「日本版DBS」についてぜひ考えてほしいこと園田寿甲南大学名誉教授、弁護士5/8(水) 15:37.前科で人を選別する仕組み園田寿甲南大学名誉教授、弁護士5/12(日) 9:31.やはり「日本版DBS」は間違っていると思う(追記あり)園田寿甲南大学名誉教授、弁護士5/17(金) 0:54.「日本版DBS」に代わる名案があった園田寿甲南大学名誉教授、弁護士3/25(月) 21:44PDF魚拓



刑の消滅とは、一定の要件を満たした場合に、刑の言い渡しの効力を消滅させる制度である。刑が消滅すると、そもそも刑の言い渡しがなかったことになり、そのため、前科による資格制限がなくなる。たとえば、弁護士や医師などの専門職では資格が制限され、公務員では禁錮以上の前科があれば当然に失職するが、刑が消滅すれば弁護士や医師、公務員になる資格は回復する。これは何よりも前科という個人情報が、社会復帰の妨げになるからであり、「日本版DBS」は、この刑法の制限をはるかに超えて、一線を踏み越えてしまった者の贖罪を妨げる効果がある。なお、罪を犯したという「前歴」は残るが、これが民間に出ることはない。



拘禁刑の創設



また、「日本版DBS」は、最近刑法改正によって行なわれた拘禁刑の創設(懲役刑と禁錮刑の区別の廃止)を導いた考え方と調和するのかも疑問である。



拘禁刑の創設は、従来、刑務作業を課すことを要件としていた懲役刑とそうではない禁錮刑の区別を廃止し、拘禁刑に一本化するものである。これは、実質的には「懲罰」(懲らしめ)という意味合いが強かった懲役刑から大きく転換し、たとえば再犯を防ぐための教育プログラムを受けさせたり、仕事に必要なスキルや、学力を身に付けさせたりなど、受刑者それぞれの特性に応じた処遇を行なうことによって、その立ち直りを後押しするという考え方である。



これは、刑罰のもつ犯罪者改善機能を重視するものであり、受刑に伴う苦痛を与えることに重きを置くよりも、受刑という時間を社会復帰に向けて最大限効果的に無駄なく活用しようとするものである。



これと、前科による選別を目指す「日本版DBS」ははたして調和するのだろうか。



いくら特別法であっても一般法の基本原則を超えることはできない



法案は、(特別な目的を追求する)刑法の特別法という位置づけになるだろうが、特別法でも一般法である刑法の基本原則は修正できない。たとえば、刑法は江戸時代にあった「むち打ち刑」や「入れ墨刑」などの刑罰を認めていないが、かりに特別法を作って特定の犯罪にこのような刑罰を科すことを規定することが許されるかといえば、いくら「特別法は一般法に優先する」という原則があっても、刑法の基本原則から逸脱することになる特別法は認められないのである。



法案を拡大する「要望書」



最近、一般社団法人SpringとBe Brave Japan、それに専門家である斉藤章佳氏の三者合同による「要望書」がこども家庭庁に提出された。

一般社団法人Spring 【要望書公開】日本版DBSに関する三者合同の要望書




これは、法案のように犯罪事実確認の仕組みを、事業者の犯歴照会とするのではなく、こどもに接する一定の職業に就業を希望する場合には、あらかじめ性犯罪歴のないことを条件にこども家庭庁のデータベースに登録することを要求するものである。またこの登録は1年ごとに更新される。



これは、いわばホワイトリストの作成をこども家庭庁に義務づけるものだといってよいだろう。その意味では、法案のように前科情報が民間に流れる制度よりは評価できるが、次の2点においてなお疑問がある。



