colizzi, M. (2015). Psychological support, puberty suppression, and psychosocial functioning in adolescents with gender dysphoria. The journal of sexual medicine, 12(11), 2206-2214.

Turban, J. L., King, D., Carswell, J. M., & Keuroghlian, A. S. (2020). Pubertal suppression for transgender youth and risk of suicidal ideation. Pediatrics, 145(2).

van der Miesen, A. I., Steensma, T. D., de Vries, A. L., Bos, H., & Popma, A. (2020). Psychological functioning in transgender adolescents before and after gender-affirmative care compared with cisgender general population peers. Journal of Adolescent Health.

Achille, C., Taggart, T., Eaton, N. R., Osipoff, J., Tafuri, K., Lane, A., & Wilson, T. A. (2020). Longitudinal impact of gender-affirming endocrine intervention on the mental health and well-being of transgender youths: preliminary results. International Journal of Pediatric Endocrinology, 2020(1), 1-5.

Allen LR, Watson LB, Egan AM, Moser CN. Well-being and suicidality among transgender youth after gender-affirming hormones. Clinical Practice in Pediatric Psychology. 2019;7(3):302.

Kuper LE, Stewart S, Preston S, Lau M, Lopez X. Body Dissatisfaction and Mental Health Outcomes of Youth on Gender-Affirming Hormone Therapy. Pediatrics. 2020;145(4).

KADOKAWA出版予定だった本の6つの問題。専門家は『あの子もトランスジェンダーになった』は誤情報に溢れていると指摘

古い診断法の引用、科学文献の読み間違え…。本書の問題をアメリカの医学博士が指摘する



ジャック・ターバン, 医学博士、保健学修士


同書を読んだので内容を自分なりにまとめてみる。

まずアメリカにおいて、未成年の性別違和感の診断について、いいかげんな診断が行われ、それに沿った手術も行われる、という問題自体はあるのだろう。一方で、本書のそうした危険についての紹介の妥当さは、控えめに言って懸念が残る。

未成年で、自分がトランスジェンダーではないかと悩む人の内、勘違いであるものも当然、あるだろう。一方で、勘違いでない人もいるだろう。どうやって見分けるのだろうか。

この本によると、トランスジェンダーの人は、自分の性別違和を子供の頃から明確にわかっており、本当にそうかと悩むこともなく、誰とも相談する必要もなかったという(INTRODUCTION CONTAGION)。
逆に言うと、悩んでるトランスジェンダーの人はトランスではないという主張なわけで、こういう理解を広めるのは本当に危険である。

この本のほとんどは、トランスジェンダーでないにも関わらず、性転換を行った子供達の悲劇についてエピソード形式で書かれている。ただし、これらは親とのインタビューで書かれたもので、当事者の意見は載っていない。「こういう経緯で、子供が不幸になった」と語られるが、本当に不幸と感じているのか、診断が間違っていたのか等は、わからない。診断の正しい間違い以前に、著者は未成年の子供達についてトランスジェンダーの性別を認めていない。

この本が、どういう価値観の元に置いて書かれているかは、例えば、第五章。ここでは子供達がトランス思想にはまったのは、親が子供に対して寛容すぎただったからではないかと書かれている。

「(間違ったトランスジェンダーを求めた子供達の両親は)エモやアニメ、無神論、共産主義、ゲイの目覚めなどについて、子供のためを思って認めたが、心を広くしすぎたのかもしれない。子供達がゲイと異性愛者の同盟に参加した時、(本当には怒っていなくても)怒ったふりをして、大声で叱っていれば、反抗をしたい子供達はそこで満足していたかもしれない」(CHAPTER 5、THE MOM AND DADS)である。

アニメが、無神論や共産主義と一緒になっているあたりはなかなか衝撃的である。アニメについては一章でも言及があり、ある少女が、「アニメと、擬人化動物」を見せられて、それがトランス思想の入り口だったとある(CHAPTER ONE,THE GIRLS,"Julie")。
要は、著者にとってアニメは「乱れた性」の一例なのだろう。

他に子供達にすべきことは、「子供にスマホを与えるな」「ジェンダー・イデオロギーの教育をするな」「田舎にいってインターネット絶ちさせろ」といった内容(CHAPTER11 WHAT SHOULD WE DO FOR OUR GIRLS? )。

