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ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者は女性だけではない。多様化、深刻化する問題の現状を把握し、性別を問わずに支援を強めたい。

 男性からDV被害の訴えが増えている。警察庁によると昨年、配偶者らパートナーからの暴力の相談・通報件数のうち、男性からは2万6千件を超えた。全体に占める割合は3割に上る。件数はここ10年で、10倍以上にもなっている。

 「女性が被害者」とのイメージや「男性は強くなければ」という固定観念から、被害者と自覚できず、相談をためらう人も少なくないようだ。数字は氷山の一角に過ぎまい。

 男性の場合、収入の少なさや家事への不満などをパートナーから罵倒されるといった相談が多いというが、被害実態は明確でない。国、自治体が調査して周知することで、男性も被害者になりうるとの認識を社会で共有する必要があろう。

 今月から施行された改正DV防止法では、殴る蹴るなどの「身体的DV」だけでなく、言葉や態度で追い詰める「精神的DV」も、被害者への接近や連絡を禁止する保護命令の対象に拡大された。

 期間は半年から1年に延長され、電話やメールに加え、SNSによる連絡も禁じられる。

 相談の6割以上を精神的DVが占めることから、防止策の意義は大きい。

 同じく今月施行された女性支援新法は、DVや性被害、貧困などに苦しむ女性に向けた相談・支援の強化を目指す。相乗効果を期待したい。

 一方、男性向けのDV相談窓口や避難用シェルターは十分に整備されていない。

 共同通信社が昨年末に実施した自治体アンケートによると、DVに特化した男性専用窓口があるとしたのは神奈川など7道県。公営シェルターを設置している都道府県はゼロだった。民間委託などで確保しているのは、京都や北海道、熊本など11道府県にとどまった。

 相談窓口があっても開いている回数が少なかったり、対応体制が不十分だったりし、適切な支援へつながっていないとの指摘がある。シェルターがないため、車中泊やネットカフェへの避難も報告されている。

 男性被害者が孤立を深めることがないよう、女性被害者と同様の支援が求められる。相談や安全確保の体制強化、スタッフの研修拡充をはじめ、自治体による基本計画の見直しも検討してほしい。性的少数者を含めた施策も考えたい。

 先進自治体や民間団体が取り組んでいるDV加害者に対する更生プログラムは、暴力や攻撃を改める直接的で根本的な対策として重要だ。改正法で受講の義務化は盛り込まれなかったが、女性向けも含め、公的に取り組むべきではないか。

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2024/04/07



旧弊を一掃し、人権を尊重する組織へと変わらなければ、夢を紡ぐ存在には戻れまい。

 宝塚歌劇団の宙組に所属する女性(25)が昨年に急死した問題で、歌劇団側が上級生らによる女性へのパワーハラスメントを認め、遺族に直接謝罪した。

 ヘアアイロンで額にやけどを負わせた、人格否定のような言葉を浴びせた―など、歌劇団側が認めたパワハラは14項目にわたる。関与したのは上級生ら10人で、遺族側はうち6人から謝罪文を受け取ったという。

 親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)と遺族側の交渉は、合意まで約半年を要した。あまりに遅いと言わざるを得ない。

 問題は過重労働に加え、上級生の行きすぎた指導やしきたりが常態化していた閉鎖的な組織風土にある。放置し続けた親会社の責任は極めて重い。当然ながら幕引きではなく、やっと改革への入り口に立っただけだと自覚すべきだ。

 これまで歌劇団側の対応は誠実さを欠き、昨秋に弁護士ら調査チームがまとめた報告書ではパワハラの存在を否定した。当時、専務理事の村上浩爾氏が「(いじめがあったと言うなら)証拠を見せていただきたい」と述べたのは、組織を象徴する高圧さだった。

 方針転換した背景には、公演中止が続き、スポンサー企業との契約更新の期限も迫る中、収益源である歌劇団のステージ事業を正常化したいとの思惑が透ける。

 驚いたのはHD側が会見で、「悪意はなかった」と加害者を擁護するような発言をしたことだ。上級生らの処分はなく、村上氏は謝罪したものの、理事長に昇任したままである。組織としてのパワハラへの認識が、いまだ社会とかけ離れているではないか。

 劇団員の契約や長時間労働についても課題が残る。入団6年目以降は、労働基準法の適用外となる「フリーランス契約」としている。7年目だった女性も稽古などで長時間拘束された。遺族によると亡くなる前1カ月間の時間外労働は277時間に相当するという。

 HDが今後設ける諮問委員会では人選を含め第三者性をしっかり確保し、脱法的な働かせ方や契約関係、人権意識など労働環境を抜本的に見直すことが欠かせない。

 芸能分野では、仕事への熱意を利用して過酷な労働を強いる「やりがい搾取」が指摘される。制作側が弱い立場の演者を従わせる構造の暗部が次々に露見している。業界全体も問われていよう。