第一は、えん罪の問題である。



要望書では、たとえば痴漢行為などの条例違反も特定性犯罪に含まれているが、問題は、法案を拡張して、その「示談成立歴及び、起訴猶予による不起訴処分歴」も対象に含んでいることである。とくに電車内などの痴漢行為については、えん罪の問題がある。その数はもちろん分からないが、痴漢については示談や罰金などで済ますことにしぶしぶ同意したえん罪のケースも多いといわれており、社会問題になるほどの重大な問題である。当然、その人たちにも性犯罪の(前科はなくとも)前歴は残っている。



要望書では、「過去に実際に性加害していることが確実であるにも関わらず、『示談』『起訴猶予』に」なった事案がDBSの対象から漏れてしまうことを防ぐためだとしている。しかし、何年も前の事件で、だれが、どのような資料(証拠)にもとづいて、確実に犯人だということを判断するのであろうか。



第二は、職域が極端に拡大する可能性があることである。



要望書では、「(1) 18歳未満の児童に、(2) 1日1時間以上(家庭教師は1時間単位であるため)、(3) 有償無償を問わず、(4) 業として(反復継続性・事業遂行性)、(5) 接する者(直接・間接とも)」、を対象とすべきだとされている。



これは法案が予定している職域をさらに大幅に拡張するものである。たとえば少年野球やサッカーなどのコーチや世話人、子ども食堂のボランティアなどがすぐに思いつくが、さらにたとえば産婦人科医や小児科医、またそこで働く看護師などもこの条件に該当するだろう。しかも、この人たちは毎年登録を更新しなければならず、更新を怠れば罰則が科される。



また、このデータベースは一般にも公開することが予定されている。つまり、これを経年的にチェックすれば、だれが性犯罪を犯したのかが容易に推測されるようなものになっているのである。



結局、性犯罪歴で犯罪を予防しようとすることじたいに無理がある、といわざるをえないのである。(了)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/07a577dab035517da7dd8b616eeaa4b0f303db9d
「日本版DBS」についてぜひ考えてほしいこと
園田寿

甲南大学名誉教授、弁護士

5/8(水) 15:37

http://spring-voice.org/wp-content/uploads/2024/05/2400502_Request3.pdf

http://spring-voice.org/wp-content/uploads/2024/05/20240502_RequestBBJ.pdf

http://spring-voice.org/wp-content/uploads/2024/05/20240503_RequestSA.pdf




性犯罪前科(前歴)をチェックして、該当者を一定の職種に就くことから制限(排除)する「日本版DBS」に対する国会審議が本格化している。その中で明らかになってきたことは、性犯罪前科チェックの、(1) 対象となる性犯罪の種類を拡張すべきであり、(2) 照会するその期間も延長すべきであり、(3) 職種も拡大すべきであるという意見が非常に強いということである。



対象となる性犯罪の種類の拡張



何に性的興奮を覚えるのか(性癖)は、人によって実にさまざまである。議論の中では、下着泥棒(窃盗罪)や精液を人にかけるような行為(器物損壊罪)なども対象に含めるべきだという意見が強かった。



しかし、いくら性的動機があっても、それらは行為の客観的評価としては他人の財産を侵害する財産犯である。サディストも、他人に暴行(極端な場合は殺人行為)を行なうことで性的興奮を覚える。しかし、これは一般的な意味において「性犯罪」ではない。



この点は、とくに平成29年の最高裁大法廷判決において、強制わいせつ(現在の不同意わいせつ)罪においては、原則として犯人が性的意図を満たそうとしたのか否かは重要ではないとの判断が出て、一般人が客観的にその行為に性的意味を読み取りうるのかどうかが問題とされるようになった。この判例の考え方からいえば、一般人が理解しがたい異常性欲を性犯罪のカテゴリーに入れることは難しくなった。この点の縛りを外すと、「性犯罪」が際限なく広がっていくことになるのである。