全体的には「昔は性の乱れがなくて良かった」というだけの話であって、その根拠は著者の主観である(なお著者はジャーナリストであり医者や、医学研究者ではない)。根拠となる注等にも専門書や論文は、ほとんど含まれておらず、様々な間違いが指摘されている。

著者は、トランスジェンダーに反対するのではなく、トランスジェンダーでない未成年の誤診断を問題としている、というが、一方で、正しい診断がされる場合については、ほとんど言及しておらず、ジェンダー教育は有害であり、子供をおかしくすると主張している。子供達がゲイとの連帯をするのにさえ親として怒れと言っている。

最初に述べたように未成年のトランスジェンダー診断について、様々な問題があるだろうし、ネットの間違った情報の氾濫についても考えることはある。
一方で、あらゆるトランスは、ネットの情報とリベラル教育に洗脳された結果だとし、恐怖を煽るような本書の内容は明らかに問題があるだろう。

一度出版が決まった本の撤回を訴えることの問題は様々にある上で、例えば、「この本は翻訳しようと思うけど、どうか」と聞かれたら、私は心から強く反対するのは間違いない。

その上で、どのような意見でも公開、出版して議論を行おうというのであれば、例えば、これまでにこの本について、どういう議論があったかをまとめて注釈とし、訳者、出版社の本に対する立場、意見を明確にして出すという方法もあるだろう。
逆に言うと、そうした配慮が全く無いままに、この本を出すのは、無責任であると考える。

『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』の内容について





海法 紀光

2023年12月6日 11:13



みつを_Mitsuwo







@ura5ch3wo

話題のKADOKAWAが翻訳した反トランスジェンダー本の問題点 もっと長く、細かく医学/科学問題点について書かれているので、必読。 トランスジェンダー治療の科学 2021年6月30日 https://sciencebasedmedicine.org/the-science-of-transgender-treatment/









引用



麦原遼

@rhgm_hrk

·

2023年12月3日

Science-Based Medicine に、Abigail Shrier氏の“Irreversible Damage”(和訳出版で予定されている題:『あの子もトランスジェンダーになった』)における問題点についても取り上げた記事があります。https://sciencebasedmedicine.org/the-science-of-transgender-treatment/

(※表記等を改めて投稿)

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午後1:56 · 2023年12月4日

https://x.com/ura5ch3wo/status/1731537920916615483



高木しゅん

@schuntakagi

差別を目的にした純然たる差別主義者の著作を、そのバックグラウンドと政治的文脈を知った上で出版することは看過できません。 今後、仕事を引き受けないことはもちろん、授業や研究でも図書を一切紹介しないことにします。良書が数多くあるなかで、残念でなりません。

@kadokawa_PR

https://x.com/kadokawahonyak/kadokawahonyaku/status/1731070740496355487

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午前5:41 · 2023年12月4日

·

https://x.com/schuntakagi/status/1731413351853629497


かぱぱん

@kapapanpan

角川行かなくて済んでほんとよかったよ。でも言うべきことは言っておくために新宿集まりましょう。 差別許さんよ、絶対。

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午後9:54 · 2023年12月5日

·

https://x.com/kapapanpan/status/1732020519828955173


高井ゆと里『トランスジェンダーQ&A』発売



@Yutorispielraum

ヘイト本が「売れる」のは、トランスジェンダーに限った話ではありません。いわゆる「中韓ヘイト」を野放しにし、大手すら乗っかってきたのが今です。今回の「翻訳チーム」の憎悪扇動には、端的に恐怖を感じました。二度と繰り返してはならないし、問題はトランスヘイトだけでないことを再確認したい。

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午後8:09 · 2023年12月5日

·

https://x.com/Yutorispielraum/status/1731994149644296465



WPASHさんの文書だよ。

https://web.archive.org/web/20181101064734/https://www.wpath.org/media/cms/Documents/Public%252520Policies/2018/9_Sept/WPATH%252520Position%252520on%252520Rapid-Onset%252520Gender%252520Dysphoria_9-4-2018.pdf




A few decades ago, sexologist Ray Blanchard suggested that trans lesbians — trans women who are solely attracted to other women — were in fact men whose misguided heterosexuality led them to be aroused by the thought of being women.

Blanchard’s theory has since been put to rest by careful analyses and scientific studies. Despite being discredited, the theory remains popular among opponents of transgender rights.