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社説:歌劇団パワハラ 人権欠く組織、改革急務

2024/04/04



リニア中央新幹線の品川―名古屋間の開業が、当初目標の2027年から34年以降に延期されることになった。事業主体のJR東海が正式に明らかにした。大阪への延伸計画も後倒しになる。

 JR東海は、静岡県内のトンネル工事で県との協議が難航し、着工できていないのが原因としている。

 自らには非がないとでも言いたげだが、当初の計画に無理があったうえ、説明責任を十分に果たそうとしない姿勢が混乱を招いているのは明らかだ。いったん立ち止まり、妥当性も含め再検討する機会にしてはどうか。

 リニアの工事は14年12月に始まり、静岡工区は17年末に着工を見込んでいた。しかし静岡県は南アルプスを貫くトンネル工事の影響で湧水が流出し、大井川の水量が減少して流域62万人の生活用水や事業者の利水に影響が及ぶとして懸念を示した。

 この問題については昨年、JR東海が大井川上流にあるダムの取水を制限して流量を維持するという対策案を示し、県は了承した。

 だが、県は生態系への影響についても多くの懸念が残っているとして、今も着工を認めてない。

 両者を取り持つ形で国が設置した有識者会議がJR東海の環境保全策を評価する仕組みを設けたが、県は自然保全策が不十分としている。

 リニア工事を巡っては、着工前の14年6月、環境アセスメントで「相当な環境負荷が生じる」との「環境相意見」が付いた。地下水位の低下の可能性をあげ、猛禽類の繁殖への影響回避も強く求めていたが、十分な議論を経ず国土交通相が計画認可した。問題先送りのツケが回ってきたともいえる。

 大量の工事残土の受け入れ先も確定していない。静岡県だけでなく、今後の長野や岐阜の工区でも土壌や水の汚染、輸送トラックの排ガス問題が懸念されている。

 リニア計画は、大阪までの総工費9兆円のうち、国が財政投融資の低利資金3兆円で支援する。「国家プロジェクト」との「お墨付き」があるからと、JR東海は自治体や住民への説明や理解を軽んじていたのではないか。

 深さ40メートル以下の大深度トンネル工事の問題は、京都府の地下を貫く計画の北陸新幹線の延伸事業にも共通する。

 人口減やオンライン会議の定着などで交通需要の見通しは変化している。輸送量と速度を追い続ける大規模プロジェクトの在り方を議論すべきではないか。

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社説:リニア開業延期 不安の声軽んじたツケ

2024/04/03



もはや、たなざらしは許されない。当事者や各界から切なる声が上がる男女不平等の救済に向けて、政治が大きく踏み出すべきだ。

 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は、個人の尊重などを定める憲法に違反し無効だとして、北海道や東京都などに住む男女ら計12人が今月、国に対し、別姓のまま婚姻できる地位の確認や損害賠償を求めて東京、札幌の両地裁に提訴した。

 夫婦同姓を法律で義務付けているのは世界で日本だけであり、実際はほとんど女性が改姓している。

 訴状では、現行法はいずれかの姓を変えるか、婚姻自体を諦めるかの「過酷な二者択一」を迫っていると強調。「家族の在り方や国民意識の多様化が進み、別姓を認めないことに合理性はない」と訴えた。

 この問題では、法相の諮問機関・法制審議会が1996年、夫婦が同姓でも別姓でも希望に応じて選べるようにする「選択的夫婦別姓」の導入を盛り込んだ民法の改正案を答申している。もう30年近くになる。

 2022年の参院選では自民党以外の政党が公約で、導入に前向きな姿勢を示した。だが、一部の保守派の反対で自民だけがまとまらず、ブレーキをかけ続けている。

 業を煮やして、経済界が動き出した。

 企業経営者らによる有志の会が、経団連など5団体とともに今月、選択的夫婦別姓の早期導入を求めて、法人役員ら千人超の署名を添えた要望書を政府に提出した。

 経団連の十倉雅和会長も定例会見で「一丁目一番地としてやってほしい」と明言している。

 旧姓を通称使用している現状では、仕事上とパスポートでの姓が異なり、海外渡航時の手続きなどで支障が多い。技術者からは論文執筆や特許取得など旧姓での実績が、改姓後は生かされないなどの訴えが続く。

 共同通信が昨年に実施した世論調査でも、8割近い人が導入に賛成と答え、30代以下は9割に及ぶ。

 国連の女性差別撤廃委員会は日本に対し繰り返し、法律で夫婦同姓を義務付けることは女性差別で、速やかに改正すべきだと勧告してきた。

 ところが岸田文雄首相は昨年2月の衆院予算委員会で、夫婦別姓や同性婚の制度導入を求められ、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁し、今国会でも慎重な姿勢を崩していない。政権・与党の不作為というほかない。

 選択制は同姓を希望する人に何ら不利益はない一方、現状のままではアイデンティティーを否定されたようで生きづらさを感じる人がいる。

 自分の姓を選択できる権利が、当たり前にある社会が求められている。

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社説:選択的夫婦別姓 政治の不作為は許されない

2024/03/31