〈追記〉(2024年5月23日)「下着窃盗」は、罪名としてはあくまでも窃盗であり、財産犯に分類される。これを「特定性犯罪」に分類すべきだという要請は、前科照会に際しては単に罪名で判断するのではなく、さらに犯行の動機などを問題にして、(児童に対する)下着窃盗の再犯の可能性があるのか否かの判断を行なうべきであるという主張だと理解される。
そうすると、法案で「特定性犯罪」として挙がっている他の犯罪についても、さらに個別に具体的な動機を問題にするということでないと、一貫性が取れない。
たとえば、刑法第177条の不同意性交等罪は配偶者に対しても成立するが、その動機を問題にするなら、この種の犯罪はおよそ児童に対する再犯の危険性があるとは思えない(他にもあるだろう)。つまり、前科照会に際しては単純に罪名を問うのではなく、さらに犯行の動機など、個別具体的な判断を行なうということでないと、法律としての統一性が保てない




照会する期間の延長



法案では、拘禁刑の場合は執行後20年、執行猶予と罰金刑の場合は10年まで遡って、性犯罪前科(前歴)の有無をチェックすることになっている。この期間をさらに延長すべきだという意見が強い。10年や20年で性犯罪の再犯リスクがなくなるものではないというのがその理由であり、これを刑事裁判記録の保存期間に合わせて、刑に応じて50年または20年とすべきだという意見も出されている。



しかし、素朴な疑問であるが、かりに10年前に痴漢で罰金刑となったが、その後猛省して何事もなく真面目に働いている者も、(現職にも適用があるので)性犯罪前科チェックを受け、それが発覚すれば、以後「性犯罪者」との扱いを受けて、配置転換などの措置がとられることになる。しかし、このような人のどこに「危険性」があるのだろうか。納得できる説明はなされていない。



職種も拡大すべきだという意見



あまり議論になっていないが、法案における「児童」とは、18歳未満の者すべてである。学校等に通っているのか否かは関係ない(法案第2条1項)。一般に「児童」といえば、多くの人は小学生や幼稚園児などを思い浮かべると思うが、中学生や高校生、あるいは義務教育を終えて働いている18歳未満の者も法案では「児童」である。



政府答弁では、子ども(児童)との密接な人間関係について「継続性」があり、指導など優越的立場の「支配性」、さらに他者の目に触れにくい「閉鎖性」の3要件があれば、性犯罪歴を確認する要件になるとのことである。



よく考えれば、このような職種は、社会のかなりの部分に及ぶだろう。教育や保育の現場のみならず、高校生のアルバイトを雇っているコンビニ、スーパー、書店、飲食店、さらに義務教育を終えて働いている者がいた場合、その職場などにおいても上記3要件が満たされれば、そこの職場の従業員などは性犯罪前歴チェックの対象となることになる。法案のこのような解釈は間違っているだろうか?



これら3つの論点を重ね合わせると、この法案が賛成されたあかつきには、社会のきわめて広い範囲に性犯罪前科チェックの仕組みがじわじわと広がっていくのである。



えん罪の問題はどうするのか



今までの議論を見ていて、政府も推進派のだれもえん罪について言及していない。法案は、都道府県の条例違反も対象にしているので、とくに電車内などの痴漢も対象である。しかし、これにはえん罪が多く、(実際の数は分からないが)大きな社会問題になっているほどである。



学校や保育などで働く性犯罪前科チェックの対象者は、少なくとも約230万人はいると言われている(塾などを含めると数百万人)。この中には相当な数のえん罪被害者もいるに違いない。無実だけど、職場や家族に知られなければと、しぶしぶ罰金を支払った者、あるいは(DBSの対象者ではないが)しぶしぶ相手と示談をして不起訴になった者もいるだろう。この人たちが、性犯罪前科チェックを受けて前科が発覚すれば、それ以後職場で「性犯罪者」として扱われていく。この人たちに名誉回復の手立ては存在しない。余りにも悲惨ではないか。