Another idea is now making the rounds in anti-trans circles: “Rapid-onset gender dysphoria.” The theory suggests that youngsters are being misled into claiming a trans identity before they truly understand what that means. They are supposedly influenced by the internet, social media and peers.

It is presented as a critique of the gender-affirmative model of therapy, which encourages supporting the child through their journey of exploration and affirmation of their gender identities, without expectations as to the result.

Debra Soh and Barbara Kay’s recent pieces in The Globe and Mail and National Post bring this previously underground notion into the mainstream. They claim that rapid-onset gender dysphoria contradicts gender-affirmative care, which they misleadingly portray as pushing children to transition.

This idea shares much in common with that of Blanchard’s earlier theory.

It conveniently pulls on heartstrings by calling us to defend our children, much as Blanchard’s work appealed to our sexual puritanism. It distinguishes “good,” true transgender people from “bad,” fake trans people, allowing proponents to claim that they have nothing against trans people — well, at least the real ones.

Theories which rely on the idea of “contagion” in order to invalidate marginalised identities are not new. The same has happened with other marginalised groups, such as gay, lesbian and bisexual people. Young people were thought to be misled by the “gay agenda” into mistakenly and rashly claiming a queer identity.

The idea of rapid-onset gender dysphoria gives ammunition to those who are eager to oppose gender-affirmative policies. Best explained by transphobia and research study biases, it does not withstand scrutiny.

Those who push the idea of rapid-onset gender dysphoria misrepresent the quality and extent of available science and the structure of gender-affirmative therapies.

They say that 60 to 90 per cent of transgender children grow up not to be transgender. This is false.

Flawed research

The statistic that 60 to 90 per cent of gender dysphoric children grow up not to be transgender is based on studies that are deeply flawed.

This body of research is known as “desistance research.” Children who have met diagnostic criteria for gender dysphoria are enrolled in a study. After a number of years, they are reassessed to see if they are still trans. If they are, they are said to have persisted with their transgender identity. If they aren’t, they are said to have “desisted” from that identity.

The aim of the research is to estimate the number of transgender children who will grow up to be transgender adults.

Desistance research uses outdated diagnostic criteria crafted in the 1980s and ‘90s that don’t reflect current science. It has included many children who aren’t trans at all in research studies. In some studies, as many as 25 per cent and 40 per cent of children didn’t meet the criteria for diagnosis but were nonetheless included and later counted as not growing up to be trans.

Parents march in the Pride Parade in Stockholm, Sweden, July 2016. (Shutterstock)

According to Dr. Kristina Olson, who offers careful criticisms of the studies, as many as 90 per cent of these children probably would have shown themselves not to be trans had researchers simply asked them: “Are you a boy/girl?” This is one of the indicators used today to tell whether a child is trans or simply gender non-conforming.

And the 40 per cent of children who simply refused to participate were assumed by the researchers to no longer to be trans. The statistic is simply out of sync with the current state of scientific knowledge on trans children.

As the mental health director of the University of California at San Francisco Child and Adolescent Gender Center, Diane Ehrensaft, points out in a peer-reviewed article, experienced therapists are typically capable of telling whether a young child is transgender — though perhaps not at first glance.

Rapid-onset gender dysphoria

There is one research study that seeks to document the existence of rapid-onset gender dysphoria. This too is riddled with flaws.

The study was based on parental reporting and the participants came from websites where reports of rapid-onset gender dysphoria had cropped up. It was heavily biased towards specific groups and in no way can be said to be representative of the general population. Ultimately, the study tells us less about trans teenagers than it does about the parents being surveyed.

The fact that there are more children who were assigned female at birth in the pool of children said to have rapid-onset gender dysphoria is used as evidence that it is not a natural phenomenon, but rather reveals that young girls are fleeing their womanhood under the pressure of misogyny or peer pressure.

That most of the children surveyed were said to be girls can, however, be explained by other facts — including the fact that gender non-conformity among men is more likely to prompt consultation at a gender identity clinic.

The goal of gender-affirmative therapy is to listen to, and follow, the child on gender identity and gender expression. (Shutterstock)

Furthermore, gender non-conforming girls have been historically underrepresented in clinics despite the ratio of trans men to trans women being roughly 50-50 in adulthood. Changes in referral patterns could just be a regression toward the mean.