子どもに対する性犯罪が卑劣で悲惨な重大犯罪であることはもちろんであるが、前科チェックは当然のことながら、ほとんどが初犯である教育や保育現場での性犯罪を防ぐことはできない。重要なのは、初犯再犯の区別なく、そもそも子どもに対する性犯罪そのものを防ぐにはどうすればよいかである。過去の前科を使って人を選別し、性犯罪の予防に使うというその発想じたいが、今の刑事政策に合うのかどうか疑問である。(了)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/07a577dab035517da7dd8b616eeaa4b0f303db9d
やはり「日本版DBS」は間違っていると思う(追記あり)
園田寿
甲南大学名誉教授、弁護士

5/17(金) 0:54



はじめに



子どもに対する性犯罪を予防するために、性犯罪前科で人を選別し、教育や保育の現場での就業を制限しようとする「日本版DBS」の国会審議が始まっている。



子どもに対する性犯罪の卑劣さ、被害の重大さは言うまでもないことであるが、それを予防するための「日本版DBS」はいわば劇薬のようなもので、その副作用はどこまで広がるか分からない。そんな怖ろしい法案である。以下、いくつかの問題点を指摘しておきたい。



犯罪が起きないような環境づくりこそが重要



教育や保育の現場で起こっている性犯罪の圧倒的大多数は、実は前科のない「初犯」である。前科がないから、DBSは使いようがない。



前科情報はもっとも慎重かつ厳格に国が管理してきた個人情報であるが、その縛りを解いて民間に流し、それを犯罪予防に使おうという発想じたいに、許容しがたい無理がある。



そこで、対象を広げて、前科がつかない少年時代の性犯罪や成人であっても示談などで不起訴になった事案も対象に含めるべきであるという意見がすでに出されていて、(予想どおりだが)止めどなく悪い方向に向かっている。むしろ、初犯や再犯にかかわらず、犯罪が起きないような環境づくりこそが重要であって、ここに社会の知恵を絞るべきである。



今問題なく働いている人も職場を追われる



この制度は、今働いている人たちにも適用がある。この点も重大だ。



過去に過ちを犯したものの、治療を受けたり、また本人も努力したりして、何年も問題を起こさず真面目に働いている人もいるだろう。にもかかわらず「日本版DBS」は、その人の過去を詮索し、ほじくり返して職場から排除しようとする制度である。



刑法では禁錮刑(拘禁刑)以上の執行後10年、罰金や執行猶予の場合は5年で「刑が消滅」する。つまり前科がリセットされ、刑の言渡しがなかったことになる(刑法第34条の2)。



だれでも不本意ながら恥とスティグマ(烙印)を抱えて生きているが、中でも前科はもっとも生きづらさの原因になるスティグマの一つであり、人生のやり直しを難しくする。刑法は、一度罪を犯して躓いた者に更生のチャンスを与えるために、このスティグマを消すのである。



しかし法案は、この刑罰制度の根幹を軽んじて、禁錮刑以上の重い場合は執行後20年前まで、軽い犯罪で罰金刑の場合や執行猶予の場合は10年前まで遡って前科(前歴)情報を照会し、利用できることにしている。



かりに10年前に事件を起こして罰金刑に処せられたが、その後反省して何も問題を起こさず真面目に働いている人もいるだろう。そのどこに「危険性」があるのだろうか。



更生に向けて努力するのは本人だけではない。家族や友人、周囲の人びと、あるいは官民で犯罪者の更生保護に携わっている人びとがいる。一度躓いた人たちの社会復帰を支え、社会へ後押しする、これら関係者の献身的な努力を法案はどのように評価しているのであろうか。



無実の人にも前科は残っている



えん罪の問題も無視できない。法案では、都道府県の迷惑防止条例違反、とくに痴漢などの前科も対象になっている。



通勤通学途中などで痴漢に間違われ、無実なのに、しぶしぶ示談に応じたり、罰金を支払ったりするケースなどが、実態としてどれくらいあるかは分からないが、大きな社会問題になっているほどである。この人たちにも「前科」は残っている。しかも、異議申し立てはできず、かりにできたとしてもどのような資料(証拠)にもとづいて、だれに向かって、どのように無実を証明すればよいのか。



教育現場で働いている人は140万人ほどいるといわれているが、DBSが実施されれば現場はパニックになるだろう。もしも前科が発覚すれば、そのまま働き続けることはできなくなる。二重三重にもスティグマが押されることになる。本人はもとより、家族や友人、職場、地域社会は大混乱になるだろう。



結語



法が成立すれば、さらに職域が拡大されるおそれもある。それが社会全体に及ぼす影響は、想像以上に大きいだろう。



何度でもいうが、重要なことは、初犯や再犯に関係なく、犯罪を行ないにくい環境をどのようにつくるのかということである。過去の前科情報に頼り、それに基づいて人の選別を行なう犯罪予防策は、刑事政策的にも間違っている。



「日本版DBS」は、真実の石に刻まれた言葉ではない。百害あって一利なしである。(了)

前科で人を選別する仕組み



園田寿



甲南大学名誉教授、弁護士

5/12(日) 9:31


■はじめに

 「日本版DBS」の法案がいよいよ国会で審議されることになりました。法案の正式名称は、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」であり、その基本的な仕組みは、下図のようなものです。



(c) sonoda



 たとえば〈Aさん〉が〈B保育園〉に就労希望を伝えると、〈B保育園〉は「こども家庭庁」に(1)申請を行なうとともに、〈Aさん〉は(2)戸籍情報を「こども家庭庁」に提出します。「こども家庭庁」は、これらに基づいて、「法務省」に(最長20年間保存されることになる)性犯罪に関する(3)犯歴紹介をかけ、その結果を「こども家庭庁」に(4)回答します。そして、もしも性犯罪歴があれば、「犯罪事実確認書」をまずは〈Aさん〉に通知し、2週間以内に内定辞退などをすると、これが事業者には通知されないことになります。



*第213回国会(令和6年通常国会)提出法律案|こども家庭庁



 子どもに対する性犯罪の卑劣さ、悲惨さについては言うまでもないことですが、DBSのような前科による選別を目指す制度は、効果の強い劇薬のようなもので、その副作用があまりにも大きく、感情的な議論が先行していないのかを冷静に議論すべきだと思います。「日本版DBS」には、以下のような問題点があると思っています。



■問題点その1(性犯罪者は再犯率が高い?)



 一般には、「性犯罪者は再犯率が高い」と思われているのではないでしょうか。



 「再犯率」とは、一度罪を犯した人が再び罪を犯す割合のことです。ただし、これを調べるためには、細かな条件を設定する必要があります。



 たとえば、(1)追跡対象者は検挙された者すべてなのか、有罪判決を受けた者なのか、それとも実刑になった者に限定するのか、(2)追跡期間をどの程度に設定するのか(長くなればなるほど、数字は上がる)、(3)再犯の対象となる犯罪をどのようなものにするのか(性犯罪以外の犯罪も含めるのかどうか)などの条件を設定した上で、「再犯率」を限定的に把握することは可能です。しかし、実はこのようなデータはどこにも取られてはおらず、端的にいって、「再犯率」なる数値は存在しないのです。



 ただ、刑務所を出た人がたとえば2年以内に再入所する割合(「再入率」)については、法務省は把握しています。それによると、「性犯罪の2年以内の再入率は2020年(令和2年)では出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低く、再犯率が高いとまでは言えない」と法務省は明言しています(「再犯防止推進白書」)



■問題点その2(前科情報の漏えい)



 「日本版DBS」は、前科情報が民間に流れる制度です。民間の塾やスポーツクラブなどは、前歴確認は義務ではなく、任意の認定制度となっています(ただし、これは事実上の強制になる可能性が高い)。



 前科を有する者の社会復帰については、「住む所」と「仕事」が鍵だと言われています。前科はこれらについて強い障害になるものですから、日本の刑事政策では前科は10年で消えて、リセットされることになっています。