More and more teenagers are coming out. This is neither a surprise nor is it bad. Coming out, almost universally, carries not only some degree of personal stress but requires one to openly confront societal prejudices.

As trans realities become more and more widely known, it becomes easier for trans people to understand their internal turmoil and open up about the fact that they are, indeed, trans.

As we make friends who are trans, they help us understand ourselves and support us through the coming-out process. We should rejoice in the fact that trans visibility is helping more people realize they are trans — ourselves included, a few years ago.

Gender-affirmative therapy

The goal of gender-affirmative therapy is not transition, contrary to what proponents of rapid-onset gender dysphoria claim. The goal is to “listen to the child and decipher with the help of parents or caregivers what the child is communicating about both gender identity and gender expression.”

Instead of encouraging the child not to be transgender and risking pushing them back into the closet, therapists seek to support the child and their parents throughout the process of exploring gender. They remain neutral with regards to whether the child should be trans or not.

And as for gender non-conforming behaviour like cross-dressing which some therapists seek to discourage, why not just let the child express themselves freely?

Maybe they are not trans. Maybe they just want to wear those clothes and play with those toys. Often you can tell just by listening to the child, though they may not say it in easy-to-understand terms.

Follow the child

Gender non-conforming children aren’t all being treated alike, contrary to what Debra Soh’s op-ed claims.

Transgender children aren’t treated the same as cisgender (non-transgender) children by gender-affirmative therapists. And transgender children aren’t all being treated alike either, because each has different desires and different needs.

Gender-affirmative therapy’s motto is: “Follow the child.” If that means following them to social transition and, in due time, medical transition, then so be it. But only if that’s what they truly want.

Transgender children are in good hands. Therapists aren’t acting hastily in ignorance of scientific evidence. On the contrary, their approach is one that’s been built over decades of research and of following trans children.

The unfounded idea of rapid-onset gender dysphoria is a poor attempt at manufacturing a new moral panic — based on the same old idea of “contagion” — over children who couldn’t be in safer hands.

Another version of this article, with signatories, is published on Medium.

https://web.archive.org/web/20180410045247/http://theconversation.com/why-rapid-onset-gender-dysphoria-is-bad-science-92742






最後に書かれているのは… こうして、本書の最後でシュライアーは「少女たちのためになにをすべきか」として、アジテーションを記す。 その内容は、こうだ。 1:子供たちにスマートフォンを与えるな 2:親の権威を放棄しない 3:子どもの教育でジェンダー・イデオロギーを支持しない 4:家庭にプライバシーを取り戻す 5:少女を被害から引き離すための大きなステップを考える 6:少女時代を病理化するのをやめろ 7:認めることを恐れないで。女の子であることは素晴らしいことだ

いずれ他の出版社から発売されるかも? 原書を読んで感じたのが、KADOKAWAが出版を前に煽りすぎていることである。この問題に関して、同社の社員からもオフレコで話を聞いているが邦題の品のなさは明らかである。もとのタイトルは『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』。日本語に訳すれば「取り返しのつかないダメージ  娘たちを誘惑するトランスジェンダーの流行」である。それがどうしたら『あの子もトランスジェンダーになっているSNSで伝染する性転換ブームの悲劇』になるのか……? 一方で、当人が政治的にはSNSでもシオニスト支持を表明していたりする右派であり、政治的立場に基づいた主観は散見されるものの「ヘイト本」や「トンデモ本」とは感じられない。むしろ取材に基づいて、筆者の主観で記すという原則は守られている。ノンフィクションは報道の派生形、すなわち公平な記述を原則とするものだと誤解されることが多い。 本来のノンフィクションとは取材や体験をもとに作者が感じたことを書くものである。とりわけ1960年代にアメリカで生まれた「ニュージャーナリズム」はこの傾向を強調している。現在のアメリカのノンフィクションもその影響を受けて主観や自己主張は強い。そこを知らず記述を「デマ」と受け止めるなら、読み手の力不足でしかない。 これだけ話題になった本書の邦訳は、近いうちにどこかの出版社が手をあげるだろう。それまで待ちきれない人のために、概要を紹介した。もしこの問題を語りたい人は、今のうちに原書を読むことをオススメする。 <TEXT/昼間たかし>

昼間たかしルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

発売中止の「トランスジェンダー本」には何が書かれているのか…原書を読んだ記者が思ったこと