 「日本版DBS」は、戦後の刑事政策を指導してきたこの大原則を修正し、性犯罪歴について最長で20年間参照可能になっています。しかも従来、前科情報はもっとも重要な個人情報の一つとして扱われてきており、これが民間に流れることはありませんでしたが、この大原則についても修正を加える仕組みなのです。



■問題点その3(対象となる「性犯罪」の多さ)



 「日本版DBS」が対象としている性犯罪には、次のようなものがあります。刑法上の性犯罪(強制性交、強制わいせつなど)
児童買春・ポルノ法違反(児童ポルノ所持、児童買春など)
リベンジポルノ法(盗撮など)
都道府県迷惑防止条例(痴漢、下着などを撮影、トイレなどにカメラをひそかに設置、羞恥心を与える言動など)


 これらの中には、保育所や幼稚園などで実際に起こりうる犯罪があることは改めて指摘するまでもないことですが、たとえば児童ポルノ所持や児童買春、痴漢など、想定されている施設ではおよそ起こりえないような犯罪も含まれています。



 このような性犯罪のリストを見ると、「日本版DBS」は、性犯罪者に対する一定の偏ったイメージがあまりにも先行しすぎているのではないかという疑問がぬぐえません。



■問題点その4(拡大のおそれ)



 「日本版DBS」で前提になっているのは、学校、幼稚園、保育所などであり、塾、スポーツクラブ、習い事などは、犯歴紹介が任意となっています。しかしこれらの施設は、犯歴紹介を行なって該当者がいなければ「適合マーク」を取得できるようになっています。「適合マーク」のないところは、あるところに比べて明らかに不利ですから、これは事実上の強制と変わりがありません。



 さらに、児童と関わる職業は、保育士や教師に限らず、たとえば小児科医や産婦人科医などもそうです。将来的には、これらの職業にある者にも「身体検査」が必要だという意見が出てこないとは限りません。法案でも現職が含まれており、もし該当者がいれば配置転換や退職勧告ができるようになっていますが、上記のような職業にまで拡大されると大きな社会的混乱が起きるのは必至ではないでしょうか。



■「日本版DBS」に代わる名案



 「日本版DBS」が目指すものは、保育所や幼稚園などでの子どもに対する性犯罪の防止です。そのために性犯罪歴のある者をこれらの職場から遠ざけようとする制度です。しかしそれは、わが国における長年の前科情報の扱いを、必要以上に大きく変更するものです。



 そこで次のような仕組みがどうだろうかと思うわけです。



 それは、保育所や幼稚園などで子どもに接する業務に就く者に対して、「ボディカメラの装着」を義務づけることです。要するに、職員がウェアラブルカメラを装着して業務に当たるというもので、次のビデオを見ていただければ、これがどのようなものか分りやすいと思います。







名古屋刑務所 刑務官への「ボディーカメラ」活用開始 “受刑者に暴行”問題 再発防止に向け議論続く|TBS NEWS DIG - YouTube(2023/06/01)



 名古屋刑務所ではかつて職員の受刑者に対する暴行事件が相次ぎ、大きな問題となっていました。そこで職員がこのようなカメラを装着して任務に当たることで、不祥事の予防ができるということで導入されました。



 保育所や幼稚園などで、子どもに対する性犯罪を予防するためであるなら、前科情報による選別よりも、職員がこのようなカメラを装着して日々の仕事に当たることの方が確実なのではないでしょうか。というのも、「日本版DBS」は、それが完璧に運用されたとしても、初犯を防ぐことはできないからです。それに比べてカメラの装着を義務づける仕組みならば、ほぼ100%性犯罪を予防できるのではないでしょうか。(了)



【参考】「日本版DBS」の実施は虎を野に放つようなもの #専門家のまとめ(園田寿) - エキスパート - Yahoo!ニュース
日本版DBSの議論で持つべき冷静な視点 専門家が指摘するブラックリスト化の危険性:朝日新聞GLOBE+
元受刑者の行き先は(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
前科はリセットされる(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
熊本藩に懲役刑のルーツがあった(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース

「日本版DBS」に代わる名案があった



園田寿



甲南大学名誉教授、弁護士

3/25(月) 21:44


https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/c312ac96/20240319_laws_houan_e81845c0_06.pdf

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/8bb2b774/20240319_laws_houan_e81845c0_08.pdf

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/63e34601/20240319_laws_houan_e81845c0_09.pdf

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/936d252e/20240319_laws_houan_e81845c0_10.pdf



(1)序論

 性犯罪の2年以内再入率は2020年(令和2年)出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低く、再犯率が高いとまでは言えない(特1-2-1参照)。しかし、その一方で、性犯罪は、「魂の殺人」と言われるように、被害者の尊厳を著しく踏みにじる行為であり、その心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼすことから、再犯率の高低にかかわらず、その根絶は、喫緊に取り組むべき課題といえ、性犯罪の再犯防止に積極的に取り組んでいく必要がある。

 政府においては、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」※10(令和2年6月11日性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議決定)において、2020年度(令和2年度)から2022年度(令和4年度)までの3年間を「集中強化期間」として、性犯罪の再犯防止対策を含む実効性ある取組を進めている。

(2)指標
(3)主な取組と課題

ア 刑事施設及び保護観察所における専門的プログラムの充実化について

 法務省は、2019年度(令和元年度)に、刑事施設及び保護観察所における性犯罪者等に対する専門的処遇の一層の充実を図るため、法律、心理学、医学等の有識者を構成員とする検討会を開催し、2020年(令和2年)10月にその結果を「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書」※11として取りまとめ、公表した。

 同報告書では、従来のプログラムの課題と更なる充実に向けた方向性、矯正施設収容中から出所後までの一貫性のある効果的な指導、指導担当者の研修体制の3つの論点について提言がなされた。

 法務省は、同提言の内容を踏まえ、専門的プログラムの内容を改訂し(特1-2-2参照)、2022年度(令和4年度)から新たなプログラムを実施しているほか、その実施体制の充実を図っている。

 新たなプログラムにおいては、従前、「夜出歩かない」など、再犯をしないための取組を実行させる指導が中心であったが、対象者の前向きな意欲を活用する観点から、再犯をしないという目標だけでなく、将来なりたい自分や達成したい目標とその実現に向けた取組を対象者に考えさせ、対象者の主体性を喚起し、プログラムの指導効果を高めることとしている。また、特定の問題性を有する者に対する指導効果が不十分であるとの効果検証の結果等を踏まえ、小児に対する性加害や痴漢などの習慣的な行動とみなせる性加害を行った者等に対応した指導内容を追加した。さらに、対象者自らが再び性犯罪をしないために作成する再発防止計画について刑事施設及び保護観察所の様式を共通化するとともに、保護観察所による再発防止計画作成後の指導として、毎月1回の頻度で性的な興味関心や問題の対処状況等に関する自己点検シートを作成させ、指導効果の維持を図るとともに、再犯の兆候等を可能な限り把握できるようにしている。

 指導担当者の研修に関しては、2022年度(令和4年度)は、刑事施設及び保護観察所における指導担当者が互いに方向性を共有してプログラムを発展させていくことを目的として、機関の枠を超えて合同の研修を実施した。

 今後も、改訂後のプログラムの運用状況等を適切に検証し、対象者の再犯防止に一層効果的なものとなるよう必要に応じて見直しを図っていくこととしている。

https://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi4/r04/html/nt112000.html#:~:text=%E6%80%A7%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E3%81%AE2%E5%B9%B4,%2D2%2D1%E5%8F%82%E7%85%A7%EF%BC%89%E3%80%82